節税につながる!法人が活用したい繰越欠損金とは

会社経営を行う上で、悩みのタネになることが多いのが法人税の負担です。事業を安定させるのが難しいスモールビジネスほど、利益を上げられる年がある一方で赤字になってしまう年も多く、税負担は年によってまちまちになってしまいます。

繰越欠損金とは、赤字の金額を次の年以降に繰り越すことで所得を圧縮し、税負担を軽減する仕組みです。ある年の損失を将来の利益から差し引くことができるので、税負担の平準化を実現できます。この仕組みについて経営者の中には言葉だけ知っていても、どのようなものか詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。

この記事では、繰越欠損金の全体像とメリット、活用する方法について詳しく解説していきます。

繰越欠損金とは?

「欠損金」とは、法人税算出のために各事業年度の所得金額を計算するうえで、損金が益金を超える金額のことをいいます。分かりやすくいえば、事業における赤字の金額のことです。法人税は所得に対して課せられるものなので、当然ながら赤字部分には税金はかかりません。

欠損金は、一定の条件のもとで翌事業年度以降に繰り越し、将来の所得と相殺できます。この仕組みによって、繰越している欠損金を「繰越欠損金」と呼びます。

繰越できる期間は、従来は9年と定められていました。しかし2016年に法改正があり、2018年4月1日以降に開始する年度で生じる欠損金額については10年に延長されています。

参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(国税庁)

法人税を少なくすることもできる?繰越欠損金のメリットとは

繰越欠損金のメリット
繰越欠損金を活用するメリットは、黒字と相殺することで法人税の課税所得を圧縮し、税負担の軽減につながる点です。また、各年度の最終赤字・黒字による税負担の差をならし、平準化を実現できます。

繰越欠損金を活用したとき、活用しなかったときの違い
繰越欠損金を活用した場合の法人税計算について、具体的な例を挙げて考えてみましょう。

ある事業者の2018年度の決算で、税引前当期純利益が100万円の赤字だったとします。ここでは法人税の計算上、課税所得がマイナスなので法人税負担は発生しません。赤字分は翌年以降に繰越できることになります。

翌年の2019年度が500万円の黒字だった場合、前年に繰り越した100万円と相殺し、所得は500万円−100万円=400万円です。

2018年度:▲100万円
2019年度:500万円−100万=400万円(控除後金額)
▲…赤字

この場合の2019年度の法人税を、実効税率30%として計算すると、所得全体の法人税額は、500万円×30%=150万円です。一方で欠損金と相殺した場合、400万円×30%=120万円と、本来の所得額にかかる税金に比べて税負担は軽減されることがわかります。

ちなみに、複数の事業年度で欠損金があった場合、古いものから順に相殺されます。

2018年度:▲100万円
2019年度:▲200万円
2020年度:250万円

たとえばある事業者の決算が上記のとおりだった場合、2018年度と2019年度に計上した赤字を繰越欠損金として、2020年度の黒字と相殺可能です。その場合、より古い2018年度分から100万円控除し、ついで2019年度分から150万円分控除し、課税所得ゼロとなります。このように、複数の年で累積した欠損金をまとめて相殺することも可能です。

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まずは青色申告を。繰越欠損金の活用方法

課税所得を圧縮し節税のメリットを受けられる繰越欠損金ですが、活用するには条件があるため理解しておきましょう。

繰越欠損金を活用できる条件

繰越欠損金を活用するには、以下の三つの条件を全て満たす必要があります。

  • 欠損金が発生した事業年度に青色申告を行なっている
  • 欠損金が発生した後の事業年度でも、続けて確定申告を行なっている(青色申告でなくても良い)
  • 事業にかかる帳簿書類を保存している

参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 (国税庁)

繰越欠損金の活用に必要な青色申告とは

所得税の確定申告には青色申告・白色申告の二種類がありますが、法人税の申告にも同じ仕組みがあります。通常の手続きで申告を行なった際は白色申告ですが、決められた記帳方法で正しく帳簿を備えている法人は「青色申告の承認申請書」を所轄の税務署に提出し、承認を受けることで切り替えられます。

青色申告すると、繰越欠損金の控除をはじめとして税務上のさまざまな特典を受けることができます。

参考:[手続名]青色申告書の承認の申請(国税庁)

繰越欠損金には控除限度額がある?

繰越欠損金の計上については、都度の法改正によって資本金ごとに限度額が定められています。

資本金1億円を超える大企業の場合の限度額:65%から50%(事業開始年度による)
資本金1億円以下の中小企業の場合の限度額:100%

上記のように、大企業では制限がかけられる一方で、中小企業の場合には全額控除できる仕組みになっています。税制度上、中小企業の負担が軽減されやすくなっていることがわかります。ただし今後の法改正によっては、限度額が変更になる可能性もあります。

税金負担額の軽減効果を確認する「回収可能性」とは

繰越欠損金は税効果会計の対象になるため、控除にあたっては「回収可能性」を考慮しなければなりません。

企業会計と税務会計では、同じ費用項目でも計上できるタイミングが一部異なっているため、それぞれで計算される利益には一時的にズレが生じます。税効果会計とは、会計上の利益と税務上の利益のズレを解消し、正しい法人税の金額を計算するために行う手続きです。具体的には、生じたズレの部分を繰延税金資産として仮に計上しておき、将来ズレが解消されたタイミングで課税所得の加算・減算処理を行います。

繰越欠損金は将来の課税所得を減らす効果があるため、税効果会計の対象となっています。

欠損金を税効果会計の考え方に従って相殺処理する場合、回収可能性適用指針によって「回収可能性」があるかどうか判断しなければなりません。「回収可能性」とは、税効果会計上の用語で、大まかにいえば「将来の税金負担額を軽減する効果があるか?」ということです。

繰越欠損金は、将来的に決算が黒字にならなければ所得額を軽減することはできません。もし経営が不安定で、過去実績から見ても将来的に黒字化する見込みが少ない場合、税金負担額を軽減する効果が薄い(すなわち、回収可能性が少ない)と考えられます。

そのため回収可能性適用指針に従ってどれだけ回収可能性があるか見積もります。なお回収可能性の見積りは事業年度ごとに行われます。繰越欠損金は、回収可能性を判断しながら会計のルールに従って処理するようにしましょう。

繰越欠損金の処理は難しそうに思えるかもしれませんが、税負担を平準化することで経営の安定にもつながります。必要に応じて専門家にも相談しながら、効果的に活用するようにしましょう。

執筆は2019年11月22日時点の情報を参照しています。
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