裁量労働制とフレックスタイム制の違いとは

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

民間企業や行政で働き方改革が進む中、従来の労働時間制とは異なる「裁量労働制」や「フレックスタイム制」が注目されています。経営者の中には、導入を検討している人もいるかもしれません。

今回は、この両者の違いやそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。

参考:労働時間・休日(厚生労働省)

裁量労働制とは

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裁量労働制は、あらかじめ決められた時間で働いたものとみなす制度です。たとえば「1日に8時間働いたものとみなす」ということを企業と従業員の間で決めてある場合、実際に1日に働いた時間が7時間であっても9時間であっても、従業員は「8時間働いた」とみなされます。

残業代はちゃんとあり、みなし時間が8時間を超える場合や、深夜労働・休日出勤などの場合は、時間外手当として割増賃金が払われます。

「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類がある

裁量労働制には2種類あります。

専門業務型裁量労働制とは、業務の遂行方法や手段、時間配分が働く人の裁量に大きく委ねられるタイプの業務に適用される制度です。厚生労働省令および厚生労働大臣告示により、全部で19業務が適用対象となっています。例として、記者やデザイナー、証券アナリストなどが含まれます。

参考:専門業務型裁量労働制(厚生労働省)

企画業務型裁量労働制とは、企業の本社などで企画や立案、調査・分析を行う従業員を対象にした制度です。導入要件が専門業務型裁量労働制より厳しく、労使委員会で5分の4以上の多数決による議決を経なければなりません。

参考:企画業務型裁量労働制(厚生労働省)

フレックスタイム制とは

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フレックスタイム制とは、出勤時間と退勤時間を従業員が自分で決められる制度です。ある一定期間(清算期間)の総労働時間をあらかじめ設定しておき、その範囲の中で自由に働くことができます。

たとえば、1ヶ月で40時間働くと決めたとすると、月曜は8時間、火曜は5時間、金曜は10時間といったように、日によって働く時間を変えることが可能になります。

フレックスタイム制を導入している企業は、決まった時間帯の中ならいつ出勤・退勤してもいい「フレキシブルタイム」と、必ず出勤していなければならない「コアタイム」を分けて運用しているところが多いです。コアタイムは必須ではないため、無くても構いません。

参考:効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入(厚生労働省)

裁量労働制とフレックス制度の違い

より具体的に両者の違いについて見ていきましょう。

導入手続きが違う

導入する際の手続きが異なります。裁量労働制のほうが、より複雑な手続きになります。専門業務型裁量労働制については、労働組合などと労使協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが必須です。企画業務型裁量労働制は前述のとおり、労使委員会の議決が必要です。

それに対して、フレックスタイム制は、就業規則に出勤・退勤が自由になる旨を記載し、労使協定を締結するだけで導入できます。

対象範囲が違う

裁量労働制は、前述のとおり、どちらも適応できる業務や仕事内容が決まっています。どの従業員に対しても使える制度ではありません。

一方で、フレックスタイム制には、業務内容などの制限はなく、どの業種の従業員にも適応できます。ただし、適用が向いているものと向いていないものがあるので、注意が必要です。

向いている職種が違う

裁量労働制は、いわば時間ではなく成果に焦点を当てた制度です。「長く働けば働くほど成果が出る」とは限らない職種に向いていると考えられます。研究職やデザイナー、コピーライターなどがわかりやすい例でしょう。

フレックスタイム制は、個人での業務が中心となる職種に向いていると考えられます。逆に、大勢と連携が必要な職種は相手の勤務時間などに影響されるため、向いていないといえるでしょう。

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導入にあたってのメリット・デメリット

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両者の違いを明確にしたところで、それぞれのメリット・デメリットを確認しましょう。

裁量労働制のメリット

従業員側としては、仕事のやり方や時間配分を自分で好きなようにコントロールできます。仕事が早く終われば、その分早く帰れるので、効率や生産性の向上にもつながるでしょう。

企業側としては、あらかじめ「みなし労働時間」が設定されているため、人件費を算出しやすくなります。

裁量労働制のデメリット

従業員側としては、実際の労働時間が「みなし労働時間」よりオーバーしても、残業代が支払われないリスクがあります。また、従業員のみなし労働時間に見合わないようなタスクを任されると、長時間労働になりやすくなってしまいます。

企業側は、各々の従業員の能力・業務の特性を把握した上で、「みなし労働時間」内に収まるようなタスクの量を任せ、長時間労働にならないように一層気を遣う必要があります。導入にあたっては、社内の状況を的確に把握し、労務管理ができる体制が必要だと考えられます。

フレックスタイム制のメリット

従業員側としては、自らが出勤時間を決められるため、通勤ラッシュを避けることができます。満員電車や渋滞にあわないだけで、体力的にも精神的にも負担を軽減できるでしょう。

また、日によって労働時間を調整できるため、プライベートを充実させることもできます。ある日は子どものイベントや習い事があるので早めに退勤し、別の日にその分長く働くなど、自分のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。

企業側としては、働きやすさを重視する優秀な人材に選ばれやすくなり、定着率が上がる可能性があります。また、残業時間の削減効果も期待できます。清算期間の総労働時間で計算するので、たとえ1日8時間を過ぎたら即残業とはならず、一日単位での残業代を減らせる可能性があるのです。

フレックスタイム制のデメリット

企業側としては、従業員が不在がちになる可能性があります。取引先への対応が早急に必要なときに対応できる従業員が不在の場合、下手をすれば、信用を失うリスクがあります。

また、従業員同士のコミュニケーションが少なくなる可能性も考えられます。チーム内の連携がスムーズに取れず、業務が進みづらくなるかもしれません。

加えて、個人に時間の裁量を委ねる制度なので、自己管理が上手できず、時間にルーズになってしまうリスクも含んでいます。導入にあたってはコアタイムを活用するなど、マイナス面をフォローできる制度運用が必要だと考えられます。

似ているようで異なる裁量労働制とフレックスタイム制。どちらも、それぞれにメリットとデメリットがあります。導入する際は仕組みをよく確認し、自身のビジネスに合っているほうを選びましょう。


執筆は2018年10月3日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash