近年、「フリーアドレス」を導入する企業が増えてきています。1990年代の誕生当初には導入が難しかったフリーアドレスですが、テクノロジーの進化により導入のハードルは下がってきています。
この記事では、フリーアドレスの誕生から普及までの経緯、メリット・デメリット、導入における課題や解決方法を解説します。
フリーアドレスとは
各従業員に固定の席を設けずに、用意された席や作業空間から好きな席を選んでもらう方式が、フリーアドレスです。
フリーアドレスの誕生歴史
フリーアドレスというと、アメリカの先進的な企業がイメージされるかもしれませんが、実は日本で発案されました。
1987年に清水建設技術研究所で導入されたのが最初です。90年代には本格的にフリーアドレスを導入したコンサルティング会社のオフィスが日経ニューオフィス賞の推進賞を受賞し、注目されるようになります。
フリーアドレスが誕生した当時の目的は、外回りの営業など外出者が多い職場で、空いている机を共有しワークスペースの面積を効率的に増やすことでした。しかし現在では、机上面積の増加やコスト削減といった当初の目的よりも、フリーアドレスに伴うコミュニケーションの活発化や業務の効率化などの目的が重視されてきています。
実際に、フリーアドレスが誕生した1990年代は、大きく重いコンピューター端末や膨大な紙の書類などが導入の妨げとなっていました。しかし現在では、モバイル端末の小型化・軽量化や書類のデジタル化が進み、資料は移動先でも簡単に閲覧できるといったように、フリーアドレスを導入しやすい環境が整ってきたといえます。
こうした流れを受け、事業用不動産サービスのCBRE日本法人が行った「オフィス利用に関するテナント意識調査2018」によれば、2018年におけるフリーアドレス導入率は2015年比でおよそ1.6倍に増えました。最も導入率が高いのはIT業種で70%です。
導入理由としては、生産性や働き方に関わる項目が84%、組織のあり方に関わる項目が57%と上位を占めました。一方、コスト削減・抑制に関わる項目は39%と比較的少なめなのが印象的です。
参考:CBREが特別レポート「フリーアドレス導入によるオフィス構築の変化」を発表(CBRE)
フリーアドレスとアクティビティ・ベースド・ワーキングの違い
フリーアドレスと似た制度に、アクティビティ・ベースド・ワーキング(以下、ABW)があります。AWBは、仕事の内容に応じてどこで働くか最適な場所を従業員が選べるシステムで、オランダのコンサルティング企業が発案したものです。
ABWはフリーアドレスをより発展させたものですが、フリーアドレスについて語られる文脈では、厳密に区別されず一緒に事例を挙げられることもあります。
フリーアドレスのメリット・デメリット
実際にフリーアドレスを導入するうえで、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
フリーアドレスのメリット
フリーアドレスの導入により享受できるメリットには、次が挙げられます。
社内スペースの有効活用
フリーアドレスは、従業員全員分の固定席を準備しないのが一般的です。社内に通常どれくらい人がいるのか、在籍率に応じて座席の総数を検討するため、限られた社内スペースを有効的に活用できます。
コミュニケーションの活発化
固定席では、コミュニケーションをとる相手が自席周辺に偏ってしまう傾向があります。フリーアドレス制であれば、ノートパソコンごと用事がある相手と隣同士に座るか、ちょっとした会議スペースに移動するかして、手早くミーティングや共同作業を行なうことができます。コミュニケーションの相手が自席の位置に左右されないため、柔軟に流動的なコミュニケーションをとることが可能です。
従業員における主体性の向上
フリーアドレスを導入すると、従業員は出社後に自席を選ぶことから始める必要があります。その日の仕事内容を把握し、内容に適した席を選ぶことで、仕事を自らがコントロールするという主体性が向上します。
コミュニケーションにおいても、相談相手を選んで自ら話しかける必要があるため、主体性や積極性が養われるのが大きなメリットです。
フリーアドレスのデメリット
フリーアドレスのデメリットとして、固定席がもつメリットを失いコミュニケーションが低下するのではないか、という点があります。
固定席には、自席周辺の人とコミュニケーションがとりやすく所属意識をもちやすいというメリットがあります。フリーアドレスの導入により生じるのは、固定席のメリットを短期的に失う可能性です。
しかし、フリーアドレスへの移行により、従業員が主体性をもってコミュニケーションをとって関連能力が向上するのであれば、長期的にはメリットがあると考える企業も多いようです。
フリーアドレスの課題と解決法
固定席がもつメリットを短期的に失うというデメリットをどう克服するか、それぞれの課題ごとに解決法を解説します。
固定席では自席周辺にいたチームメンバーとの意思疎通がしづらい
固定席で、それまで部下の動きを見渡せるような位置に座っていた管理職の場合、フリーアドレスへの移行に戸惑うかもしれません。部下がそれぞれどこに座っているのか把握が難しく、意識して部下とのコミュニケーションをとる必要性が生じるためです。
フリーアドレスの導入が上手くいくか、鍵を握るのは管理職です。導入前までは人事評価のときしか面接をしなかった管理職も、自ら積極的に部下と1対1のミーティングや、プロジェクトごとの小規模なミーティングなどを頻繁に設定していくことが必要です。
最初はデメリットに感じるかもしれませんが、管理職と部下が互いに意識して、主体的にコミュニケーションをとるなかで、コミュニケーションの重要性を感じて主体性が向上すれば、長期的にはメリットとなります。
所属意識の低下
決まった自席がなくなると、所属意識が低下する可能性があります。場に所属意識を感じるのではなく、仕事における自らの役割や関わり方に所属意識を感じられるよう、従業員の意識改革が必要です。
そのためには、チームや部署の動きが伝わる情報発信や共有など、チーム全体のモチベーション維持を意識的に行いましょう。
席が固定化してしまう
せっかく固定席を廃止してフリーアドレスを導入したのに、結局は席が固定化してしまうケースがあります。固定化を防ぐには、単に似たような席ばかりをフリーアドレスにするのではなく、個人作業に集中しやすい席や軽い打ち合わせがしやすい席など、用途に合わせたワークスペースの用意が効果的です。
また、管理職が同じ席に座ってばかりいると部下もそれにならってしまうので、管理職自らが意識して席を変えることも大切です。
フリーアドレス導入を成功させるには、チーム間で席が離れてもコミュニケーションを積極的にとっていくことが大切です。コミュニケーションの重要性を認識し、従業員がそれぞれ主体的に情報の発信や共有を行えるようになれば、長期的なメリットは大きいといえます。
とはいえ、フリーアドレスには適さない職種や企業もあるため、実際の導入は一度に一律で行うのではなく、自社に向いているか検証を重ねながらステップ方式で行なっていきましょう。
執筆は2019年11月5日時点の情報を参照しています。
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