新たなビジネスの立ち上げ資金を集めるために、出資者などの協賛者を納得させる材料のひとつ、事業計画書。飲食店を開業したいといっても、メニューの開発に、広告宣伝やマーケティング、従業員の雇用など資金なしに始めることはできません。そんなときに金融機関などに「出資したい」と感じてもらえるような事業計画書の存在が重要な役割を果たします。
今回は、飲食業にはどんな事業計画書が有効か、その作成方法やヒントを説明します。
事業計画書とは
経営者が第三者から資金提供を受ける場合、まずはそのビジネスが「投融資の対象として価値があること」を認めてもらう必要があります。そのために具体的な事業内容やスケジュール、売り上げ予想などをまとめた資料を作成し、「事業計画書」として資金提供者に提示します。
事業計画書からビジネスの将来性や魅力が伝わり、資金提供者の条件と合えば投融資の対象になります。しかし「投融資の価値がない」と判断されてしまえば、出資を受けられなかったり、出資額が低くなったりします。そのため、事業計画書でビジネスの発展性や収益性を余すところなく的確に伝えることが重要です。
また、事業計画書は不動産契約の際にも役立ちます。オーナーや仲介業者、保証会社によっては事業内容が健全で持続性があるものと判断した上で物件をリースするというケースもあります。まだ開業していないビジネスの場合、最低限の資料として事業計画書を用意することでビジネスへの信頼性を高め、安心して賃貸契約を結んでもらえるようにしましょう。
有効な事業計画書
飲食店を始めるには、さまざまなコストがかかります。店舗物件の取得費用、内装、什器や調理設備の購入、ロゴや看板のデザイン、メニュー開発、名刺やショップカードなどの作成、クレジットカード決済端末の導入、仕入れ用の自動車の購入、広告宣伝、人材採用やトレーニングなどがあります。想定される費用をリストアップして、どれくらいの予算が必要か全体像を把握します。
また、これらは事業計画書に盛り込むためだけでなく、自社のプランをより具体化することにもつながります。
マーケット分析で事業計画を具体化
さらに、事業計画書に盛り込む情報として必要になるのが、同エリアの競合店などの状況を分析した市場調査結果です。自社の事業内容がいかに優れたものであっても、対象となるマーケット全体について理解していなければ、ニーズとズレた価格設定などでビジネスそのものが失敗する可能性もあります。客観的な情報は、事業計画を現実に即したものにするために欠かせないものです。
投融資、補助金の審査に受かるために
客観的な情報も含めてさまざまな情報を基に事業計画書を作成しますが、その一番の目的は投資や融資を受けることです。事業の成功を期待して行う出資の場合、ファンド会社や個人投資家が「返済不要の資金」を提供します。一方、融資は、銀行や信用金庫などの民間金融機関や日本政策金融公庫などの公的機関が「返済の必要な資金」を提供することです。
投融資の審査では多くの場合、まず初めに事業計画書を提出し、書類審査を通過した事業者のみ次に面談に進みます。そのため、将来性や実現性のあるビジネスであり、また融資を受ける場合は返済計画も確実なものであることを、事業計画書の時点で資金提供者にしっかり理解してもらう必要があります。
また、国や地方自治体が提供する補助金や助成金を利用する選択肢もあります。「2018年起業のための補助金・助成金まとめ」の記事もぜひ参考にしてみてください。
事業計画書の必要項目
事業計画書に決められたフォーマットはありませんが、金融機関などが独自の書式を用意している場合もあります。特に指定がない場合、事業計画書に盛り込む要素は以下を参考にしてみてください。
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事業内容
「何を誰に売るか」という最も根本の部分です。明確にイメージが伝わる言葉で、簡潔に提示します。たとえば、「まちの憩いの場となるヨーロッパ式オープンカフェ」「働く主婦の味方になる栄養バランスに配慮したテイクアウトデリ店」などです。 -
ビジョン、ポリシー
料理やサービスの提供を通して、どんな価値を世の中に創造したいか、地域や業界にどんなインパクトを与えたいかといった、ひとつの企業としての理念です。たとえば、「日本で初めて◯◯を提供することで飲食業界に新風をもたらし、新たなトレンドを地域から生み出す」「リーズナブルに栄養バランスの取れた食事ができるお店として、地域の働く世代を応援」などです。 -
強みや特徴
特に融資の場合、借りた資金を返済することが前提のため、返済見通しのないビジネスと判断されたら融資を受けることが難しいでしょう。そこで重要となるのが、ほかの同業者と異なる「強み」を持っていることです。サービスやコンセプトの特徴など、「このポイントがあるから勝てるビジネスである」という理由をしっかり説明しましょう。たとえば、「シニア世代を積極雇用」といった雇用や採用形態で地域や社会に貢献することもお店の特徴といえます。 -
市場環境
出店エリアの同業者のうち、自社のビジネスに特に大きな影響を与えるのは「似た客層」を持つ店舗です。たとえば、高級レストランをオープンするのであれば、同じ価格帯、同じターゲット層を持つ飲食店を出店エリアからピックアップし、調査や分析をした上で、自社を取り巻く市場環境を整理しておきましょう。また、地域の人口動態や法規制なども市場環境に含まれます。 -
経営戦略
開店してただ待っているだけでは売り上げは伸びません。おいしい食事を用意した上で、それをいかにして知ってもらい売っていくかという販売戦略が重要です。自社を効果的にアピールする方法や、ターゲット層を惹きつけるメニュー展開など、ビジネスの「強み」と「売り上げ」を結びつける具体的な方法が、経営戦略といえるでしょう。 -
店舗の運営方法や組織計画
仕入れや衛生管理、人材管理など、具体的なオペレーションです。何が課題やリスクとなり、それをどう防止していくかを説明できることが重要です。安全・安心な仕入れ先を確保し衛生面に十分に注意していること、採用窓口や雇用条件、採用人数、従業員教育の方針などを示し、食品衛生法や労働基準法などルールにのっとった持続可能な経営を行うことを伝えます。 -
スケジュール
店舗の工事や仕入先の決定から、開店に至るまでの予定表です。開店予定日のわからないお店には資金提供するのは難しいでしょう。店舗の内装といったハード面の完成予定日や、人員募集やトレーニングの開始日、広告宣伝のスケジュール、開店後のキャンペーン期間の予定などを盛り込みます。 -
売り上げ・利益予測
メニューカテゴリーごとの販売数、売上高、粗利などの予測値を、月ごと、年ごとにまとめます。表やグラフを使って伝えるとわかりやすいです。 -
損益予測
創業から最初の1年間の損益計算書を、月ごとに予測して作成します。季節要因や地域のイベントなども考慮して予測します。 -
資金計画
物件の取得費用から、仕入れや広告宣伝、その他の経費までを想定し、初年分の月ごとの収支計画を描きます。ここに融資による借入金の返済計画も入れ込みます。希望的観測ではなく、実現可能な計画を立てることが大切です。
飲食店にとっての事業計画書作成ヒント
金融機関や投資家に対して、事業計画書を通じて店舗のイメージを明確に伝えるためには文字だけの羅列にならないよう、料理や店舗のイメージ写真を掲載すると良いでしょう。このとき、実際の料理や店舗とイメージ写真が大幅にかけ離れていないこと、そして明るいイメージのものを使用するよう注意します。ほかにも、以下のようなポイントを心がけて事業計画書を作成しましょう。
•お店の事業内容、コンセプトを一瞬で理解できるようにまとめる
誰もがひと目で理解できるキャッチコピーのようにシンプルに伝わる表現でまとめます。事業計画の核となる部分なので、第三者の意見も取り入れて決めましょう。
• ターゲットがわかりやすく、現実的であるかを意識する
漠然と「多くの人に来てほしい」と考えていても、マーケティングやメニュー開発の方針を決められません。まずはメインターゲットを具体的に想定することで、混雑する時間帯やメニュー構成、人員配置、宣伝媒体などが自ずと決まってくるでしょう。「マーケティングに欠かせない、ペルソナの設定とは」の記事もぜひ参考にしてみてください。
• 時代、ニーズに合う点を強調する
既にまちには多くの飲食店が立ち並んでいます。そのため、どのように差別化を図り、他店より収益を上げるのかを伝えましょう。そこで、自社が時代やエリアのニーズに合致することを強調することで、利益予測を裏付け、資金提供者へのリターンや借入金の返済の確実性をアピールするのもひとつの方法です。
たとえば、働き方の多様化に伴い短時間でも勤務できるような制度を導入する、外国人旅行者のニーズをふまえて多言語メニューを用意するなどです。
すぐには資金調達をする予定がなくても、事業計画書を作成することで、ビジネスプランが明らかになり、改善点や課題にも早期に気づくことができるため、より充実した経営計画が可能になるのではないでしょうか。自分が資金提供者だった場合を想定し、どんなビジネスにお金を出して協力し、育てたいと思えるか、客観的な視点で事業内容やコンセプト、ターゲットなどを見つめ直してみましょう。
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執筆は2018年4月12日時点の情報を参照しています。
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