レモンと聞いて何が思い浮かぶでしょうか。果物のレモンを思い浮かべるという人も少なくないでしょう。「レモン」という言葉は「レモン市場」というようにビジネスやマーケティングの文脈で使われると独特の意味を持ちます。今回はレモン市場とは何か、その問題点、売り手・買い手としての問題への対策を説明します。

目次



レモン市場とは

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「レモン」というとまず果物のレモンを思い浮かべますが、アメリカのスラングでは買ったあとに欠陥がみつかる中古車を意味することもあります。レモンは厚い皮に覆われていて、外からその鮮度や品質を判断することが難しいことに由来します。レモンに対して、見た目からもよさのわかる品質のよい品は英語で桃を表す「ピーチ」と呼ばれます。

中古車に限らず、購入後はじめて品質や本当の価値がわかる商品が取引される市場は「レモン市場」と呼ばれます。中古車を表すレモンという言葉は古くから使われてきたスラングですが、レモン市場についてはアメリカの経済学者ジョージ・アカロフ教授が品質の不確実性について書いた論文の中で取り上げ、知られるようになりました。論文が発表されたのは1970年、今から50年近くも前のことです。

参考:The Market for “Lemons”: Quality Uncertainty and the Market Mechanism (レモンのための市場: 品質の不確実性と市場メカニズム)

レモン市場では、売り手は売ろうとしているものが欠陥品だと知っていますが、買い手はそれを知らず品物の外見を頼るのみで、双方の持つ情報が非対称になっています。「非対称」という言葉は日常ではあまり使われませんが、ここでは情報に偏りがあると理解するとよいでしょう。中古車を例に考えてみると、中古車を買い取った業者は中古車について元のオーナーから聞き知った話、綿密な検査によって車両についてより多くの情報を持っています。欠陥を知らなかったといって隠してしまうこともできてしまうかもしれません。一方、中古車を業者から買う方は、業者の提供する情報や外見といった限られた情報しか手に入りません。車両を購入したあとに使用する中で欠陥がわかることもあるでしょう。

レモンの対義語として使われるピーチについては、外見から品質をうかがうことができ、その市場で適正な価格で取引されている商品を指しています。

買い手が購入するまで本当の価値がわからない粗悪品が出回るレモン市場は、大きな問題のように聞こえます。実際これは大きな問題で、外見から品質をうかがうことのできるピーチとそれを扱うピーチ市場が健全に機能するのに対し、レモン市場では負の連鎖が起き、市場自体をも崩壊させかねません。続いてレモン市場の抱える問題点について具体的に説明します。

レモン市場の問題点

レモン市場の一番の大きな問題は売り手と買い手で情報が非対称で、不公平な状況となっていることです。これに起因してさまざまな問題が生じます。

レモン市場で売り手は情報が非対称であることを利用して欠陥品を流通させようとします。まじめに品質のよいものを適正な価格で販売しようとしても、努力が報われないため、そのような努力がされなくなってしまうかもしれません。買い手は欠陥品をつかまされた経験や、欠陥品をつかまされたという他者からの情報によって、レモン市場で流通している品に品質を期待できないことを学びます。このような負の連鎖から、市場にはレモンばかりが出回るようになります。

結果、レモン市場では欠陥品を売ろうとする売り手と、安い対価しか払おうとしない買い手が残り、最後には買い手がいなくなり、売り手も存続不可能になり、市場自体がなくなってしまう可能性すらあります。

レモン市場を崩壊に導く大きな要因は不信感とそれに起因する品質と価格の下落です。売り手として、また買い手としてどのようにしてこのレモン市場の問題点に対して対策をとればよいのでしょうか。

問題点への対策

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レモン市場の問題点への対策を売り手がとれる対策、買い手がとれる対策に分けて見てみましょう。

売り手としてとれる対策
中小企業経営者としては、事業を存続していくためにも、自身が事業を営む市場をレモン市場にしないことが重要です。ターゲットとする市場をレモン市場にしないためには、まず買い手にはわからないことでも積極的に品物やサービスに関する情報を開示して、売り手と買い手の持つ情報が非対称でなくなるようにするとよいでしょう。

一社だけでの努力でレモン市場となってしまっている、またはレモン市場になりかけている市場を改善できないという場合には、信頼できる同業他社とともに市場が健全化するよう積極的に情報を提示していくといった対策がとれます。周囲がレモン市場特有のビジネスをしているからといって、「まじめに生きては損をする」とそれにならうようなことはおすすめできません。

よい評判が瞬時に広がるインターネット時代では、他社に先駆けて誠実にビジネスをすることでビジネスを成長させるチャンスにもできるはずです。レモンをピーチに変えることも不可能ではありません。

買い手としてとれる対策
中小企業経営者として、このような市場で買い手となることもあるかもしれません。欠陥品をつかまされる可能性の高いレモン市場化している市場から品物やサービスを買うことは避けたいものですが、そういった市場を利用しなければならない場合、できる限りの情報収集をするようにしましょう。幸い、現代はさまざまな情報がインターネットで検索できる時代です。売り手が提供する商品やサービスに関する情報以外にも、購入者によるレビュー、売り手の関与しない第三者のウェブサイトの情報などが判断材料になります。大量の情報に圧倒されてしまうこともあるかもしれません。そのような場合でも時間をかけて得られた情報を分析してください。商品やサービスによっては、専門家のアドバイスを求めてもよいでしょう。レモンをつかまされることによる損失を考えたら、情報の収集、分析、専門家に相談することに時間やお金をかける価値は十分あります。

また、レモン市場では、情報の利用の仕方によっては、品質や本当の価値に反して低価格で売られているお値打ち商品やサービスをみつけることができるかもしれません。自信のある買い手にとっては腕の見せ所となるでしょう。

今回はレモン市場とは何かからはじめ、その問題点、売り手や買い手としてとれる対策について説明しました。レモン市場について取り上げられたのはまだインターネットが登場する前の1970年のことです。1970年からおよそ50年、時代は変わりインターネットが普及し、誰もが気軽にパソコンやスマーフォンで情報収集できるようになりました。若い世代を中心に、インターネットショッピングなどを通じて評判や評価を参考にするという人も少なくありません。現在はまだ「レモン」を売りさばけていたとしても、今後ますます評判がものをいう時代になり、レモンの販売は難しくなっていくでしょう。良心の点でもそのようなビジネスを続けていくことは気持ちのよいものではありません。

中小企業の経営者としては、商品やサービスに関する積極的な情報開示をぜひ検討してみてください。遠回りに見えることがあったとしても、お客様の信頼を勝ち得たビジネスは必ず支持され、成長することでしょう。

執筆は2019年4月22日時点の情報を参照しています。
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