2018年6月、改正食品衛生法が公布されました。改正のポイントのひとつがHACCPに沿った衛生管理の制度化です。
今回はHACCPの導入手順や、HACCPに取り組むメリットについて紹介します。
食品衛生管理の世界基準「HACCP」
「HACCP(ハサップ)」とは、食品の安全を確保するための衛生管理手法のことです。「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略で、「危害分析重要管理点」と訳されています。
HACCPは、1960年代に米国で宇宙食などの安全性を確保するために開発されました。その後、缶詰などの製造基準としてHACCPの考え方が導入されました。現在では、先進国を中心にHACCPが義務化され、食品輸出の際の要件になるなど、世界基準の食品衛生管理システムとなっています。
参考:HACCPの普及と制度化の検討状況について(農林水産省)
従来の製品検査では、最終製品の抜き取り検査によって、安全を確認していました。基準を満たしていないことが判明した場合、どこが原因だったのか解析までに時間がかかることも多く、万が一、一部のサンプルに異常が発見された場合は、関係するすべての商品が廃棄されていました。
HACCPでは、原材料受入から製品出荷までの工程ごとに、重大な危害の発生につながるポイントを、継続的に監視し、記録します。こうすることで、最終製品になる前に問題を発見できるので、不良製品の出荷を未然に防ぐことができ、食品の安全を確保できるようになります。
国際機関である食品規格(コーデックス)委員会がHACCPのガイドラインを公表したのが、1993年。しかし、農林水産省の導入状況実態調査(2016年度)によると日本の食品製造業者のHACCP導入率は、導入済、導入中をあわせても37.2%と未だに低い状態です。
特に、販売金額が1億円未満の事業者では20.9%しか導入されておらず、今後も導入予定がない・HACCPの考え方をよく知らない事業者が59.7%にのぼります。
参考:食品製造業におけるHACCP導入状況実態調査(農林水産省)
今後、海外に向けた食品の輸出を押しすすめると共に、2020年東京大会に向けて食品の安全性をアピールするためには、HACCPの導入は重要な点です。食品衛生法の改正による、HACCPの導入義務付けは、食品の製造や加工を行う事業者だけでなく、調理、販売を行う飲食業も対象となります。
HACCP導入のための12の手順
HACCPの導入にあたり、「新たに設備などの整備をする必要があるか」と心配する人もいるでしょう。しかし、HACCPは、工程管理のシステムです。各事業者が、主体的に危害要因を分析し、その原因を排除するための管理システムを作るものです。必ずしもハード面の整備をしなくても、既存の環境を工夫をすることで、大きなコストをかけることなく導入できます。
HACCP導入のために、12の手順を踏むことが定められています。手順は大きく2段階に分けられており、特に手順6から12は、HACCPの7原則と呼ばれ、重視されています。
1,危害要因分析のための準備段階
手順1から5は、HACCPプランを作成するための準備です。
手順1:HACCPチームの編成
手順2:製品説明書の作成
手順3:意図する用途および対象となる消費者の確認
手順4:製造工程一覧図の作成
手順5:製造工程一覧図の現場確認
手順1から3で、社内に導入のためのチームを作り、どんなものを製造しているのか、名前や原材料、調理方法や提供する人などをすべて書き出します。
手順4、5で、仕入れから商品提供までの工程を一覧にし、現場とのズレがないかを確認します。
2,危害要因分析、HACCPプランの作成
手順6から12で、食品の衛生を確認するための手法などを設定します。決まった方法があるわけではなく、各事業者の実態にあわせ、衛生管理を見える化することがポイントです。
手順6(原則1):危害要因の分析の実施
手順7(原則2):重要管理点(CCP)の決定
手順8(原則3):管理基準(CL) の設定
手順9(原則4):モニタリング方法の設定
手順10(原則5):改善措置の設定
手順11(原則6):検証方法の設定
手順12(原則7):記録と保存方法の設定
手順6では、手順4で一覧にした各工程で、食中毒や異物混入の原因になりそうな危害要因を分析し、どのように対処するかを検討します。手順7で、危害要因を除去する上で特に重要となる工程、重要管理点を決定します。
手順8、9で重要管理点の管理基準と管理の方法を設定し、手順10で基準に合っていない場合の改善方法を設定します。
さらに、手順11、12でHACCPプランが機能していることを確認するための検証方法を設定し、その記録を保存する方法を設定します。HACCPプランを作成することで、各事業所が決めた衛生管理の手法は常に検証され、改善され、より高度な衛生管理ができるような仕組みが構築されます。
参考:HACCP導入のための7原則12手順(公益社団法人日本食品衛生協会)
HACCPは食品製造業者を想定した仕組みのため、小規模な飲食店などが導入する場合は、対応が難しいところもあります。
特に、メニュー変更の度に工程や重要管理点を分析し直し、変更するのは大きな負担です。そこで、食品に関連する業界団体が作成した手引書にHACCPの考え方を取り入れた衛生管理手法を基に、衛生管理計画を作成する方法が提示されています。
たとえば、モニタリングの頻度や記録作成、保管が、HACCPの基準より緩和され、「調理時に目で確認してもよい」「日誌を保管すれば、記録とする」などです。一度にHACCP導入が難しいと感じる際は、段階的に導入することを検討してもよいかもしれません。
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飲食店でHACCPを導入するメリット
HACCPでは、継続した管理やこまめな記録が求められます。導入のための管理体制や監視の仕組みづくりだけでなく、導入後の継続的な運用と検証も必要なため、飲食店にとっては手間がかかるだけと思われがちです。しかし、HACCPを導入することで、飲食店にもメリットがあります。
一番のメリットは、食中毒発生による営業停止やお客様の被害を、未然に防げる点です。HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実施することで、最終製品の前に異常に気づくことができ、大きな問題の発生防止につながります。
また、万が一、食中毒や異物混入が起こった際も、原因をすばやく究明できます。各作業工程が監視されているので、どこに原因があったのか、すばやく対処することが可能です。
さらに、事業所全体の意識向上にもつながります。厚生労働省が2014年に行った「HACCPの普及・導入支援のための実態調査」では、HACCP導入のメリットについて「社員の衛生管理に対する意識が向上した」「社外に対して自社の衛生管理について根拠を持ってアピールできるようになった」「製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった」「クレーム、事故が減少した」という回答が目立っています。販売規模が小さい事業者でも同じ効果があるようで、飲食店でも従業員の意識向上などのメリットが期待できます。
参考:HACCPの普及・導入支援のための実態調査(厚生労働省)
HACCPプラン作成を、従業員全員で行うこともメリットのひとつです。工程を確認したり、重要管理点を考えたりすることは、普段何気なく行っている作業を見直すことにもなります。ムダな作業工程を見直すことは、安全な食品を提供するだけでなく、効率のよいメニューの作成や提供にもつながります。
また、すべての従業員が、なぜその手順が必要なのか、衛生管理上の理由を知って考えられるようになります。アルバイトスタッフにも、きちんと衛生知識を説明できるようになれば、衛生意識をもって、自ら考えながら働くことができるでしょう。
規模が小さい飲食店だからこそ、従業員全員に、衛生管理だけでなく、業務改善について考える機会をつくることが大切です。
HACCPの導入は、飲食店にとって、衛生管理体制の整備だけでなく、業務改善の第一歩にもつながります。手間がかかっても、HACCPを導入するメリットは大きいといえるでしょう。
厚生労働省のホームページでは、飲食店がHACCPを導入する際のポイントなどを記載した「食品衛生管理に手引き」などを掲載しています。何をどのように導入したらいいかわからない場合は、このような資料も活用して、導入を検討してみましょう。
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執筆は2018年6月27日時点の情報を参照しています。2019年4月24日に記事の一部情報を更新しました。
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