※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
近年ではソーシャルメディアの影響もあり、正しい情報もそうでない情報も一瞬にして拡散されてしまい、「風評被害」という言葉を聞く機会が増えてきたかもしれません。実際に国内のSNS利用者は毎年増えており、2022年時点での利用者数は8,270万人で、普及率は82%に上ります。
参考:2022年度SNS利用動向に関する調査(2022年05月17日、ICT総研)
ネットを通してお客様の声を拾いやすくなったのはうれしい反面、事実とは異なる情報を発信することもたやすくなったといえます。
この記事では風評被害に遭ったときの対処法や、風評被害の影響を最小限に抑える方法などを紹介しながら、店舗経営者などに向けて風評被害にまつわる基本的な知識を紹介します。
目次
- 風評被害とは
- 風評被害が起きる四つのきっかけ
・事故・事件・災害から発生する風評被害
・報道による風評被害
・悪質デマから発生する風評被害
・口コミ・うわさなどから発生する風評被害 - 風評被害対策としてできること
・ガイドラインを策定する
・モニタリング体制を整える
・SNSのガイドラインを策定する
・専門家に相談する - 風評被害に遭ってしまったら?
・事実関係を確認する
・声明文を出す
・情報の削除を依頼する
・警察・法務局・弁護士に相談する
・風評被害払しょくに向けた行動を起こす
風評被害とは?
風評被害とは、安全とされる商品・サービスを提供しているにも関わらず、事件・事故・うわさなどをきっかけに事実とは異なる情報が広がり、人・組織にネガティブな印象を植え付けられてしまうこと、さらには結果として社会的・経済的な被害を受けることを指します。
参考:「風評被害」の社会心理―「風評被害」の実態とそのメカニズム―(東京大学大学院 人文社会系研究科 社会情報学専門分野)
風評被害の対象になるのは、実体のある商品に限らず、サービスや観光地など多岐に渡ります。
誤った情報は主に報道やネット上の口コミなどを通じて拡散されます。巻き込まれたビジネスにとっては、望ましくない方向へと事態が進んでしまうことが大きな特徴です。結果として生じるのは具体的には以下のようなことです。
- お客様が離れていく
- 売り上げが低下する
- ブランドの信頼性が損なわれる
- ブランドのイメージが悪くなる
- 取引先から契約を打ち切られる
- 求人応募者が減る
- 株価が下落する
など
拡散された情報をすぐにキャッチできるスマートフォンの利用時間が伸びていることも、もしかしたら風評被害の深刻化に少なからず貢献しているかもしれません。GREE(グリー)の広告子会社Glossomが発表した「スマートフォンでの情報収集に関する定点調査」からは、2019年と比較して2022年の利用時間は確実に増えていることがわかります。
2019年 | 2022年 | |
SNSの利用時間 | 52分 | 75分 |
検索エンジンの利用時間 | 58分 | 64分 |
メディアの利用時間 | 33分 | 48分 |
このように情報が広まりやすい世の中になってきているからこそ、風評被害の対策方法は発生する前に押さえておくことが大切だといえるでしょう。具体的な対策について説明する前に、まずは風評被害が起きるきっかけを見ていきましょう。
風評被害が起きる四つのきっかけ
風評被害が発生するきっかけには、
の主に四つが挙げられます。事例などを交えながら、それぞれについて詳しく説明していきます。
事故・事件・災害から発生する風評被害
人々が不安を感じやすく風評被害も発生しやすいのが、事故・事件・災害などの出来事です。東日本大震災と原発事故、最近では新型コロナウイルス感染症も例に挙げられるでしょう。事故や災害などに関連した風評被害は払しょくするのに時間がかかるといわれています。自社だけで解決するのは難しく、専門家や行政の力を借りることも少なくないようです。
事故・事件・災害などから発生した風評被害の事例
風評被害と聞いて多くの人の頭に浮かぶのは、東日本大震災と原発事故の発生による風評被害かもしれません。原発事故後は、放射性物質の検査結果が基準値を下回っている農産物や水産物でも、「福島県産」というだけで商品価格が全国平均よりも下回る傾向が長年続いています。2021年には原発事故後、はじめて全国の平均価格を上回ることができた食品があったそうですが、平均価格を下回る食品は未だにあるようです。風評被害を払しょくするには長年の辛抱が必要なことは、この例からもわかるかもしれません。
参考:
・ゼロからわかる福島のいま 「風評被害」(2023年2月14日、NHK NEWS WEB)
・令和3年度福島県産農産物等流通実態調査結果について(2022年3月25日、農林水産省)
報道による風評被害
新聞やテレビなど、影響力のある報道が風評被害のきっかけになることもあります。さらに細かく分けると、以下のような行動から風評被害が発生します。
- 報道者が偏った情報や、過度に不安を煽る情報を発信する
- 視聴者などが報道の意図を誤解する、あるいは偏った切り取り方で報道を解釈する
報道から発生した風評被害の事例
コロナ禍で医療従事者らが受けた風評被害は、連日の報道が少なからず影響しているといえるかもしれません。ある調査によれば、2020年10月から12月の間に全国で700件ほどの被害があり、医療機関に勤務しているという理由だけで暴言を吐かれてしまったり、保育園に子どもの預かりを拒否されたりしたケースもあったそうです。
参考:「近寄るな」「保育園預かり拒否」…看護師らの風評被害、3か月で700件(2021年2月4日、読売新聞オンライン)
悪質デマから発生する風評被害
SNSなどで悪意のある投稿がされ、事実とは異なる情報が拡散されてしまうことも風評被害が発生する理由の一つです。
悪質デマから発生する風評被害の事例
ある中華料理のチェーン店では、SNS上で「ナメクジが発生している」と書かれたことにより、店名が似ていることから全く無関係の中華料理チェーン店にまで悪質なコメントが届くという出来事があったそうです。大きな問題には発展しなかったそうですが、抗議電話が来たりと対応に追われたりする場面もあったようです。
参考:餃子の王将「大阪王将の運営元とは別会社」 “ナメクジ事件”でレビュー荒らしの被害に(2022年07月29日、ITmedia ビジネスオンライン)
口コミ・うわさなどから発生する風評被害
店舗経営者にとって最も身近で起こりやすいのは、口コミサイトや近隣でのうわさなどから発生する風評被害かもしれません。お店の利用客や元従業員などによる悪質な書き込みなどにより、望ましくないうわさが広まってしまったり、店舗に対する信頼度が落ちてしまったりすることはなきにしもあらずです。
口コミ・うわさなどから発生する風評被害の事例
茅ヶ崎市のある飲食店が夏季休暇をとっていたところ、「コロナ陽性者が出たから休んでいるんだ」と、事実とは異なるうわさを立てられてしまったそうです。こうしたうわさの対策として、従業員全員の陰性証明を公表したお店もありました。
参考:飲食店、風評被害に困惑(2020年9月4日、タウンニュース)
風評被害対策としてできること
災害のような予期せぬ出来事を防ぐのはなかなか難しいものですが、風評被害の影響を最小限に抑えるためにできることがいくつかあります。
ガイドラインを策定する
悪質なデマやうわさは、早いうちに対処しないと、どんどんと拡散されてしまう傾向があります。風評被害につながるような出来事が発生したらただちに適切な対策ができるよう、ガイドラインを策定しておきましょう。
モニタリング体制を整える
店舗情報が掲載されているあらゆる箇所を定期的にモニタリングする体制を整えておくことも、積極的に取り入れたい対策法です。
自分の知らないところで悪いうわさが広がり利用客の減少などにつながらないよう、口コミサイトをはじめ、GoogleマップのレビューやSNSなどに悪質な投稿がされていないかなどは、毎日確認できると理想的です。近年ではネット上の悪質な書き込みを検知してくれるツールもあるようなので、予算と相談しながらこのようなツールの導入を検討してみてもいいかもしれません。
また、口コミサイトなどで誹謗中傷を受けた場合には、通報をすると投稿を削除してもらえる可能性が高いことも覚えておきましょう。飲食店の場合、「まずい」など評価に関する投稿だと削除対象になりにくいですが、「夜も眠れないようにしてやる」など明らかに悪質な投稿であったり事実とは証明できないような書き込みがあったりした場合には対応してくれるサイトが多いようです。
SNSのガイドラインを策定する
自社のSNSアカウントが炎上してしまわないためのルール策定もそうですが、従業員個人による発信にもある程度のルールを決めておくと安心です。
SNS上でのトラブルを防止するには、以下にまつわる規則は定めておくといいでしょう。
- 自社に関わる情報発信の規則
- 顧客・取引先の情報にまつわる規則
- 誹謗中傷にまつわる規則
- 機密情報にまつわる規則
- 不適切な発言にまつわる規則
- プライバシー保護にまつわる規則
など
日本赤十字社をはじめ、さまざまな機関がソーシャルメディアガイドラインを公開しているので、どこまで細かく記載しておくべきかなど迷いが生じたときは参考にしてみるといいでしょう。
専門家に相談する
風評被害について知れば知るほど、どこからどこまで、どれくらい徹底して対策を講じればいいのだろうと頭を抱えてしまう人もいるかもしれません。そのような場合には以下のような窓口に相談をするのも一つの方法です。
- 弁護士
- 警察署
- 風評被害対策業者
風評被害対策事業者では、企業のマイナスなイメージにつながるウェブサイトの表示順位を下げる「逆SEO対策」に取り組んでいるところが多いようです。なかにはSNSのガイドラインの作成までサポートしてくれる事業者もいます。まずは実績などを見ながら決めていくと安心かもしれません。警察署は無料で相談に乗ってくれるので、対策への第一歩として検討してみてはいかがでしょうか。
風評被害に遭ってしまったら?
実際に風評被害に遭ったときにするべきことを見ていきましょう。
事実関係を確認する
風評被害の発端となる投稿などがどれだけひどい内容だったとしても、まずは冷静になり、事実関係を確認する必要があります。内容を確認しないまま事実関係を否定し、後に自社の確認不足だったことが発覚したら、余計に印象が悪くなる可能性が高いためです。対処に当たる前に必ずこのステップを踏むようにしましょう。
声明文を出す
事実関係の確認を終えたら、事実とは異なる情報が拡散されている旨を記載した声明文を速やかに出しましょう。声明文は自社のホームページやSNSアカウントなど、多くの人の目に留まる場所に掲載することが大切です。
この際にホームページの作成を外部に委託していると掲載までに少し時間がかかってしまうかもしれませんが、たとえばSquareのウェブサイト作成機能を使用すると、専門知識がなくてもいつでも簡単に自社で掲載内容を修正することができます。
Squareのウェブサイト作成機能を使うにはアカウントが必要になりますが、無料プランから利用できるので一度使い心地を試してみてもいいかもしれません。
また、事実を多くの人に伝えたい気持ちから、悪質な投稿に返信をして意見表明をしたい衝動に駆られるかもしれませんが、ユーザーとの直接のやりとりはあまり好ましくないようです。事態を悪化させないためには、意見表明を自社のSNSアカウントやホームページなどにとどめておくのが安全でしょう。
情報の削除を依頼する
掲載先の運営会社に依頼をすることで悪質な投稿を削除してもらえることもあります。
少しでも時間があいてしまえば、瞬く間にあらゆるサイトに転載されてしまうことが考えられるので、削除依頼も声明文の公開と同様に速やかに行う必要があります。削除に応じてもらえない場合には、弁護士に相談することになるでしょう。
警察・法務局・弁護士に相談する
風評被害が発生した際に、どこに相談するべきかは迷うところかもしれません。相談先として挙げられるのが多いのは警察、法務局、弁護士です。それぞれの役割を簡単に見ていきましょう。
法務局
国民の基本的人権の擁護を役割とする法務局は、無料で相談できる窓口の一つです。削除依頼についてアドバイスをしてくれるほか、掲載先が削除依頼に応じなかった際には法務局が代わりに削除要請をすることもあるようです。各都道府県の法務局はこのページから検索できます。
警察
事件として取り扱ってもらいたい場合には、警察に足を運び「被害届」あるいは「告訴状」を提出します。被害届も告訴状も犯罪にあたる被害に遭ったことを申告する書類ですが、被害届には捜査を実施することや加害者への処罰を求める意思表示はなく、告訴状にはその意思表示があります。ただしどちらも必ずしも受理されるとは限らず、告訴状は被害届よりも受理されるハードルが高いとされています。
弁護士
「『「殺すぞ』とウェブサイトのコメント欄に書き込みされた」など命が脅かされるほどのケースでない場合、警察では捜査を行わない可能性があります。もし警察に被害届などが受理されなかった場合には、弁護士に頼ることもできるでしょう。数十万円ほどのコストはかかりますが、風評被害につながる発言をした人物を特定したり、損害賠償などを請求したりしたい場合には弁護士に相談するといいかもしれません。
そのほかにも以下のような窓口に相談することができます。
- 違法・有害情報相談センター
- 誹謗中傷ホットライン
- 風評被害事業者
風評被害払しょくに向けた行動を起こす
上記の対応を行ったあとは、風評被害の払しょくに向けて、損なわれてしまったビジネスイメージを回復させるためのアクションを起こします。たとえば福島県産の食品を販売する事業者は、「放射性物質の検査はちゃんと行われているのか」などと不安に思う消費者に向けて、安全性をアピールしてきました。
参考:【解説】東日本大震災・原発事故「風評被害」 ゼロからわかる福島のいま 第7回(2023年2月15日、NHK NEWS WEB)
このように消費者がどのような点に不安を抱くかを明確にし、その不安を解消する情報を提供し、情報の透明化を行っていくことが理想的かもしれません。
この記事では事例などを交えながら、風評被害の概念、対策法、対処法を見てきました。予期せぬ出来事を未然に防ぐことは難しいかもしれませんが、事前に対策をしておくことで万が一被害に遭ったときにも冷静に、速やかに対処できるようになるでしょう。相談先も豊富にあるので、今の対策で十分か不安を感じている場合には専門家などに悩みをぶつけてみてもいいかもしれません。風評被害発生時にやるべきことをある程度理解し、慌てずに対応できる体制を整えておきましょう。
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執筆は2023年3月20日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
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