【商いのコト】特集:暮らしと商いと夫婦のバランス — 大山崎 COFFEE ROASTERS (前編)

成功も失敗も、すべては学びにつながる。
ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。今回から2回にわたり、京都でコーヒーにまつわる商いをする2組の夫婦をご紹介します。家族や友人、部下や上司。商いをする人の影には、必ずそれを支えてくれる人の存在があります。あなたにとってそんなパートナーは誰でしょうか。2組の夫婦が持つバランス、生き方、働き方は、きっと私達にもヒントを与えてくれるはずです。

大山崎 COFFEE ROASTERS(前編)
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つなぐ加盟店 vol.22
大山崎 COFFEE ROASTERS
中村佳太さん、中村まゆみさん

京都でコーヒーにまつわる商いをする夫婦を紹介する、「商いのコト」特集企画。今回は、大山崎にあるコーヒー焙煎屋「大山崎 COFFEE ROASTERS」の中村佳太さんと中村まゆみさん夫妻に話を伺った。

共に東京で働いていた夫妻は、東日本大震災をきっかけにこれまでの働き方・生き方を考え直し、大山崎で焙煎屋をすることを決意したという。

ライフスタイルを変えることによって夫妻が実現したいと考えた暮らしは何だったのだろうか。話を伺った。

京都駅から電車で15分。電車の音が心地よく鳴り響く住宅地に、焙煎屋があった

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多くの外国人観光客や修学旅行生で賑わう京都駅から電車で約15分。
中心街の雰囲気とは打って変わって、「大山崎 COFFEE ROASTERS」の周囲には落ち着いた空気が広がり、「ガタンゴトン」と電車の走る音が心地よく鳴り響いていた。

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同店は2014年11月にオープン。シックなトーンで統一感のある店舗は、いつまでもその場にとどまりたくなるような空気を醸し出す空間である。もともとは会社の寮として建てられた建物の一室をリノベーションしているのだそうだ。

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豆の鮮度にはこだわっており、店頭では焙煎後3日以内の豆のみを販売し、ネットショップでは注文があってから焙煎するという徹底ぶり。今回は、パプアニューギニアの深煎りを淹れていただいた。

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苦味がしっかり効いているが嫌味がなく、非常にコク深い。深煎りコーヒー好きにはたまらない一杯だろう。コーヒーを飲んで一息ついた後、同店が生まれたきっかけから話を伺うことにした。

きっかけは東日本大震災。豊かな暮らしを求めて大山崎へ

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夫の佳太さんは、もともとは東京のコンサルティング会社に勤務。
仕事はとても忙しく、夜遅くや朝にまで及ぶこともしばしばあったのだそう。

地方に出張することもあったため、結婚してからも夫妻で一緒に過ごせない時間が多かったという。そんな矢先、佳太さんの生き方を見つめ直すきっかけとなる出来事が起きた。東日本大震災だ。

「震災が起きてから1週間くらいは、会社に行かずに仕事をする日々が続きました。混乱の中家にいるときに、これからの生き方について考えるようになって。それまでの生活はちょっと忙しすぎました。せっかく結婚したのにこのままでは良くないなと思い、ライフスタイルを変えようと決意しました。」

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その後、1年間をかけて住む場所を探した中村さん夫妻。緑もあって静かでありながら都会にも近いという条件で住む場所を探し、大山崎という場所にたどり着いた。そこから、どのような仕事をするかを具体的に考えていったのだと、佳太さんは語る。

「『2人で何かやりたいね。』という話から始まりました。当時ちょうどコーヒーにはまっていたので、コーヒーにまつわることをやろうということになって。コーヒーブームの先駆けみたいなものを感じたタイミングでもありましたしね。カフェは場所がないとできないので、店舗を持たなくてもネットで販売できる焙煎を始めることにしたんです。」

ライフスタイルを変えるために住む場所を大山崎に移し、焙煎を始めることにした中村さん夫妻。妻のまゆみさんは、当時の生活の変化についてどのように感じていたのだろうか。

不安はなし。大山崎の濃い人間関係に、想像以上の豊かさを感じた

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まゆみさんは、京都府宇治市の出身。
大学進学を機に東京に出てきた後は、東京中心の生活をしてきた。

医療機器を扱う商社で働いていたまゆみさんは、ライフスタイルを大きく変えることが決まった当時を振り返って、こう語る。

「不安はあまりなかったですね。私は同じ場所にとどまるのではく、移動している生活が好きなんです。だから東京にいるときにも、家の更新ごとに引越したりしていました。転職も経験していましたし、環境が変わっても『まあ何とかなるだろう』という思いが強かったんだと思います。あまり計画的にものを考えるタイプではないんです(笑)。」

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生活の変化に不安は感じなかったというまゆみさん。大山崎へ移住し焙煎をするという生活は、2人の生活観に合うものだったのだろう。実際に大山崎での生活を始めてみたまゆみさんは、想像していた以上に生活の豊かさを感じたという。

「『大山崎っていいところだな』とか『焙煎って面白そうだな』とかは移住前にも思っていたのですが、人との出会いが想像以上に豊かさをもたらしてくれています。町内に住む20代~60代までたくさんの人と仲良くなって、一緒に映画を作ったりもしたくらいなんです。こういう濃い人間関係が自然にできるとは思っていませんでした。」

“世代に関係なく、近所に住む人の仲が良い”状態は、東京に限らず今の日本ではめったに見られないほど貴重なもの。佳太さんとまゆみさんは、東京での“安定”した生活を捨てた代わりに、人と人のつながりが感じられる大山崎の彩り豊かな生活を手に入れたのだ。

しかし、ライフスタイルによって2人が得たのは、必ずしも良いことばかりではない。続いては、店舗を経営するにあたって直面した大きな困難と、その困難をどのように乗り越えていったのかという、夫妻の軌跡を話していただいた。

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大山崎 COFFEE ROASTERS
京都府乙訓郡大山崎町大山崎尻江56-1
10:00~15:00( 毎週木曜日と土曜日)

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(つなぐ編集部)

写真:牛久保賢二