「越境学習」が注目されている背景と、企業への影響

「越境学習」という単語をニュースなどで目にする機会が増えましたが、具体的には何を指すのか、曖昧な人も多いのではないでしょうか。

今回は、越境学習が注目されている背景、具体的な事例、越境学習が与える影響について解説します。

越境学習とは

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「越境学習」とは、社会人が会社や組織の枠を「越境」して、学習できる場を自発的に求めることです。

学習の場としては、次のような例が挙げられます。

・非営利法人や他社企業
・外部のワークショップや勉強会
・社会人大学やビジネススクール
・ボランティア活動

社内研修や異業種勉強会、社会人向けのキャリアアップ講座などはこれまでも存在してきましたが、人生100年といわれている時代において、社会人になっても積極的に学習し続けていく姿勢により注目が集まっています。

産業能率大学情報マネジメント学部の荒木淳子准教授は、実践共同体(興味関心を共有したメンバーが相互に貢献しあい、共同で活動に取り組む共同体)に参加する社会人へのインタビューを通して、「職業アイデンティティやキャリア形成への意欲といったキャリアの確立には、職場だけでなく、職場を超える実践共同体への参加が有用である」ことを示しています。この職場を超える実践共同体が、越境学習に当てはまります。

参考:企業で働く個人のキャリアの確立を促す実践共同体のあり方に関する質的研究(荒木淳子、2009)

越境学習が注目されている背景

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越境学習が注目されている背景としては、次の点などが考えられます。

・従来型の社内教育の限界
・終身雇用の崩壊

従来型社内教育の限界

AIなどのテクノロジーの発展やビジネス環境の劇的な変化に対応しながら、企業として生き延びるには、マーケットの変化を敏感に捉え、ビジネスモデルを変化させながら時にはイノベーションを起こす必要もあります。

従来型の同じ世代や役職を集めた研修や、OJTなどでは、目まぐるしく変わる環境の変化に追いつき、新しい価値を生み出すには限界があります。

新たな価値の創造には、知識の獲得などに加えて、従来的な価値観の振り返りや内省が必要です。同じ企業に勤め、社内用語で分かり合えるような従業員同士では、価値観が近く、新たな気づきや革新的なアイデアなどはなかなか生まれてきません。そのため、越境学習のように、積極的に社外へと学びに出かけて、新たな気づきを社内に持ち帰るような学習が必要だと考えられます。

終身雇用の崩壊

戦後以降日本に定着した終身雇用制度が崩れつつあり、かつ「人生100年時代」という60歳を超えても働くことが珍しくなくなっている昨今では、社外でも通用するキャリアを構築する必要性が生じてきています。

たとえば、経理という仕事一つ取っても、どんなシステムを使うかなど会社によって仕事環境はさまざまです。環境だけでなく、仕事の進め方も、どんなタスクを優先するかも、全く異なるでしょう。

自分のキャリアが転職して他社でも通用するかどうかは、実際に社外に出てみないと分からないところもあります。もしものときに困らないように、ビジネススクールや社外の勉強会に通ったり、ボランティアとして非営利団体に参加したりして自分の力を試すことは、長期的なキャリアを考えるうえで有効です。

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越境学習の具体なやり方

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次に、越境学習の具体例を紹介します。

プロボノ
プロボノとは、自分が持っている職業上の知識やスキルを活かして社会貢献するボランティア活動のことを指しています。発祥にはさまざまな説がありますが、米国から始まり、最初は弁護士による低所得者向けの無料相談などが主だったという説があります。日本では2010年がプロボノ元年とされており、現在日本では弁護士、税理士や会計士、デザイナーやライターなどさまざまな人たちが非営利団体でプロボノワーカーとして活躍しています。個人単位での参加からチームでの参加までさまざまな形があるようです。

専門性を活かしたいプロボノと人材を必要としている非営利団体をつなげているNPO法人には、プロボノ登録者数が2010年から2016年にかけて4倍以上に増えています。また、登録者の職種で多いのは「企画・マーケティング・宣伝」「営業」「システム開発・システムエンジニア」となっています。資源や人材に限りがある非営利団体にとっても、さまざまなスキルと経験を持つプロボノワーカーの存在は貴重なようです。

参考:数字で見るサービスグラント(認定NPO法人サービスグラント)

他社で働く

自社の従業員を他社で働かせるという画期的な越境学習も行っている企業もあります。全く別の業種、別の文化を持つ企業で働くことで、これまで触れる機会のなかった知識やノウハウを吸収し、それらを基にした新しいアイデアの創出が期待されます。

越境学習の影響

前述の他社で働いて能力開発を行う越境学習を「レンタル移籍」と呼ぶことがあります。

たとえば、大企業の従業員がベンチャー企業に「レンタル移籍」したとしましょう。大企業の従業員としては、スタートアップ企業における事業立ち上げの実践経験という能力開発の場を得ます。ベンチャー企業側は、大企業ならではの経験やノウハウにより人材強化の効果を得ることができ、双方にとって大きなメリットがあります。

今後、越境学習のもとに、企業間で人材交流が進んでいくことが予想されます。社内で培ったスキルを他社や非営利団体で活用するとともに、社外で学んだ経験を再び社内に持ち帰ることで、スキルや経験、価値観の流動化が進み、イノベーションが生まれやすい環境の創出が期待できます。

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執筆は2019年5月20日時点の情報を参照しています。
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