規模の小さなビジネスには関係ないようにも思える国際会計基準ですが、実はビジネス規模を問わず、経営者としては押さえておきたい会計ルールです。日本では国際会計基準は主に、上場企業で採用されることが多いのが現状ですが、大手や海外企業との取り引きなどの際に中小企業にもその知識が求められます。中小企業への国際会計基準の影響にはどんなものがあるか、日本会計基準との違いを比較しながら考えてみましょう。
そもそも国際会計基準とは?
企業の決算書(財務諸表)は、会計基準に基づいて作成されます。会計処理や会計報告に統一された基準があることで、決算書の書式はもちろん、具体的な内容や数字の計算方法が企業間で統一され、会社間の業績が比較しやすくなるというメリットがあります。
複数ある会計基準の中で、昨今、世界的に大きな存在感を示しているのが国際会計基準です。ヨーロッパを中心に多くの国で採用されている国際会計基準は、IFRS(アイファース、イファース、International Financial Reporting Standardsの略)とも呼ばれ、グローバルビジネスにおける「会計の共通言語」ともなり得るスタンダードです。複数国間において統一された会計基準を持つことでグローバルビジネスの円滑化が進むと考えられ、国際会計基準は世界130カ国以上で正式に採用され、日本では2010年3月期から任意適用が進められています。
日本でも従来の日本会計基準に換えて国際会計基準を導入する、あるいは導入を検討する組織が上場企業を中心に年々増加する傾向にあります。
参考:
・IFRSコンソーシアムIFRSとは(IFRSコンソーシアム)
・会計基準を巡る変遷と最近の状況(金融庁)
なぜ国際会計基準を採用するのか?
日本の大手企業などが国際会計基準を導入する背景には、以下のようなメリットがあります。
- 海外に子会社を持つ場合、会計管理や業績比較がしやすくなる
- 海外からの投資受け入れや資金調達が円滑になる
経済のグローバル化が進む現代社会において、今後も国際会計基準の価値はますます重要視されることが予想されます。既に世界のスタンダードである国際会計基準を理解することは、海外企業との取り引きやコラボレーションなどの可能性を踏まえ、規模に関わらずどのビジネスにとっても不可欠となってきています。
国際会計基準と日本の会計基準の違い
日本では国際会計基準も含め、以下の四つの会計基準のうちいずれかの採用が認められています。
- 日本会計基準(日本基準)
- 国際会計基準(IFRS)
- 米国会計基準
- J-IFRS
特に知っておきたいのが国際会計基準と日本会計基準の違いです。日本会計基準が詳細な規定・基準値を設定する細則主義(ルールベース)という考え方に基づいて作られているのに対し、国際会計基準の最大の特徴は原則主義(プリンシプルベース)。原則主義により、国際会計基準では財務報告にまつわる原理原則をはっきりと明示し、可能な限り例外規定を排除していることにより、わかりやすくシンプルな財務情報を作成することが可能になります。
実際に国際会計基準を導入している企業とビジネスをする上で、知っておきたいのは以下のような相違点です。
1. 実態寄りの「売上計上」
日本会計基準では契約書単位で売上を考えるのに対し、国際会計基準では実際の売り方、商品・サービスの使われ方が重視された計上方法を採用しています。たとえば、国際会計基準適用の企業が100個まとめて同じ商品を同じ会社から購入する場合、1回の契約であっても1枚の契約書ではなく、商品を使う支社ごとの数量や金額を記した複数の契約書が必要になる可能性があります。
同じ理由から、売上を計上するタイミングも違ってきます。従来、日本では販売先に商品を出荷した時点で売上を計上する形を多くの企業が採用していましたが、国際会計基準では商品が到着した日、または納品の検収印をもらった日が売上計上の日付となるという違いが生じます。
2.「のれん」を償却しない
企業買収をした場合、日本の会計基準では20年以内でのれん代を規則償却していきます。しかし国際会計基準では、のれん代の償却を行わない代わりに、価値が下落したときに減損処理を行います。会計期間ごとに厳格な減損テストがあり、価値の変動をチェックします。
3.「固定資産」の減価償却にかかる年数
日本会計基準では、企業が固定資産を取得した場合、建物、船舶、工具などの種類に応じて、あらかじめ法人税法で定められた耐用年数に従って減価償却を計上します。しかし国際会計基準では、固定資産の耐用年数を決めるのは取得した企業側です。そのため、固定資産を取得した時からいつまで使用するかという企業の計画に基づいて、減価償却を行います。
この他にも、国際会計基準と日本会計基準との間にはさまざまな相違点があります。相違点を理解し、柔軟に対応することで、国際会計基準適用企業とのビジネスを円滑にしましょう。
国際会計基準適用企業とビジネスをする際のポイント
国際会計基準適用企業とビジネスをする上で、特に注意すべき点は販売先の「売上計上」に関わる部分です。たとえば、自社が国際会計基準適用のA社と日本会計基準適用のB社に対して同じ商品やサービスを販売する場合、異なる契約方法を採用する必要が出てきます。
例1:商品100個を販売代金
A社、B社ともに、一括購入するデスク100台を、本社と支社で分けて使うとします。その場合、契約方法は以下のように異なります。
- A社(国際会計基準適用)……本社と支社それぞれで利用する数、金額を明示して別個に契約
- B社(日本会計基準)……一括購入のため、1契約
例2:3支店分のサービス代金
A社、B社ともに、3支店分の掃除サービスを一括で発注するとします。その場合、契約方法は以下のようになります。
- A社(国際会計基準適用)……各支店ごとに3契約
- B社(日本会計基準)……一括発注のため、1契約
例3:商品とサービスの代金
A社、B社ともに、印刷機器と一緒にオプションのメンテナンスサービスを同時に申し込むとします。その場合の契約内容は以下のように異なります。
- A社(国際会計基準適用)……商品とサービスで別個の契約
- B社(日本会計基準)……商品とサービスをあわせて1契約
いずれのケースも、契約書のやりとりなどは本社で一括して担当してくれると考えられますが、国際会計基準適用企業が販売先の場合は、契約書や領収書を契約ごとに個別に作成するなどの対応が必要になります。そうした背景を事前に知っておけば、余裕を持って対応することが可能です。
しかし日本では現在、日本会計基準を国際会計基準に少しずつ近づけていくコンバージェンスと呼ばれる段階的な基準の変更が行われており、2021年4月からは、国際会計基準と同様の売上計上の仕組みが上場企業に適用され始めます。例で挙げたB社が、A社を同じ対応を求めるようになる、ということです。
こうしたコンバージェンスによる変更は今後も起こりうるため、販売先の企業から「今月から国際会計基準で契約が必要」といった対応の変更が求められる可能性も考慮に入れておきましょう。
国際会計基準適用企業を相手にしたビジネスは今後、海外企業とのビジネスも含め、機会の増加が考えられます。コンバージェンスの状況も含め、国際会計基準についての情報収集と同時に、販売先企業に対して契約方法の変更の必要性がないかなどのコミュニケーションを図りながら、柔軟に対応していきましょう。
参考:企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表(企業会計基準委員会)
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執筆は2020年5月15日時点の情報を参照しています。
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