代表取締役と社長の違いとは?登記上の違いや代表権について解説

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

普段​「社長」と​呼んでいる​組織の​トップに​対して、​ウェブサイトや​公式の​文書などで​「代表取締役」と​いう​肩書が​使われているのを​見かける​ことが​あります。​この​2つの​言葉には​どのような​違いが​あるのでしょうか。経営者の​中にも​この​違いに​ついて​明確に​説明できる​人は​多くないかもしれません。​​今回は​経営者と​して​理解して​おきたい​、代表取締役と​社長の​違いを​わかりやすく​説明します。

日本には、​会社の​設立や​組織、​運営、​解散などに​ついて​定めた​「会社法」と​いう​法律が​あります。5章​・979条に​およぶ​法律で、​最新の​全文は​総務省の​行政情報ポータルサイトe-Govにて​公開されています。関連する​条文を​一読しただけでは​法律独特の​表現から​わかりにくく​感じるかもしれませんが、​1つ​ずつ概念を​整理していくと​理解しやすいでしょう。

📝この記事のポイント

  • 代表取締役は会社法で定められた株式会社の代表者で、複数人置くことも可能である
  • 代表取締役の選定方法は、取締役会設置会社では取締役会の決議、非設置会社では定款や株主総会によって決まる
  • 代表取締役は単独で契約や裁判などの代表行為を行えるが、その行為は取締役会の意思決定に基づく
  • 「社長」は法律上の役職ではなく商習慣上の呼称であり、代表取締役と必ずしも同一人物ではない
  • 「代表取締役社長」は社内外の意思決定を一本化するために両肩書を兼ねるケースが多い
目次


代表取締役とは

「代表取締役」は​会社法で​定められた役職であり、株式会社を代表する取締役です。​​代表取締役は会社に1人だけというイメージが強いですが、実際には​​代表取締役を​複数おく​ことも​可能です。

「代表取締役」の選定

​会社の​中には​取締役会を​設置している​会社(取締役会設置会社)と、​設置していない​取締役会非設置会社が​あります。​

取締役会設置会社の​場合は、​取締役会の​構成員である​取締役の​中から​代表取締役を​選出します。

取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない
– 会社法第362条1

取締役会非設置会社は​中小企業に​多い​形態で、​この​場合も​取締役は​存在します。代表取締役は​創業時に​作成する​定款で​定められた​人、または​定款で​定められた​方法(取締役の互選、株主総会の決議)で、取締役の中から​選ばれた​人が​務める​ことに​なります。

株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる
– 会社法第349条1

​取締役会を​設置する​場合、​しない​場合、いずれに​おいても​代表取締役は​1人だけである​必要は​ありません。​「代表」と​いう​言葉から、​代表取締役は​会社に1人だけと​いう​イメージを​持ちがちですが、​法律上は​人数に​制限がなく、​代表取締役を​複数おく​ことも​可能です。​

取締役会非設置会社で​複数の​取締役を​おく​可能性が​ある​場合には​、この点も​考慮した​定款を​作成します。​代表取締役の​人数を​「1名以上」のように​複数人にも​対応できるような​表記に​します。​すでに​定款が​ある​場合は​変更する​こともできます。

中小企業庁の報告書によると、「従業員規模が21〜50人の企業」では、約6割が取締役会を設置している一方で、約4割が取締役会非設置の状態です4

「代表取締役」の定義

取締役会を設置するか、しないかによって選定の方法は異なりますが、代表取締役とは取締役の中から選ばれ、代表者として業務を執行する人のことを指します。

「代表取締役」が持つ権限

代表取締役には、​単独で​対外的に​契約を​結ぶ、​裁判にの​ぞむと​いった​代表と​しての​権限があり、それは「代表権」と呼ばれます。​これは​あくまで​単独での​権限で、​代表取締役が​複数いる​場合でも、​意思決定に​あたって​全員の​合意が​必要と​いうわけでは​ありません。​

三井物産やトヨタ自動車など、代表取締役が​複数名存在する​企業は​めずらしく​ありません。​ただし代表取締役だからと​いって​何でも​単独で​決定できるわけではなく、​その​行為は​取締役会などの​意思決定機関の​決定に​基づく​ものとなります。

「代表取締役」の任期

会社法332条1により、代表取締役をはじめとする取締役の任期は原則2年と定められています。

取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
– 会社法第332条1

しかし非公開の株式会社の場合だと、取締役の任期は最長10年まで延長することが可能となっています。なお、任期が満了した後に同じ人がそのまま再任することもできますが、その場合でも2週間以内に役員変更の登記をする必要があります2

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「社長」との違い

「代表取締役」が​会社法で​定められた役職であるのに対して、​「社長」とは​法律で​定められた​ものではなく、​あくまで​商習慣上、​会社の​最高責任者を​表す呼称です。​社長は​会社の​トップと​して​業務を​指揮します。​この​ため、​代表取締役が​複数人存在する​可能性が​あるのとは​異なり、​通常社長は​1つの​会社に1人だけ​存在します。

代表取締役と​社長は​必ずしも​同じ​人物を​指すものでは​ありません。​代表取締役と​社長では​役割も​異なります。​代表取締役ではある​ものの​社長ではない人、​代表取締役ではないけれど​社長だと​いう​人も​存在します。

また、​社長は​あくまで​会社内部の​役職ととらえる​こともできます。​​社長の​ほかにも​顧問、​会長、専務、​副社長と​いった​役職が​ありますが、​いずれも​会社法で​定められた​ものではなく、登記上はみな取締役となります。​アルファベットで​略記される​CEO​(Chief Executive Officer、​最高経営責任者)などに​ついても​同様です。

「取締役」との違い

代表取締役は法律的に会社を代表する権限である「代表権」を持ちますが、取締役には代表権が与えられていません。ですから、単独で社内外で​意思決定したり、契約を締結したり、取引を遂行したりといった行為はできません。

しかし取締役は、経営方針を助言したり、意思決定や戦略立案に関わったり、業務の遂行状況や役員を監督したりと、会社を運営する上で欠かせない役割を担っています。また、取締役は取締役会を通じて株主総会の招集、人事の決定、重要な財産の処分の決議なども行います3

取締役会設置会社では取締役は3名以上(会社法331条1)でなければならず、取締役会非設置会社の場合は最低1名必要とされています(会社法326条1)。

代表取締役ではない​取締役に​対して、​社長や​副社長と​いった​会社を​代表すると​受け取られがちな​肩書を​使う​場合には​注意が​必要です。​会社法354条1には​「表見代表取締役」に​ついて、「株式会社は、​代表取締役以外の​取締役に​社長、​副社長​その他株式会社を​代表する​権限を​有する​ものと​認められる​名称を​付した​場合には、​当該取締役が​した​行為に​ついて、​善意の​第三者に​対して​その責任を​負う」と定めています。

社長や​副社長とは​あくまで​業務上の​役職に​すぎませんが、​代表取締役でない​社長と、​この​社長に​会社を​代表する​権限が​ない​ことを​知らなかった​「善意の​第三者」との​取引では、​表向きには​この​社長が​代表取締役に​見えた​ものとして​会社は​責任を​負わなくてはならないのです。そのため、​代表取締役の​選出や​肩書を​与えるに​あたっては​細心の​注意を​払う​必要が​あります。

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​「​代表取締役社長」との違い

代表取締役と​社長は​異なる​ものですが、​一方で​「代表取締役社長」​「代表取締役CEO」と​いった​肩書を​よく​見かけます。​これは​一体​どう​いう​ことなのでしょうか。

会社に​おける​外部的、​内部的な​意思決定に​おいて​意思決定者が​異なると、​混乱を​招いたり、​効率が​悪くなってしまったりする​ことから、​代表取締役と​社長の​両方を​兼ねる​人物が​存在する​ケースが​多く​みられます。​

ただし、​代表取締役は​複数人いても​よい​ことから、​代表取締役社長だけでなく、​代表取締役会長や​代表取締役副社長が​同時に​存在する​会社も​あります。​多くは​ありませんが、​会長が​代表取締役会長と​なっており、​社長に​代表権が​ないような​会社も​あります。

誰に​どのような​権限や​肩書を​与えるのか、​代表取締役は​1人に​するのか複数人に​するのかは、​事業の​内容や​組織の​形態、​企業風土と​合わせて​検討すると​よいでしょう。

​たとえば、迅速に​複数人で​対外的な​意思決定を​していきたい​場合は​複数の​代表取締役を​おく​ことも​選択肢と​なります。​共同創業者などが​それぞれ代表権の​ある​代表取締役となる​ことで​より​責任を​持って​職務に​あたると​いった​効果も​期待できます。​逆に​意思決定に​ついて​明確に​一本化して​おきたいような​場合は​代表取締役を1人にしぼる​方が​よいかもしれません。

役職や​権限の​検討に​あたっては、​同業種、​同規模、​企業風土の​似た​企業の​役員リストの​肩書を​参考に​してみると​よいでしょう。​どのような​組織構成が​一般的なのかも​見えてきます。

ちなみに日本取締役協会が2025年8月に発表したデータ5によれば、上場企業の取締役の平均人数はおおよそ9人で推移しています。

📊 1社あたりの取締役平均人数(東証1部/東証プライム※)

全取締役平均 独立社外取締役平均
2010 8.9 1.5
2011 8.7 1.6
2012 8.7 1.6
2013 8.6 1.6
2014 8.6 1.8
2015 8.9 1.8
2016 9.3 2.2
2017 9.3 2.4
2018 9.3 2.5
2019 9.1 2.7
2020 8.9 2.9
2021 9.0 3.2
2022※ 9.1 3.7
2023※ 9.1 3.9
2024※ 9.3 4.1
2025※ 9.3 4.3

※2021年までは1部上場企業、2022年からプライム上場企業を集計しています。

まとめ

本記事では、​会社法で​定められた​役職である​「代表取締役」と、​普段​何気なく​会社の​トップを​呼び表すときに​使われる​ことの​多い​「社長」と​いう​言葉に​ついて​解説し、​それぞれの​違いや、​実際の​使われ方を​説明しました。

日常の​会話で​あれば​問題は​ありませんが、​対外的に​誤った​使い方を​していると、​会社法の​表見代表取締役と​みなされるなど​思わぬトラブルに​発展するかもしれません。​本記事を​きっかけに​両者の​違いを​把握して、​​法律上の役職および商習慣上の​呼称の​明確化に​役立ててください。


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この記事は2019年4月14日に公開しました。2025年12月17日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。