※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
個人事業主として生命保険に加入していても「この保険料は経費にできるのか?」と疑問に思う方は少なくありません。たとえば、自分や従業員の万一に備える保険であっても、帳簿や会計処理には一定のルールがあります。保険の加入目的や事業との関係性を正しく判断して適切な勘定科目を使って、節税や税務リスクの回避につなげましょう。
この記事では、生命保険を経費に計上できるかどうかの判断基準や勘定科目の選び方、会計処理における注意点などを詳しく解説します。
【この記事のポイント】
-生命保険料の経費計上は事業関連性がカギ
-個人用と事業用を明確に分け、家族を従業員にしている場合は慎重に
-勘定科目は「福利厚生費」「損害保険料」「法定福利費」など
-Squareなら会計ソフトと連携し、帳簿管理の効率化が可能
目次
- 生命保険は経費にできる?ポイントは「事業関連性」
・経費にできるケース
・経費にできないケース - 保険料の勘定科目の選び方。個人事業主が帳簿に記載する際の注意点
・よく使われる勘定科目
・青色申告・白色申告での扱いの違い
・仕訳の具体例 - 保険にまつわる会計処理の注意ポイント
・節税目的だけで保険に加入するのはNG
・個人用と事業用を分けて加入する
・家族を従業員にしている場合は慎重に
・会計ソフトとの連携で会計業務の効率化を検討 - Squareなら会計ソフトとの連携も可能
- まとめ
生命保険は経費にできる?ポイントは「事業関連性」
個人事業主が支払う保険料は、全額が無条件で経費に計上できるわけではありません。用途や被保険者、受取人などの条件から、その保険契約が事業と直接関係しているか、事業を継続するために必要かどうかが重視されます。
経費にできるケース
個人事業主が支払う保険料でも、事業との関連性が明確で、業務の継続や従業員の保護といった目的がある場合には、経費として計上できます。ただし、個人と事業用とで兼用している場合は、家事按分により事業分のみを経費に計上します。なお、自動車保険料や火災保険料は、契約期間により「前払費用」「長期前払費用」の計上が必要な場合があります。
火災保険料
事務所や店舗にかかる火災保険料は、「損害保険料」または「保険料」の勘定科目で計上します。
地震保険料
地震保険料も基本的な考え方は火災保険料を同じです。事務所や店舗にかかる地震保険料はは「損害保険料」または「保険料」として経費計上します。個人契約による私的な使用分は経費になりませんが、「地震保険料控除」として所得控除が受けられます。
自動車保険料
事業用の自動車・バイク・自転車にかかる保険料は、「損害保険料」または「車両費」の勘定科目で計上します。
従業員の社会保険料
健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険・労災保険など、事業主が法的に負担する社会保険料は「法定福利費」として経費に計上できます。
従業員の傷害保険料
傷害保険料は、従業員の業務災害や通勤中の事故に備えるものであり「福利厚生費」として経費計上できます。保険金を事業主が受け取り、従業員に見舞金として支給した場合も同様です。
なお、人間ドックや健康診断、予防接種などを従業員に提供している場合も、福利厚生費として計上できます。
経費にできないケース
個人事業主が支払う保険料でも、事業との関連性がないと判断されるものは経費として認められません。所得控除の対象となる場合もありますが、事業主本人や専従者(家族従業員)を対象とした保険は、私的な支出とみなされやすいため注意が必要です。
国民健康保険料・国民年金保険料
個人事業主や専従者が加入する国民健康保険および国民年金の保険料は、生活費にあてはまるため経費に計上できません。ただし「社会保険料控除」として所得控除が可能です。
事業主・専従者の生命保険料
事業主や専従者を対象とする生命保険は、個人への保障を目的とするため経費に計上できません。ただし「生命保険料控除」の対象となる場合があります。
傷害保険料(事業主・専従者向け)
傷害保険は、業務災害や通勤事故への備えになりますが、補償対象に日常生活を含むため事業主や専従者が対象となる場合は経費に計上できません。また、生命保険料控除の対象にも該当しないため、税制上の優遇措置はありません。
個人契約の地震保険料
地震保険は、事業用資産に対する保険契約でない限り、必要経費として認められません。自宅など個人契約の私的資産に対する地震保険は、原則「地震保険料控除」の対象です。
個人契約の火災保険料
個人的に加入した火災保険についても、基本的には経費にはなりません。事業兼用設備や自宅兼事務所にかかる保険料は、按分処理をすることで経費計上が可能です。しかし、私的資産にかかる火災保険は対象外です。
ひとり親方の労災保険料
ひとり親方の労災保険料は、補償対象が事業主本人であるため経費として認められません。ただし、加入時に発生する組合費・入会費・事務手数料などは、「支払手数料」や「諸会費」「雑費」として経費に計上が可能です。
保険料の勘定科目の選び方。個人事業主が帳簿に記載する際の注意点
保険料を正しく処理するためには、事業内容に合った勘定科目を選び、帳簿に適切に記載する必要があります。不安がある場合には、税理士などの専門家に確認しながら対応することで、確定申告時のトラブルが回避できます。
よく使われる勘定科目
ここでは、個人事業主が保険料や保険金を処理する際によく使用される勘定科目を目的別に紹介します。
- 福利厚生費:従業員を対象とした傷害保険、人間ドック、健康診断、予防接種など、従業員の福利向上を目的とした支出
- 損害保険料:火災保険、地震保険、自動車保険、動産保険など、事業用資産にかける保険料の支出
- 法定福利費:健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など、法律に基づき事業主が負担する従業員の社会保険料の支出
- 車両費:業務用の自動車やバイクなどに関する支出や、任意の自動車保険料などの支出
- 前払費用:保険料の支払いが契約期間が1年以内の場合に使用
- 長期前払費用:保険料の支払いが1年を超えて複数の会計年度にまたがる場合に使用
- 事業主貸:事業に関係のない私的支出を事業用口座から支払った場合に使用
- 雑収入/雑益:保険会社から受け取る保険金や解約返戻金など、臨時的な収入
青色申告・白色申告での扱いの違い
青色申告は複式簿記による帳簿作成の原則があるため、保険料も内容に応じて「福利厚生費」「損害保険料」「法定福利費」などに分けて仕訳ます。正しく記帳することで、最大65万円の特別控除が適用されて節税効果が期待できます。
一方、白色申告は簡易な記帳が認められているものの、経費として認められる条件自体は青色申告と同じです。保険料の処理も青色申告と同様に、内容ごとに適切な勘定科目を使用します。
なお、青色・白色いずれの場合でも、個人として支払った生命保険料は「生命保険料控除」の対象です。経費として処理した保険料を控除と重複して適用することはできません。
仕訳の具体例
以下に個人事業主が用いる頻度の高い保険料の仕訳について、事業用の普通預金口座から支払ったものとして紹介します。なお、保険契約の種類や保険期間、保障内容などによって分類が異なることもあるため、詳しくは税理士など会計の専門家に確認することをおすすめします。
従業員の傷害保険
従業員全員を対象とする傷害保険は、経費に計上できます。
- 借方:福利厚生費
- 貸方:普通預金
自分自身の生命保険(事業関連性なし)
事業と無関係な個人生命保険は、経費に計上できないため「事業主貸」で処理します。
- 借方:事業主貸
- 貸方:普通預金
業務用自動車の自動車保険
1年以内の契約期間で業務用の車両にかけた保険料は、事業関連費用として経費に計上できます。もし、1年以上の契約期間がある場合は、長期前払費用として事業年度ごとに計上します。
- 借方:車両費、または損害保険料
- 貸方:普通預金
事業所用の火災保険
店舗・事務所など、事業用の建物にかかる火災保険は、経費に計上できます。
- 借方:損害保険料
- 貸方:普通預金
自宅兼事務所の火災保険
自宅と兼用している建物にかかる保険料は、事業使用割合に応じて按分処理を行って経費に計上できます。
- 借方:損害保険料(事業用部分)、事業主貸(私用部分)
- 貸方:普通預金
労災保険(従業員分)
従業員を対象に支払った労災保険料は、法定福利費として経費に計上できます。
- 借方:法定福利費
- 貸方:普通預金
事業用機器にかけた動産保険
パソコンや什器など、事業資産にかけた保険は、損害保険料として経費に計上できます。
- 借方:損害保険料
- 貸方:普通預金
保険にまつわる会計処理の注意ポイント
保険料の取り扱いにおいては、単に勘定科目を適切に選ぶだけでなく、契約の目的や構成員との関係性にも注意を払う必要があります。以下のようなケースでは、特に慎重な判断が求められます。
節税目的だけで保険に加入するのはNG
節税だけを目的とした保険加入は、税務署から否認されるリスクがあります。特に、保険金の受取人が家族や本人であり、業務に関連しない契約は経費としての計上が難しくなります。事業に必要な支出であると説明できるように、契約目的と保険内容を明確にしておくことが重要です。
個人用と事業用を分けて加入する
個人と事業の支出は明確に分けて処理します。もし一つの保険契約で両方を兼ねる場合は、使用割合などに基づいて保険料を合理的に按分する必要がありますが、最初から個人用と事業用を分けて契約しておけば、帳簿処理がわかりやすく税務対応もスムーズになります。
家族を従業員にしている場合は慎重に
配偶者や子どもを従業員として雇用している場合、その保険料を経費にするための勤務実態や給与支給の記録などが求められます。名義だけの従業員に対する保険契約は、私的な支出とみなされる可能性があるため、契約書や就業実態などの客観的証拠を整えておくことが重要です。
会計ソフトとの連携で会計業務の効率化を検討
保険料の仕訳は契約内容や支払い条件によって煩雑になることがあります。会計ソフトを使えば、自動仕訳やデータ連携で効率化が可能です。入力する工数の削減や転記ミスなどが防止できるため、多忙な個人事業主が本業に集中するために役立ちます。
Squareなら会計ソフトとの連携も可能
キャッシュレス決済サービスのSquareは、クラウド会計ソフトのfreeeやマネーフォワードとの連携が可能です。会計ソフトと連携することで、店舗の売上管理の効率化が図れます。特に、取引データが自動的に取り込まれるため、手入力や金額の照合が不要となり、経理業務の負担軽減が実現できます。
まとめ
個人事業主が保険料を経費にできるかどうかは、契約の目的や事業との関係性が重要な判断基準となります。従業員向けや業務用資産に関する保険は経費計上が認められやすい一方、自身や家族向けの契約は認められないケースが多くあります。勘定科目の選定や仕訳方法、申告形式による違いにも注意が必要です。会計ソフトの活用や税理士への相談を通じて、正確かつ効率的な経理処理をし、節税とリスク回避を両立させましょう。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2025年6月9日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash