東京商工リサーチが行った飲食業に関する調査では、2017年1月から12月までの間に762件もの飲食店が倒産していたことが分かりました。
前年よりも約2割増加し、3年ぶりに倒産数が750件を上回った背景には、仕入価格の高騰や人件費の増加、個人消費の低迷などが挙げられます。
参考:『飲食業』の倒産状況(2017年12月29日現在)(東京商工リサーチ)
裏を返せば、飲食店が安定した経営を行う上で、食材の仕入れ、人件費のコントロール、集客が鍵になることが分かります。中でも、飲食店にとって欠かせないのが食材の仕入れです。使う食材ひとつで、調理工程やお店の評判に大きな影響を与えるからです。
今回は、食材選びの大切さや食材の違い、原価率を考えた選び方について解説します。
食材選びの大切さ
仕入れる食材の選定は、ただ単に安い食材を使用してコストを抑える、もしくは高級食材をふんだんに使用すれば良い訳ではありません。また、こだわりを持って選んだ食材でも、お客様が好むとは限りません。
重要なのは、お客様がどのような料理を求めているのかを事前にリサーチして、戦略を立てることです。
データで見るお店を選ぶ際の決め手
日本政策金融公庫が2013年9月に行った「生活衛生関係営業に関する調査結果」。「外食先の情報源(複数回答)」によると、外食先を決める際の情報源として最も多かったのは「お店の前を通りかかった」や「家族、友人、知人から直接聞いた口コミ」でした。その他の情報源は以下の通りです。
・お店の前を通りかかった(38.8%)
・家族、友人、知人から直接聞いた口コミ(31.6%)
・看板・表示板を見た(21.5%)
・お店のホームページ(20.0%)
・口コミサイト(19.8%)
この調査結果から分かることは、いかにお店の前を通り過ぎる人を惹きつけ、口コミによってさらなる集客につなげるかです。
飲食店にとってお客様にアピールできる一番のものは、料理そのものです。お店の雰囲気や接客サービスも重要ですが、そもそもお客さまを惹きつける料理がなければ、リピーター客を増やすのが難しいと考えられます。
同調査結果の「飲食店を選ぶ際の重視点(複数回答)」で、料理に関する項目をピックアップすると、以下の通りになります。
・低価格である(70.8%)
・メニューが豊富である(67.5%)
・料理が出てくるまでに時間がかからない(66.9%)
・地元の農産物、肉、魚介類など新鮮な食材を使用している(41.4%)
・料理のボリュームが多い(40.9%)
・有機野菜や低農薬野菜など安心安全な食材を使用している(36.3%)
・子供用のメニューがある(27.0%)
・スイーツが充実している(26.5%)
・料理が低カロリーである(22.2%)
・材料やアレルギーに関する情報の記載(19.9%)
価格帯やメニューの豊富さ、食材の選び方などが重要なポイントであることが分かります。さらに、食の安全や美容、健康といったキーワードが浮かび上がってきます。
参考:外食に関する消費者意識と飲食店の経営実態調査(日本政策金融公庫)
食材選びが他店との差別化につながる
ただ、上記の調査結果を全てお店で取り入れることはあまり現実的ではありません。たとえば、低価格に、豊富なメニュー、ボリュームたっぷりで、安心安全な食材を使った料理を用意しようとすると、それだけ多くの食材を仕入れる必要があり、注文されなかったメニューの食材がロスになることが考えられます。
チェーン展開しているレストランのように自社で食品を生産するシステムを持っている場合は、食材の仕入れコストを下げることは可能かもしれませんが、個人店であれば難しいでしょう。
一方、有機野菜や低農薬野菜を中心に使用したメニューであれば、価格が高くても食の安全や美容、健康を重視するお客様をターゲットに集客することが可能です。このように、お店の個性になるようなコンセプトを考え、コンセプトに合った食材を選び、ターゲット層を絞ることで、他店との差別化を図ることができます。
ただ、仕入れる前に有機野菜や低農薬野菜など食材の違いを正しく理解しておく必要があります。食材の違いについて紹介します。
食材の違い
食材は、いくつかの種類に分けられます。中でも、農産物がどのような栽培方法によって生産されたのかを理解しておきましょう。
では、一般的に混乱しやすい無農薬やオーガニック、有機野菜の違いについて解説します。
無農薬
無農薬は農薬を使用しない栽培方法として、大きな注目を集めました。ただ、土壌に農薬が残留している可能性がある点や、隣接する他の生産者が使用する農薬が飛散するなど100%農薬を排除して栽培することが難しい一方で、消費者の多くに「無農薬=100%農薬を使用していない安全な農作物」という認識が広まり、誤解を招くことになりました。
そして、平成15年に農林水産省が「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を改正し、消費者に誤解を招きかねない「無農薬」を始め、「減農薬」や「無化学肥料」、「減化学肥料」といった表示を禁止しました。
その代わり、農薬を使用せずに栽培した農産物や節減対象になる農薬を使用していない農産物は、以下の表示が可能です。
・農薬を使用せずに栽培した農産物
「農薬:栽培期間中不使用」
・節減対象農薬(有機JAS規格で使用不可能な農薬)を使用せずに栽培した農産物
「節減対象農薬:栽培期間中不使用」
・節減対象農薬を節減して栽培した農産物
「節減対象農薬:当地比〇割減、節減対象農薬:○○地域比〇割減」
このような表示方法を理解しておけば、食材を選ぶ際の参考にすることができます。
オーガニックや有機とは
オーガニックは、肥料として有機物(炭素を含むもの)を使用した栽培方法です。この有機物の肥料として使用されるものには、牛などの家畜のフンや、野菜の皮や種などの生ゴミの堆肥が挙げられます。
農林水産省のガイドライン改正に伴い、JAS規格を守り、有機JASマークが付いた農産物や畜産物、加工食品のみが「オーガニック」や「有機」の表示をすることが許されています。つまり、「オーガニック」も「有機」も同じ意味を持っていることが分かります。
これは、消費者にとっても食材選びの明確な判断材料として大きな役割を果たしています。また、飲食店経営者にとっても安全な食材選びやお客様にアピールする上で分かりやすい表示方法になりました。
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原価率を考えた食材選び
飲食店経営者はメニュー作成や食材選びの際、料理にかける原価率を考える必要があります。倒産した飲食店の背景のひとつに仕入原価の高騰があったように、原価率を軽視した食材選びは倒産のリスクを高める可能性があります。
一般的には、飲食店の原価率は30%前後といわれていますが、中には原価率が60%を超えるお店も存在します。たとえば、すでに別の店舗で大きな利益をあげており、資金に余裕のある場合や利益度外視で理想のお店を開く場合が挙げられます。
総合的に原価率を30%前後に収めるために、看板メニューの原価率を高くするなら、他のメニューで原価率を下げるという工夫が必要です。また、客単価が変わるランチとディナーで原価率を変える工夫も大切です。どうしても、原価率をこれ以上削れないという場合は、人件費や経費の削減、メニューの構成自体を見直す方法もあります。
食材選びは飲食店経営にとって、非常に重要なものです。まずは、ターゲットになるお客さまが飲食店に求めることや人気の食材などお客さま目線に立ってリサーチを行います。そして、お客さまを惹きつけるメニューを作成し、食材の違いや原価率など正しい知識をもとに良い食材選びを行いましょう。
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執筆は2018年3月29日時点の情報を参照しています。
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