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つなぐ加盟店 vol.6 Naorai inc. オライ株式会社 三宅 紘一郎さん
地方の酒蔵が減少していくことに対して感じる違和感
「みなさんは、普段、日本酒を飲んでいますか」
▲ナオライ株式会社 三宅紘一郎さん
日本酒の消費量は1973年の1,766,000klをピークに次第に減少し、2011年には603,000klと、この40年間で3分の1にまで縮小している。最近では日本酒ブームともいわれ、一部の銘柄の日本酒は飲まれるようになってくるようになったものの、その影響はごく一部でいまも酒蔵は減少している。
「これまで沢山の多様で豊かな酒蔵をみてきました。地方の酒蔵を回ると、それぞれに個性があるんです。人、水、地域の風土、そこにいる人たちの風土によって、多様な日本酒が生まれているんです。そんな日本酒こそ日本酒の魅力であり、その多様性を守っていきたい」
そう話すのは、ナオライ株式会社の三宅さん。1983年生まれの三宅さんは、広島県で親族が酒蔵を営んでおり、幼いころから酒蔵を身近に感じてきた。同時に、日本酒業界が縮小していく現状を目の当たりにしており、それらがなくなっていくもったいなさを感じている、と話す。
社名である「ナオライ」は漢字で表すと「直会」。これは神社にお米やお酒を奉納する習慣、奉納したものを、神事に参加した際にいただく行為を指す。「直会」の場のように、日本酒が世の中で重要な役割を担っている風景を増やし、酒蔵の価値を再定義するようなサービスをつくりたい、という思いを込めた。掲げた会社のビジョンは「多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぐ」だ。
現代における多様な日本酒のあり方をデザインするために、現在は東京と人口30名の広島県にある三角島(みかどじま)の二拠点で様々な取り組みに挑んでいる。
酒業者がやることは、自分はやらない
▲三角島に入島する際に、三宅さんがお出迎え
「右肩下がりの業界の中で、これまでの商習慣の延長線上にあることはやりたくない」そう話す三宅さんは、日本酒を日本国内だけで販売するこれまでのあり方を変えるために、海外での切り口を模索しようと上海に留学。海外での日本酒事情を勉強しながら、20代の9年間をかけて上海で日本酒を売る仕事に従事し、日本酒の新たな可能性を示していくのが自分の使命だと考え、三宅(上海)商務信息諮詢有限公司を(株)三宅本店と共に起業。日本酒の海外への展開を計画している。
日本酒の輸出は年間約140億円。「これからは伸び代しかないな」と、この数字から日本酒の未来に期待を抱く三宅さん。
「外国の方に日本酒を飲ませたときに、普通においしいと言われるし、買う人はきちんと買ってくれます。それに、日本食が好きだ、日本の文化が好きだ、と納得して買っている人も多い。だからこそ、日本酒の魅力や美味しさを切り口しだいでは売れるものにできる、と現地で過ごすなかで感じるようになりました」
世界で勝負するのは、日本酒とレモンのスパークリングレモン酒「MIKADO LEMON」
▲三角島のレモンをコンセプトにした、日本酒とレモンのスパークリングレモン酒「MIKADO LEMON」
「酒蔵の杜氏が朝早くから精根込めて丁寧に仕込んでいる日本酒も、フランスのワインやドイツのビールと十分に肩を並べることができるはず。今まで日本酒を飲まなかった人や、海外の方に日本酒の美味しさや魅力を伝えていきたい」
そのために、これまでの日本酒が持つハードなイメージや、ツウだけが好むイメージを払拭する商品づくりが必要と考えた三宅さん。そこで、日本酒の深みのある米の味わいがありながらも「入りやすい」スパークリングに照準を絞りはじめた。
「これまでに、たくさんの中国人や外国人の方に日本酒を飲んでもらい、どんな日本酒が好きかを尋ねていきました。香港の展示会で(株)三宅本店が開発中のレモン酒を飲んでもらったら、日本酒の風味もするし酸味があっておいしいと言われたことがありました。またある時、スパークリングの日本酒を飲んでいただいたらシャンパンのようで女性でも飲みやすいと言っていただけました。
評価の高いレモン酒とスパークリング酒を掛け合わせた、レモンのスパークリング酒があれば外国の方でも飲んでくれるのではないか。そう考え、スパークリングレモン酒にチャレンジしてみることにしました」
▲皮まで食べられる三角島レモン
これまでにない、スパークリングレモン酒をつくるために、生産者とタッグを組んで商品開発をしなければ。そう考えた三宅さんは、レモン農家をめぐりはじめた。そこで出会ったのは「南向き」「潮風」「急斜面で太陽がよく当たる」、良いレモンが育つ条件を兼ね備えた広島の三角島(みかどじま)。レモンの産地として知られる三角島で、専用のレモン畑を用意して無農薬レモンを栽培することに。
日本酒の製造は、親族が経営する創業159年の蔵元「三宅本店」。そこに三角島のレモンをあわせ、「砂糖を不使用」「生酒のまま提供」にこだわった、自然な甘さの「MIKADO LEMON」という新しいスパークリングレモン酒が完成。吟醸酒にレモンを加えて二次発酵させたその日本酒は、中華料理やフレンチ、イタリアンとも合う、新しい日本酒だ。スパークリングレモン酒づくりのためのクラウドファンディングでも多くの人たちの支援を受けた。国内だけにとどまらず、上海など中国への販売を計画している。
「開発には苦労しています。レモンも日本酒もナマモノ。つくるたびに味が変わるんです。だからこそ、人の手でレモンの酸味と米の甘みで味を調整しながらつくっています。そこも楽しんでもらうようなお酒にしていければ。もちろん、酒をつくるときに『おいしい』は絶対条件。さらにその裏にあるレモンの栽培や日本酒のストーリーで『感動』をつくる、そんなお酒を持って世界で戦っていきたいですね」
体験ツアーをもとに、日本酒を楽しむコミュニティづくりも手がける
「ただスパークリングレモン酒をつくって売るだけではなく、酒づくりを通して地域が変わったり、地方の魅力が再定義されていったりするような世界観をつくりたい」と話す三宅さん。
三角島レモンを栽培する一次産業、レモンをもとに159年の歴史を誇る(株)三宅本店醸造技術と組み合わせて新しい日本酒をつくる二次産業、さらに、ユーザーとの共感接点をつくる体験ツアーである三次産業までを手がけている。
三角島レモンの生産背景を知ってもらうための体験ツアーの「三角島CAMP」では、東京、大阪、台湾、上海、アメリカなど、これまでに80名もの人たちが人口30名の三角島に訪れている。「三角島に世界中の人が集まって、島を体験して、関わったレモンでお酒をつくって、帰った後もレモン酒を配送する。作っている様子を見て飲む日本酒は、また違った美味しさを味わうことができます」
▲三角島CAMPではインターン生も活躍。三角檸檬の栽培を手伝う
三角島に触れる「三角島CAMP」の参加者や、都内でNaorai inc.の日本酒イベント「KAGURA」の参加者がつながり、次第にコミュニティになってきているという。日本酒好きな人たち、三角島に訪れて島を好きになってくれた人たち同士がつながりながら、新しい日本酒をみんなで応援する空気が生まれている。
三角島は、人口30名の小さな島で「最年少が56歳、65歳以下が3人。あとはそれ以上」な高齢化率90%以上の地域だ。そんな場所で、三宅さんの新しい挑戦を島民の人たちは応援してくれている。
▲瀬戸内海に浮かぶ人口約30名の離島、三角島(みかどしま)。レモンなどの柑橘系が育ち、イカやタコ、ナマコ、サザエなど瀬戸内の海鮮が水揚げされる離島
「三角島はもともと外の人が入ってくる島。レモンを島の外からつくりにきていた島。だから島の方々の気質がオープンなのかもしれません。よそ者の我々のことも快く受け入れてくれます」と話す三宅さん。会社を三角島に登記したのが2015年の4月6日。三角島に本拠地を構えてちょうど一年。本社をあえて島におきながら、島から世界へ挑戦し続けている。
「島民の方々も応援してくれていますが、ナオライのおかげで島が楽しくなったと思われるようになっていければ」
▲「ここ(三角島)にはとにかく人がいない。商品ブランドをつくることの難しさも感じています。しかし、僕らがつくったお酒がおいしいと言われたときの喜びは最高なんです。酒蔵から期待されたり、何かをやってくれると思ってもらえたときには、ひしひしと力が湧いてくるんです。
まだまだ彼らの期待には完全に応えられてはいないかもしれない。まだまだ世界の裏側から注文が殺到するようなインパクトはこれからだと思っています。そのためにできることと、少しづつやっていきたいですね」
着実に「MIKADO LEMON」のブランド作りに取り組んでいるその姿に、次第に応援者が集まってきている。これまで以上に日本酒を世界に向けて発信するための新たな取り組み、そして島の魅力をどうつくり、どう見立て、発信していくか。日々の苦労以上に、日本酒に対する新しい挑戦に熱っぽく語る三宅さんの姿がそこにはあった。
▲ナオライ株式会社 三宅紘一郎さん
三宅さんより
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Naorai inc. | Contact
広島県呉市豊町久比3960番三角島
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文:つなぐ編集部
写真:小澤 亮