※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
業務が忙しい、急に欠員が出たなどの理由で、従業員を休みの日に出勤させるケースは珍しくありません。その代わり、休みの日に出勤してくれた分の補填として、「振替休日」や「代休」を取得できる仕組みを作っている企業も多いのではないでしょうか。ただ、「振替休日」と「代休」は、労務管理上の扱いが異なっています。
どちらも「休みの日に出勤した代わりに、別の日に休む」という意味合いですが、実際は違う制度です。休日の与え方はもちろん、割増賃金の有無なども違いがあります。
この違いを理解しておかなければ、労使間のトラブルに発展する可能性もあります。ここでは、振替休日・代休の考え方や差異について、定義や賃金計算の観点からまとめて説明します。
目次
振替休日とは?
まずは、「振替休日とはなにか」を改めて定義しておきましょう。
厚生労働省の「よくある質問」を参考にすると、振替休日(休日の振替)とは「事前に休日と決まっていた日を労働日として出勤してもらい、そのかわりに他の労働日を休日として扱うこと」と定義されます。
所定の休みを他の勤務日とチェンジするので、休日労働とはなりません。あくまでも通常の出勤と同じように扱われ、振り替えた休みの日が休日となります。賃金計算の観点から考えると、休日の出勤は休日労働ではなく、割増賃金の支払い義務もありません。働く日と休む日を取り替えただけ、というスタンスです。
ただ、労働基準法32条により、労働者を「休憩時間を除いて、1週間40時間、1日8時間を超えて働かせてはいけない」という定めがあります(法定労働時間)。この定めに基づき、総労働時間が法定労働時間を超えるのであれば、その部分の賃金を割増で支払うことになります。
休日と働く日を入れ替えられるので、手軽に出勤日の調整ができる方法と思われるかもしれませんが、乱用してしまうと従業員の生活に影響が出る可能性があります。振替休日を設定する際の注意点があるので、次の項目を確認した上で振替休日の制度を設計しましょう。
振替休日の注意点
振替休日を設定する場合の注意点を四つ解説します。
【振替休日の設定要件を満たすこと】
振替休日の制度を取り入れるには、次の要件を満たす必要があります。
- 就業規則などに、振替休日に関しての規定を設けておくこと
例:業務上の必要に応じて、別の日に休みを振り返ることがある - 事前に、休日を振り替える日を特定しておくこと
- 前日の勤務時間が終わるまでには、振替休日について従業員に伝えておくこと
事前に従業員に休日の振替が行われることを通知していれば、振替日は出勤することになる休日の前後どちらでも構いません。
【1日8時間を超えて働くことになる場合は、割増賃金(時間外労働)を払うこと】
休日と出勤日を交換しているので、休日手当としての割増賃金は支払う必要がありません。ただ、1日に8時間以上の労働となる場合は、超えた部分に関しては時間外労働に関しての割増賃金(25%)が必要です。
【休日の振替が週をまたぐと、割増賃金の支払いが必要な場合があること】
就業規則で別段の定めがない場合、日曜から始まって土曜日までが1週間として扱われます(自社の状況によって、週の単位は変えることができます)。
振替休日を設定する場合は、同じ週の中に振り替えましょう。週を超えて振替を行うと、総労働時間が40時間を超える週ができてしまいます(1日8時間×5日のところが、1日8時間×6日となるため)。この場合、超過した部分については25%の割増賃金を支払わなくてはなりません。
経営者の観点からすると、休日に働かせることが必要になる場合は、できる限り早く調整して同一週で振替休日を設定するといいでしょう。
【未消化の振替休日や代休が溜まらないようにすること】
いくら振替休日や代休の制度があっても、業務繁忙期などで「休日の代わりが取れない」というケースもあるはずです。「使われていない振替休日や代休」について、あまり累積させないようにしましょう。賃金を支払って相殺することもありますが、従業員の疲労も蓄積されるので、経営者としては振替休日・代休が適切に取られているか確認しておきましょう。
代休とは?
代休とは、「休日労働があったとき、その代わりに以後の特定の労働日を休みとする」ものと定義されています。後日に休みがあっても休日に出勤した事実は動かないので、休日労働した分の賃金は、休日労働の割増率に従って35%以上の割増が必要です。代休の規定を取り入れるためには、休日労働に関する三六協定の締結が必要です。
参考:労働条件Q&A(時間外労働、休日労働、深夜業、割増賃金編)(厚生労働省福岡労働局)
代休の対象になるのは、「法定休日」に出勤させたときです。法定休日は週に1日なので、週休二日制を採用している企業の場合、いずれか1日を働かせた場合や、祝祭日に勤務させた場合は休日手当の対象とはなりません。
代休日の賃金は、無給にするか有給にするか自由に決められます。就業規則などで会社ごとに定めることができます。一般的には、休日労働分の賃金を1.35倍として支払い、代休日の賃金を無給にして処理します。
ちなみに、代休を与えるかどうかは任意です。必ず与えなければならないという法的な規制はないので、休日労働があっても、その分の賃金をしっかり払っていれば法的には問題にはなりません。
とはいえ、企業のコンプライアンスや従業員の健康管理にも影響する状況には変わりありません。休日出勤を依頼した場合は、なるべく早く代休を取れるよう、経営者や上司など管理監督者の立場から積極的に促すほうが良いでしょう。「代休の取得可能期間は、休日労働の翌日から1カ月」などと就業規則で規定しておくと、ルールが明文化されるのでトラブルも防ぐことができ、取得漏れも少なくなります。
振替休日と代休の取り扱いの違いとは振替休日と代休の大きな差異を一言で表すと「休みの日を、事前に決めるか(=振替休日)、事後に与えるか(=代休)」です。
振替休日の場合は、あくまで出勤日と休日の交換が行われるだけなので、休日の出勤とはなりません。つまり、休日労働に関する割増賃金の支払いは必要ないです。
休日に働かせて、後日別日に休んでもらう場合(代休)は、休みの日に働かせている状況に変わりはないため、所定の割増賃金(休日手当)が発生します。この場合の休日手当は35%です。代休の場合、時間外労働という概念は当てはまりませんが、深夜労働の規定は適用されます。休日の深夜に労働させるときには、深夜労働の割増賃金の加算も必要なので、計算時は注意しましょう。
違いを理解し、社内体制に活かそう
「事前に代わりの休みを指定するか」「事後に決めるか」で振替休日か、代休か扱いが異なります。賃金の計算方法も変わってくるので、賃金に関する労使のトラブルが無いように休日の働かせ方は今一度確認することをおすすめします。
「健全な働き方」に関する正しい理解や積極的な取り組み姿勢は、従業員を守るためにも、従業員にネガティブな感情を持たれないためにも、経営者にとって重要な観点です。「休日に働かせても、あとで休ませればいい」と安易に考えるのではなく、法に従って適切な休みが取れるような社内制度を整え、必要な割増賃金の支払いを行いましょう。
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執筆は2020年2月6日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash