小売業におけるDXとは?メリットと推進ポイントを解説

ICT技術の進展とインターネット通信の普及により、デジタル技術を活用したビジネスの変革「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が社会課題となっています。特に小売業はDXの実現が急務といわれ、企業規模の大小を問わず重要な経営戦略です。

本記事では、小売業にとってのDXについて、求められる背景、具体的なDXの事例や効果を解説するとともに、推進にあたって注意すべきポイントを紹介します。

目次



DXが求められる背景

DX(Digital Transformation)は、日本語では「デジタル変革」ともいわれます。経済産業省の「DX推進ガイドライン」では、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0 平成30年12月(経済産業省)

なぜDXが必要とされているのでしょうか。顧客価値、競争環境、社会構造の変化の順に、小売業界が直面している背景をみていきましょう。

顧客価値の変化

物質的な豊かさに価値をおく時代から消費者意識は変化しました。現在は所有より利用の方向へと価値が変わっています。スマートフォンの普及がこの流れに拍車をかけました。消費者はSNSのつながりから自分で情報を収集し、行動します。手頃な価格で品質がよく付加価値が高いもの、体験や共感がもてるもの、自分の好みに合ったものが重要視され、さらにいえばその価値基準は多様でまとまりがありません。世界中がネットワークでつながり、変化のペースも早く、情報量も巨大になっています。タイムリーに分析するには、デジタルマーケティングの視点が不可欠です。

競争環境の変化

時間帯も場所も気にせず自由に検索して注文できるECサイトが増加し、実店舗のショールーム化が進んでいます。インターネットでの情報発信を前提にしつつ、実店舗だからこその体験や共感を売るビジネスモデルの創造が必要です。また、長引く感染症対策から、非接触での接客やキャッシュレス決済があたりまえとなりました。企業規模の大小に関わらずデジタル技術を導入し、対応する必要に迫られています。

社会構造の変化

デジタル技術が進み、技術や情報、人材など世界が流動化しました。小売業も異業種や国外からの参入、越境ビジネスが増えています。競争環境の常識が通じなくなってきています。日本では、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少で人手不足が深刻な課題になっています。従業員の確保が難しい小売業も少なくありません。また、さまざまな雇用形態の従業員をシフトで管理するため勤怠管理も複雑になり、一堂に会した教育研修も困難な状況が続くなど、人材の育成・定着にも課題があります。

小売業のDXの具体例

ビジネス環境の著しい変化を受け、デジタル変革は喫緊の課題となっています。DXの推進は、デジタル技術の導入によってビジネスモデルを抜本的に変え、社会の変化に対応していくのがポイントです。小売業の具体的なDXの例をみていきましょう。

OMO(Online Merges with Offline)戦略

OMO戦略では、オンラインとオフラインの明確な線引きをせず、付加価値の高い新しい顧客体験を生み出すビジネスモデルです。たとえば次のようなサービスが考えられます。
・オンラインで注文を受けた商品を実店舗で受け取れる、オンラインで気になった商品を店舗で試着・試用できる
・実店舗とECサイトのデータを統合し、顧客の好みを個人単位で把握し接客をする
・実店舗の店員が商品解説や試用の感覚を動画にし、ECサイト上で共有する
・レジ精算を廃止し、ゲートを通るだけで決済が完了する
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データ・デジタル技術の活用

IoT(モノのインターネット)やIoE(あらゆるものがつながるインターネット)、AI(人工知能)を活用し、客観的なデータ解析に基づいた予測や判断を行うデータドブリンの経営も、DXの一つです。たとえば、次のような活用が考えられます。
・ロボットによる接客、顧客情報からの購買傾向の解析、購買履歴にあわせた推奨
・ARやVRを使った試着、内覧
・データの統合、サプライチェーン情報の一元化による在庫の自動管理、調達管理

小売業がDXを進めるメリット

ここからは、小売業がDXを推進すると経営面でどのような効果が期待できるかをみていきましょう。

勤怠管理・業務効率化による人材の最適な配置

DXの推進により、従業員のシフト管理や勤怠、給与、健康、福利厚生といった個人情報を含むデータを安全な形で一元化し、AIによる解析で一人ひとりにあわせて還元できます。顧客に対しても、閲覧履歴や購買履歴など個人のデータと企業全体の傾向や市場の動向を組みあわせ、現場で個人レベルでのきめ細かな対応を促しつつ、大きなビジネス戦略を見失うことなく最適な人員の配置を行えます。

在庫管理の効率化による顧客ニーズに基づく価値の提供

商品の調達から販売までのプロセスと顧客データを一元管理し、AIによる解析でニーズの予測を行って最適なタイミングで自動発注することも可能です。余剰在庫に対する管理コストも、在庫管理に必要だった人的負担も軽減されます。調達、流通、販売といった各部署の工程が可視化され、サプライチェーンマネジメントも含む高度な在庫管理が可能です。さらに顧客データや気象・人流などの社会事象データの統合により、新たな価値を創造するサービスの提供にもつながるでしょう。

店舗運営の効率化・省人化による運営コストとリスクの削減

DXは人材管理、顧客管理、在庫管理を統合して最適化を図ります。無駄な業務に注がれていた人的資源を大幅に削減し、その分を企業戦略上でより重要な業務に投入できます。コストを削減するだけでなく、大きく前進するための力を得られるのです。小売業にとって脅威とされる実店舗のショーケース化やビジネスの越境化といった社会の変化も、DXで新たな価値を創造することにより、最先端の運営に活用できます。

単純作業の自動化による新たな顧客体験の創造

同じパターンを繰り返す単純作業は、業務を自動化するロボットツールであるRPA(Robotic Process Automation)に任せましょう。AIによる自動解析・予測分析を組み合わせることにより、業務を組み合わせた自動化も可能です。業務を効率化して確保できた時間を、顧客とのコミュニケーションや新たな顧客体験の創造、従業員の教育など、店舗の魅力向上に充てることができるのです。
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小売業がDXを進める際に注意すべきポイント

DXはデジタル技術の導入によるビジネスモデルの変革です。効果は大きい一方、経営の根本を揺さぶるものでもあります。DX推進にあたっては次の点について注意が必要です。

導入には一定の負荷がかかる

最も懸念されるのはコストがかかる点でしょう。多くの場合、DXの推進では抜本的なシステムの変革が迫られます。中途半端なデジタル技術の導入はかえって負荷を増やしてしまうでしょう。DXは大きな経営判断といえます。経営者自らが中長期の視野に立ち、未来のビジネスに向かって投資するつもりで推進する必要があります。短期的な効果がみえず痛みを伴っているようでも、DXによる経営改革をぶれずに進めましょう。

組織風土が変わる

DXはデジタル技術の導入により経営の刷新を図ります。このため、社内の風土が大きく変わる可能性があり、進め方によっては抵抗を感じる従業員も出てくるかもしれません。重要なのは、DXによる変革がなぜ必要なのか、企業がどこへ向かおうとしているのかを明確に示すことです。ぶれずに持ち続けるものは何か、新たに必要な価値観や知識、技術は何かを経営者自らが示し、一人ひとりの関わり方や貢献を尊重し、対話を続けましょう。

成果が出るまでに時間がかかることもある

DXの推進は抜本的な変革を求めますが、一方で毎日の運用を完全に止めるわけにもいきません。少しずつ、試行錯誤を繰り返しながら進めていきましょう。前例にないものに取り組むときは、失敗しても許容できる小さなサイクルで反応をみながら、こまめに改善し、教訓を学びに変えるしくみを整えることをおすすめします。

インターネットの普及とデジタル技術により社会が加速的に変化する現在、DXは持続的経営と新たなビジネスの創造の両面にとって最も注目すべき技術革新といえるでしょう。事業規模の小さな小売業は小回りがきいて機動力もあるため、積極的に進めていきたいところです。どんな小さな一歩でも、踏み出すことで未来が変わります。まずは課題や危機感を洗い出し、企業として大切にしたいビジョンを共有しながらDXの推進を図りましょう。

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執筆は2022年5月11日時点の情報を参照しています。
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