※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
「アルハラ」は、宴会の場などで行われるハラスメントで、最悪の場合被害者が死に至り、強要した人が懲罰を受ける可能性のある行為です。事業主として、職場の親睦を深めるために飲み会などを開催する機会は少なくありません。「飲みニケーション」という言葉もあり、職場以外の場で語らうことは、従業員の結束を深める意味もあります。
その中でアルハラが起きないように、経営者自身が理解を深めるだけでなく、従業員への注意喚起も徹底しなくてはなりません。
今回は、事業主が理解しておきたい「アルハラ」関連の知識として、アルハラの定義や事例、どのような犯罪に発展する危険性があるのかについて解説します。
アルハラとは
アルハラとは「アルコールハラスメント」の略称で、お酒の場で、飲酒を強要したり迷惑行為をしたりする行動を指します。人権侵害につながるだけでなく、命を奪う危険性もはらんでいます。実際、急性アルコール中毒で緊急搬送される人は、東京だけでも毎年1万人以上にのぼります。
アルコール依存症などへの対策に取り組む特定非営利活動法人アスクの定義によると、アルハラになるのは次の五つの行動です。
飲酒の強要
心理的な圧力をかけて、お酒を飲むようプレッシャーを掛けること。上司からの強要、伝統だからという強要、はやしたてや罰ゲームなどの形で行われます。
イッキ飲ませ
盛り上げることを目的に、一息で飲み干す「イッキ飲み」や早飲み競争を強要すること。
意図的な酔いつぶし
参加者を酔い潰すことを目的として、飲酒を強要すること。酔い潰しを目的としているので、最初から嘔吐のためのバケツを準備していることもあります。状況によっては、傷害罪にも問われます。
飲めない人への未配慮
アルコール以外の飲み物を準備しない、体質や体調を無視して飲酒を促す、飲めないことを侮辱するなど。
酔った上での迷惑行為
酔った状態で、からんだり、暴力をふるったり、ハラスメント行為を行うこと。
アルハラの事例
アルハラを原因に裁判も行われています。代表的な事例として、二つ紹介します。
神戸学院大学事件
全国で初めて、飲酒での死亡がアルハラによるものだと認められた事件です。
大学部活動の合宿中の事件で、引退した上級生が被害者含む男子13名に対して「きまり」と称して4リットルの焼酎の回し飲みを指示。これが伝統的な行事とされていました。その中で、一人の男子学生が急性アルコール中毒で意識を失いますが、他の学生は放置。その後病院に運ばれたものの、亡くなりました。
結果、大学と学生がアルハラを認め、大学が見舞金を、学生たちが和解金を支払うことになりました。心理的な圧力の立証は難しいですが、この件では飲酒をしたときの様子がビデオに残っていたため、アルハラの証明に役立ちました。
参考:一気飲みの強要、大学側が認める 神戸地裁で初の和解(2011年6月27日、日本経済新聞)
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件(東京高裁平成25年2月27日判決)
ホテル従業員が、上司から複数のパワハラ行為を受けたとして損害賠償を請求した事件です。パワハラ行為の一つとして、「酒席での飲酒強要」を挙げていました。従業員はアルコールに弱い体質だったにもかかわらず、上司は執拗に飲酒を強要。翌日には体調不良を訴えた従業員にレンタカーの運転も強いています。
この飲み会は業務に関係するものだったので、会社の使用者責任も認められました。その他のハラスメント行為も含めて厳しい判断が行われ、150万円の支払いが命じられました。
参考:【第15回】自然退職扱い社員からのパワハラを理由とした損害賠償等請求(あかるい職場応援団)
アルハラから発生する犯罪
アルハラは、単に不快というだけでなく、犯罪に発展する可能性もあります。かなり危険な行為であることを理解し、会社の飲み会でアルハラが発生しないように対策を行う責任が事業者にはあります。
アルハラはどのような犯罪に発展する可能性があるのか、具体例を見てみましょう。
強要罪
「イッキ飲みしないと殴るぞ」「俺の酒が飲めないのか」と飲酒を強要すると強要罪に問われる可能性があります。
傷害罪、傷害致死罪、傷害現場助勢罪
アルハラをした結果、飲酒をした人が急性アルコール中毒で倒れた場合、直接飲酒を強要した人は傷害罪にあたる可能性があります。被害者が死亡した場合、傷害致死罪となりさらに罪は重くなります。また、周りでコールやはやしたてに参加していた人も、傷害現場助勢罪に問われる可能性があります。
保護責任者遺棄致死罪
お酒の場で体調を崩して倒れた人がいた場合、適切に看護をする必要があります。しかし、救急車を呼ばずに放置したまま死亡してしまったら、保護責任者遺棄致死罪が問われるかもしれません。
未成年者飲酒禁止法での罰則
2022年4月に成人年齢が引き下げられましたが、お酒に関する年齢制限は維持されています。そのため、満20歳未満の人にお酒を飲ませるのは法律違反です。職場にも、高卒で就職した人や大学1年生、2年生のアルバイト従業員がいるかもしれません。20歳未満の飲酒が発覚すると、その場での保護者として上司が罰則の対象となります。
アルハラを生まないために、事業者ができること
アルハラの被害を生まないために、事業者はアルハラについて理解し、従業員にアルハラ対策を徹底する必要があります。ひとたびアルハラが発生すれば企業の責任が問われます。また、そういった旧体質の飲み会が開催されていることが分かると、優秀な人材の離職や、採用が難しくなるというデメリットもあります。プライベートでの飲み方に口出しはできませんが、せめて会社関係の飲み会の場においては、アルハラを防止する対策を打ち出しましょう。
アルハラ対策として、すぐにできることを紹介します。
社内で「アルハラ」教育を行う
まずは、従業員にアルハラの危険性を認識させることです。前述の「アルハラの五つの定義」をプリントして渡すだけでもアルハラについての周知ができます。できれば、新卒研修や管理職研修の項目としても取り入れることが望ましいです。
特に気をつけたいのは、就職したての20歳代の若者たちです。まだ自分のアルコール適性や限界量が分かっていないことが多く、上司や先輩からの勧めを断りにくい立場なので、「飲酒の強要は受ける必要がない」ことを伝えましょう。
アルハラの定義を社内で共有できていると、従業員同士での注意喚起も働きやすくなります。
会社としてのルール作り
アルハラの定義に該当しないように、会社で飲み会のルールを作ってしまうのも一つの手段です。「ルールだから」という一線があれば、断りにくい人も断りやすいです。たとえば、「飲酒を強要しない」「ソフトドリンクのメニューを準備する」「イッキ飲み禁止」「自分のお酒は自分で頼む」という項目を徹底するだけでも、アルハラ被害は起きにくくなります。
社内でのアルハラを防ぎ、従業員を守ろう
アルハラは社会問題として取り上げられることも増えています。「飲みニケーション」という言葉もある通り、職場を離れて交流を持つことで、得られるメリットもたくさんあります。しかし、お酒の使い方を間違えると、アルハラに発展してしまいます。アルハラが横行している場では、有意義な交流はできません。従業員の命を守るためにも、事業主が先頭に立ってアルハラの危険性を喚起し、アルハラの起きない体制づくりに励みましょう。
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執筆は2020年6月12日時点の情報を参照しています。2022年5月16日に記事の一部情報を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash