商品の販売数や在庫数を示すPOSレジからは、「売れた商品」と「売れなかった商品」をデータで把握できます。しかし、顧客が「買いたくても商品棚になかった商品」や「迷った末に代替で買った商品」といった顧客心理に関係する情報はPOSデータには残らないため、POSに記録されない情報をリサーチする必要があります。
POS未満を知る方法は、いつ・どこの店舗でも実践可能です。POS未満の顧客行動とは何か、そしてPOS未満の顧客心理を把握し、売り場や売り方に活かす方法について解説します。
「POS未満」とは?
POS未満という概念を理解するために、まずPOS本来の役割を改めて考えてみましょう。
POSは「Point of Sales」の略称で、販売時点情報管理を意味します。POSシステム、POSレジなどの仕組みや端末がよく知られています。顧客がレジで会計をする際、合計金額を計算して代金のやり取りをするだけでなく、売れた商品や数を同時に記録し、集積した情報を基に仕入れに対する販売数や売り上げ、在庫数などを管理・分析するのがPOSシステムの役割です。
POSシステムは売り上げにまつわる情報を管理するシステムですが、売り上げに紐付いていない商品の情報はPOSから収集することができません。売れた商品の記録から売れ筋や人気動向、あるいは不人気の商品を知ることはできても、顧客が買いたくても買えなかった商品や迷った末に買った・買わなかった商品についての情報は、POSでは集めることができないのです。
このような「POSに記録されない情報」をPOS未満の情報として収集・分析することで、買い物に来た人の購買率をアップさせるマーケティングを実践し、顧客の「買わない理由」を排除していくことが売り上げ増大の鍵になると考えられます。
「買わない理由」に注目する
実店舗の売り場やオンラインショップの商品ページを訪れた人が、必ずしも全員商品を購入するとは限りません。
食料品店を例に考えてみましょう。たとえば、ミルク入り・無糖のA社の缶コーヒーを買おうと入店した顧客が、ドリンク売り場に真っ直ぐ向い、目当ての缶コーヒーを探しましたが見つかりませんでした。実はB社からも別の銘柄のミルク入り・無糖の新商品が販売され同店に陳列されていましたが、「無糖」の表示がわかりにくかったため、顧客はその商品に気づかず、購入を検討することもないまま何も買わずに店を出てしまいました。
この場合、POSの記録には一切残らなかった顧客の一連の行動は、POS未満の情報ということになります。同様の商品を探していながら買えない人が複数いた場合、お店にとっては気づかないうちに機会損失が生じていることになります。顧客がなぜ買わなかったのか、商品がなぜ売れなかったのか、その理由に注目することが売り上げ改善の第一歩となるでしょう。
逆の例として、ミルク入り・無糖の缶コーヒーを買い求める人の心理をあらかじめ予測し、B社の新商品に「無糖のカフェオレ好きにおすすめ」といった簡潔な内容のポップを付けていたとします。すると、A社の商品を買うつもりだった顧客も、新商品を試してみたいという気持ちを刺激され、売り上げにつながる可能性が出てきます。
店を訪れた人は必ずしも商品を買うとは限りませんが、一方で、期せずして買ってしまうこともあります。アメリカのマーケティング&リサーチ会社エンバイロセルの創業者、パコ・アンダーヒルは顧客の行動の背景にある心理を知り、店内での販売戦略に活かす現場主義の顧客行動分析を提唱しました。POSデータや消費者の満足度アンケートなどの結果といった「意識的な情報」に、POS未満の顧客行動分析という「無意識的な情報」をプラスすることで、数字に表れない情報もインストアマーケティングの武器に変えてしまおうという考え方です。
参考:なぜあの店では無駄な物を衝動買いしてしまうのか?店側が仕掛ける“無意識”のワナ(Business Journal)
POS未満の顧客行動分析を実践する4つのポイント
実際にPOS未満の顧客行動を分析するには、どのように情報を収集すれば良いのでしょうか。以下の4つのポイントに注目して、着手してみましょう。
1, 顧客行動のパターンとセオリーを知る
前述のパコ・アンダーヒルは実際に現場でのリサーチと検証を重ね、いくつもの重要な傾向や事実を見出した上で、数々の大手企業に売り場改善の助言を与え、業績アップに貢献しています。
たとえば、「狭い売り場で人に押されると買い物を諦めがち」というのは誰しもが経験のあることで、「急ぎの買い物ではないし、混んでいるからまた今度(あるいは、別の店)にしよう」と考えるのは珍しいことではありません。また、「店内にいる時間が長いほどたくさん購入する」という調査結果があることからも、落ち着いてゆっくりと買い物ができるレイアウトや雰囲気作りがいかに売り上げを左右しているかがわかります。
ショッピングモールなどに子どものプレイスペースや休憩スペースが設けられているのは、十分な買い物時間を提供するという側面から、購買を促進しているという理由があります。
参考:購買に影響するのは、「買いたい」気持ち以上に 滞在時間の長さだった!(株式会社ジェイアール東日本企画)
2, 売り場を検証する
現場の店内環境を客観的に捉え直す上で役立つ方法の一つは、店内に設置したカメラの利用です。入店から目的の売り場にまっすぐ向かった後は脇目も振らずにレジへ行く人、買い物をするつもりがなく店内に入ったものの途中で買いたいものを見つけてカゴを探す人、目当ての商品が見つからず店員に尋ねようとするも見つからずに諦めて帰る人など、カメラが記録した映像は顧客行動の情報の宝庫です。
特に力を入れて売りたい商品は通り道ではなく顧客が滞留するスペースに売り場を設置する、目に入りやすいポップを作りおすすめ商品であることがわかるようにする、広い店内なら入り口以外にもカゴを設置することで買い物に集中しやすくするなど、「売れない理由」「買わない理由」を一つずつ取り除いていくことが重要です。
3, ターゲット顧客の性質を検証する
商品の販売ターゲット層と、売り場の展開方法が一致していなければ、どんなに良い商品でも十分な購買につなげることができません。
たとえば、高齢者向け商品の手書きポップを小さな文字で書いていては、ターゲットの目に止まることが難しくなり、ポップが役割を果たしません。また、黄色の文字は視認性が悪いことから、避けるべきといわれています。
女性向けの商品を男性向け売り場の真ん中に展開したり、平均身長の女性の目線より高い位置に設置したりすることも、機会損失につながります。もちろん同様に、男性向けの商品の場合も周辺環境や目線の高さへの配慮が必要です。
子ども向けの商品は、年齢ごとの配慮が必要です。たとえば自分で商品を選べる年齢の子どもがターゲットなら子どもの目線の高さに売り場を展開し、保護者が選ぶ前提の商品であれば子どもの目線の高さを優先する必要はありません。
4, 現場で「お客様の声」を集める
アンケートなどの改まった形式で得られる意識的な情報と、購買の最前線である売り場で得られる無意識的な情報は、同じ顧客からの情報であっても性質が異なります。「こんな商品はありますか?」と聞かれたら、お客様の生の声を知り、インストアマーケティングを行うチャンスです。そこからわかるのは、以下のような事実です。
・商品の取り扱いの有無がお客様にはわからない状態である
・商品の売り場がお客様にはわからない状態である
・お客様はその商品を必要としている
・お客様はその商品をこの店で買いたいと思っている
上記の事実から導き出されることは、商品の取り扱いの有無がわかるようにする、売り場をわかりやすくするといった改善点のほか、商品へのニーズ、店への期待です。仮に目当ての商品がなかった場合でも、顧客の声を仕入れ担当に届けることを伝えたり、別の類似商品を紹介したりといった現場のマーケティング活動により、期待を裏切らずにお客様を引きつけることもできます。
現場の声を拾うためには、従業員に尋ねやすい雰囲気作り、十分かつ適切な人員配置、従業員のトレーニングと知識の強化など、地道な活動を続けることが重要です。
POS未満の顧客行動分析の精度は、数字に表れない現場の動向をいかに丁寧にすくい上げるかにかかっています。売り上げ改善のヒントがあふれている現場をしっかり観察し、分析することで、気持ちよく買い物できる環境を整え、買わない理由・売れない理由を一つずつ減らしていきましょう。
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執筆は2018年12月13日時点の情報を参照しています。
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