2019年4月から働き方改革の一環で進められている「柔軟な勤務形態」の一つとして、「高度プロフェッショナル制度」が新しく設けられました。これまでの労働の型を破り、自立したスタイルで組織へ貢献し対価を得るために創設された制度です。
現状では該当範囲が限られており、関係ない話と感じる事業者も多いかもしれませんが、今後の該当範囲の拡大の可能性を考えると、決して無関係とは言い切れません。
今回は高度プロフェッショナル制度の概要を紹介します。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は、他の人が代わることのできないような高い専門性をもっている人が最大限の成果を発揮できるよう、自分の裁量で働く時間や働く場所などを決めていくことができ、どのような働き方でも一定の収入を確保できるというものです。
2019年4月から導入された制度で、労働時間や労働日を従業員自身が自由に設定しながら高い収入を確保することで、自立したメリハリのある働き方が広がることを狙っています。
主な特徴として、高度な専門性を持つ業務に限定されること、高い年収があること、労働基準法に縛られない労働時間であることが挙げられます。
高度プロフェッショナル制度の対象業務
一定の年収が確保された上で、好きな時間に好きなところで働ける高度プロフェッショナル制度ですが、悪用すればどれだけ長時間働いても収入が一定以上増えない状態にもなります。
このため、この制度を活用できる業務は、厳密に働き手自身が自分だけの判断で仕事を進めることができる専門的な職種に限定されています。経営者や上司がいつ仕事に就くのか、どの業務にあたるべきなのか指示を出すような職種は含まれません。
現在設定されている対象業務は次の5点です。その他の専門分野については、今後の動向をチェックしておくことをおすすめします。
- 金融工学などの知識を用いて行う金融商品の開発
- 投資判断に基づく資産運用、有価証券の売買、その他の取引
- 有価証券市場の分析、評価、助言
- 事業運営に関する調査、分析、考案、助言
- 新たな技術、商品または役務の研究開発
高度プロフェッショナル制度の対象者
高度プロフェッショナル制度の悪用を防ぐため、この制度を活用する場合の対象者や、契約する場合の条件も厳密になっています。
・使用者と労働者の双方で、業務の内容や責任の範囲や程度、評価される成果を明確にしたうえで、書面を作成し署名するなど、合意があること
・確実に支払われる見込みの賃金額が一般の相場の3倍以上を目安とし、少なくとも年間1,075万円以上であること
・対象となる労働者は、対象業務に常態で従事すること
・対象業務以外の業務にも常態として従事している者は対象とならないこと
ここでいう賃金額ですが、一定額が支給される住宅手当や家族手当、通勤手当など、労働契約や就業規則に定められたものすべてを対象とします。ボーナスや業績手当など成果に応じて支払額が変わるものは、確実に見込まれる最低保証額が含まれます。
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制との違い
自由な裁量で働くことのできる労働形態として、よく似たものに「裁量労働制」もあります。裁量労働制のほうが専門性や職の範囲が広く、年収条件もないため対象となる範囲が増える一方、労働基準法による労働時間(残業や休日勤務)の規制を受けます。
以下の違いを参考に、双方が納得する勤務形態を検討するようにしましょう。
高度プロフェッショナル制度
対象業務:金融商品の開発、ディーリング、分析、コンサルタント、研究開発の5種類に限定(他の業務との兼務も不可)
対象者の年収:下限あり(現在1,075万円以上)
労働時間:労働基準法による規定が適用されない(連続勤務、深夜勤務でも労働基準法による規制を受けない)
時間外労働:支払われない
裁量労働制
対象業務:研究や編集、弁護士などの専門業務型と人事や経営企画、広報など企画業務型の2タイプ
対象者の年収:条件なし
労働時間:労働基準法により規制(みなし労働時間を定めた上で労働時間を管理)
時間外労働:みなし労働時間が8時間を超える場合、深夜勤務や法定休日の勤務に賃金を支払う
高度プロ制度を導入するメリットは
高い報酬が約束された上で自由な時間の使い方で働けるため、力のある従業員は、仕事を時間で打ち切ることなく、好きなときに好きなだけ働くことができるメリットがあります。企業側にとっても、労働時間や場所の指示に従ったかどうかではなく、純粋に成果に焦点をあてて従業員を評価できます。
また、この制度を取り入れていくことで多様な働き方を受け止め評価する用意があることを示すことができます。
今はまだ導入されたばかりで、開始から2カ月の5月時点ではまだ12人のみの登録にとどまっています。
参考:高プロ、金融ディーラー業務11人を5月に適用 2カ月で計12人に 厚労省発表(2019年6月25日、毎日新聞)
高プロ制度のデメリットと導入のポイント
一方で、高度プロフェッショナル制度は自由度が高いだけに「諸刃の剣」ともいえます。労働者側・経営者側がともに働き方について真剣に話し合って合意し、明確な成果基準を決めておかなければ、際限なく仕事ができてしまう仕組みのため、体の良い「サービス残業させ放題」になってしまいます。
また、労働者本人とだけでなく、会社として明確な成果の基準や業務の範囲を決めておかなければなりません。個人の働きあっての会社ですが、組織である以上、チームとして協力し合いながら業績を上げていく必要があります。ほかの労働形態で働く従業員との不公平感が出てしまったら、会社全体の士気も下がり、企業評価にも影響するでしょう。
さらに、自由裁量とはいえ、体を壊すほどの労働は問題ですから、健康管理は厳密に行わなければなりません。目安として、次のような措置が必要とされています。
・健康管理時間の把握
・休暇の確保(年間104日以上の休日、4週間に4日以上の休日)
・インターバル措置と深夜残業の回数制限
・1カ月または3カ月単位の健康時間の上限設定
・2週間連続の休日を年1回以上(または1週間連続の休日を年2回)
・臨時の健康診断や有給休暇など、健康と福祉の確保
高プロ制度導入の流れ
労働基準法から外れる高度プロフェッショナル制度を導入する場合には、対象となる事業場について労使委員会を設置し、8割以上の多数の決議が必要です。主な導入の流れは次のような手順になります。
参考:高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説(厚生労働省)
-
労使委員会の設置(労使各側を代表する委員の選出、運営ルールの設定)
-
労使委員会の決議(対象業務、対象労働者の範囲、健康管理時間の範囲、休日の範囲、選択的措置、健康・福祉確保、同意の撤回手続、苦情処理その他)
-
労働基準監督署長への届け出
-
対象者には以下の事項を事前に書面での明示
(1)高度プロフェッショナル制度の概要
(2)労使委員会の決議の内容
(3)同意した場合に適用される賃金制度、評価制度
(4)同意をしなかった場合の配置、処遇、同意をしなかったことに対する不利益取扱いは行ってはならないこと
(5)同意の撤回ができること、同意の撤回に対する不利益取扱いは行ってはならないこと -
以下の事項に関して対象者の合意と署名
(1)同意をした場合には労働基準法第4章の規定が適用されないこととなる旨
(2)同意の対象となる期間
(3)同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額 -
対象者を対象業務に就かせ、定期報告で管理
会社に大きく貢献してくれる高度な専門性を持った従業員を逃さないよう、新しい働き方のスタイルの一つとして、高度プロフェッショナル制度の導入や運用もイメージしておくことをおすすめします。
執筆は2019年10月24日時点の情報を参照しています。
当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
Photography provided by, Unsplash