繰越欠損金とは?要件や期限、控除限度額をわかりやすく解説

※本記事の​内容は​一般的な​情報提供のみを​目的に​して​作成されています。​法務、​税務、​会計などに​関する​専門的な​助言が​必要な​場合には、​必ず​適切な​専門家に​ご相談ください。

企業経営において、赤字は極力避けたい事態です。しかし、事業活動の中で一時的な損失が出てしまう場面もあるでしょう。そのようなときに活用できるのが「繰越欠損金(くりこしけっそんきん)」です。

繰越欠損金を活用すると、将来発生する法人税の負担を軽減し、手元資金を確保できるため、財務体質の改善につなげられます。一方で、適用を受けるためには一定の条件を満たす必要があるため、制度を正しく理解しておきましょう。

この記事では、繰越欠損金の仕組みやメリット・デメリット、適用条件について、わかりやすく解説します。

📝この記事のポイント

  • 繰越欠損金とは、​​発生した​​赤字を​​翌年度以降の​​黒字から​​差し引き、​​法人税の負担を軽減できる​​制度
  • 2018年4月1日以後に​​開始する​​事業年度における繰越期間は​​10年間​​
  • 資本金1億円以下の中小企業は100%​​控除可能だが、​​資本金1億円を超える大企業などは​​50%まで控除可能
  • 制度の適用を受けるためには、​​青色申告書の​​提出や​​10年間の​​帳簿保存などが​​必須
  • Squareの​​決済システムと​​会計ソフトを​​連携させれば、​​青色申告に​​必要な​​帳簿作成を​​自動化できる
目次


繰越欠損金とは?わかりやすく解説

繰越欠損金とは、​​ある​​事業年度に​​発生した​​税務上の​​赤字(欠損金)を、​​翌年度以降に​​繰り越し、​​将来​​発生する​​黒字​​(所得)から​​控除できる制度です。​​

通常、​​法人税は​​単年度ごとの​​利益に​​対して​​課税されます。​​この​​原則通りであれば、​​1年目に​​1,000万円の​​赤字(損失)を​​出し、​​2年目に​​1,000万円の​​黒字(利益)を​​出した​​場合、​​2年目の​​黒字に​​対して​​法人税が​​かかります。しかし、2年間のトータルで見ればプラスマイナスゼロであり、実質的な利益が出ていない状態で税金を納めるのは負担が重くなることもあるでしょう。

そこで、​​過去の​​赤字を​​​ストックし、​​将来の​​黒字と​​相殺する​​ことで、​​実質的な​​利益に​​見合った​​課税を​​実現するのが、繰越欠損金の制度です。

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繰越欠損金のメリットとデメリット

繰越欠損金には、経営改善につながるメリットがある一方で、一定の手間や制約も存在します。制度を利用する前に、メリットとデメリットの両面を把握しておきましょう。

メリット:税負担を軽減

法人税の負担を軽減できる点が繰越欠損金のメリットです。​​法人税1は​​「課税所得 × 税率ー税額控除」で​​計算します。​​繰越欠損金を​​使って​​課税所得を​​圧縮すれば、納税額を減らすことが可能です。

ある​事業者の​2024年度の​決算で、​税引前当期純利益が​100万円の​赤字だったとします。​ここでは​法人税の​計算上、​課税所得が​マイナスなので​法人税負担は​発生しません。​赤字分は​翌年以降に​繰越できることになります。

翌年の​2025年度が​500万円の​黒字だった​場合、​前年に​繰り越した​100万円と​相殺し、​所得は​500万円−100万円=400万円です。

2024年度:▲100万円

2025年度:500万円−100万=400万円​(控除後金額)

▲…​赤字

この​場合の​2025年度の​法人税を、​実効税率30%と​して​計算すると、​所得全体の​法人税額は、​500万円×30%=150万円です。​一方で​欠損金と​相殺した​場合、​400万円×30%=120万円と、​本来の​所得額に​かかる​税金に​比べて​税負担は​軽減される​ことが​わかります。

メリット:C/Fを改善

赤字からの​​回復局面では​​資金繰りが​​厳しい​​ケースが​​珍しくありません。繰越欠損金の利用により税金の支払いを減らすことができれば、その分手元に残る現金が増えるため、キャッシュフロー​​(C/F)の​​改善につながります。

手元に残った資金を借入金の返済に充てたり、次の事業投資に回したりすることで、更なる事業拡大が期待できます。

メリット:赤字の影響を緩和

赤字の影響を精神面・対外的な信用面で緩和できる点も、繰越欠損金のメリットです。

創業期や​​大規模な​​設備投資を​​した​​直後、​​予期せぬ不況などに​​より、​​一時的に​​大きな​​赤字を​​計上することは珍しくありません。繰越欠損金の活用を想定していれば「今期の赤字は将来の税負担軽減につながるものであり、決して無駄ではない」と前向きに捉えることが可能です。

また、経営者の​​精神的な​​負担を​​和らげるだけでなく、​​銀行などの​​金融機関に​​対する​​説明材料にも​​なります。「今期は赤字だが、繰越欠損金の活用によって収益を向上させ、返済原資を確保できる」といった説明ができれば、金融機関からの理解も得やすくなるでしょう。

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デメリット:会計処理の複雑化

繰越欠損金を活用するデメリットとして、会計処理や税務申告の手続きが複雑になりやすい点が挙げられます。

繰越欠損金を活用するためには青色申告が前提となるため、複式簿記に​​よる​​記帳が​​必要です。また上場企業などに義務付けられている「税効果会計」を適用している場合「繰延税金資産」を取り崩す仕訳処理が必要になる場合もあります。

専門的な知識が求められるため、税理士などの専門家のサポートが必須となるケースが多いでしょう。

デメリット:利用期間における制限

繰越欠損金を利用できるのは、原則として最大10年間です。一度発生した欠損金は、永久に使えるわけではありません。この期間内に相殺しきれなければ、残った欠損金は消滅してしまいます。

さらに繰越欠損金は、使い方の面でも以下のような制限があります。

  • 古い事業年度の欠損金から順に充当される
  • 黒字が出た年度は必ず相殺しなければならず、翌年以降に温存できない

2023年度:▲100万円
2024年度:▲200万円
2025年度:250万円

た​とえば​ある​事業者の​決算が​上記の​とおりだった​場合、​2023年度と​2024年度に​計上した​赤字を​繰越欠損金と​して、​2025年度の​黒字と​相殺可能です。​その​場合、​より​古い​2023年度分から​100万円控除し、​ついで​2024年度分から​150万円分​控除し、​課税所得ゼロと​なります。​

過去の古い赤字を温存して新しい年度の赤字を先に充当することや、少額の黒字が出た年度にはあえて欠損金を使わず、翌年の大きな黒字と相殺するために繰り延べる、といった調整はできません。

デメリット:将来利益に対する依存

繰越欠損金の​​効果が​​発揮されるのは、​​あくまで​​将来、​​黒字が​​出た​​場合に​​限られます。​​赤字が​​連続している​​状態では、​​控除対象の​​所得が​​ない​​ため、​​税務上の​​メリットは​​享受できません。

繰越欠損金を活用するためには、​​本業の​​収益力を​​改善し、​​黒字を​​生み出す​​経営努力が​​前提と​​なります。

繰越欠損金が適用できる場合

繰越欠損金は、赤字を出せば自動的に適用されるわけではなく、法人税法で定められた一定の要件を満たす必要があります。

欠損金の発生年度に青色申告で確定申告

欠損金が​​発生した​​年度に​​おいて、​​青色申告で​​確定申告書を​​提出している​​ことが​​繰越欠損金を適用するための基本的な条件の1つです2

白色申告の​​法人には、​​災害に​​よる​​損失など​​特殊な​​事情を​​除き、​​基本的に​​繰越欠損金の​​適用は​​認められていません3

​​繰越欠損金を活用したい場合は、創業初年度や​​赤字が​​予想される​​年度であっても、​​事前に​​「青色申告の​​承認申請書」を​​税務署に​​提出し、​​承認を​​受けておく​​必要が​​あります。

欠損金の発生以降も確定申告

繰越欠損金を活用するためには、欠損金が​​発生した​​翌年度以降も​​連続して​​確定申告書を​​提出する必要があります2

たとえば​​1期目に​​赤字を​​出し、​​2期目は​​休眠状態で​​申告を​​せず、​​3期目に​​黒字が​​出たと​​しましょう。​​この​​場合、​​2期目の​​申告が​​途切れている​​ため、​​1期目の​​赤字を​​3期目に​​使う​​ことは​​できません。​​たとえ​​事業活動が​​なくても、​​あるいは​​赤字が​​続いていたとしても、​​毎年必ず​​確定申告を​​継続する​​必要が​​あります。

なお、​​赤字が​​発生した​​年度に​​青色申告を​​していれば、​​その後の​​年度が​​白色申告であっても、​​繰越控除は​​適用されます。

帳簿書類を10年間保存

​​欠損金が​​生じた​​事業年度の​​帳簿書類を​​適切に​​保存しておくことも、繰越欠損金を適用するための要件の1つです。2018年4月1日以後に​​開始する​​事業年度に関しては、帳簿を​​10年間保存する必要があります4

税務調査が​​入った​​際に、​​過去の​​赤字が​​正当な​​ものであるかを​​証明できなければ、​​欠損金の​​繰越が​​否認される​​可能性も​​あります。

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繰越欠損金の繰越期間は何年か?

繰越欠損金の​​繰越期間は10年間です。ただし、2018年4月1日以前に​​開始した​​事業年度で​​発生した​​欠損金に​​ついては、​​9年間です2

なお、​​個人事業主の​​青色申告に​​おける​​純損失の​​繰越控除期間は​​「3年間」のため、混同しないよう注意しましょう5

繰越欠損金の控除限度額はいくらか?

当期の所得から控除できる繰越欠損金には、企業の規模(資本金)によって上限が設けられています。

資本金(または出資金)が1億円以下の場合

資本金が​​1億円以下の​​中小企業などの​​場合、​​控除限度額に​​制限は​​ありません。​​所得の​​金額を​​上限と​​して、​​保有している​​繰越欠損金を​​全額利用できます2

たとえば当期の​​所得が​​1,000万円で、​​繰越欠損金の​​残高が​​1,500万円ある場合、​​所得1,000万円の​​全額を​​欠損金と​​相殺し、​​課税所得を​​0円に​​することが可能です。

資本金(または出資金)が1億円を上回る場合

資本金が​​1億円を​​超える​​大法人(およびその完全子会社など)の​​場合、​​控除限度額は​​所得金額に​​対する​​一定の​​割合までと​​制限されています。

事業年度ごとの​​控除限度額は、​​以下の​​通りです2

事業年度の開始日 控除限度額の割合(乗じる率)
2015年4月1日 〜 2016年3月31日 所得金額の65%
2016年4月1日 〜 2017年3月31日 所得金額の60%
2017年4月1日 〜 2018年3月31日 所得金額の55%
2018年4月1日 〜 現在 所得金額の50%

繰越欠損金はどこを見ればわかるか?

自社に​​どれくらいの​​繰越欠損金が​​残っているかを​​確認するには、​​法人税申告書の​​別表七​​(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」を確認しましょう。

別表七(一)には、​​以下の​​情報が​​記載されています。

  • いつ​​発生した​​欠損金か(事業年度)
  • 各事業年度の​​欠損金が​​いくらあるか(控除未済欠損金額)
  • 当期までに​​いくら​​使用したか(当期控除額)
  • 翌期に​​繰り越される​​残高は​​いくらか(翌期繰越額)

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繰越欠損金を​​活用するには、​​まず​​自社の​​正確な​​損益状況を​​把握する​​必要があります。また、適用要件を満たすためには、日々の正確な記帳も欠かせません。しかし、人員不足などの理由で​​経理業務に​​時間を​​割くのは難しい​​場合も​​あるでしょう。

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そんなときはSquareのようなツールの利用を検討してみてください。たとえばSquare POSレジを利用すると、毎日の​​売上データが​​自動で​​集計されます。また、freeeや​​マネーフォワードなどの​​クラウド会計ソフトと​​連携し、売上データを自動で取り込めるため、​​帳簿作成の​​手間を削減可能です。

正確な損益データをもとに、繰越欠損金の活用を含めた財務戦略を検討してみましょう。

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まとめ

繰越欠損金は、過去に発生した赤字を将来の黒字と相殺し、法人税の負担を軽減できる制度です。適切に活用すれば、​税負担を​平準化する​ことで​経営の​安定に​もつながります。​

制度の適用を受けるためには、欠損金が発生した年度に青色申告を行い、その後も連続して確定申告書を提出し続ける必要があります。また、帳簿書類を10年間保存することも要件の1つです。

繰越期間は原則として10年間であり、控除限度額は資本金1億円以下の中小企業であれば所得の100%、大企業の場合は所得の50%と定められています。

制度を適切に利用するためには、日々の正確な帳簿付けと管理が欠かせません。Squareなどのツールで業務を効率化しつつ、不明な点は税理士などの専門家に相談しながら、効果的に活用しましょう。

よくある質問

繰越欠損金に関してよくある質問とその回答をまとめました。実際に制度を利用する前に、疑問点を解決しておきましょう。

繰越欠損金を利用するメリットは何ですか?

繰越欠損金を利用するメリットは、主に税負担の軽減とキャッシュフローの改善です。 将来黒字が出た際に、過去の赤字と相殺することで法人税などの課税対象額(所得)を減らせます。これにより、本来支払うべき税金を抑え、手元により多くの資金を残すことが可能です。残った資金を借入金の返済や新たな投資に回せるため、財務体質の強化や事業の成長につなげやすくなります。

繰越欠損金を利用するデメリットは何ですか?

税務申告や会計処理が複雑になりやすい点が、繰越欠損金を利用するデメリットです。​​適用には​​青色申告が​​必須であり、​​複式簿記に​​よる​​帳簿作成や​​10年間の​​帳簿保存が​​義務付けられるため、管理の手間もかかります。

さらに、あくまで「将来黒字が出ること」が前提の制度であり、赤字が続けば恩恵を受けられない点も理解しておく必要があります。

なお、資本金1億円を超える企業は​​控除限度額が​​所得の​​50%に​​制限される​​ため、​​全額を​​相殺できない​​点にも​​注意が必要です。

繰越欠損金はどこに記載されますか?

法人税申告書の​​別表七​​(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」に​​記載されます。この表には、各年度に発生した欠損金の額、当期に控除した額、そして翌期以降に繰り越される残高が詳細に記されています。

繰越欠損金を適用するにはどんな条件がありますか?

主な​​条件は​​以下の​​3点です。

  1. 欠損金が​​発生した​​事業年度に​​青色申告書を提出していること。
  2. その後、​​連続して確定申告書を​​提出している​​​​
  3. ​​帳簿書類を​10年間保存している​​

上記の​​条件を​​1つでも​​満たしていない​​場合、​​原則と​​して​​繰越控除は​​認められませんので​​注意が​​必要です。


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執筆は2019年11月22日時点の情報を参照しています。2025年12月15日に​記事の​一部情報を​更新しました。​当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。