近年の動向として、ワークライフバランスや女性の活躍が重視されるようになっており、従業員の職業生活や家庭生活の充実のために、企業の努力が不可欠となってきています。
今回は、働きやすい職場環境づくりに取り組む企業を支援するための助成金である、両立支援等助成金について紹介します。
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金とは、従業員が仕事と家庭を両立できるような制度の導入や、女性の活躍を促す企業の取り組みの促進を目的として支給される助成金で、複数のコースに分かれています。一部のコースについては、中小企業が対象となっています。支給額などは、コースによって異なります。各コースの詳細を見ていきましょう。
出生児両立支援コース
出生時両立支援コースとは、男性の育児休業や育児目的休暇の取得を促進することを目的とした助成金です。
男性従業員が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組み、実際に育児休業や育児目的休暇を取得させた企業に対して支給されます。
対象となる措置
助成金の対象となるには次のA、Bいずれかの措置を実施する必要があります。
A.男性従業員の育児休業
次の(1)および(2)を実施した場合に受給することができます。
(1)男性従業員が育児休業を取得しやすい職場風土作り
たとえば、次のような取組が該当します。
- 男性従業員を対象にした、育児休業制度の利用を促進するための周知
- 管理職による育児休業取得の勧奨
- 育児休業取得についての管理職向けの研修の実施
(2)男性の育児休業取得
連続した14日以上(中小企業は連続した5日以上)の育児休業を子の出生後8週間以内に開始していることが必要となります。
B.育児目的休暇の導入、取得
次の(1)から(3)のすべてを実施した場合に受給することができます。
(1)育児目的休暇制度の導入
(2)男性従業員が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作り
(3)男性従業員の育児目的休暇取得
支給額
このコースでは、下表の額が支給されます。
介護離職防止支援コース
介護離職防止支援コースとは、仕事と介護の両立支援の推進を目的とした助成金です。「介護支援プラン」を作成し、プランに基づき従業員が円滑に介護休業を取得できたり、職場に復帰できたりするように取り組んだ場合や、仕事と介護の両立をサポートする制度を導入し、利用する従業員が生じた場合に、中小企業に対して支給されます。
対象となる措置
助成金の対象となるには次のA、Bいずれかの措置を実施する必要があります。
A.介護休業(助成金支給のタイミングは、「休業取得時」と「職場復帰時」に分かれます)
休業取得時
次の(1)および(2)を実施した場合に受給することができます。
(1)介護支援プランによる従業員の円滑な介護休業の取得および職場復帰の支援
具体的には、下記3点を行うことが必要です。
- 介護支援プランにより実施する旨の就業規則などへの明文化、従業員への周知
- 介護支援プランの作成
- プランに基づく業務の整理、引継ぎの実施
(2)介護休業の取得
次の2点をいずれも満たしている介護休業であることが必要です。
- 介護支援プランに基づき、合計14日以上の介護休業を取得
- 介護休業開始の1カ月以上前から雇用保険の被保険者として雇用していること
職場復帰時
休業取得時の要件を満たした企業が、次の(1)および(2)を実施した場合に受給することができます。
(1)介護支援プランによる従業員の職場復帰の支援
次の2点をいずれも満たしていることが必要です。
- 介護休業終了後の面談の実施
- 元の職務への復帰(従業員の希望により別の職務で復帰することも可能)
(2)復帰後の継続勤務
介護休業終了後、引き続き雇用保険の被保険者として3カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要となります。
B.介護両立支援制度
次の(1)から(3)のすべてを満たした場合に受給することができます。
(1)介護支援プランによる従業員の仕事と介護の両立支援に関する措置の実施
次の2点をいずれも満たした取組を実施していることが必要です。
- 介護支援プランにより実施する旨の就業規則などへの明文化、従業員への周知
- 介護支援プランの作成
(2)介護両立支援制度の導入、利用
介護両立支援制度を導入したうえで、従業員に合計42日以上利用させることが必要となります。介護両立支援制度としては、以下の8種類が挙げられます。
- 所定外労働の制限制度
- 時差出勤制度
- 深夜業の制限制度
- 短時間勤務制度
- 介護のための在宅勤務制度
- 介護休暇制度
- 介護のためのフレックスタイム制度
- 介護サービスの費用補助制度
(3)利用後の継続勤務
合計42日間以上の制度利用終了後も、引き続き雇用保険の被保険者として1カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要となります。
支給額
このコースでは、下表の額が支給されます。
育児休業等支援コース
育児休業等支援コースとは、育児をする従業員が安心して育児休業を取得し、職場に復帰できる環境整備を目的とした助成金です。このコースは、中小企業のみが対象となっています。
対象となる措置
助成金の対象となるには、次のAからDいずれかの措置を実施する必要があります。
A.育児休業取得時
次の (1)および(2)を実施した場合に受給することができます。
(1)育休復帰支援プランによる従業員の円滑な育児休業の取得および職場復帰の支援
次の3点のすべてを満たす取組を実施していることが必要です。
- 育休復帰支援プランを実施する旨の就業規則などへの明文化、周知
- 育休復帰支援プランの作成
- プランに基づく業務の整理、引継ぎの実施
(2)育児休業取得
雇用保険の被保険者である従業員に3カ月以上の育児休業を取得させることが必要です。
B.職場復帰時
上記Aの支給を受けた中小企業が、さらに次の(1)および(2)を実施した場合に受給することができます。
(1)育休復帰支援プランによる従業員の職場復帰の支援
次の3点のすべてを満たす取り組みを実施していることが必要です。
- 従業員が職場復帰するまでに、育児休業中の職場に関する情報や資料の提供
- 育児休業終了前と終了後に、上司または人事担当者と面談し、結果を記録
- 元の職務への復帰(従業員の希望により別の職務で復帰することも可能)
(2)復帰後の継続雇用
育児休業終了後、引き続き雇用保険の被保険者として6カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要となります。
なお、上記(1)および(2)に加えて、育児休業期間中に次の(3)および(4)に該当する場合、職場復帰時の助成金に一定の額が加算されます。
(3)他の従業員による業務の代替
連続した1カ月以上の期間が合計3カ月以上あることが必要です。
(4)業務の見直しや効率化の取組を行っていること
業務量の減少などの結果が確認できることが必要です。
C.代替要員確保時
次の(1)から(4)のすべてを実施した場合に受給することができます。
(1)育児休業取得者を元の職務に復帰させることの規定
労働協約や就業規則に規定していることが必要です。
(2)育児休業取得
雇用保険の被保険者である従業員について、連続して1カ月以上休業した期間が合計して3カ月以上あることが必要です。
(3)代替要員の確保
育児休業を取得した従業員の業務を行う代替要員を確保することが必要です。
(4)現職復帰後の継続雇用
育児休業終了後、引き続き雇用保険の被保険者として6カ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要となります。
D.職場復帰後支援
次の(1)または(2)を満たした場合に受給することができます。
(1)子の看護休暇制度の導入・運用
小学生になるまでの子の看護などのための休暇制度を導入し、合計で20時間以上取得させることが必要となります。
(2)保育サービス費用補助制度の導入・運用
小学生になるまでの子にかかる保育サービスの費用を補助するための制度を導入し、育児休業から復帰後6か月以内に、一人につき3万円以上補助していることが必要となります。
支給額
このコースでは、下表の額が支給されます。
再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
再雇用者評価処遇コースとは、育児や介護を理由に一度退職した従業員の復職支援や、企業の生産性向上に効果のある再雇用の支援を目的とした助成金です。
育児や介護を理由とした退職者が復職する際、従来の勤務経験が適切に評価され、配置、処遇がされる再雇用制度を導入し、希望者を再雇用した企業に対して助成金を支給されます。
対象となる措置
助成金の対象となるには、次の(1)および(2)を満たす必要があります。
(1)再雇用制度の規定整備
制度の対象となる退職理由を明記するなど、一定の要件を満たす再雇用制度を労働協約または就業規則に規定することが必要となります。
(2)(1)の規定による従業員の再雇用
退職日から再雇用までが1年以上空いている、などの一定の要件を満たす従業員を再雇用する必要があります。
支給額
このコースでは、下表の額が支給されます。なお、再雇用者1人につき、6カ月後と1年後の2回、支給申請をすることができます。
女性活躍加速化コース
女性活躍加速化コースとは、企業による女性活躍推進の取組の促進を目的とした助成金です。女性の活躍に関する数値目標を掲げ、女性が活躍しやすい職場環境の整備などに取り組む中小企業に対して助成金が支給されます。
対象となる措置
このコースは、「加速化Aコース」と「加速化Nコース」の2種類があり、それぞれ満たすべき要件が異なります。
加速化Aコース
次の(1)から(4)のすべてを実施する必要があります。
(1)「女性活躍推進法」に基づき、女性の活躍に関する一般事業主行動計画を策定し、労働局への届出、従業員への周知、行動計画の公表を行なっていること
(2)長時間労働是正など働き方の改革に関する取組を実施していること
(3)自社の女性の活躍に関する情報公表を行なっていること
(4)行動計画に基づいて、計画期間内に支給対象となる取組目標を2つ以上実施したこと
加速化Nコース
上記の(1)から(4)に加えて、次の(5)および(6)を実施する必要があります。なお、【加速化Nコース】の場合は、上記(4)の取組目標は、1つの実施で要件を満たします。
(5)取組目標を達成した日の翌日から3年以内に行動計画に定められた数値目標を達成し、支給申請日までその状態が継続していること
(6)数値目標を達成した旨をデータベースに掲載し、公表していること
支給額
今回紹介した助成金の申請方法や申請期間は、助成金ごとに異なっています。申請期間に注意し、各コースの手引きを参照しながら手続きを進めましょう。仕事と家庭を両立し、従業員の生活が充実することは、優秀な人材の定着にもつながります。両立支援等助成金を活用しつつ、働きやすい職場環境づくりのための取組を実施していきましょう。
執筆は2019年12月5日時点の情報を参照しています。
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