【商いのコト】ものづくりという職業を長く続けること—益子焼作家「後藤義国」

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol.62
後藤義国さん

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マーケットにはトレンドがある。1990年代、2000年代、2010年代と、人気商品は変わってきた。その商品カテゴリーで最も購買活動をする年齢層の“顔ぶれ”が一定スパンで入れ替わるため、主要購買層が好む商品傾向も変わっていくのだ。

あくまで、購入者側から商品を見るとトレンドになるわけだが、製造者側から商品を見ていくと、そうはいかない。この時代に自分自身は何を作るのか。そして、いくらで誰に販売しようか。ある商品を生み、売上を得て、職業は続き、キャリアになる。

窯業(ようぎょう)も、その例外ではない。1987年から益子焼作家を職業とする後藤さんに、陶器のトレンドとキャリアの間で体験してきたことを尋ねた。

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益子焼のトレンド

益子焼の始まりは、江戸時代末期に遡る。茨城県笠間市で修行を積んだ陶工の大塚啓三郎が栃木県益子町に昔あった大津沢という地域で良質な土を見つけ、鉢や水瓶などの日用品をつくり、誕生した。その後、重要無形文化財技術保持者(人間国宝)にも認定された濱田庄司の登場を境に、全国的な人気を集めることになった。

濱田庄司は、柳宗悦や河井寛次郎とともに民藝運動に取り組んだ人物である。

「一般的な益子焼のイメージは、濱田庄司さんの陶器です。民藝運動の流れを汲んで、つくり続けている作家はまだいます。かと言って、備前焼や萩焼のような固まったイメージはありません。誰でも、何でも、自由に作ることができる。それが益子焼です。濱田さん自身も、それまで益子焼でつくられていなかった食器を焼きました」

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後藤さんが、そう話すように、益子焼の種類は豊富だ。後藤さん自身、陶器の側面に丸刀で削ったような弧を描く白い器を焼いている。作家によっては、カラフルで柄が描かれているものも少なくない。大学でデザインを学んだ後、陶器作家になる若手が増えたことは少なからず影響している。

「洋風の食器に人気が集まっています。生活食器として、だけでなく、インテリアとしても購入する人が増えたのかもしれません。大中小と、サイズもプロダクト品のように整っています。サイズ違いをセットで販売することは流行です。ここ数年、サイズが大事になってきていて、おもしろい」

後藤さんの場合、トンボという木を十字に組んだ道具で陶器の口と深さを測っている。同じ皿だとしても、5寸(15cm)なら取り皿として、6寸(18cm)ならパン皿として、7寸(21cm)なら一人前の料理をのせる皿として販売する。

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「私がちょうどよく感じても、女性にとってはそうとは限らない。どんなサイズが好まれるのか、売れ行きを見ていると、何となくわかります。なぜ、これが売れるんだろうというものもありますし、気に入ったけど売れていないものもある。お客さんとのズレは繊細なんです」

後藤義国さんのキャリア

大学への進学を考えていた後藤さんは、とあるドラマを見たことがきっかけで、焼き物に興味が芽生えた。

「大学受験に失敗して、一浪しているときにドラマを観ました。そのドラマには、焼き物をしながら田舎に暮らす登場人物がいたんです。田舎暮らしに憧れてしまい、勉強は苦手だったこともあって、焼き物をすれば田舎暮らしができるんじゃないかと思ったんですね。親が家業で寿司屋をしていることもあり、私も手仕事をしようかと」

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後藤さんは、益子焼に関わろうと、伝手をたどる。益子町には窯業技術支援センターという指導所があり、そこで窯業を習った後、職人になることが一般的だったが、当時は県外の志望者を受け入れない厳しい時期だったため、後藤さんは別ルートを進む必要があった 。

後藤さんは個人の窯元で益子焼作家という職業に就くこととなった。1987年のことである。

「約7年をその窯元で過ごしました。ひとつの窯元に3年勤務して、仕事を覚えたら、別の窯元に移ることが多いのですが、親が寿司職人だったので、修行は1箇所で10年ぐらい続けるものだと思っていたんです」

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この7年間で、ブラジルから益子焼を学びにきた女性と出会い、後藤さんは結婚する。

「カミさんは、1年で帰る予定だったんですけどね(笑)7年のうち、後半の2年間はカミさんと一緒に独立するため、どこかに土地を借りて窯付きの戸建てを新築するか、ガス釜付きの空き物件が出てこないかと、探しながら働いていました」

1994年、28歳になった頃に空き物件を見つけることができ、後藤さんは夫妻で独立する。当時、益子焼には脱サラして作家を目指す30、40代が少なくなく、歳若い独立だった。

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「茶碗や丼を焼く窯元で働いただけだから、あまり考えずに独立してしまったのかもしれないと、今は思います。技術もその範囲でしか身につけていないなか、自分のスタイルを確立することになりました。もう少し勉強しておけばよかったかなと、反省している気持ちは少なくありません」

後藤さんが自身のスタイルを築くまで5、6年は掛かったそう。その間は、益子陶器市などに出展して生計を立てていた。

「白い器に人気が集まっている頃で、それを私もしようというイメージは浮かんでいました。あとひとつ、何か必要だと感じていたときに、鎬(しのぎ)を試してみたんです。鎬を削った作品があまりなかったので、白物と鎬の食器があると注目が集まりました。おかげさまで、自分のスタイルというイメージを持ってもらえた」

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2000年になる頃だった。同時期に、Eコマースで焼き物を販売する会社と後藤さんは知り合う。焼き物を綺麗なアングルで撮影し、そのサイトは人気を集めていった。サイトの成長と比例するように、後藤さんの「白物+鎬」スタイルの陶器も販売量が増えていったと話す。

益子焼作家という職業のトレンドとキャリアの間

カラフルで模様があるような洋風の食器に人気が集まるなか、「白物+鎬」スタイルの陶器を手がける後藤さん。28歳で独立し、53歳になる現在、益子焼作家として何を思い、どんなことを考えているのだろう。

「今の人たちは、大学でデザインを勉強しているから、デッサンを描き、綺麗にそれをつくります。私が勉強したときは、そういうものだと工場でつくっているようで人気があまりなかった。だから、手仕事で、田舎っぽいものをつくってきたけれど、今は逆。時代のギャップを感じるし、どうしようと考えています」

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「売れないときに、どうすれば売れるんだろうと考えることもあります。民藝運動の流れを汲んで仕事をする人と話していたら、『いいものとは何か』を考え始めました。そうすると、『いい仕事とは何か』も考えるようになったんですね。ただ、具体的に口にすることは難しい。結局は、『自分がいいと思うのがいい』という考えに至りました。

民藝運動の方々は理論ではなく多くのものを見て、好きだと感じたものを見つけていくと言っています。私自身のスタイルも、そのようにして築いた部分が多少なりともあるように感じていて、そういう意味で、私は民藝の系統だと思っているんです」

「ただ、」と後藤さんは自身のスタンスについて言葉を続ける。

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「例えば、茶道に精通している人で、自分で土を掘りに行くことから始める人もいます。そういう人の場合、焼き物に土を掘る手間賃を乗せて販売することになるのですが、私は買った粘土を使う代わりに、量産することで値段を抑えています。だから焼き物はろくろを挽いて薬をかけて焼くという同じものでも、世界は異なります。

とは言え、歳をとって経験を重ねたから、『安いから買う』という評価だけで選んでもらうことに満足はできない。一方で、いくら売上なければ生活できないという数字があるなか、理屈ばかり調子よく話していても売れなくなってしまうとも思うんです。焼き物で生活をしていくというのは、本当に繊細だと思います」

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窯業というマーケットの繊細さに向き合い、後藤さんはこれからについて考えを巡らせている。

「焼き物は、若手作家に人気が集まります。購買意欲が最も高いのは、30代だからです。結婚後、共稼ぎをする家庭で、新生活を充実させるために何かを買う。新しく食器を買い揃えるとき、同世代が作る焼き物と好みが合う可能性は高いですよね。そうして、食器棚がいっぱいになった頃、子どもが生まれて、焼き物とは別のところにお金を使うようになる。

子育てに手離れする頃が来ると、老後に備えてまた別のところにお金を必要とする。だから、30代に合う焼き物をつくれる同世代の若手作家に人気が移っていくサイクルが、自然と生まれているように思うんです。だから、若手と話せば好みがわかるんだろうけど、人に頭を下げて話を聞くのも、どこかみっともなく感じてしまう」

後藤さんは、自身が若手の頃、上の世代も同じような気持ちだったのかもしれないと感じている。本当は、知りたいと思うのなら、聞きに行ったほうがいいことも、よく理解している。

「私を知らないお客さんは『白物+鎬』を真似てつくっている作家のほうを先に知って、その真似を私がしていると思っている人もいます。でも……売れる人が勝ち。以前から、ずっとそう考えています。商売だから。

益子焼作家をアーティストではなく、職業として捉えているんですよ。受賞を目指したり、趣味でつくっているわけではありません。だから、売れないといけない。そこは現実的なんです。偉そうなことを言って、格好つけていてもいけない。でも、効率だけで続ける仕事でもない。その狭間で、品物に特徴が生まれているのかな」

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「そういう個人差は当然生まれて、どれだけ品物に反映されて、お客さんに見てもらえるのかどうか。見てもらえたら、魅力を感じてもらえるのかどうか。そうなっただけでは生活していけませんから、買ってもらえるのかどうか。使ってもらえるのかどうか。使ってみたときに、おもしろくないと言われてしまうのか、楽しいと思ってもらえるのか。

食器づくりのことしか考えないで働いてきたぶん、使ってもらえてなんぼのところがあります。使う人が、料理を楽しみ、季節のものを乗せた際に綺麗だと感じてもらえたら冥利に尽きます。さらに、器を買ったんだから、料理を楽しんでみようと思ってくれたら、うれしい。

そして、盛り付けたら器がもっと美しくなったと感じてもらえるところまで到達したい」

後藤さんの喜びは、いつも使う人とともにある。

「ポットの蓋が欠けてしまった場合、お客さんによってはつくり直すことがあって、ポットを一式送ってもらうんですね。そのポットが使い古されて汚れているのを目にすると、気に入って、使い込んでくれているんだなと。これからも、飽きずに使い続けているものをつくっていきたいと思うんです」

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文:新井作文店
写真:袴田和彦

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