【商いの​コト】視点を​仕入れて​販売する​ ー越前市の​セレクトショップ​「ataW」

成功も​失敗も、​すべては​学びに​つながる。​ビジネスオーナーが​日々の​体験から​語る​生の​声を​お届けする​「商いの​コト」。

つなぐ加盟店 vol. 49 ataW 関坂​達弘さん

仕入れと、​販売。

右から​左に​流すことも​店舗経営の​ひとつ。​
関坂さんの​場合は、​流すものと​流し方に​こだわっている。​
そして​黒字計上だ。

何を​どのように​売買しているのだろう?​
こだわりを​保つ店舗経営に​ついて​尋ねた。

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店舗経営の​実態

関坂さんは、​父、​母、​兄夫妻、​妹の​5名と​従業員数名が​勤務する​株式会社関坂漆器で​働く。​主に​ataW​(アタウ)と​オリジナルブランドの​SEKISAKAを​担当している。

ataWは​越前市に​構え、​鯖江市との​市境に​隣接。​関坂さんは​福井市に​居住する。​福井県には​全国シェア95%の​眼鏡フレームを​筆頭に、​和紙や​漆器など、​ものづくり産業が​集積。​ataWでは、​そんな​県産品を​はじめ、​オリジナルブランドの​プロダクトの​ほか、​関坂さんの​知人・​友人が​製作する​作品、​日用品などを​販売している。

在庫数の​上限と​仕入れの​タイミングは​特に​設けていない。​仕入れは​関坂さんと​妹が​担当。​店頭には​主に​母と​妹が​立つ。​妹の​仕入れと​販売は、​地域に​根ざしていて​好評だ。​また、​関坂さんが​年に​1回好きな​音楽家の​ライブイベントを​2Fの​スペースで​開催し、​CDの​販売も​常時している​ことを​特徴と​している。

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ataWの​利用者層は、​20代〜60代と​幅広い。​地域住民だけでなく、​県外からの​来客も​多い。​売上の​半分は​店舗販売、​もう​半分は​Eコマースが​占める。​2018年7月末時点で​Instagram経由の​売上が​好調だ。

ただし、​オンラインで​好調に​売れる​ことと、​関坂さんの​志とは​異なっているらしい。​どのような​こだわりを​持っているのだろう?

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商品セレクトの​指標

関坂漆器の​ルーツは、​江戸時代元禄末期の​1701年に​遡る。​関坂家 初代当主 与兵衛に​より、​越前漆器 片山椀の​製造を​開始して​以来、​椀を​製造販売してきた。​2006年には、​九代当主の​名を​冠し、​創業300年を​記念する​直営店​「与十郎」を​オープン。​24歳の​関坂さんが​オランダの​デザインアカデミー・アイントホーフェン​(DAE)に​留学した​2年後の​ことだった。

1998年、​県内の​進学校を​卒業し、​憧れた​東京の​四年制大学に​入学。​キャンパスライフを​謳歌する​中、​関坂さんは​デザインの​世界に​魅了されていく。

大学卒業後は、​アメリカの​パーソンズ美術大学 姉妹校で、​石川県金沢市に​ある​金沢国際デザイン研究所に​進学。​1、​2年次を​終え、​3、​4年次で​パーソンズ美術大学に​編入する​ための​試験を​パスするも、​オランダで​起こった​コンセプチュアル・デザインの​潮流 ドローグ・デザインに​惹かれ、​DAEへの​編入に​至った。

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パーソンズ美術大学で​習った​機能的な​工業デザインと​異なり、​DAEでは​感受性を​重んじる​教育を​受けた。​ドイツの​美術学校バウハウスを​はじめ、​多くの​工業デザイン教育が​採用する​「フォーム・フォローズ・ファンクション​(形は​機能に​従う)」と​いう​思想ではなく、​「フォーム・フォローズ・フィーリング​(形は​気持ちに​従う)」を​敷く​学校で、​「マン・アンド・ウェルビーイング​(人と​幸せ)」専攻を​選んだ。

「感受性を​基本に、​魅力を​感じたり​好きに​なったりするような​気持ちに​純粋な​部分に​添って​デザインしていけば、​どこかで​誰かは​同じように​共感してくれる​デザインになると​いう​教育を​受けました。​同級生が​つくる​ものは​美しいし、​自分に​届いてくる​感覚も​すごく​気持ちよくて。​そんな​オランダで​習った​ことは​ataWの​商品セレクトに​息づいています」

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商品に​魅力を​与える​ポイント

DAEの​卒業生は、​感性を​重んじる​作家活動を​少なからず​続ける。​そして、​1点に​数百万円を​値付けても​売買が​成り​立つ、​一握りの​スターが​生まれる。​関坂さんの​同窓生も​多くは​作家活動を​はじめた。​関坂さんは​そんな​同窓生の​姿勢や​作品に​感心した。

2007年卒業後、​関坂さんは​東京の​デザイン事務所に​入社し、​デザインワークの​経験を​積んだ​あと、​2012年に​帰郷する。

8年ぶりに​福井に​戻ると、​関坂さんは​ものづくり産業の​キーパーソンと​つながって​いった。​中には、​移住者も​いた。

「帰郷するまで、​福井には​何もないと​思っていました。​でも​移住者の​方々は、​福井の​産業に​まつわる​ものづくりを​しても、​視点が​異なるから、​新しい​魅力を​持つ​ものに​仕上げます。​移住者の​ものの​見せ方や​産業の​捉え方に​触れて、​ここに​何もないわけではないんだと​気づく​ことができました」

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店舗経営の​急所

2016年は​直営店​「与十郎」の​オープン10周年の​節目。​売り​上げが​開店時と​比べると​下がっていた​ことも​あり、​クローズ後、​所有物件の​有効活用と​経営改善を​目指して、​関坂さんが​運営を​引き継いだ。​そして​同年11月、​ataWを​オープンする。​店舗経営では、​オランダで​学んだように​純粋な​感覚を​重んじる​方針を​採った。

「それが、​なかなか​売り​上げが​思うようには​上がりませんでした。​オランダの​同窓生や、​東京で​出会った​デザイナーに​影響されて、​自分も​同じように​尖った​ことを​やろうと​したんですけど、​それだけだと​難しいと​気づいて。​機能的な​ものも​扱うようにして、​尖った​ことを​やりたい​自分の​気持ちと​お店を​成り​立たせる​ことの​バランスを​取るように​変わっていったんです」

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プロダクト開発と​商品セレクトの​共通点

関坂漆器の​関坂さんと​しても、​新しい​機会が​巡ってくる。​グラフィックデザイナー 廣村正彰さんの​呼び掛けで、​日本の​美意識や​ものづくり技術を​世界に​発信する​プロジェクト ジャパンクリエイティブに​参加した。​イギリスの​デザイン事務所 インダストリアル・ファシリティと​組み、​多目的容器 STOREが​完成。​オリジナルブランド SEKISAKAを​立ち上げる​きっかけに​なった。

老舗漆器メーカーは​少なからず、​木地から​プラスチックに​素材を​変えて​和食器を​製造している。​飲食店や​病院の​業務用に​大量納品する​場合、​プラチックなら​木地より​コストを​低くして​耐久性を​高める​ことができ、​安定した​売上を​見込める。

「でも、​僕は​違う​アプローチもしてみたいと​思って。​これまでの​技術を​使いながら、​オリジナルプロダクトの​開発を​進めて、​新しい​価値を​生み出したいんです。​今までの​業務用のような​機能性重視の​ものよりも、​日常の​生活の​中で​使用できる​プロダクトを​作りたいと​思いました。

世の​中に​すでに​便利な​もので​溢れているのと、​機能や​価格面で​大手の​ブランドや​メーカーには​勝ち目がないと​思ってます。​最低限の​機能は​保ちつつ、​手に​取った​人の​気持ちや​感情に​訴えかけるような​プロダクトを​作りたいと​思いました。​な​おかつ、​それが​生活の​中で​新しい​視点に​きずかせてくれたり、​少しだけ生活を​豊かに​するような​ものであればいいなと​思っています。​一緒に​開発する​クリエイターの​提案と​僕の​感覚を​合わせつつ、​ものづくり産業に​新しい​視点を​残していきたいと​思っています」

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ataWの​商品セレクトにも​共通している。

「バランスよく、​幅広い​ジャンルの​商品を​取り揃えつつも、​一つ​ひとつの​商品を​見た​お客さんが、​ものづくりの​新しい​視点に​気づく​きっかけを​備えた​商品を​揃えています。​福井のように、​産業が​集積していて、​有名な​メーカーも​多く、​移住者も​少なくないと​いう​魅力的な​地域にも、​その土地に​暮らしていると​地域の​考え方に​囚われてしまうと​いう​閉鎖的な​環境は​あるから、​ものづくりに​携わる​人たちに​視点を​開放する​機会を​共有したくて。​決して、​上から​教えるんじゃなく、​地域の​人たちと​同じ​目線で​分かち合っていたい」

まるで​与うと​いう​言葉に​添って、​ataWと​名付けたようにーー。

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店舗の​経営バランスを​保つ鍵

2018年9月以降、​関坂さんは​ataWで​展示会を​複数回催したいと​いう。​数組の​デザイナーに​声を​かけて、​福井の​産業に​残る​技術で​どんな​ものづくりを​デザインできるのか、​創意工夫を​続けて、​展示品の​開発に​取り組んでいる。

ataWの​店舗経営と​SEKISAKAの​プロダクト開発に​加えて、​ataWで​開催する​ライブイベントの​出演者を​ブッキングする​仕事も​ある​上に、​展示プロデュースまで。​休日は​あるのだろうか?

「ちゃんと​休んでいますよ。​先日は​福井の​麻那姫湖の​キャンプ場で​開催される​野外音楽フェス sea of greenに​行きました。​海外で​買い付けする​際に​観光も​楽しんでいますし。​もちろん​平日は​関坂漆器に​勤務して、​土日は​ataWの​店頭を​サポートしているんですが、​嫌いな​仕事は​ありません。​仕入れ、​販売、​プロダクト開発、​ライブ主催や​展示企画、​どれも​『好き』と​いう​感覚に​寄せて​バランスを​取っていますから。​幸せです」

仕事を​純粋な​感受性の​在処に​引き寄せて、​これからも​関坂さんは​働く​ことに​幸せを​感じていく。​一つ​ひとつの​仕事を​通して、​その​幸せが​福井に​新しい​視点の​温もりを​広げていくように。

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ataW
915-0256
福井県越前市赤坂町3-22-1
Tel :0778-43-0009
営業時間: 11~18時
定休日: 水曜日、​木曜日、​年末年始 ※定休日でも​祝日は​営業

文:新井作文店
写真:片岡杏子