年俸制のメリットは?残業代やボーナスの取り扱いの考え方

ビジネスオーナーにとって、従業員に支払う給与の形態は、支払う費用を左右するほか、賃金を受け取る従業員のモチベーションにも関わる重要な事項です。賃金形態を考えるうえで大きな分かれ目となるのが「年俸制」と「月給制」のいずれを選択するかという点です。

中には、年俸制を取り入れたいと検討している人もいるのではないでしょうか。年俸制はスポーツ選手やIT企業などのイメージが強いですが、規模を問わずに導入を検討している企業もいます。

今回は、年俸制を導入するメリット・デメリットや、残業代・ボーナスの考え方について分かりやすく解説します。

年俸制とは

年俸制とは、1年単位で従業員の給与を決定する制度です。成果主義と合わせて導入されることが多く、前年の営業成績や業績をもとに翌年の給与額が決定される点が大きな特徴です。

年俸制の対象となる人

年俸制を適用する従業員に制限はありませんが、労働基準法の規制により、労働時間の長さが決まってくるので、いくら年俸制を導入していても残業代や割増賃金は発生します。

年俸制のメリット・デメリット

年俸制を導入するメリット・デメリットを、労使双方の観点から考えてみます。

メリット

企業側にとっては、年俸制の導入により人件費の見通しが良くなるというメリットがあります。また、成績や業績によって給与が決まるので、従業員別の目標管理につなげやすくなります。このことから、モチベーションの高い従業員の能力を最大限発揮できる効果が期待できます。

従業員にとっては、個人の成果がそのまま給与に反映されるので、仕事に張り合いが生まれるというメリットがあります。また、その年1年間の給与は確約されているので、生活上の収支の見通しも立てやすくなります。

デメリット

企業側にとっては、既に年俸額が決まっているので、年度内に業績に大きなマイナスがあっても支出が抑えられないというデメリットがあります。また、成果主義をどのように評価するかという点で公正な評価制度の導入が求められます。毎年給与が大きく変わることも想定されるので、従業員によってはモチベーションダウンにつながってしまう懸念があります。

従業員にとっては、能力次第で賃金の大幅アップが見込める一方、いつまでもその年俸が続く保証がないという不安定感がデメリットになるかもしれません。住宅ローンを考えている場合などは、どのくらいまで大丈夫かの判断が難しくなるケースが想定されます。また、評価制度の内容によっては、年俸額に納得できないまま翌年度を迎える可能性もあります。

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年俸制の導入にあたって気をつけるべきポイント

「年俸制」という言葉のイメージから、

・年に一度決められた賃金を支払う
・業績に応じて毎年年俸を自由に変更できる

というイメージがあるかもしれません。しかし、これらには誤解があります。年俸制は、正しい理解のもと導入しなければ、労使間でのトラブルに発展しかねません。ここでは、導入にあたって気をつけるべきポイントをいくつか紹介します。

支払いは毎月1回以上
「年俸制」という言葉のイメージから、年1回まとめて支払うものとイメージしがちですが、労働基準法第24条では「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。つまり、毎月1回以上支払うことが義務付けられているので、最低でも年俸額を12等分にして支払う必要があります。一般的には、月給制の従業員の給与支払日と合わせて同日に支払われることが多いようです。

年俸制におけるボーナスや賞与の取り扱い
年俸制においても、ボーナスや賞与の取り決めは可能です。ボーナスや賞与の支払い方法については、大きく二つに分けられます。

まず、年俸の一部として支払うパターンなら、年俸を12等分して毎月均等に支払うのではなく、16等分しておいて、16分の1ずつを毎月支払い、夏と冬のボーナス支給に合わせてさらに年俸の16分の2ずつを支払う方法が考えられます(何分割するかという考え方は、自由に決められます)。

また、年俸とは別に賞与を準備するケースもあります。

ボーナスや賞与に関する規定は、就業規則雇用契約書において明確に定めておきましょう。いずれの場合も、求人を行う際には単に「年俸制・賞与あり」と記載するだけではなく、年俸と賞与が別枠なのか、年俸額には賞与が含まれるのか、しっかり伝えておく責任があります。

年俸制における残業代の取り扱い

年俸制でも、労働時間に応じて残業代の支払いが必要です。管理監督者に該当する従業員であれば年俸制でも残業代支給なしで問題ありませんが、それ以外の従業員は労働時間の適切な管理と残業代の支払いが求められます。

参考:年俸制適用労働者にも時間外労働手当を支払う必要があるか(東京労働局)

固定残業代を含む年俸制という形式も取ることができます。たとえば、「時間外労働手当年間100時間分を含む。ただし、時間外労働の有無にかかわらず支払う」というケースです。指定された時間内であれば、残業が発生しても時間外手当の支払いは不要です。もちろん、このケースで100時間を超える時間外労働が発生した場合は、その分の支払いが必要です。

残業代の有無は年俸制に限らず、労使間でのトラブルになりやすいところですので注意しましょう。

年俸額の決定は労使双方の話し合いで

「年俸」という言葉の通り、支払額は毎年変わります。その際の決定権は企業側にあるのではなく、必ず従業員の同意を得て決定する必要があります。やむを得ず減額をする場合、「同意しなければ解雇する」といった強要を行うと、その同意が無効とみなされる可能性もあります。

年俸額の決定で大きなトラブルを生まないためにも、評価基準を分かりやすくしたり、賃金規定で年俸増減のルールを定めたりといった工夫が必要です。

また、当然のことですが、年度内に業績が大幅に下がったからといって、年俸額を勝手に変更してはなりません。月給制の場合は、年度途中に会社の経営状況に応じて基本給が変わることもあり得ますが、年俸制の場合にそれを行なっては契約違反です。

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言葉のイメージに左右されず、導入を検討しよう

言葉のイメージから、残業代は支払わなくていいといった勘違いが起きやすい、年俸制。年俸制は成果主義との相性がよく、上手に取り入れれば業績アップや従業員のモチベーション維持につながります。その一方で一般的な月給制と違う点があることでトラブルになる可能性も秘めています。

導入することでどのようなメリットがあるのかをしっかり検討し、導入の可否を決めるようにしましょう。

執筆は2019年11月25日時点の情報を参照しています。
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