【商いの​コト】社会的意義と​ビジネスは​相反しない。​長野から​全国へ​“古材の​循環“を​広げる

成功も​失敗も、​すべては​学びに​つながる。​ビジネスオーナーが​日々の​体験から​語る​生の​声を​お届けする​「商いの​コト」。

つなぐ加盟店 vol. 29 ReBuilding Center JAPAN 東野唯史さん

「社会を​変える」と​いう​言葉は、​企業の​ホームページで​よく​見かける。​しかし、​”言うは​易し行うは​難し”。​実際には、​「売上を​上げるには」​「競合に​勝つためには」と​いった​目の前の​課題ば​かりが​優先されてしまう​こともある。

今回は、​自社の​活動への​賛同者を​増やして、​全国に​広げようと​画策する​仕掛け人を​紹介する。​ReBuilding Center JAPAN​(略:リビセン)を​経営する、​東野唯史​(​あずの​ただ​ふみ)​さんだ。​ReBuilding Center JAPANは、​解体される​古い​建物から​建材を​回収し、​販売する​リサイクルショップ。

古材や​古道具が​循環していく​社会を​実現する​ために、​東野さんは​どのような​経営を​しているのだろうか。

古材・古道具を​”レスキュー”して​販売する​リサイクルショップ

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長野県に​ある​上諏訪駅から​10分ほど​歩いた​ところに、​ReBuilding Center JAPANは​ある。​1階は​カフェと​依頼を​受けて​救済​(リビセンでは​「レスキュー」と​呼ぶ)​した​古材売り場、​2階と​3階は​古道具や​建具などを​販売する​リサイクルショップに​なっている。

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レスキューの​範囲は​同ショップから​一般道で​1時間以内の​ところ。​古材や​古道具だけでなく、​持ち主の​思い出も​レスキューする。

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古道具が​多く​並んだ​空間に​身を​置くと、​時代が​逆戻りしたかのような​錯覚に​陥る。

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たとえば、​引き戸に​つける​戸車。​レスキューの​際に​「不要ではない」と​判断する​範囲が​どれだけ​広いかを​物語る。​東野さんは、​こうした”リビセンだから​レスキューでききる​もの”を​大切に​している。

日本は​ものすごい​勢いで​”壊されている​”

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「日本は​ものすごい​勢いで​壊されている。」

空間デザインユニット​「medicala」と​して、​妻と​日本を​飛び回っていた​東野さんは、​各地を​訪れる​中で、​数々の​空き家や​ビルが​壊される​現状を​目の​当たりに​していた。​住人の​思い出が​詰まった​古い​ものが​次々に​処分されていく​光景ーー居ても​立っても​いられず、​どうにかして​救い出したかったと、​当時を​振り返る。

自分達で​できる​ことはないのか。​そう​考えていた​矢先に​偶然出会ったのが、​アメリカ・ポートランドに​ある​古材の​リサイクルショップ​「ReBuilding Center」だった。​そこでは、​さまざまな​古材が​販売され、​老若男女問わず、​多くの​人が​買い物を​楽しんでいた。

同じ​ものを​日本に​作りたい。​ReBuilding Centerに​想いを​率直に​伝えると、​快諾。​「ReBuilding Center JAPAN」が​誕生した。​同リサイクルショップは、​ただ​古材・古道具を​販売するのではなく、​”リビセン”の​理念に​共感する​人を​増やす​ことを​目標に​掲げる。

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▲古材を​切り出し​使いやすい​大きさに​する​ことで、​少しでも​手に​とって​もらいやすく​している

「日本全体で​空き家が​壊されていく​スピードを​考えた​ときに、​1つの​会社に​できる​ことは​とても​少ない。​木造建築物の​1年間の​総廃棄物量は​135万トンと​言われていて、​僕らが​1年間で​レスキューしているのは​年間で​60トン。​決して​少ない​数字ではないのですが、​全体で​見た​ときには、​たった​0.004%しか​レスキューできていない。​僕らが​事業規模を​10倍に​したとしても、​全体の​0.04%ですからね。​だったら、​賛同者を​増やして、​僕らと​同じような​ことを​各地で​やってくれる​流れに​した​方が​いいと​思ったんです。​」

1階に​カフェが​あるのは、​古材に​興味のない​人を​引き寄せる​ための​仕掛けだ。​扱う​古材も​手頃に​使える​サイズの​ものも​含める​ことで、​気軽に​古材を​生活の​中に​取り入れる​機会を​作る。​その心がけが​実を​結び、​今では​子どもから​大人まで、​幅広い年齢・境遇の​人が​訪れる​空間に​なっている。

「僕達は​空間デザインの​仕事を​する​ときに、​事業運営の​アドバイスも​していました。​例えば​ゲストハウスなら、​ベッド数・客単価が​これだけで、​稼働率が​この​くらいだと​仮定すると、​スタッフは​何人に​した​ほうが​いいとか、​部屋を​1つなくして​吹き抜けに​した​ほうが、​満足度が​上がって​リピーターが​増えるのでは、とか。​一方妻は、​カフェの​店長や​ゲストハウスの​女将を​経験していたので、​2人の​得意な​ところを​出し合えば​経営も​上手く​いくはずだと、​不安は​あまり​ありませんでした。​」

“リビセン的”–スタッフに​企業理念を​浸透させる​キーワード

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▲古材・古道具が​レスキューされた​ときの​ストーリーを​見せる​ことも、​訪れる​人に​より​親近感を​持って​もらう​ための​工夫だ

現在、​ReBuilding Center JAPANは​東野さん​夫妻を​含めて​7名で​運営。​実際に​経営を​して​感じるのは、​”スタッフを​含めて​全員が​同じ​方向を​向く​ことの​難しさ”だと​東野さんは​語る。

「妻と​2人で​medicalaの​活動を​していた​ときには、​2人で​全部意​思決定していたので​感じなかった​ことなのですが、​スタッフを​雇って​いろいろ​やって​もらうようになると、​どうしても​自分の​頭の​中に​ある”リビセン像”と​違った​行動を​とる​人が​出てくる。​人が​増える​分、​考え方も​多様化するので、​仕方のない​ことでは​あるのですが、​自分の​思い通りにならない​ことは​出てきてしまいますよね。​」

自分の​考え・​理念が​なかなか​スタッフに​伝わらず、​スタッフの​意思決定にもどかしさを​感じると​いうのは、​経営者なら​誰もが​持つ​悩みだろう。​東野さんは、​スタッフとの​コミュニケーションを​図る​ために、​密な​対話を​大事に​しているのだそう。

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「リビセンの​理念を​外部に​もっと​浸透させる​ためには、​社内の​目線合わせが​重要だと​思っているんです。​なので、​毎日​夜は​スタッフと​一緒に​ご飯を​食べ、​コミュニケーションを​とるようにしています。​あとは、​月に​1回スタッフと、​1人​あたり2時間程度面談する​機会を​設けていますね。​どんな​課題を​感じているのか、​将来どんな​生活を​望んでいるのかと​いった​話を​聞いたり、​時には​『あの​とき、​なぜ​こういう​意思決定を​したのか』と​質問する​ことも​あります。​話を​聞いても​納得できない​ときには、​『”リビセン的”には​その判断は​良くないと​思う。​なぜなら……』と​言う​ことも​あるんです。​」

毎日​一緒に​夜ご飯を​食べたり、​1人に​2時間かけてじっくり話を​したりと、​コミュニケーションの​手厚さは​言うまでもない。​真に​注目すべきなのは、​“リビセン的に​”と​いう​言葉を​使った​東野さんの​マネジメントスタイルだ。​ここに、​経営者の​考えを​スタッフに​浸透させる​秘訣が​隠されている。​スタッフが​誤った意​思決定を​した​とき、​ただ​頭ごなしに​否定したり、​その​事象だけに​当ては​めて​間違っている​理由を​説明しても、​同じ​ミスは​繰り返される。

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経営者が​スタッフに​伝えるべきなのは、​”会社と​して​どう​あるべきか”と​いう​視点だ。​東野さんから​”リビセン的に​間違っている​”と​いう​指摘を​受けた​スタッフは、​会社の​理念に​立ち返るだろう。​スタッフ同士で、​「これって​”リビセン的”に​どうなんだろう」と、​共通言語を​使って​意思決定を​するようになるかもしれない。

“会社の​理念”を​基準に​何度も​意思決定を​する​ことで、​東野さんが​考える​あるべき”リビセン像”が、​スタッフに​浸透していく。​こうして​スタッフを​巻き込みながら、​会社全体で​一つの​理念を​共有できるようになるのだ。

市民を​巻き込む”サポーターズ”制度

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リビセンの​理念を​外部に​浸透させる​ために、​東野さんが​実践している​制度が​ある。​それが、​サポーターズ制度だ。​同制度は、​リビセンの​活動を​手伝ってくれる​メンバーを​募集すると​いう​もの。

釘​抜きや​古材の​整理、​トタンの​成形など、​そのときに​よって​活動内容は​さまざまで、​現在Facebookの​「リビセンサポーターズ!」コミュニティの​メンバーは​400人を​超えている。

「僕らの​仕事を​手伝ってくれる​サポーターズの​メンバーとは、​古材・古道具の​レスキューだけでなく、​一緒に​なって​小屋を​作ったりもしたんです。​本人に​活動自体を​楽しんで​もらう​ことは​もちろんですが、​同時に、​僕らの​考えを​知って​もらうきっかけと​して、​すごく​大切に​しています。​」

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▲スタッフと​サポーターズメンバーで​作った​小屋

リビセンと​お客様の​間に​位置する​「サポーターズ」を​育てる​ことに​よって、​リビセンの​活動を​より​多くの​人に​知って​もらえる。​周囲の​人を​巻き込む​こうした​活動の​積み重ねが、​リビセンの​認知度を​上げる​支えと​なっているのだ。

本当に​社会的意義が​あるなら、​ビジネスは​成り​立つ

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▲人事制度も、​一人​ひとりに​合った​オーダーメイドの​ものを​作る​ことを​目指し、​他社の​事例を​本や​ヒヤリングを​通して​学んでいる

一般的に、​社会的意義と​ビジネスを​両立させる​ことは​難しいと​言われている。​事実、​大志を​抱いて​起業したは​いい​ものの、​採算が​取れずに​倒産してしまう​ケースは​後を​立たない。​東野さんも、​社会的意義と​ビジネスの​間で​ジレンマを​感じる​場面が​あるのではないかと​聞くと、​こんな​答えが​返ってきた。

「いえ、​全然ないですね。​10年くらい前に​ホリエモン​(堀江貴文氏)が​言っていて、​その​通りだなと​思った​ことなのですが、​『本当に​社会の​ニーズが​あって​求められているなら、​ビジネスと​して​成立しない​わけが​ない』。​僕らが​プロセールス契約を​させて​もらっている​パタゴニアの​本にも、​社会問題に​真摯に​取り組む​ことが​売上アップに​つながっていると​ちゃんと​書いて​あります。​だから​僕は、​ビジネスと​して​上手く​いかないのは、​社会の​ニーズと​ずれているからだと​思うようにしています。​一概に​すべてが​そうとは​限りませんけど。」

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▲レスキューされた​古道具は​バラエティに​富み、​毎月​10件程度の​レスキューに​よって​ラインナップが​更新されていく。​######

儲からないのは、​そもそも​社会の​ニーズと​外れた​ことを​しているから。​そう​語る​東野さんの​言葉からは、​自らの​活動に​対する​自信と​覚悟が​伺える。​東野さん​自身が、​これまで​社会が​抱える​課題に​正面から​向き合い、​解決の​ために​尽力してきたからこそ出てきた​一言だろう。

オーナーが​不在の​店に、​良い店は​ない

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冒頭でも​触れたように、​リビセンは​賛同者を​増やす​ことを​目指して​活動しているので、​店舗を​増や​したり、​事業規模を​拡大する​ことは​考えていないと​東野さんは​語る。

「僕は、​medicalaの​活動を​していた​ときから​ずっと、​『オーナーが​不在の​店に​良い店は​ない』と​考えてきました。​なぜなら、​店を​運営する​人の​想いが​薄まってしまうから。​僕らが​店を​増やすのではなく、​僕らの​理念に​共感してくれた​人が、​その​人自身の​想いを​反映させた店を​作ってくれる。​それが、​僕が​理想と​する​形です。​」

リビセンは​確実に​賛同者を​獲得しており、​「私にもリビセンを​やらせてくれないか」と​いう​問い​合わせも​多くなっているのだそう。​社内、​そして​社外を​巻き込みながら理念を​浸透させる​ことに​よって、​リビセンは​長野から​日本全国に​広まり​つつある。​”古材・古道具が​循環する​社会”は​すぐ​そこまで​来ているのかもしれない。

ReBuilding Cener JAPAN
392-0024
長野県諏訪市小和田3-8
Tel : 0266-78-8967

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(つなぐ編集部)

写真:小沼祐介