代々続く歴史の長い企業の中には同族経営の企業が少なくありません。同族経営の企業というと、創業者一族が独占する閉鎖的なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。お客様や取引先と長期に渡って強い関係を構築できる、意思決定が早いなど、同族経営には多くの強みがあります。今回は同族経営について、その強み、課題と解決策を合わせて説明します。
同族経営とは
日本の法人税法には「同族会社」について定義があり、国税庁のウェブサイトでは以下のように説明されています。
株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式の総数又は出資金額(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の100分の50を超える数の株式又は出資の金額を有する場合におけるその会社
参考:同族会社(国税庁)
平成18年度税制改正後、さらに議決権の数による判定と持分会社の社員の数による判定が追加されています。
ただ、上記の同族会社の定義は税法上のもので、一般に「同族経営」というときにはもう少し広義に欧米のファミリーカンパニー、ファミリービジネスのような創業者一族が事業に対して強い影響力を持ちながら、継続的に経営に関わるビジネスの形態を意味することがほとんどです。
日本に暮らしているとあまり意識することはありませんが、日本は世界的にも同族経営の企業が多い国として知られています。改めて日々事業を営む中で付き合いのある企業について考えてみると、意外と同族経営の企業があることに気づく人も少なくないでしょう。
同族経営の企業というと、家族で事業運営を行う比較的規模の小さい企業をイメージしがちですが、中小企業だけでなく、大企業の中にも同族経営の企業があります。日本を代表する自動車メーカー、家電メーカー、飲料メーカーなどはこの典型です。日本には同族経営の企業が多いだけでなく、同族経営の企業が長寿であることでも知られていて、100年以上の歴史を持つ同族経営の企業は数万社存在するといわれています。中には1,000年以上の歴史のある企業もあり、日本は同族経営大国といっても過言ではありません。
「一族が経営を担っていて風通しがよくない」といったネガティブな面が強調されることもありますが、国際的には日本の長寿の同族経営企業は企業の一つのあり方として注目されています。同族経営に対する先入観を捨てて、同族経営の強みを見てみましょう。
同族経営の強みとは
同族経営の企業では、意思決定に関する権利を創業者一族が掌握していることが多いため、株式会社の場合は株式が買収され経営権が他者の手に渡るリスクを低く抑えられます。また、創業者一族の一員としてこれまで続いてきた事業を担うことから、事業に対する真剣さや責任感が強くなる傾向にあります。
在任期間も雇われ社長より長くなる傾向があるようです。先代から30代や40代で事業を継承し、経営の手腕があれば、20年以上経営に携わることも稀ではありません。このため、一般に同族経営では、一貫した長期的なビジョンに基づいて、安定的に事業が営まれます。また、創業者一族が大きな決定権を持っていることから、事業の継承や方向転換など大きな意思決定が必要なときにも、意思決定をスムーズに行える可能性が高くなります。
同族経営でも経営者によっては短期的な利益を追求することがありますが、多くの同族経営の企業は、事業の継続に重点を置き、取引先や顧客と長期の良好な関係を築いています。長年の事業継続や、固定客の支持は商品やサービスに重みを与えることもあります。代々続く京都の老舗はこの典型といえます。
先進国では大量生産大量消費、コスト削減の時代が終わりを告げつつあります。このような時流もあって、長期に渡ってよい商品やサービスを提供することに注力してきた日本の同族経営は世界から注目されているのかもしれません。
このほか、収入を一族に分散させたりすることで同族経営には節税メリットがあるという指摘もありますが、この点だけから同族経営に興味を持つのはおすすめできません。あくまでも、よい商品やサービスを長期的に安定して提供するための経営手法の一つとして同族経営の手法を学ぶのが賢明です。
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同族経営が抱える課題点とその解決策
同族経営では一族が継続して重要な意思決定に関わることから、中にはガバナンスが機能しなかったり、風通しが悪くなってしまったりする企業もあります。このような企業から同族経営によいイメージを持たない人も少なくありませんが、解決策がないわけではありません。
同族経営では、ついつい一族で暗黙の了解のうちに物事を進めてしまったり、一族の意思に反する人や事業展開を排除してしまったりしがちです。最悪の場合には経営者が事業を私物化してしまうといった事態も起こりえます。このような状況は、常に外部からの意見に耳を傾けることで避けられます。具体的には従業員の意見を聞く場を設ける、外部の専門家の意見を聞く機会を定期的に設けるなど、外部の意見を取り入れて風通しをよくする仕組みを導入するとよいでしょう。経営層の意見やこれまでの経営方針と異なる意見が出た場合は、現状を直視し、何が事業のためになるのか真摯に考える機会になります。
ガバナンスに加えて、同族経営で難しいのが事業の継承です。一族で事業を継承することを優先するがあまり、経営に向かない人を経営者に選んでしまう可能性があります。また、近年、高齢化や若い世代の考え方の変化から、一族の中で事業を継承する人を見つけられないという課題も出てきています。事業を同族経営でなくすのは大きな決断ですが、もっとも大切なことを見極めて、一族外の人を入れる、事業をたたむ、譲渡するといった決断を下す必要があります。多くの場合、もっとも重要なのは、お客様や取引先、従業員に支えられてきた事業を存続させることです。ときに同族経営にとらわれ過ぎない舵取りも必要です。過去、同族経営が行われてきた企業の中には、現在同族経営でない企業もあります。
家族のつながりの強い日本には多くの長寿の優良同族経営の企業が存在します。「利益を上げることも大事だけれど、お客様や取引先との良好な関係を維持しながら、世の中によい商品やサービスを提供していきたい」という場合、同族経営の経営術からは多くを学べます。本記事をきっかけに同族経営のよいところに目を向け、経営に取り入れられるか検討してみてください。
執筆は2019年12月10日時点の情報を参照しています。
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