ベンチマークを設定して経営戦略を変革する方法とメリット

経営プロセスや業績を客観的にとらえるには、ベンチマークと呼ばれる指標を設定し、比較することが有効な手段のひとつです。このベンチマークという概念は業界ごとに使われ方が異なります。

経営やマーケティング分野におけるベンチマークの意味を中心に、ベンチマーキングを経営に取り入れるメリットや、その具体的な手法を解説します。

ベンチマークとは

経営分野におけるベンチマークの意味を知るために、他の分野での用語の使われ方も覚えておきましょう。ベンチマークという言葉は経営やマーケティングのほかに、測量、IT、自動車、投資の分野で、それぞれ独自の意味で使われることがあります。

測量のベンチマーク

地図の作成や土地の現状確認などのために行う測量には、位置や高さの基準となるポイントが必要となります。基準点または水準点となるポイントをベンチマークと呼び、環境変化などに影響されにくい点を設定します。工事などの際は、ベンチマークに合わせて位置や高さを決めることができます。

ITのベンチマーク

IT分野では、ハードウェアやソフトウェアの性能をチェックする際の指標をベンチマークと呼びます。コンピューターやシステムのデータ処理速度などをチェックするベンチマーク・テストでは、同様の用途の製品と比較したり、チェック専用プログラムを用いたりしてテストを行い、その性能を測ります。

自動車のベンチマーク

自動車業界におけるベンチマークは、目標とすべき車を指します。高性能のドイツ車や日本車などがベンチマークとされることが多く、燃費や機能性、使用感などの完成度が高い車をベンチマークと呼びますが、厳密な定義があるわけではありません。

投資のベンチマーク

投資の世界では、資産運用の指標となる指数(インデックス)をベンチマークと呼びます。投資信託の運用成績を測るベンチマークとしては、東証株価指数(TOPIX)が有名です。

経営・マーケティングのベンチマーク

経営におけるベンチマークは業績や経営状態を評価するための指標であり、目標となる基準を指します。具体的には、同業の競合他社、あるいは他業界の優良企業をベンチマークとして設定し、自社と比較することで自社の状態を客観的に評価します。ベンチマークは企業単位だけでなく、事業の単位で設定することもあります。マーケティングにおいても同様に、他社の優れたマーケティング手法などをベンチマークに設定します。

ベンチマークのない状態で自社を評価しようとすると、業績については前年比など数字の増減だけの比較となり、経営状態については主観的な評価になりがちで、客観的な分析による成長の手がかりがつかみにくいことが考えられます。

また、自社より評価の低い企業や事業をベンチマークに設定しても、そこから学べることが少ないため、ただの比較に終始してしまう可能性があります。経営におけるベンチマークは、あくまでベストプラクティス(優良事例)を設定し、ベストに倣うためであることがポイントです。

ベンチマーク経営のメリット

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ベンチマークを取り入れた経営手法は、ベンチマーキングと呼ばれます。適切なベンチマークを設定し、比較・分析することで、具体的に以下のような各要素のパフォーマンスを客観的に評価し、改善することにつながります。

・製品
・サービス
・業務プロセス
・慣行、社風
・マーケティング戦略
・経営計画
・業績

ベンチマーキングの手法を広く世に広めたロバート・C・キャンプ(Robert C. Camp)博士は、著書『ベンチマーキング–最高の組織を創るプロジェクト』(1995)で、ベンチマークを経営戦略に生かすことによるメリットを以下のように説明しています。

・自社と他社の事例の違いを知ることは、「変革の必要性」を生み出す
・業界のベストプラクティスを理解することで、「何を変革する必要があるか」を特定できる
・複合的な事例を比較・分析することで、「変革のたどり着くべきポイント」が想像できる

自社に何も問題点がないと思っていても、他社との違いを知れば変革の必要性が見えてきます。そこで初めてベストプラクティスに倣った問題追及と改善が可能になります。ベンチマーキングを実践しなければ問題はあぶり出されないままになる可能性もあるということです。

ベンチマークを指標に経営改革を行う方法

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ロバート・C・キャンプは著書の中で、以下の12のステップでベンチマーキングによる経営改革を行うことを説明しています。

1, 課題を選択する
2, プロセスを定義する
3, 潜在的なパートナー(比較対象)を検討する
4, データの情報源を確認する
5, データを収集し、全ての比較対象を選定する
6, 比較対象と自社の差を見出す
7, 比較対象と自社の方法の違いを見出す
8, 今後の目標値を決定する
9, 社内コミュニケーション
10, 最終目標を調整
11, 実践
12, 見直し、再調整

3の「潜在的なパートナー(比較対象)を検討する」という段階では、どの企業・事業がベンチマークになり得るかを検討します。そのため、他社への視察などで時間的・経済的なコストが発生することも考えられますが、近年ではオンライン上のリソースを活用することでコストは抑えやすくなっています。予算によってはこのステップをリサーチ会社に依頼することもできます。

また、1の「課題を選択する」の段階で特に比較したい部分、たとえば業績や業務プロセス、サービスなどを課題としてしっかり認識しておくことで、3で課題に合った比較対象企業を検討することができるようになります。

5の「データを収集し、全ての比較対象を選定する」の段階で対象企業が決まったら、6の「比較対象と自社の差を見出す」では他社の優れたパフォーマンスに注目し、他社にあって自社にないものを見出します。

たとえば、業務プロセスを比較する場合。似た商品を作っているにもかかわらず他社の方が製造から納品までの日数が短く済んでいる、という優れたポイントに気づいたら、次の7「比較対象と自社の方法の違いを見出す」では、なぜ納期が早いのかという原因を突き止めます。

こうした過程で自社の中で変革が必要な部分を明確に洗い出し、他社のベストプラクティスを自社に取り入れるべく、スケジュールを立てて実践していきます。

実践していく中で、他社の方法論が自社にはそのまま適用できないケースや、やってみてもパフォーマンスが改善されないというケースも出てくるでしょう。自社に適さないと判断した場合は6と7のステップを再度見直し、特定した内容に誤りがなかったかを再検証しましょう。ベンチマーキングは手順通りに一度やって終わりではなく、慎重に見直しを重ねながら実践していくことで、より望む結果を出しやすくなります。

ベンチマーキングをシンプルにとらえると、「他社の良い点を知り、それに倣うこと」といえます。ただし、やみくもに模倣するのではなく、ベストプラクティスを自社に最適な形やタイミングで取り入れることが重要であると覚えておきましょう。

経営課題にぶつかったときだけでなく、年に一度など定期的にベンチマークを活用した経営戦略を意識することも、時代の変化に対応できるビジネスを育てる上で役立ちます。

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執筆は2018年9月21日時点の情報を参照しています。
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