スモールビジネスだからこそ知っておきたい、経営分析の基本

スモールビジネスの経営者や個人事業主にとって、「経営分析」はハードルが高く感じるかもしれませんが、実は、規模が小さいからこそ、客観的なデータを味方につけて経営状態を可視化し、直感を根拠ある確信へと昇華させていく必要があります。経営分析を繰り返す中で少しずつ経営感覚が身につきます。税務申告用に作っていた簿記の諸表を事業の戦略を考える武器にパワーアップしましょう。

今回は、スモールビジネスのオーナーなら知っておきたい経営分析の基本要素として、経営分析のメリット・経営分析の評価基準・経営分析の進め方と要点をまとめました。

経営分析が必要な理由

ビジネスにまつわる活動は、経営者の価値判断や意思決定により舵取りの方向が変わります。規模が小さいほど経営者の意思決定の影響は大きくなります。経営者の意思決定を的確なものとし、着実な成長を促すために、経営分析は重要な予測図となります。

経営分析とは
経営分析は、一言でいうと会社の健康診断として、ビジネスの健全性をチェックするものです。調子の良いところを伸ばし、悪いところは事前に対策を練り、現在の会社の体調とこれからの見通しを把握していきます。

内部に対して経営分析を活用するメリット
経営分析を行うことで経営状況がオープンになり、経営者だけでなく、企業の運営に関わるさまざまな人が、各自の立場に応じた働きを的確に行っていくことができます。回り回って、経営の好循環を生み出していけるといえます。

・経営者:今後の事業戦略を検討し、健全な経営状態を維持して社内外へ積極的に働きかけを行うための材料として活用できます。

・従業員など:経営状態が健全か、これから働き続ける環境として適切かを判断する材料として活用できます。

外部に対して経営分析を活用するメリット
経営分析の結果は、会社外部の関係者にとっても、重要な判断材料になります。経営者は、下記のようなメリットをしっかりアピールして投資や融資の働きかけを行い、営業のアピールをしていくことができます。

・金融機関:融資審査や信用状況を確認するための材料として活用できます。
・投資家・株主:投資の判断のための材料として活用できます。
・取引先・消費者:信用状況を確認するための材料として活用できます。
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経営分析に必要な四つの評価軸

スモールビジネスの場合、一人でもある程度の采配ができ、細かな数字がなくても何とかなってしまいます。このため、どうしてもざっくりとした感覚で動いてしまいがちですが、客観的な全体像を見渡せずにいると、思わぬところに落とし穴があったという事態が起きる可能性があります。

正確に経営状況を把握するには、客観的なデータが欠かせません。たとえば、自動車を運転するとき、メーターやナビを確認しながら操作の判断をするように、経営分析でもどのメーターが何を表しているのか、経営状況を評価・判断する上で重要な軸をしっかりと把握しておきましょう。

経営分析に欠かせない評価基準として「収益性」「安全性」「生産性」「成長性」の四つの軸を紹介します。

収益性
会社の売り上げや資本に対して、どのくらい利益があるかをチェックします。簡単にいうと、売り上げから原価や経費を取り除いた利益が、売り上げに対してどのくらいの割合か、資本に対してどのくらいの割合かを分析して、稼ぐ力をみるものです。財務表でいうと、損益計算書から把握するものが中心になります。

安全性
借金と資産の割合や、お金の流れなどをチェックします。いわゆる支払いの力で、倒産する危険性がないかを判断するものです。財務表では、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書から把握するものが中心になります。

生産性
従業員や設備などへのお金の投入状況と、利益との割合をチェックします。いわゆるヒト・モノの資源が効果的に活用されているかをみるものです。財務表の各項目から、一人当たりの比率、などを割り出して把握していきます。

成長性
収益性や生産性の今後の予測をたてていくものです。財務表の各項目から、売上高や資本の増加具合などを比較して判断します。

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経営分析の具体的な進め方

経営分析に必要となる客観的なデータは、財務諸表から拾い出します。青色申告などで毎年作っている財務諸表ですが、数字から何をどうやって分析していけばよいのか、ポイントとなる点を把握しておきましょう。ここでは、経営分析の大きな流れを紹介し、分析する際の要点となるポイントを解説します。

財務諸表をしっかりと作成する

まずは基本となる財務諸表を丁寧に作成しましょう。作成するものは次の表です。

損益計算書:全体の売り上げに対し、かかった費用や損失を差し引きし、各種の利益を洗い出します。会社がどのくらい収益を上げたかが明確になる表です。
貸借対照表:全体の資産に対し、どのように調達しているのか、負債や資本の構造を整理します。会社にどんな資産があるのか、財政状態が明確になる表です。
キャッシュ・フロー計算書:営業活動(売り上げと人件費など)、投資活動(設備投資と設備売却など)、財務活動(借り入れ・社債と返済・償還など)の流れからキャッシュの流れを明らかにします。キャッシュの増減が明確になる表です。

経営分析に必要な指標を絞り、率を割り出す

経営分析に必要な指標ですが、事業の内容によって何が重要かも、判断の基準となる数値も異なります。一気に全部を網羅しようせず、はじめのうちは分析対象とする項目を絞り、少しずつ分析の範囲を広げていくとよいでしょう。

先述の四つの評価軸について、主な経営指標を紹介します。

収益性の分析:売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率、総資本営業利益率、総資本経常利益率、総資本償却前経常利益率など
安全性の分析:自己資本比率、流動比率、当座比率、手許現金預金比率、借入金月商倍率、尺入金依存度など
生産性の分析: 総資本回転率、売上債権回転日数、棚卸資産回転日数、一人当り売上高、一人当り有形固定資産額、一人当り経常利益など
成長性の分析:前年比増収率、総資本回転率増減、自己資本比率増減など

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時系列や業界の状況と比較し、分析する

洗い出された数字から、次のような比較をすることで、経営状態を把握し、自社の強みと弱みを分析し、リスクに対する手当や強みを活かす事業戦略などを検討します。

・自社内での時系列の比較(年次分析、期間分析):前年と今年との年間の比較や、月次など期間を区切っての比較など、増減の変化を時系列でチェックすることにより、どこに強みがあるのか、不具合の原因に何が考えられるかを明らかにします。
・同業者との比較:同じ業界、同じくらいの規模の事業者の平均値と比較することで、自社の位置や強み・弱みを分析します。

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中小企業庁のツールの活用

経済産業省、中小企業庁には、小規模事業者向けに様々なツールが用意されています。財務表から数値を入力するだけで診断できるものもありますので、積極的に活用してみてください。

経営自己診断システム

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するシステム。登録不要で利用できます。データを入力すると、財務分析、国内同業種中小企業の中の位置づけ、経営危険度などが見える化される便利なツールです。

中小企業の会計38問38答改訂版

経営分析のベースとなる会計の基本事項がイラスト付きでわかりやすく解説されています。また、実際に活用できる様式などがダウンロードできるツール集も用意されています。

経済産業省 ローカルベンチマーク(ロカベン)ツール

金融機関から融資を受ける際に経営状態をプレゼンするためのツールですが、経営分析にも十分活用できます。財務情報(六つの指標)と非財務情報(四つの視点)があり、データを入力するとグラフなどに可視化してくれます。

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執筆は2019年6月17日時点の情報を参照しています。
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