IT企業で生かされるリーンスタートアップとは。メリットやデメリットを徹底解説

「リーンスタートアップ」という事業開発の手法について耳にしたことがある、実践してみたいというビジネスオーナーも少なくないことでしょう。今回は、ビジネスオーナーを対象に、改めて知っておきたいリーンスタートアップの基本をコンパクトにまとめてお伝えします。

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップの「リーン」(lean)は経営の文脈では無駄がないこと、効率的なことを意味し、「スタートアップ」(startup)は起業を意味します。スタートアップ企業の大多数が数年で廃業し、大企業にまで成長するのはごくわずかな中、スタートアップ企業が成功する確率を高めるための手法です。詳細は後述しますが、概要としては、MVPと呼ばれる最低限の機能を持ったサービスや商品を短期間のうちに大きなコストをかけずにリリースし、市場や顧客の反応を見ながら改善するプロセスを繰り返していくというものです。

リーンスタートアップを提唱したのはアメリカの起業家のエリック・リース氏です。リース氏はシリコンバレーのスタートアップ企業での失敗と成功から、スタートアップ企業へのアドバイスを始めました。リース氏は自身の手法をLean Startupとしてブログにまとめ、2011年に同名の書籍The Lean Startupが出版されました。翌年2012年には日本語版が出版されました。特徴的な青い表紙に見覚えがあるという人もいるのではないでしょうか。リーンスタートアップはトヨタの生産方式に影響を受けたものだともいわれています。

リーンスタートアップは、誰もがすぐに適用できる手法ということもあり、リース氏が活躍したIT業界を中心に世界中で受け入れられていきました。関連書籍が多数出版され、短期間で改善を繰り返す手法と合わせて、リーンキャンバスやビジネスモデルキャンバスと呼ばれるビジネスモデルを構成する要素を一つの表の中に書き出す手法も事業開発のツールとして広く使用されるようになりました。

シリコンバレーのスタートアップで経験を積んだ起業家が発案した方法論というと、先端技術が強みのスタートアップ企業にのみ適用可能なのではと疑問を持つ人もいるかもしれません。確かにIT分野で特に受け入れられた方法論ではありますが、中小企業や個人事業主でも事業部単位でリーンスタートアップの考え方を取り入れることができます。

続いてリーンスタートアップの基本サイクルを具体的に見てみましょう。

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リーンスタートアップの基本サイクル

リーンスタートアップのサイクルには

(1)Build - 構築
(2)Measure - 計測
(3)Learning- 学習

の三つのステップがあります。学習を終えると再び構築の段階に戻り同じサイクルをまわします。サイクルは必要に応じて何度でもまわし、迅速にステップを進めていくことが好ましいとされています。個々のステップを具体的に見てみましょう。

(1)商品やサービスの構築
お客様の声や、経営者本人や従業員から商品やサービス、改善のアイデアが出ます。このステップではできない理由を並べてしまったり、壮大な計画を作ろうとしてしまったりすることも少なくありません。リスクを慎重に評価して綿密に商品やサービスを開発するのも一つの方法ですが、やっとの思いで作り上げた商品やサービスを市場に出して失敗してしまうとダメージが大きくなります。リーンスタートアップでは、学びを最大限にしつつ時間や費用をかけずにMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる最小限の商品やサービスを作り上げます。

(2)市場の反応を計測
MVPとして作り上げた商品やサービスを市場に出して、流行に敏感なお客様の反応を計測します。自分で考案したり、開発に関わったりした商品やサービスには愛着がわき、「評判がよい」「気に入ってもらえた」と感覚的に見てしまいがちですが、ここでは指標を設定して数値として計測するのが重要です。指標と数値に基づいて反応を計測するというと、手間に感じる人もいるかもしれませんが、次の学習のステップの効果を最大化するためにもとても重要なプロセスです。

(3)学習
市場の反応を計測したら、データを分析し、このサイクルで作り上げた商品やサービスについて評価しましょう。再び構築のステップに戻るにあたってどのような行動をとればよいかが見えてくることでしょう。必ずしも作り上げたものを改善する必要はありません。商品やサービス、改善のアイデアが間違っていたということもあります。そのようなときは、無理に最初のアイデアに固執するのではなく大きく方向転換をしましょう。この方向転換をリーンスタートアップではピボットと呼んでいます。

リーンスタートアップを取り入れるメリットとデメリット

リーンスタートアップのメリットとして、たとえ失敗してしまったとしても費用や時間、労力の面でダメージが少ないことにあります。ダメージが少ないことから、再挑戦が可能です。挑戦回数を増やすことで事業やプロジェクトの成功確率を上げることができるでしょう。また、短い期間で繰り返し市場やお客様の反応を見ながら商品やサービスを開発していくため、市場のニーズから大きく乖離する可能性が低くなります。

一方でリーンスタートアップには難しさもあります。最初に厳密に計画を立てて、すべての機能を盛り込んで、商品やサービスを提供している企業では、リーンスタートアップが受け入られるまでには時間がかかるかもしれません。最初は小さなプロジェクトでリーンスタートアップを試してみて、従業員にその効果やスピード感を実感してもらうとよいでしょう。また、リーンスタートアップが向かない業種もあります。ITサービスをはじめとする改善したサービスをお客様にすぐに届けるのが容易な業種ではリーンスタートアップが効果を発揮しやすいですが、一度お客様の手に商品が届いてしまうとなかなか改善の機会がない場合は、リーンスタートアップは向かないかもしれません。また、市場の反応を見ながら改善を繰り返すと局所最適解に陥りかねません。ピボットすることもできますが、ある程度の計画や大局的な視点はこれまで通り重要で、素早い事業開発と計画のバランスをとる手腕が問われます。

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リーンスタートアップの事例

リーンスタートアップはシリコンバレーの有名IT企業で生かされています。世界中にユーザーをかかえるクラウドストレージサービスはその代表例です。同社には、MVPとしてサービスの使用感を説明した動画をリリースし、リリースを待つ登録者の数を一気に増やしたというエピソードがあります。このエピソードからはMVPは必ずしも商品やサービスそのものでなくてもよいことが学べます。重要なのはMVPを通じて商品やサービス、市場、お客様について学びを得ることです。また、世界中で人気の写真と動画ベースのソーシャルメディアは当初まったく異なるサービスでしたが、市場での反応が悪く、ピボットすることで現在のサービスの基礎を築きました。その後、同ソーシャルメディアは機能追加と改善を繰り返し、世界で最も人気のあるソーシャルメディアの一つとしての地位を築きました。

リーンスタートアップを取り入れる流れは世界中に広まり、日本でもリーンスタートアップを取り入れ成功を収めた企業やサービスは少なくありません。レストランの比較サイトや、価格比較サイトを始め、IT業界を中心にリーンスタートアップが取り入れられています。

本記事では事業開発において短いサイクルで仮説構築と検証を繰り返し、事業を成功に導くリーンスタートアップという手法を説明しました。最初にしっかり計画を立てる従来の手法との違いに戸惑ったというビジネスオーナーもいるかもしれません。何度か試して身についてくると、身軽にアイデアを試す感覚がつかめ、成功の確率があがるのを実感できることでしょう。ぜひ本記事をきかっけに事業の一部でリーンスタートアップを取り入れてみてください。

執筆は2019年11月19日時点の情報を参照しています。
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