部下のワークライフバランスを応援し育てる、イクボスとは

「イクボス」と聞いて何を思い浮かべますか。子育てをする男性を意味する「イクメン」と響きが似ているこの単語は、従業員が働きやすい職場を作る上で中小企業の経営者が押さえておきたいキーワードの一つです。

本記事ではイクボスとはなにかからはじめ、イクボスが企業に与えるメリット、イクボスの養成方法について説明し、最後に官民での取り組みを紹介します。

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イクボスとは

イクボスという単語は今から5年以上前に誕生し、徐々に社会で知られつつあります。父親支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンによると、イクボスという単語は、2013年に群馬県庁で開催されたイクボス養成塾で誕生しました。以下が同NPOによる「イクボス」の定義です。

職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のこと(対象は男性管理職に限らず、女性管理職も)

参考:イクボスとは(NPO法人ファザーリング・ジャパン)

これまで特に日本では企業における上司というと、プロジェクトや部下の管理など仕事を中心に部下と関わってきましたが、グローバル化や女性の社会進出、高齢化といった社会や時代の変化とともに、昨今、部下のワークライフバランスを応援し育てる(イク)上司(ボス)に注目が集まっています。

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イクボスが企業に与えるメリット

経営者の中には、イクボスの存在が働きやすい組織づくりに貢献しそうだと感じたものの、上司が部下に配慮しすぎて業務に支障が出ないか心配という人もいるかもしれません。

短期的には職場でのイクボスについての理解や育成、イクボス文化の浸透に時間や労力を割かなければいけないのは確かです。一方で長期的には、従業員が仕事、家事、子育てや介護、趣味など理想的なワークライフバランスを実現できると、仕事や職場に対する満足度が上がることが期待できます。これによって業務に取り組む意欲が増し、効率化や業績アップにつながることでしょう。事業に対する新しいアイデアも出てくるかもしれません。職場もこれまで以上に活気のあるものとなるでしょう。

また、理解のあるイクボスがいることで、業務や私生活での悩みや問題を相談しやすくなります。課題が大きくなる前の早期解決につながるほか、普段から対話の生まれる風通しのよい組織になります。

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イクボスを養成する方法

ここまで読んでぜひイクボスを養成してみたいと考えた人も多いことでしょう。イクボスを養成するには企業文化や個人の考え方も変えていく必要があり、一朝一夕には養成できません。一方ですぐに始められるステップもありますので、小さなステップを積み重ねていくことが大事です。

職場の中に「男は外で仕事をして、女は家庭を守る」「仕事が一番」といった雰囲気はありませんか。経営者を含め、もしこのように考えている人が多い場合、この考え方を徐々に変えていく必要があります。政府は「一億総活躍社会」として、老若男女すべての人の個性や多様性が尊重され、適材適所で能力を発揮できる社会像を描いています。高齢化が進む中、男性だけでは働き手が足りないという逼迫した実情もあります。

このような状況の中、NPO法人ファザーリング・ジャパンは「仕事か家庭か」ではなく「仕事も家庭も」と欲張り、仕事もパートナーも子どもも大事にしていくことを推奨しています。ファザーリング・ジャパンは父親支援事業のNPOでこのメッセージは主に子どもを持つ男性に向けられたものですが、これはすべての従業員にいえることです。21世紀はストイックに仕事一筋に生きるのではなく、仕事も生活も充実させて、仕事一筋である以上に成果を出す時代だといえます。

具体的なアクションとして、まずは簡単なアンケートを作って現場の声を聞いて現状を把握するところから始めましょう。プライバシーを侵害しないように配慮して以下のような項目を質問してみます。

・ 現在のワークライフバランスに満足しているか?
・ 家庭における役割分担はどのようになっているか?
・ 上司または部下として業務にあたる上でワークライフバランスの点から改善したい点はあるか、あればどのような点か?

現状を把握したら、管理職を中心に、自身も部下もワークライフバランスを実現するためのセミナーやワークショップに参加する機会を設けるとよいでしょう。あわせて社内で「欲張ってもいい」というメッセージをぜひ伝えてください。年齢が上の世代や社歴の長い世代に囲まれて若い従業員は、家庭を大事にしたくてもいい出しにくいことがあります。また、年齢が上の世代には以前の社会状況から仕事一筋に生きて経済的に家庭を支えることを自身の使命と感じている人もいるかもしれません。経営者が「欲張っていい」というメッセージを伝えることは、若い従業員の背中を押し、年齢が上の従業員の意識を変えるきっかけになります。

イクボスであることを人事評価に加えると、部下を持つ従業員がイクボスになろうとするモチベーションを上げるかもしれません。ただし、これには部下である従業員の率直な意見や評価が不可欠で、適正な評価をするには風通しのよい組織であることが大前提です。

また、ファザーリング・ジャパンではロールモデルとなるイクボスの不在を課題として挙げています。経営者としてはイクボスになりかけている人を見つけたら積極的に後押しをしてイクボスに育て、ロールモデルとして社内に示していくとよいでしょう。

参考:NPO法人ファザーリング・ジャパン作成資料(内閣府男女共同参画局)

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官民での取り組み

イクボスについての具体的な取り組みを知るとより現実感を持ってイクボス養成のプロセスをイメージできるでしょう。

厚生労働省のウェブサイトには「日本総イクボス宣言プロジェクト」という特設ページがあり、イクボスに取り組む企業が紹介されています。企業紹介とあわせて、イクボスの取り組みを広げるためのイクボス宣言様式や、オフィスでイクボスであることを表明するためのポップのようなイクボス三角錐といったイクボス浸透を助けるアイテムも。イクボス養成に活用してみてはいかがでしょうか。

参考:「日本総イクボス宣言プロジェクト!!」(ひろがれイクボスの輪) (厚生労働省)

また、厚生労働省ではイクボスアワードとして2014年からイクボスをロールモデルとして表彰する取り組みを始めています。2019年の募集は7月末が締め切りですが、毎年開催されているアワードで翌年以降の応募を目指してイクボスの養成に取り組んでみてもよいかもしれません。

参考:「イクメン企業アワード2019」・「イクボスアワード2019」の募集を開始(厚生労働省)

そのほかファザーリング・ジャパンのイクボスドットコムというウェブサイトでイクボス企業同盟を展開し、大企業だけでなく中小企業にもイクボスの輪を広げようとしています。企業の加盟宣言やコラム、イクボスロールモデルへのインタビューが掲載されています。自社と同じような業種、規模、地域の企業の情報はこれからイクボスを要請していこうという企業には参考になるのではないでしょうか。

執筆は2019年7月26日時点の情報を参照しています。
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