人事労務管理とは?仕事内容6つ、課題、改善方法とシステム化

組織の中で不可欠な業務である「人事労務管理」。とはいえ、その具体的な業務内容については、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。人事労務管理は、企業の経営資源とされるヒト・モノ・カネの内、「ヒト(人)」に関する管理を担います。人事労務管理を怠ると、従業員は安心して働くことができず、モチベーションの低下、ひいては生産性の低下にも繋がりかねません。本ページでは、人事労務管理の役割や仕事内容をはじめ、今後の課題、その解決策までをお伝えしていきます。

人事労務管理とは

人事労務管理とは、人事評価や人材配置など従業員一人ひとりの管理を中心とした「人事管理」と、社内研修や福利厚生など組織全体の環境を最適化する「労務管理」を併せた業務です。会社の規模により、それぞれの業務が細分化されることもありますが、いずれも「人」を対象とした仕事内容で、従業員が安心して働くことができる労働環境の実現を目的としています。
組織にとって大切な財産である人材を守り、一人ひとりのモチベーションを保つことは、組織の成長と存続に不可欠な仕事です。

人事労務管理の仕事内容6つ

人事労務管理は、主に6つの仕事内容で構成されています。

採用・雇用管理

経営計画に沿って採用計画を立て、必要な人材を確保する採用活動を行い、その人材を適材適所に配置していきます。人事異動のみならず評価指標を作成し、昇格・降格の管理をするのも人事労務管理の仕事です。入社や退職時には雇用保険や厚生年金、健康保険などの手続きの他、さまざまな書類も必要となるため、関連する制度や法律も確認しておく必要があります。

【参考サイト】被保険者に関する手続一覧|厚生労働省

時間・勤怠管理

日々の就業時間や休憩時間、有給休暇の取得状況など、従業員が勤務した日数や時間を把握し、法律や規則に反していないかを細かく管理していくのが時間・勤怠管理業務です。労働時間は、保険料や税金の額も含め、給与計算に直結するものであり、大変重要度の高い業務といえます。勤怠管理を適切に行うことで不当な長時間労働を防止し、従業員の健全な業務をサポートできます。

賃金・給与管理

従業員の毎月の給与計算に加えて、年末調整や税金などの管理と手続きを行う業務です。各従業員の毎月の労働時間から算出した基本給に家族手当や住宅手当、通勤手当などの各種手当を加えたものが総支給額となり、そこから所得税や住民税、社会保険料を控除していきます。税金や保険料は総支給額により変動する上、扶養人数によっても計算が異なるため、緻密さと正確さが求められます。また、従業員が退職する際に支払う退職金の手続きも行います。

【参考サイト】
保険料額表|日本年金機構
都道府県毎の保険料率|全国健康保険協会
協会けんぽの介護保険料率について|全国健康保険協会

安全・衛生管理

安全・衛生管理の業務内容は大きく2つに分かれます。1つは、職場環境の最適化です。同じ場所で長時間作業を行う従業員に配慮して、適切な気温の管理や事故・ケガの防止など、健康を損なうことのない安全で衛生的な空間になるよう努めなければいけません。また環境のみならず、労働時間の管理や作業方法などを把握し、改善していくことも重要です。

もう1つは、従業員の健康管理です。毎年の健康診断の実施と保健指導、メンタルヘルスの状態を把握するストレスチェックなども定期的に行う必要があります。特に50名以上の従業員を有する企業には、労働基準監督署へ「定期健康診断結果報告書」、「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」といった3種の報告書の提出が義務付けられています。

【参考サイト】
安全衛生関係主要様式|厚生労働省
労働者の心の健康の保持増進のための指針|厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構

社員教育・研修

企業では入社時から定期的に社員研修が行われますが、社員研修の準備や実施も人事労務管理の仕事です。社員研修には、入社後の基本的な心構えなどを伝える新人研修をはじめ、ある一定期間の勤続年数で実施される研修や、スキルアップや専門性を身につけるために行われる研修があります。中には宿泊を伴うものもあるでしょう。その研修方法も企業により異なり、正解はありませんが、いくつか代表的なものをご紹介します。

-OJT
「On the Job Training(現任訓練)」の略で、現場の先輩や上司から、実際の現場で作業を行いながら覚えていく方法です。教える側も自分の仕事をしながら伝えることが可能なため、あまり無駄がありません。ただし、研修講師のプロではないので、指導についた人のレベルによって習熟度に差が出てしまうこともあります。

-OFF-JT
「Off-The-Job Training(職場外訓練)」。こちらは上のOJTとは異なり、外部講師などを呼び、職場外の場で行う研修です。現場の作業内容というより、理論的、体系的な知識を学ぶ場として活用されます。主に座学研修となることが多く、複数人で受けるため、参加者同士が交流できることもメリットのひとつです。

-ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、一つの部署に留めず、複数の部署を数か月から数年単位で変更し、さまざまな業務を実践していきながら習得させる方法です。実践させることでその人の適正が明確になり、本人のモチベーションの維持につながる一方、途中で離職した場合には、教育コストの損失も大きいといえるでしょう。

-SD
「Self Development(自己啓発)」の頭文字で、言葉の通り、自己啓発研修のことです。SDについては、定期的な実施や強制力があるものではなく、あくまで従業員の意思の下、選択受講することが多いようです。企業はその研修・セミナーの実施や資格取得費用の負担、外部セミナーの斡旋などで、従業員が受講しやすいよう準備します。

労使関係管理

10名以上の従業員を常時雇用する企業は就業規則を作成し、行政官庁に届け出る義務があります。その作成と届け出、また、社内で起こるトラブルの苦情処理や悩みごとの相談窓口となるのも人事労務管理の仕事です。労働組合からの交渉に応じたり、交渉結果を労働協約に取りまとめて労働条件の合意を交わすなど、従業員と会社が協調体制となるよう調整する役割も担っています。

【参考サイト】
労働基準法関係主要様式|厚生労働省
個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)|厚生労働省

人事労務管理の課題

企業の募集人数に比べ、応募人数が圧倒的に少ない超売手市場と呼ばれる昨今。事業規模に関わらず、人手不足・採用難が叫ばれています。少子高齢化に伴う労働人口の低下に加えて、コロナ禍での「働き方改革」の広がりで、テレワークやフレックスタイム制などの多様な就労形態が一般化しつつある中、現状の需要に対応できない企業と労働者との間にミスマッチが起こっているともいえるでしょう。
新規採用枠を広げる一方、離職率を下げて、現在ある労働力をいかに確保していくかが、人事労務管理にとっても大きな課題となっています。また、長時間労働による過労死やパワハラなども社会問題となり、以前に増して厳格な勤怠管理と労働環境の整備も必要です。

【参考サイト】情報通信白書平成29年版|総務省

人事労務管理の改善方法

これまで紹介してきたとおり、人事労務管理の業務内容は多岐に渡るにも拘わらず、人手不足のため、なかなか手が回らないと悩む組織も多くあります。そのため、これからの人事労務管理は各業務の無駄を省き、時代の流れに柔軟に対応していくための工夫が求められます。

たとえば、採用難・人手不足については、求人内容や労働条件が明確に、かつ魅力的になっているのかどうか。掲載している求人媒体のターゲット層とのミスマッチは起きていないかどうか。再度、課題を洗い出し、見直しを図っていく必要があります。ただし、労働安全衛生法や労働基準法はたびたび法改正されるため、その内容をしっかり理解していないと、コンプライス違反にもなりかねません。そこを避けるためにも労務管理士や社会保険労務士の資格を取得するのもひとつの手段です。

業務効率化のためには、DXの推進も検討していくと良いでしょう。DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、簡単に言うと、デジタル化による業務の変革です。様々な業務で、ソフトやアプリ、クラウドなどのIT技術を活用することで、ミスを減らし業務をスリム化できます。「人事労務システム」や「勤怠管理システム」例えば、人事労務システムを導入することで、雇用契約書の作成から締結、その他書類の自動作成、従業員の個人情報管理など、全てシステム上で完結できます。「人事労務システム」や「勤怠管理システム」などは、人事労務管理業務のおいて非常に役立つツールとなるでしょう。社会保険や雇用保険の手続きもできるため、役所まで足を運ぶ必要もなくなります。

また、テレワークが進む中では勤怠管理システムも非常に便利です。ネット環境さえあればどこにいても操作できるため、タイムカードやICカードでの打刻の必要もなく、常にリアルタイムで勤怠状況が把握できます。システム上でデータの集計も行えるため、従業員にも人事労務担当者にとっても大変便利なシステムといえます。このようなシステムを活用していくことによって、全従業員の手間と負担が軽減し、生産性向上も期待できることでしょう。

次のステップ

事業継続と事業拡大

経営が軌道に乗ってきた後は、いかにして事業を継続するかが大切です。事業によっては拡大を目指すこともあるでしょう。事業の継続と拡大について学びましょう。


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