退職金制度のある企業に勤めている会社員なら、退職に合わせて退職金が支給されますが、フリーランスや経営者には退職金はありません。
事業を畳んだときや、誰かに継承したあとの生活が気になる事業主も多いでしょう。今回は、個人事業主や経営者が退職金として利用できる小規模企業共済について紹介します。
小規模企業共済とは
小規模企業共済は、国が運営する「個人事業主や企業経営者のための退職金制度」です。
1965年に始まった制度であり、2018年3月末時点で約138.1万人が在籍しています。
小規模企業共済が作られた趣旨は、以下の二つです。
・退職や廃業後の生活の安定、事業再建への備え
・会社員などに比べて、社会保障制度の恩恵が少ない個人事業主や経営者へのサポート
つまり、小規模企業共済は、個人事業主や中小企業経営者にとって一種のセーフティーネットの役割を果たしているといえます。
参考:小規模企業共済とは(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)
共済金はいつ受け取れるのか
共済金を受け取るタイミングは、請求事由が発生したときです。
たとえば、個人事業主の請求事由としては、事業の廃止や事業主死亡、法人成りなどがあります。会社の役員ならば、会社の解散や退任、怪我や病気のタイミングなどです。
なお、共済金は「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」の四種類に分かれており、請求事由によって受け取れる種類が変わります。
掛金の額と支払い方法
月々の掛金は、1,000円から7万円までの範囲で、自分の好きな金額を設定できます。単位は500円刻みです。
掛金の額は変更できるため、始めは少額でスタートして収益が上がれば支払い額を増やす、といったことも可能です。
支払い方法は、個人の預金口座からの振替です。月払い、半年払い、年払いが選べます。掛金を前納した場合、「前納した月数1カ月あたり1,000分の0.9に相当する額」を割り引いてもらえます。ただし、割引を受けた場合は、所得控除の申告額もその分を差し引く必要があるため、気をつけましょう。
加入の要件
小規模企業共済に加入できるのは、「個人事業主」か「従業員が20人(業種によっては5人)以下の中小会社などの役員」です。
具体的には、以下の条件に該当する人が加入できます。
(1)建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等を営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社の役員
(2)商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社の役員
(3)事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が 20人以下の協業組合の役員
(4)常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
(5)常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
(6)上記(1)(2)に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同
経営者(個人事業主1人につき2人まで)
「会社等の役員」とは、株式会社・有限会社の取締役または監査役、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員を指します。
小規模企業共済はその性質から、会社の正社員のように、常時雇用されて給与所得を受け取っている人は加入できません。また、役員であっても、NPO法人や宗教法人など直接営利が目的ではない法人の役員も加入対象外となります。
小規模企業共済のメリット・デメリットとは
こちらでは、小規模企業共済のメリットおよびデメリットを紹介します。
メリット
小規模企業共済のメリットは、以下の三つです。
・会社の退職金制度が利用できない人でも、退職金を用意できる
・節税効果がある
・事業資金の貸付けが受けられる
共済金は、一括で受け取ると「退職所得扱い」、分割で受け取ると「公的年金等の雑所得扱い」になります。満期や満額はないため、受給タイミングを選べるのもポイントです。
節税効果があるのも、大きなメリットです。掛金は税法上では、「全額所得控除」になります。つまり、小規模企業共済の掛金を払っていると、課税対象所得を減らせ、節税につながります。
事業資金の貸付けが受けられるのも、小規模企業共済の特徴です。これは、支払った掛金の合計額内であれば資金を借り入れできる、というものです。資金繰りの悪化や、傷病による入院、災害で被害を受けたときなどに、低金利でお金を借りられます。また、担保や保証人も不要です。
デメリット
小規模企業共済には、以下の点に気をつけなければいけません。
・掛金の納付月数が短いと共済金を受け取れない
・20年未満で任意解約すると元本割れする
前述のとおり、小規模企業共済が受け取れる共済金には「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」の四種類があります。
共済金A: 事業が廃止した、法人が解散した、契約者の亡くなったときなど
共済金B: 主に65歳以上で180か月以上掛金を支払った人向け
準共済金: 法人成り、65歳未満で引退したときなど
解約手当金: 任意契約や12カ月以上掛金の支払いを滞納した場合
掛金の支払いが6カ月未満であれば、共済金Aおよび共済金Bは受け取れません。また、12カ月未満の場合は、準共済金、解約手当金は受け取れません。
そのため、小規模企業共済に加入するなら、少なくとも6カ月から1年は加入し続けるようにしましょう。
また、加入が20年未満の場合、任意解約して解約手当金を受給すると損になります。もし個人事業主から会社員になるような場合は、任意解約ではなく個人事業の廃業を請求事由として、共済金Aを受け取るようにしましょう。
加入手続きの方法
小規模企業共済に加入する場合、必要書類を用意した上で、対応窓口に行って申し込みます。
契約申込書は、資料請求して手に入れるほか、小規模企業共済の公式ウェブサイトから電子データをダウンロードして利用することもできます。
参考:中小機構 資料請求(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)
立場によって申し込みに必要な書類が異なるため、ウェブサイトを参照の上、自身に該当するものを用意しましょう。
必要書類
個人事業主
・契約申込書
・預金口座振替申出書(契約申込書の右側部分)
・所得税の確定申告の控え(事業を始めたばかりなら、開業届の控え)
会社の役員
・契約申込書
・預金口座振替申出書(契約申込書の右側部分)
・履歴事項全部証明書、商業・法人登記簿謄本など役員登記されていることがわかるもの
共同経営者
・契約申込書
・預金口座振替申出書(契約申込書の右側部分)
・個人事業主の所得税の確定申告の控え(事業を始めたばかりなら、開業届の控え)
・個人事業主と締結した共同経営契約書の写し(事業に必要な資金を負担または出資していることが示せるもの。金銭消費貸借契約書・出資契約書の写しでも可)
・報酬の支払い事実が確認できる書類
(社会保険の標準報酬月額通知、青色申告決算書、白色申告決算書および賃金台帳、国民健康保険税・介護保険料簡易申告書のいずれか)
申し込み窓口
・中小機構と業務委託契約を結んでいる団体
商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、事業協同組合、青色申告会など
・金融機関中小機構と業務委託契約を結んでいる金融機関
銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合、商工組合中央金庫および農業協同組合の本支店
小規模企業共済に加入すると、退職や廃業に備えたお金の準備や節税、資金貸付制度利用などのメリットがあります。掛金も無理のない金額を選べるため、ぜひ活用を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆は2019年10月21日時点の情報を参照しています。
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