【商いの​コト】クラフトビール、​飲みませんか?ー美味しさの​先に​ある​ビールの​面白さ

失敗や​挫折も​学びに​つながる。​ビジネスオーナーが​日々の​体験から​語る​生の​声を​届けます。​あなたの​ビジネスの​ヒントや​新たな​気づきに​してみませんか。

つなぐ加盟店 vol. 7 Far Yeast Brewing株式会社 代表取締役 山田 司朗さん

「え?​何の​ビール?」

「とり​あえず​ビールで」

この​便利な​呪文を​唱えれば、​ジョッキに​なみなみと​注がれた​ビールが​すぐ​出てくる。​その​一杯目の​ビール、​気分や​お料理に​合わせて​選ぶ​楽しみが​あったら​日々の​暮らしが​さらに​わくわくしてくるはず!

今回は​「日本発の​クラフトビールを​世界に​発信していきたい」と​いう​山田司朗さんの​お話。​かつて​IT業界​最前線に​身を​置いてきた​山田さんは、​2011年に、​現在の​Far Yeast Brewingの​前身となる​日本クラフトビール株式会社を​立ち上げる。​きっかけは​なんなのか?

「30歳の​頃に​ヨーロッパに​住んでいました。​そこではじめて、​ビールが​多様だと​いう​ことを​知りました。​お店で​ビールを​注文しても​『何の​ビール?』と​聞き返されてしまうんですね。​新鮮な​驚きでした」

日本だと、​ビールと​いえば​メーカー名や​「生」か​「瓶」か、​くらいの​シンプルな​もの。​しかし、​ヨーロッパでは​実に​様々な​ビールが​お店に​並び、​お客は​気分や​好みに​よって​飲む​ビールを​選ぶのが​当たり前の​光景。

「(ヨーローッパだけでなく)​今では​ニューヨークの​高級レストランも、​いわゆる​大手の​ビールは​置いてなくて、​必ず​クラフトビールの​リストが​あります。​その理由は、​お客の​好みや​気分に​お店側が​答えようとする​ホスピタリティ。​日本でも、​高級店は​コンビニで​手に​入る​ワインは​お店の​誇りと​して​出さないですが、​ビールは​そうではなかったりする。​ビールも、​ワインなどと​同じように、​多様で​さまざまな​ものが​あるべきだと​思ったんです」

もう​ひとつの​きっかけと​なったのは、​イギリスの​大学院に​在学中、​コブラビール創設者の​インド系イギリス人Karan Bilimoria氏の​講演を​聴いた​経験だ。​会計士と​して​働いていた​Karan Bilimoria氏は​「インド料理に​合う​ビール」を​求め、​ゼロから​大きな​ビールメーカーを​作り上げたと​いう。

世界では​和食が​人気で、​日本人だけの​ものではなくなってきたと​話す​山田さん。​そこから、​「和の​空間に​映える​ビールを​作って​世界に​発信していきたい」と​いう​思いを​抱くようになった。

alt text

▲​「馨和 KAGUA」

そうした​思いを​もとに、​2011年に​「日本クラフトビール株式会社」を​設立。​日本発の​クラフトビール​「馨和 KAGUA」を​世に​送り出した。

ワイングラスで​香りを​楽しむのが​おすすめの​飲み方と​いう、​私たちが​思い描く​「とり​あえず​ビール」とは​全く​異なる​KAGUA。​東京の​飲食店だけでなく、​アメリカ、​香港、​シンガポール、​イギリスなどにも​展開している。

世界が​舞台、​Far Yeast Brewing社の​ビールの​ユニークさ

alt text「馨和 KAGUA」の​ある​和の​空間

クラフトビールブーム発祥の​地アメリカニューヨークでも、​KAGUAが​飲める​バーが​あるとか。​しかし、​世界に​出ると、​競争相手は​多いのでは……?

「クラフトビールは​多様性が​大事なんです。​そこが​クラフトビールの​良い​ところです。​品質の​良さと​ユニークさが​大前提ですが、​その​条件さえクリアしていれば、​いろいろな​ブランドを​試したいと​いう​人は​多いです。​お店も​そこを​理解しているので、​美味しいと​思ったら​置いてくれます」

alt text

▲柚子を​使った​「馨和 KAGUA」Blanc

「すべての​ビールに​ユニークさが​あります。​うちは、​そのユニークさを​伝える​コミュニケーションが​うまく​いっているのかもしれないですね。​ボトルデザインが​いいから​売れると​いうわけではなく、​商品全体が​重要です。​ビールの​コンセプトを​ちゃんと​伝えるのが​良い​デザイン」

「『こういう​シチュエーションで​こういう​人に​飲んで​欲しい』と​いう​思い、​あるいは、​こういう​ものが​作りたいと​いう​思いが​あって、​その​思いに​合わせて​フレーバーや​味を​作っていきます。​そして​その​思いを​伝える​手段の​一つと​して、​デザインや​どう​いう​お店に​納品するかを​考えています」

alt text

▲雰囲気に​馴染むシンプルな​ボトルデザイン

「例えば、​今日は​特別な​日だから​コースで​予算は​1万円くらい。​そろそろ太刀魚が​美味しいから​食べに​行こうか…と​いう​時に​しっくりくるような​デザインに​しています」

いきなりコンビニに​KAGUAを​並べても、​KAGUAの​佇まいと​本当の​美味しさ、​良さは​伝わらないのだ。​だから​こそ、​特に​最初は​小売販売を​せず、​飲食店限定で​卸していたと​いう。

「初めて​KAGUAを​飲んでいただく​シチュエーションを​大事に​したいので​『この​ビールは、​ワイングラスで​飲むと​美味しいので、​このように​サーブしてください』と、​飲食店と​直接コミュニケーションを​とっていました」

発売直後だから​こそ、​手間を​かけて、​商品の​コンセプトや​思いを​一件​一件の​卸先に​丁寧に​伝えていったと​いう。​そう​した​やりとりを​通じて、​いまでは​多くの​卸先からの​問い​合わせを​いただくようになったとか。

「感性が​新しい​料理屋さんに​理解していただきやすいですね。​若い​料理人さんが、​修行した​後独立して​何か​新しい​ことを​始めたいと​いう​ときに、​KAGUAを​見て、​これは​今までにない​ビールだし、​面白いからうちの​料理と​合わせてみよう、と​思ってくださいます。​また、​季節の​食材に​合わせた​新しい​創作料理を​つくってみよう、と​いった​クリエイティブな​インスピレーションが​湧きやすいのかなと​思います」

Far Yeast Brewing社には、​ハイエンド路線の​KAGUAの​他に、​カジュアル路線の​Far Yeast Tokyoと​いう​ブランドも​ある。

「KAGUAは​ワインに​近くてじっくり​飲んで​欲しい​ビール。​Far Yeast Tokyoは、​もう​少し​カジュアルで、​フレッシュで​ゴクゴク飲めるような​ビールです。​屋外に​合うので、​ビアフェスに​出したりBBQで​乾杯したりと、​そういう​ビールの​魅力も​出していきたいです」

alt text

▲夏や​野外には​Far Yeast Tokyoが​似合う

クラフトビールは​小規模な​ビール醸造所で​一つ​一つを​丁寧に​作っている​ビール。​なので、​規模が​大きい​大手メーカーの​ビールと​同じ​価格には​できない。​価格が​高いままカジュアルな​ものになってしまうと​いう​難しさが​ある。​そうした​価格的な​問題を​クリアしていきながら、​ビールの​魅力を​丹念に​伝えていく​ための​地道な​取り組みが​大事だと​いう。

「樽生で​フレッシュローテーションだと、​Far Yeast Tokyoの​魅力が​一番​伝わりやすい。​イベントや、​ビールの​専門店、​ビアバーに​卸して、​そこで​伝えていこうと​考えています」

クラフトビール文化を​日本で​広げる​ために

国内でもじわじわと​人気を​集める​クラフトビール。​波は​きていると​思いきや、​課題は​多く​あると​山田さんは​語る。

「クラフトビールブームの​発信源は​アメリカです。​日本の​クラフトビールは、​国産ビールに​偏重しすぎている​ところが​あるように​思います。​もちろん​美味しい​国産ビールは​たくさん​あるんですけど、​そもそも​アメリカ発の​クラフトビールと​その源流である​ヨーロッパの​ビールが​評価されて、​もっと​いっぱい​飲まれないと​ブームに​奥行きがなくなってしまいます」

日本で​クラフトビールを​浸透させる​一つの​道筋と​して、​同じく​多様な​飲み方と​して​好まれている​ワインを​参考に​するべきだと​話す。

alt text

▲山田さんイチオシの​Far Yeast Tokyo Blonde Export

「ワインブームは​まずフランスワインブームから​始まったんですね。​ボルドーや​ブルゴーニュだとか。​その次に、​イタリア、​スペインなど、​ヨーロッパの​他の​国の​ワイン、​次に​ナパなど​アメリカ西海岸に​注目が​集まりました。​その後​チリや​オーストラリア、​南アフリカなどニューワールドの​ワイン、​国産も​広く​評価され​始め、​自然派の​ワインが​出てきました。​そうした​ブームの​系譜が​あるからこそ、​いまでは​豊かな​ワイン文化が​生まれてきた。​同じように、​クラフトビールの​発祥や​その後の​世界の​ブームの​流れを​踏襲する​ことで、​クラフトビールならではの​奥行きや​多様さが​徐々に​日本でも​浸透していくんだと​思います」

ブームを​ブームで​終わらせない!​クラフトビール文化に​奥行きを​持たせる​ために​山田さんが​している​こととは?

alt text

▲『クラフトビール革命 地域を​変えた​アメリカの​小さな​地ビール起業』​(スティーブン・ヒンディ:DU BOOKS / 2015)

アメリカの​クラフトビールの​歴史を​著した​『クラフトビール革命 地域を​変えた​アメリカの​小さな​地ビール起業』。​著者である​スティーブ・ヒンディ氏は​元記者で、​クラフトビール会社ブルックリンブルワリーを​創立した​人物だ。

「アメリカの​クラフトビールの​歴史が​まと​まっている本。​同時に、​現在の​クラフトビールの​潮流を​作った​1人。​こうした​動きを​きっかけに、​現在の​クラフトビールが​あると​いう​ことを​広く​多くの​人に​知って​もらいたいですね」

この​書籍の​内容に​感銘を​受け、​日本に​おける​クラフトビール文化を​浸透させる​ためのさま​ざまな​イベントを​企画していると​いう。

alt text

「クラフトビール業界は、​大手のように​プロモーションの​予算が​ない。​美味しいか​美味しくないか、​品質でしか​勝負できない。​まわりくどいんですけど、​品質を​理解して​もらう​ためには、​飲む​人に​知識や​情報を​もって​もらうのが​大事なんです」

豊かな​ビール文化を​知って​もらう​ために、​まずは​ビールの​美味しさを​体験して​もらいたい。​そのためにも、​クラフトビールに​対する​一種の​「構え」を​払拭し、​もっと​カジュアルに​楽しんで​ほしい、と​山田さんは​話す。

「クラフトビールを​覚悟を​決めて​飲みに​行く、と​いう​状態を​早くなく​したいと​思っているんですよね。​普通に​飲めるようにならないと。​『ようし、​今日は​クラフトビールを​飲みに​いくぞ!』と​いう​対象の​ままでは、​いつまで​たっても​狭い​マニアの​世界に​なってしまいます​(笑)。​美味しい​ものが​ある​ところには、​クラフトビールが​あると​いう​環境に​したいです。​もっと​入り口を​広く​していきながら、​その奥に​クラフトビールの​奥深さに​気づいていって​もらえたら」

alt text

alt text

▲KAGUAと​Far Yeast Tokyoは、​クラフトビールを​多数取り揃えている​渋谷に​ある​カフェfactoryでも​味わえる。​「良い​香り!」と、​オーナーと​早速ビールマニアトークが​始まる

Far Yeast Brewing株式会社
東京都港区六本木4-10-11 小田切ビル3F


つなぐ編集部おすすめ記事 

【商いの​コト】右肩下がりの​日本酒業界で​思った​ことは​「伸び代しかない」

【STORE STORY】西荻窪 クラフトビール屋 Project


文/写真:馬場 加奈子

写真協力:Far Yeast Brewing株式会社

*山田さんより​ ​「クラフトビール、​飲みませんか?」Far Yeast Brewingは​様々な​イベントに​参加しております。​ぜひKAGUA/Far Yeastを​体験しに​いらしてください!​詳しくは​[こちらを​チェック](http://faryeast.com/news/)*