【STORE STORY】西荻窪 クラフトビール屋 Project

個人経営の飲食店が多く軒を連ねる西荻窪。そこにクラフトビールを気軽に楽しめるバー「西荻窪クラフトビール屋Project」がある。オープンしてから今年の8月で2年。「この道を帰る人を大事にしたい」というオーナー陣や店長の思いのもと、夜な夜な人々が集う。

お店のこだわりや想い、地元西荻窪の人々との関係を、店長の福元幸佑さんに聞いた。

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この道を通る人のために、ちょっと個性的で、美味しいビールを

— Projectのお店のコンセプトはなんでしょう?

ふらっとやって来て「ビール」と注文したお客さんが、「なにこれ、すごいうまいじゃん!」ってなってくれるお店。ここでクラフトビールを飲んでもらって、美味しさを発見してもらうことを狙っています。

マニアックすぎないけど良いものが飲める、食べられるお店。クラフトビール屋ってタップがたくさんあって、店主に「どれにしましょう?」って言われてもお客さんもなんて答えたらいいかわからないんです。

そんなお店にはしたくなかった。普通のビール屋とクラフトビール屋の間を目指しています。どのお酒にしても、チェーン店で飲むより、ちょっと美味しくてちょっと個性的なものを出しています。

— お客さんはシンプルにオーダーできるんですか?

ビールは3種類だけで、樽代わりです。1日では飲みきらないので、4、5日くらいで次の樽を入れます。

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— 仕入れるビールの基準はありますか?

まずは、美味しいモノ(笑)。お付き合いするブルワーさんは決めちゃっています。クラフトビール好きのオーナーが、「こことここで行こう」という風に決めました。「志賀高原」さん、「サンクトガーレン」さんと、「10 ANT’S(テン・アンツ)」さんという「10の蟻=ありがとう」という名前のブルワーさん。西荻に住んでいる人がレシピを考えて委託で作ってるところがあって、もともとお客さんだった人がビール作りを始めたんです。

— クラフトビールのキュレーションみたいな感じですね。

そうですね。ターゲットにしたい人は、「クラフトビールを飲んだことない人」。大事にしたいのは「この道を帰る人」です。家に帰る前に、美味しいものがあるし、知った顔もいるし、楽しんでもらうっていうのがここでやりたいことです。

— 地元に愛されるということが重要なのでしょうか?

地元に愛されることが目的ではないですが、このお店で楽しませられる人を最大限に増やすには、近くの人が来やすくすることが重要です。遠くのお店に行くのはそれだけでコストで、費用対効果だと費用が高くなる。近いってそれだけでお得なんです。それが地域に根ざすことの意義ですね。

西荻窪って街もさほど大きくないですし。これが渋谷や新宿等の都心だったら一見の人がターゲットでしょうけど、ここはそんなに会社もないし、人もいません。ここに来てくれるのは9割が地元でここが帰り道の人です。

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— お客さんの年齢層は?

男女比は半々くらいで、年齢層は…お店にいるのが僕なんで、僕に近い人がなんだかんだ言って多い気がします。僕が60歳だったら60歳の方が多くなると思いますね。

お酒を飲む人の中で一番若い人が当然20歳で、一番上は85歳の近所の常連のおばあちゃん。その方、お元気なんですよ。「私もう疲れたから自分でご飯は作らないの」とか「炊飯器は捨てたわ」っておっしゃっていましたね。だからここがダイニング、台所です。

毎日来れること、ビールで生める日常の変化

— 特別なレストランのような非日常的ではなく、日常的な場所って印象を受けます。

そんなに高い料理を出していないからかも。クラフトビールを出しているお店の中では、そんなに高くはないです。価格設定を高くしちゃうと、特別なときしか来られなくなってしまう。日常的に使ってもらえるように、毎日来れるような価格でご提供しています。

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— ふらっと来てビールを飲んでもらって驚いてもらうってお話されていましたが、お客さんの中でなにかエピソードはありますか?

「ここでしかビールを飲まなくなった」っていう人が何人かいらっしゃいます。他でビールを散々飲んできても、「締めにProjectのビールが飲みたいから」って帰りに寄ってくださるんですよ。普段は焼酎の水割りばかりを飲んでいる人が、「たまにはビールでも飲んでみよう」って試して、「美味しいからここのビールを飲むことに変えた」ってなったら「やった!」って感じますね。

普段は「志賀高原」のDPAという種類が多いので、そのDPAしか飲まないという人がいます。結構多くの人が、家で飲む缶ビールの種類が変わったようです。「家では発泡酒でいいや」ってなったり、家でエビスだった人は、軽いドライがいいってなったり。「違うものとして飲もう」となっている人が多い。

— 「ただのビール」だったのが差が出てきた?

よそで飲まなくなっちゃうのは想定外でした(笑)。

ビール屋が意識すべき、3つの時期

— 福元さんは今まではどのような飲食店の経験が?

6〜7年、新宿と川崎の和食系居酒屋で働いていました。そこは完全に板場で、300席くらいの規模の大きなお店でした。そのあと、ポルトガル料理屋に2、3年勤めていました。

— お店を始める前には想像のつかなかった大変なことはありましたか?

仕入れの時期と、売り上げがたつ時期のズレ(ビール樽を入れて消費をする時期、支払いの時期、売り上げがたつ時期、3つの時期)の調整が思ったより大変でした。

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数字で見ようとしたら、ビールの仕入れの原価ってそこそこ大きいので、その価値をどこで判断しようかっていうのは意外と大変だと思いました。2年間やってきて、そんなに細かく見ないで、売上だけ見ておけばいいんだと気づきました。

食べる、飲むだけではない、地域で「会話」が生まれる場所

— オーナー5人で運営しているからこその拡散力はあると思うんですけど、いかがですか?

どっちかっていうと地元で勝負です。どこに対してアピールするかですよね。twitterで何かやれば、イベントやれば、お客さんをよその街からも呼べます。

でも、ここに住んでる人じゃないと毎日楽しめないんです。本当にやりたいことは、ここが好きで、いっぱい楽しんでくれる人がよく来てくれて、居心地がいいなと思って帰ってもらえるようにすることです。遠いとそれは難しいですよね。話題を作り続ければ、ひょっとしたら毎日イベントで集客し続けることも可能なんでしょうけど、そういうことではないんですよ。毎日の生活を良くしたいんです。

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— 飲むとか食べるとかの楽しみに加えて、ここで人と人との出会いは生まれていますか?

お客さん同士で結婚されたってことがありました。常連のみんなで一緒に結婚式のパーティに行きましたね。常連さんたちと1泊旅行に行ったこともあります。常連さんが日程を決めて企画を立ててくださって、とても楽しかったです。

お店の構造も、カウンター越しに話しができるようになっているので、常連さんがぞろぞろと来店されてカウンター越しで喋っています。

— 確かに、会話が生まれそうなコの字型のカウンターですね。

一部のマニアックな常連さんが居座って盛り上がって、新しい人が入りづらいお店ってたまにあるんですけど、そうはしたくなかったです。幸いProjectはお客さんに恵まれていて、新しいお客さんがいらっしゃると、お客さん同士が気を遣ってくれて、話しかけてくれたりもするんです。

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— お客さん同士の会話は福元さんが促したりされるんですか?

そんなに促しはしませんね。よくいらっしゃっている方だと、カウンター越しでしゃべったりするじゃないですか。最近だったらみんなポケモンGOをやっているので、「やってます?」と聞いて、「やってます」となると「レベル幾つですか?」って。ここで勝手に話し始めると、僕の出番はなくなります(笑)。

「このお客さんとあのお客さんを合わせたら楽しくなるかな」というプラスのコントロールをしています。新規の女性のお客さんが一人で飲んでいて、常連の女性が来店されたら、「そこに座ったら?」って隣にしてみたり。すると、何かしらおしゃべりが始まるものです。

黙って本読んで帰っていく方もいらっしゃるので、その人は静か目なところに案内したりもしますね。

西荻窪から出ずにはしごできる、新たなお店づくりを

— 毎日来させる工夫、気を使っていることはありますか?店内に装飾物がないのは意図的なのでしょうか?

意図的にそうしていますね。ニュートラルな雰囲気にしています。

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— 一見、何屋さんかわからないですよね!コップがなかったら、コーヒーなのか、ロハスな食べ物が出てくるおしゃれなカフェなのかわかりません。

主張がないから「オススメは何?」と言われる。「う〜ん、じゃ、ビールかな」って(笑)。

もしオーナーの一人が、「自分が知っている最高のビールを飲ませたいんだ!」っていうコンセプトでど直球に行ったら結果は違ったと思うんです。そうじゃなくて、「毎日飲んでほしいんだ」ってしたのが大きい。すごく美味しいお肉があっても、毎日は食べないですよね?毎日寄れるようにするって難しいんです。主張が強すぎると、毎日は来れないですから。

— これからやりたいことはありますか?

西荻に系列店を出したいです。一度に提供するのは3タップにしたいので。もう3タップ、別のものを飲みたかったら、こっちの店からあっちの店へはしごしてもらうかんじ。それぞれ店長の特色があって、あいつはこうだなとか競っててもらっても面白いなぁと思いますね。

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西荻窪クラフトビール屋Project
東京都杉並区西荻北2-2-11
https://twitter.com/project_nishiog

文:馬場加奈子
写真:鈴木渉