経営者と​して​知って​おきたい、​下請法の​基礎知識

※本記事の​内容は​一般的な​情報提供のみを​目的に​して​作成されています。​法務、​税務、​会計等に​関する​専門的な​助言が​必要な​場合には、​必ず​適切な​専門家に​ご相談ください。

事業を​進めていくなかで、​別の​事業者から​委託を​受けて​物品の​製造を​行なったり、​自社が​別の​事業者に​物品の​製造などを​委託したりする​場面が​あります。​これらの​取引に​おいて​一定の​条件に​合致する​場合には、​いわゆる​「下請法」に​よって​義務や​禁止事項が​定められています。

今回は、​経営者と​して​知って​おきたい​下請法の​概要を​紹介します。

目次



下請法とは

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一般的に​「下請法」と​呼ばれていますが、​正しくは​「下請代金支払遅延防止法」と​いい、​独占禁止法の​特例法と​して​位置づけられています。​下請取引の​公正化と​下請事業者の​利益保護を​目的に、​1956年に​制定され、​以後​企業取引の​変化に​合わせて​見直しが​行な​われ、​法改正に​よって​適用範囲を​拡大するなどの​強化が​なされてきています。

下請法の​対象となる​取引

下請法の​対象となる​取引には、​発注者と​しての​親事業者と、​受注者と​しての​下請事業者と​いう​関係が​前提と​なります。​どのような​事業者が​下請法の​対象となる​親事業者や​下請事業者に​あたるかは、​取引内容と​資本金に​よって​次のように​規定されています。

製造委託、​修理委託取引および政令で​定める​情報成果物の​作成委託、​役務提供委託取引の​場合

  • 親事業者の​資本金が​3億1円以上で、​下請事業者の​資本金が​3億円以下
  • 親事業者の​資本金が​1千万1円以上​3億円以下で、​下請事業者の​資本金が​1千万円以下

上記以外の​情報成果物の​作成委託、​役務提供委託取引の​場合

  • 親事業者の​資本金が​5千万1円以上で、​下請事業者の​資本金が​5千万円以下
  • 親事業者の​資本金が​1千万1円以上​5千万円以下で、​下請事業者の​資本金が​1千万円以下

また、​発注者が​上記の​親事業者の​要件に​当ては​まらない、​資本金3億円以下や​5千万円以下の​子会社を​設立し、​そこを​経由して​下請事業者に​業務を​委託するなどの​委託取引を​行なっている​場合、​関係​性や​取引実態に​よっては、​その子会社も​親事業者であると​みなされて、​下請法の​適用を​受ける​ことが​あります。

参考:ポイント解説下請法​(公正取引委員会・中​小企業庁)

対象となる​四つの​取引内容

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下請法の​対象となる​取引は、​内容に​よって​以下の​4タイプに​分類されています。​公正取引委員会と​中小企業庁に​よって​発行されている​「ポイント解説下請法」では、​それぞれ次のように​紹介されています。

製造委託
物品を​販売し、​または​製造を​請け負っている​事業者が、​規格、​品質、​形状、​デザイン、​ブランドなどを​細かく​指定して、​他の​事業者に​物品の​製造や​加工などを​委託する​ことを​いいます。​ここで​いう​『物品』とは​動産の​ことを​意味しており、​家屋などの​建築物は​対象に​含まれません。

修理委託
物品の​修理を​請け負っている​事業者が​その​修理を​他の​事業者に​委託したり、​自社で​使用する​物品を​自社で​修理している​場合に、​その修理の​一部を​他の​事業者に​委託する​ことなどを​いいます。

情報成果物作成委託
ソフトウェア、​映像コンテンツ、​各種デザインなど、​情報成果物の​提供や​作成を​行う​事業者が、​他の​事業者に​その作成作業を​委託する​ことを​いいます。​情報成果物の​代表的な​例と​しては、​次の​ものを​挙げる​ことができ、​物品の​付属品・内蔵部品、​物品の​設計・デザインに​係わる​作成物全般を​含んでいます。

例:・プログラム
・​影像や​音声、​音響などから​構成される​もの
・文字、​図形、​記号などから​構成される​もの

役務提供委託
運送や​ビルメンテナンスを​はじめ、​各種サービスの​提供を​行う​事業者が、​請け負った​役務の​提供を​他の​事業者に​委託する​ことを​いいます。​ただし、​建設業を​営む事業者が​請け負う​建設工事は、​役務には​含まれません。

参考:
下請法の​概要​(公正取引委員会)
ポイント解説下請法​(公正取引委員会・中​小企業庁)

親事業者の​義務

下請法では、​親事業者には​以下に​挙げる​四つの​義務が​規定されています。

参考:親事業者の​義務​(公正取引委員会)

書面の​交付義務
親事業者が​下請事業者に​業務を​発注する​ときには、​下請法第3条に​挙げられている​具体的記載事項の​すべてを​記載している​書面を​交付しなくては​いけません。​具体的記載事項の​内容は​以下です。

(1) 親事業者及び下請事業者の​名称​(番号、​記号等に​よる​記載も​可)
(2) 製造委託、​修理委託、​情報成果物作成委託又は​役務提供委託を​した​日
(3) 下請事業者の​給付の​内容​(委託の​内容が​分かるよう、​明確に​記載する。​)
(4) 下請事業者の​給付を​受領する​期日​(役務提供委託の​場合は、​役務が​提供される​期日又は​期間)
(5) 下請事業者の​給付を​受領する​場所
(6) 下請事業者の​給付の​内容に​ついて​検査を​する​場合は、​検査を​完了する​期日
(7) 下請代金の​額​(具体的な​金額を​記載する​必要が​あるが、​算定方法に​よる​記載も​可)
(8) 下請代金の​支払期日
(9) 手形を​交付する​場合は、​手形の​金額​(支払比率でも​可)​及び手形の​満期
(10) 一括決済方式で​支払う​場合は、​金融機関名、​貸付け又は​支払可能額、​親事業者が​下請代金債権相当額又は​下請代金債務相当額を​金融機関へ​支払う​期日
(11) 電子記録債権で​支払う​場合は、​電子記録債権の​額及び電子記録債権の​満期日
(12) 原材料等を​有償支給する​場合は、​品名、​数量、​対価、​引渡しの​期日、​決済期日、​決済方法

支払期日を​定める​義務
親事業者は、​契約で​定めた​物品の​納入や​役務の​提供を​受けた​日から​60日以内のできるだけ​短い​期間内で​代金の​支払い日を​決めなくては​いけません。

書類の​作成・保存義務
親事業者は、​下請事業者に​委託した​業務の​内容や​代金に​ついて​記載した​書類を​作成し、​2年間保存しなくては​いけません。​書面に​記載すべき​内容は​以下です。

(1) 下請事業者の​名称​(番号、​記号等に​よる​記載も​可)
(2) 製造委託、​修理委託、​情報成果物作成委託又は​役務提供委託を​した​日
(3) 下請事業者の​給付の​内容​(役務提供委託の​場合は​役務の​提供の​内容)
(4) 下請事業者の​給付を​受領する​期日​(役務提供委託の​場合は、​下請事業者が​役務の​提供を​する​期日・期間)
(5) 下請事業者から​受領した​給付の​内容及び給付を​受領した​日​(役務提供委託の​場合は、​下請事業者から​役務が​提供された​日・期間)
(6) 下請事業者の​給付の​内容に​ついて​検査を​した​場合は、​検査を​完了した日、​検査の​結果​及び検査に​合格しなかった​給付の​取扱い
(7) 下請事業者の​給付の​内容に​ついて、​変更又は​やり直しを​させた​場合は、​内容及び理由
(8) 下請代金の​額​(算定方法に​よる​記載も​可)
(9) 下請代金の​支払期日
(10) 下請代金の​額に​変更が​あった​場合は、​増減額及び理由
(11) 支払った​下請代金の​額、​支払った​日及び支払手段
(12) 下請代金の​支払に​つき手形を​交付した​場合は、​手形の​金額、​手形を​交付した​日及び手形の​満期
(13) 一括決済方式で​支払う​ことと​した​場合は、​金融機関から​貸付け又は​支払を​受ける​ことができる​ことと​した​額及び期間の​始期並びに​親事業者が​下請代金債権相当額又は​下請代金債務相当額を​金融機関へ​支払った​日
(14) 電子記録債権で​支払う​ことと​した​場合は、​電子記録債権の​額、​下請事業者が​下請代金の​支払を​受ける​ことができる​ことと​した​期間の​始期及び電子記録債権の​満期日
(15) 原材料等を​有償支給した​場合は、​品名、​数量、​対価、​引渡しの​日、​決済を​した​日及び決済方法
(16) 下請代金の​一部を​支払い又は​原材料等の​対価を​控除した​場合は、​その後の​下請代金の​残額
(17) 遅延利息を​支払った​場合は、​遅延利息の​額及び遅延利息を​支払った​日

遅延利息の​支払義務
親事業者は、​代金を​次払い​期日までに​支払わなかった​場合には、​物品の​納入や​役務の​提供を​受けて​60日を​過ぎた​日から​実際に​支払いを​する​日までの間、​日数に​応じて​年率14.6%の​利息を​支払わなくては​なりません。

親事業者の​禁止行為

下請法では、​親事業者に​対して​11の​禁止事項が​規定されています。

参考:親事業者の​禁止行為​(公正取引委員会)

受領拒否
下請事業者に​委託した​物品や​役務の​受け取りを​拒んでは​いけません。

下請代金の​支払遅延
物品の​納入や​役務の​提供を​受けた​日から​60日以内で、​双方の​合意に​よって​定めた​期日までに​代金を​支払わなくては​いけません。

下請代金の​減額
双方の​合意に​よって​定めた​代金を​減額しては​いけません。

返品
下請事業者に​委託した​物品を​受け取ったら、​返品しては​いけません。

買いたたき
下請事業者と​協議する​ことなく、​これまで​取り引きしてきた​単価から​一方的に​代金の​額を​引き下げたり、​一般的な​金額よりも​著しく​低い​金額を​指示したりして​代金を​定めては​いけません。

購入・利用強制
下請事業者に​対して、​強制的に​物品を​購入させたり、​サービスを​利用させたりしては​いけません。

報復措置
親事業者に​よる​不正行為を​公正取引委員会や​中小企業庁に​伝えた​ことを​理由に、​下請事業者に​対して​取引を​減らしたり、​停止したりするなどの​不利益な​扱いを​しては​いけません。

有償支給原材料等の​対価の​早期決済
原材料などを​有償で​支給して​物品の​製造を​委託するような​場合、​その原材料などの​支払いを​下請代金の​支払期限より​前に​請求したり、​下請代金と​相殺したりしては​いけません。

割引困難な​手形の​交付
一般的な​金融機関で​割引を​受ける​ことが​困難な​手形を​交付しては​いけません。

不当な​経済上の​利益の​提供
下請事業者に​対して、​自己の​ために​現金や​サービスなどの​提供を​させては​いけません。

不当な​給付内容の​変更および​不当な​やり直し
下請事業者に​瑕疵​(かし)が​ないのに、​費用の​負担を​せずに​発注を​取り消す、​発注内容を​変更する、​やり直しを​行わせるなどの​行為を​しては​いけません。

自社が​親事業者である​場合、​普段から​付き合いの​ある​下請事業者に​対して​意図せず​上記に​当ては​まる​行動を​とってしまう​ことも​ありえます。​これを​機に​下請法の​内容を​チェックし、​コンプライアンスに​則った​経営を​進めていきましょう。

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執筆は​2019年4月2日​時点の​情報を​参照しています。​当ウェブサイトから​リンクした​外部の​ウェブサイトの​内容に​ついては、​Squareは​責任を​負いません。​Photography provided by, Unsplash