上長の承認をもらうために、多くの会社で利用されている、「稟議書」。紙で回覧するのに時間がかかるなど、運用上の課題も抱えています。
今回は、稟議書の概要、稟議書が必要となる場面、稟議書の作成から承認までのフロー、稟議書を電子化するメリットやワークフローシステムなどについて解説します。稟議書の特徴を踏まえてさらなる活用を検討するうえで、ぜひ参考にしてください。
稟議書とは
稟議書とは、企業や団体などの組織において、ある案件について複数の上長から承認をもらうために回覧する書類です。複数人からの承認を得る点がポイントであり、関係者を集めて会議を開くことなく承認をもらえるシステムです。
稟議書が必要となる場面
稟議書は、次のような場面で必要となります。
・新規取引先との契約
・パソコンなど高額な備品の購入
・エアコンなど設備の修理
・不要な部品や金型などの廃棄
・求人広告など広告宣伝費の利用
・人材の雇用
・忘年会など社内行事の開催や経費申請
・接待費の申請
など
稟議書に必要な内容
稟議書には、主に次の内容が必要です。
申請する事項:何について申請するのかを「社用車の新規購入」などシンプルに伝わりやすく書きます。
申請する案件の内容:備品の購入なら製品名やメーカー名、派遣会社との新規契約なら社名や契約内容、忘年会なら日時・会場名・食事形式・参加者人数などを記載し、取引先の会社情報などの資料があれば添付します。
案件にかかる費用:費用は、承認を左右する重要な条件であるため忘れずに記載し、見積書や製品カタログなどの資料を添付します。
案件を実施する目的や理由:忘年会や接待ならなぜその場を設けるのか、備品購入ならなぜその製品を購入したいのかといった、目的や理由を記載します。
稟議書を通すためにはメリットを説明する
「案件を実施する目的や理由」を書く際に、案件の実施によりどんなメリットが生じるのか、まで一歩踏み込んで書きましょう。
たとえば、忘年会や接待なら、その場を設けることで社内や取引先とのコミュニケーションにどんなメリットが生じるのか、といった書き方ができます。
また、システム導入なら、従来のシステムは処理能力が低いため画面を開くだけで5分かかったが、新システムは10秒で済むため1年あたりどれだけの作業時間が節約できる、など数字を使った説明も効果的です。
稟議書の作成から承認までのフロー
紙の稟議書の場合、作成から承認までの流れは次のようになります。
1.申請者が稟議書を作成
申請者が、前述の「稟議書に必要な内容」を記載して稟議書を作成します。
2.稟議書の番号を取得
稟議書は、会社全体や部署ごとに番号を振って管理しているケースが大半です。そのため、社内のフローに従って稟議書の番号を取得します。
3.稟議書を低い役職から高い役職へと回覧
紙の稟議書を承認してもらうために回覧しますが、このとき「担当者→直属の上長→部門長→……」といったように、役職が低い順に回覧する点に注意しましょう。
申請する案件の内容によって、どの役職までの承認が必要か社内で決まっており、重要な案件については役員の承認が必要な場合もあります。
稟議書のメリットとデメリット
複数の上長から承認をもらう稟議書のシステムは日本特有です。複数の責任者が合議して決定する「合議制」のなごりを受けています。そのため、次のメリットとデメリットがあります。
メリット:
・複数の責任者が案件を吟味できる
デメリット:
・承認に時間がかかる
・責任の所在があいまい
情報化社会が急激に進むなかで、承認に時間がかかると、稟議システムがなく決断がスピーディーな競合との争いに遅れをとる可能性があります。また、複数の上長が承認しているため、案件が失敗した場合にだれが責任をとるのか曖昧な点もデメリットです。
稟議書のワークフローを電子化するメリットとデメリット
稟議書の「承認に時間がかかる」というデメリットは、ワークフローの電子化により軽減が可能です。電子化にはどんなメリットとデメリットがあるのか解説します。
稟議書のワークフローを電子化するメリット
メリットには、次の点が挙げられます。
・紙の稟議書よりも承認に時間がかからない
稟議書が紙の場合、複数の上長から上長へと順番に稟議書を回覧する必要があります。オフィスの建物や拠点が異なる上長への回覧だと、社内便の往復だけで数日かかったり、途中で紛失してしまったりといったリスクも考えられます。
稟議書のワークフローが電子化されればシステム上で承認が済むため、そうしたタイムロスやリスクは削減されます。
・稟議書にかかる手間の削減
紙の稟議書の場合、手書きであればかなりの手間がかかるのと、パソコンを使う場合でも印刷や回覧の手配などが必要です。
電子化されればそのような手間は削減され、備品購入など頻繁に起こる申請内容のテンプレート化により入力の手間も減ります。紙の場合、添付書類もすべて印刷する必要がありましたが、システムなら必要なのはフォーマットにファイルを添付する作業だけです。
また、申請のフローが複数ある場合、内容から自動的に承認が必要な役職とフローを判断可能なシステムもあります。
・検索のスピーディー化
紙の稟議書の場合、保管場所から過去の案件を探すのは大変ですが、電子化されればキーワード検索なども可能となり、探す時間は大幅に短縮されます。内部・外部監査にもスムーズに対応可能です。
・紙の廃止によるコスト削減
稟議書のペーパーレス化により、紙や印刷、社内便などのコストが削減され、稟議書の保存場所も省スペース化できます。
稟議書のワークフローを電子化するデメリット
デメリットや注意ポイントとしては、次の点が挙げられます。
・ワークフロー電子化によるコスト発生
ワークフローの電子化は、ペーパーレス化によるコスト削減が見込まれますが、システムの導入などの初期費用や維持費などのコストが発生します。
・電子化に慣れていない従業員からの不満
紙の稟議書に慣れている従業員などから、紙のほうがよかったなどの不満が出ることも考えられます。
紙の稟議書のデザインにこだわるなら、ワードなど既存のフォーマットをインポートして、同じレイアウトでフォームを作成できるワークフローシステムもあります。また、研修やマニュアルなどを活用してシステムの使い方を丁寧に周知することで、このような不満の軽減が図れます。
稟議書を電子化するワークフローシステム
稟議書の電子化は、既存のワークフローシステムを活用するのが最も簡単です。複数社のワークフローシステムがありますが、たとえば、システム担当者にプログラムの知識がなくても簡単にフォームを作成できるシステムや、スマートフォンからの申請や承認が可能なシステムもあります。
ワークフローシステムの導入に際しては、複数のシステムについて情報を入手して、各システムの特徴を理解し、自社の目的にあったシステムを選ぶようにしましょう。
稟議は複数の承認が必要なシステムであり、複数の人間が目を通す点はメリットですが、同時に、承認に時間がかかる点はデメリットとなります。
そうした特徴を踏まえて、迅速な決断が今後一層求められるであろう情報化社会にどう対応していくか、ワークフローの電子化も含めて、自社の稟議書システムにはどのような問題点があるか、形骸化していないかを一度考えてみてはいかがでしょうか。
執筆は2019年8月7日時点の情報を参照しています。
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