最低賃金法に基づいて国が決めた最低額以上の賃金を雇用者は従業員に支払わなければならなりません。最低賃金は毎年7月から8月ごろに引き上げの目安額が決定し、10月から適用されます。2023年も10月に行われる見込みです。
2022年10月に行われた最低賃金の改定では、全国平均で31円と過去最高額の引き上げとなりました。最低賃金は都道府県によって異なり、一番高いのは東京都の1,072円、続いて神奈川県の1,071円、大阪府の1,023円となり、いずれも前年度比31円の増額となっています。この記事では、最低賃金の改定が企業へ与える影響や対応策、助成金などについて解説します。
目次
- 最低賃金制度とは
- 企業への影響
・1.人件費が増える
・2.企業の利益が減る・設備投資が抑制される
・3.採用に工夫が必要になる
・4.扶養内で働く従業員が労働時間を減らす可能性がある
・5.正社員のモチベーションが低下する場合もある - 最低賃金引き上げ時に取り組むべきこと
・1.従業員のスキル向上を図り生産性を高める
・2.設備投資をして生産性を高める
・3.従業員の労働時間を短縮する
・4.10月の最低賃金改定前に採用する - 最低賃金法違反のペナルティ
- 最低賃金の計算方法
・時給制の場合
・日給制の場合
・月給制の場合
・出来高払制その他の請負制の場合 - 各種助成金の導入も検討しよう
・業務改善助成金(通常コース)
・働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
・働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
・働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)
・キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
・キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長コース) - 労務管理にもSquare
最低賃金制度とは
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低額を定め、雇用主は定められた最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないという制度です。都道府県によって最低賃金の額は異なりますが、2022年度の全国加重平均は961円で、前年度対比で31円上昇しています。全国加重平均とは、全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者数で重み付けをして平均した額のことです。
企業への影響
最低賃金が引き上げられることによって、企業にはどのような影響が起こり得るでしょうか。
1.人件費が増える
従業員が1日8時間、月に20日働く場合、時給が31円引き上げられると、
8×20×31=4,960円
つまり、会社で負担する金額が月額1人あたり約5,000円増加することになります。
2.企業の利益が減る・設備投資が抑制される
人件費が増額することで利益が圧迫されれば、設備投資の抑制にもつながりかねません。経済産業省の調査結果によると、ビジネスによって得られた付加価値のうち人件費の割合を示す労働分配率は、全業種でおよそ5割ほどを占めていることがわかっています。このことからも、利益に対する人件費率がいかに大きく、人件費が増えれば増えるほど他のことに利益を回すことができなくなることが考えられます。
参考:2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-(経済産業省)
3.採用に工夫が必要になる
日本の産業界では、慢性的に人手不足の状態が続いています。帝国データバンクが2022年9月に行った調査によると、正社員が「人手不足である」と回答した企業は半数以上にのぼっています。最低賃金が上がると、他店、他企業も一律に賃金を上げることになるので、時給での差別化が難しくなることが考えられます。時給だけではない、他の待遇面で差別化を図るなど、採用活動に工夫が求められるでしょう。
参考:人手不足に対する企業の動向調査(2022年9月)(2022年10月21日、帝国データバンク)
4.扶養内で働く従業員が労働時間を減らす可能性がある
年間の所得に所得税がかかる「103万円の壁」、従業員101人以上のパート先に勤めている場合にパート先の社会保険へ加入が必要になる「106万円の壁」、すべての人が社会保険の扶養を外れる「130万円の壁」など、配偶者の扶養の範囲内で働く人たちには、さまざまな「壁」があります。こうした「壁」を超えたくない従業員は、最低賃金が上がることで労働時間を減らさざるを得ません。そのため、パートやアルバイトを多く採用している職場では人手不足に陥る可能性もあります。
5.正社員のモチベーションが低下する場合もある
最低賃金は、正社員にも適用されます。正社員の賃金が最低賃金を上回っていたとしても、パートやアルバイトなどの非正規社員だけの賃金を引き上げ、正社員が据え置きだった場合には、正社員は不平等だと感じるかもしれません。また、人件費による利益圧迫を避けるために非正規労働者の雇用を抑制すると、人手不足を補うために正社員の時間外労働や休日出勤が増えることも考えられます。
最低賃金引き上げ時に取り組むべきこと
最低賃金が毎年引き上げられていくことを考えると、企業にとっては中長期的な人員構成や人件費を考えていく必要があるでしょう。利益率を圧迫する懸念もある最低賃金の引き上げですが、それまでの業務を見直し、効率化を図る機会でもあります。最低賃金引き上げ時に企業が取り組むべきことを紹介します。
1.従業員のスキル向上を図り生産性を高める
最低賃金の引上げによって賃上げがおこなわれれば、モチベーションが上がる従業員もいることでしょう。そのタイミングで従業員のスキル向上を促し、賃上げ分の業績向上を図るようにしましょう。研修やセミナーを開催したり、外部セミナーへの参加を促進したり、資格取得の支援をしたりなど、スキルに基づいた人事評価を行うようにするとよいでしょう。
2.設備投資をして生産性を高める
機械設備や労務管理システムなどの導入して業務効率を上げて生産性を向上させ、従業員の労働時間短縮を図りましょう。労務管理には、勤怠管理ツールを利用するのも一つの手です。システム上で従業員の労務時間をしっかり可視化し、時間外労働のカットなどにつなげましょう。こうしたシステムの導入には、厚生労働省の「業務改善助成金」などを活用してもいいかもしれません。中小企業や小規模事業者が生産性向上のための設備投資や従業員への教育を行った場合にかかった費用の一部を助成してくれます。
参考:業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援(厚生労働省)
3.従業員の労働時間を短縮する
従業員の残業代を多く支払っている企業では、時間外労働を減らすように取り組むことも必要です。従業員に定時退社を促したり、従業員のパソコンを強制的に毎日決まった時間にシャットダウンするように設定したり、外部の専門家を入れて業務改善に取り組んだりしてもいいでしょう。
4.10月の最低賃金改定前に採用する
最低賃金は、毎年10月に引き上げられます。そのタイミングでどの企業も時給を引き上げ、採用競争は激しくなることが予想されます。優秀な人材を確保するためには、最低賃金引き上げの10月を待たずに、引き上げに踏み切ることも必要でしょう。
最低賃金法違反のペナルティ
たとえ雇用主と従業員の双方が合意して最低賃金よりも低い賃金で労働契約をしたとしても、最低賃金法4条2項によって無効となり、最低賃金額と同額で契約したものとみなされます。最低賃金法に違反した場合は、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には50万円以下の罰金、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には30万円以下の罰金が科せられます。
また、最低賃金の設定で見落としがちな、以下のような違反パターンもあるので注意が必要です。
- 出来高払いなので、関係ないと思っていた→出来高払いでも最低賃金は適用される
- 試用期間中は関係ないと思っていた→試用期間中でも基本的に最低賃金が適用される
自社が最低賃金を守れているかどうかは、厚生労働省のサイト
を確認するか、各都道府県の労務局のホームページなどをチェックするようにしましょう。
最低賃金の計算方法
最低賃金の対象となる範囲は、実際に支払われる賃金から次の1から5の賃金を除外したもとなります。
- 結婚手当や出産手当など、臨時で支払われる賃金
- ボーナスなど、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 残業代や深夜割増など、所定の労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
- 休日出勤など、所定の労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
- 諸手当のうちの皆勤手当、通勤手当、家族手当
最低賃金の計算方法は、時給制・日給制・月給制・出来高払制その他の請負制といった給与算出方法により異なります。
時給制の場合
時給制の場合は、時間給≧最低賃金額となります。
日給制の場合
日給制の場合は、日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額で計算されます。日給を1時間当たり賃金に換算し、最低賃金以上であれば問題ありません。また、各種手当も時間当たり換算し最終的な賃金と合算する必要があります。
月給制の場合
正社員で働いている人のほとんどが月給制となっていますが、月給の場合も最低賃金以上でなくてはなりません。月給の場合は、月給÷1カ月平均所定労働時間≧最低賃金額で計算されます。1時間当たり賃金に換算し比較します。日給の場合と同様に、最低賃金の対象となるのは基本給と諸手当(皆勤手当、通勤手当、家族手当は除く)を含む金額となります。
出来高払制その他の請負制の場合
出来高払制やその他の請負制によって計算された賃金の総額を、総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し比較します。出来高払いで支払う賃金÷要した労働時間≧最低賃金額で計算されます。
各種助成金の導入も検討しよう
最低賃金の引き上げ時に企業が行うことができる対応策は、元手となる資金が必要なものがほとんどです。そこで活用を検討したいのが、国などによる各種助成金です。
業務改善助成金(通常コース)
従業員の賃金の引上げのために、中小企業や小規模事業者の業務の改善を国が支援する制度です。支社や営業所、店舗、工場などでの最低賃金を一定額以上引き上げ、POSレジや特殊車両の導入、専門家のコンサルティングによる業務フローの見直しなどを行った場合に費用の一部が助成されます。
参考:業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援(厚生労働省)
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
残業の削減、有給休暇や特別休暇を取りやすくするために、環境整備に取り組む中小企業や小規模事業者を支援する助成金です。
- 労働基準法第36条に基づく労使協定、いわゆる36協定の時間外・休日労働時間数の削減
- 有給休暇を計画的に取得させる
- 時間単位での有給休暇の導入
- 病気やボランティアなど特別休暇を創設する
上記の中から成果目標を決めて、実施するためにかかった経費の一部が、目標の達成状況に応じて支給されます。
参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚生労働省)
働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
勤務間インターバルとは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を設け、従業員のプライベートな時間や睡眠時間を確保するものです。勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業や小規模事業者を支援するのが、この助成金です。
- 新規導入:勤務間インターバルを導入していない事業場で、従業員の半数以上を対象として、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを定める
- 適用範囲の拡大:すでに休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場で、対象となる従業員数を増やす
- 休息時間の延長:休息時間が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場で休息時間数を2時間以上延長し、9時間以上にする
上記の項目に取り組んで実施するためにかかった経費の一部が、成果目標の達成状況に応じて支給されます。
参考:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)(厚生労働省)
働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)
労働時間を適正管理するために、環境整備に取り組む中小企業や小規模事業者を支援する制度です。
- ネットワーク型タイムレコーダーなど、勤怠管理と賃金計算をリンクさせ、賃金台帳などを作成し、管理・保存できるシステムを新たに採用する
- 賃金台帳など、労務管理の書類を5年間保存することを就業規則に新たに規定する
- 労働時間の適正な把握のための研修を実施する
上記全ての成果目標の達成を目指し、実施に要した経費の一部が達成状況に応じて支給されます。
参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)(厚生労働省)
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の従業員の基本給の賃金規定などを改定し、3%以上増額した事業主に対して助成する制度です。従業員の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、昇給させた場合、昇給した人数に応じて助成金を受け流ことができます。
キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長コース)
有期雇用労働者等について、週あたりの労働時間を3時間以上延長、または週の労働時間を1時間以上3時間未満延長するのと同時に処遇の改善を図り、新たに社会保険の被保険者とした事業主に対して助成されるものです。時間延長時に
- 1時間以上2時間未満の場合:10%以上昇給
- 2時間以上3時間未満の場合:6%以上昇給
することで手取り収入が減少していないものと判断されます。
労務管理にもSquare
最低賃金は、企業が働いている人に支払わなければいけないと国が定める最低限の時給です。近年の物価高の影響などを受け、2023年以降も最低賃金の引き上げが予想されますが、企業にとっては人件費の増加は、利益を圧迫しかねません。人件費をしっかりと管理するには、「最低賃金引き上げ時に取り組むべきこと」の章でも紹介した勤怠システムの導入がおすすめです。たとえば、決済代行会社のSquareが提供しているSquare スタッフ管理は、アカウントを作るだけで無料(※)で利用できる便利なシステムです。従業員は専用のアプリから出退勤の記録ができるので、一般事務職のリモートワーク、訪問介護や現場監督、ルート営業など外回りをする必要がある人など、さまざまな業種の勤怠管理に利用できます。シフト制を採用している飲食店や小売店などに便利なシフト作成や共有も可能です。また、従業員はアプリ上でシフトの交換を行ったり、休暇申請を行ったりすることもできます。
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勤怠管理ツールなどを活用して人件費をしっかりと把握し、最低賃金を守って魅力的な職場づくり、そして売り上げのアップも図りましょう。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2023年3月29日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash