個人の嗜好や買い物傾向を重視したOne to One マーケティングは、AIなどITの発展に伴い、今後さらなる普及が予想されます。そうした状況の中、中小企業や個人事業主はOne to One マーケティングをどのように活用していくことができるのか、そもそもOne to One マーケティングとは何か、そして実践方法やメリットなどを詳しく解説します。
One to One マーケティングとは?
One to One マーケティングとは、パーソナライズド・マーケティングとも呼ばれ、その名の通り個人を対象とし、個人に最適化したマーケティングのアプローチです。「One to One」、つまり1人から1人へと名付けられたマーケティング手法が普及する背景として、マーケティングの主流がマスからパーソナライズへと移り変わりつつあることが挙げられます。
情報化社会で人々の願望は「みんなと同じものが欲しい」という価値観から「みんなと違うものが欲しい」「自分の個性を表現したい」「自分だけに合うものが欲しい」と変化しています。つまり、マス向けの広告だけではもはや顧客の心を掴むことができない時代といえるでしょう。
そこで注目されているのがOne to One マーケティングです。One to One マーケティングでは、顧客個人の好み、購買履歴、来店時間、利用のシチュエーションなどを把握し、それらの情報を効果的に生かしたマーケティング施策を展開します。AIなどのITソリューションを投入したOne to One マーケティングに注目が集まりがちですが、実際には中小規模のビジネスでも実践可能で、個々の顧客の嗜好や動向を把握しやすい事業においてこそ、One to One マーケティングは真価を発揮します。
One to One マーケティングの展開方法
One to One マーケティングの実践方法としては、以下の五つが広く知られています。
・レコメンデーション
・メール・ダイレクトメールの最適化・リターゲティング広告
・マーケティングオートメーション(MA)
・ランディングページの最適化
この中でも特に、レコメンデーションとメール・ダイレクトメールの最適化は中小企業や個人事業主にも実践しやすい手法であるため、One to One マーケティングとの関係性を詳説します。
One to One マーケティングとレコメンデーション
レコメンデーションとは、いわゆる「おすすめ」の機能です。Eコマースサイトを思い浮かべるとわかるように、顧客が閲覧した商品や購入した商品の情報から、「この商品を買った人はこんな商品にも興味を持っています」といったコメントと併せて別の商品をおすすめし、追加購入や今後の売り上げにつなげるマーケティング手法です。
オンラインショッピングだけでなく、店舗で関連商品を近くに並べる、同時購入率の高い商品を同じタイミングでセール対象にするといったことも、レコメンデーションの一例です。
たとえばマタニティグッズを購入した顧客であれば、育児本や新生児向けのベビー用品もおすすめの対象となり得ます。この場合、One to One マーケティングでは、ベビー用品のセールの案内やクーポンを全顧客に送るのではなく、おすすめ対象となる顧客だけに提供することで、販促アプローチと購買をマッチさせます。
この際、過去のマタニティ用品購入者の履歴情報から、追加購入や併売率の高い商品をおすすめすることで、One to One マーケティングの効果をより高めることも可能です。
One to One マーケティングとメール・DMの最適化
多くの店舗・企業が活用するメール配信やダイレクトメール(DM)送付も、One to One マーケティング用にアレンジすることができます。一種類のメールマガジンやDMを全ての顧客やユーザーに送るのではなく、あらかじめ複数種類の情報を用意することで、さまざまな嗜好の顧客に対応しやすくなります。
メールマガジンや不定期配信については、最初の登録時に興味のある商品や情報カテゴリーを登録しておいてもらうことで、顧客の希望に合った内容を提供できます。DMも、「数打てば当たる」方式ではなく、当初の登録目的に合わせて送ることで、ヒット率を上げることが可能です。
複数種類のメールマガジンやDMといったコンテンツを用意することは、一種類より明らかに手間や時間を要します。それゆえ、いきなり多数のバリエーションを作るのでなく、まずは年代や家族構成、過去の購入商品の履歴などを基に顧客情報を二つや三つなど少数のカテゴリーに分け、One to One マーケティングを始めてみましょう。
顧客に不要な情報を送って効果が出ないよりも、より厳選したタイミングで最適な内容を届けることで、マーケティングの精度は高まり、結果的に訴求効果の高さを実感できます。
One to One マーケティングを取り入れるメリット
では実際に、One to One マーケティングはどのようなメリットをもたらすのでしょうか。One to One マーケティング施策の具体例を基に、店舗や企業、そして顧客へのメリットを考えてみましょう。
注文履歴やウェブサイトの閲覧履歴といった顧客の利用情報を基に、それぞれの顧客に最適なクーポンを提供することで売り上げを伸ばす方法があります。たとえば飲食店なら、会計時にメンバーシップカードをスキャンしてポイントを付与しながら、同時にオーダーしたメニューや来店時間、人数などを情報と結びつけることが可能です。そこで、たとえばある顧客が幼児を連れたママ同士のグループで平日午後3時頃に来店しドリンクとスイーツを注文することが多いとわかった場合、今後も同時間帯に同様のメンバーで来店することが予想されます。
そこでOne to One マーケティングとして、平日の午後のみ使える新メニューの割引クーポン券を提供します。すると、「普段は頼まないタイプのメニューだがクーポンがあるなら」と注文が促進され、いつもの来店時に新メニューを味わってもらうきっかけになり、店の新たな魅力を知ってもらうことができます。同時に、1回の来店での利用金額をアップしてもらえる可能性もあります。
平日午後にしか来店しない顧客に対し、週末のディナータイム限定のクーポンを配信したり、子連れ向けではないお得情報を提供したりしても、顧客の心には響かず、むしろ「その他大勢の顧客と同一に扱われている」という印象すら残しかねません。つまり、One to One マーケティングを活用することで、店舗・企業サイドと顧客サイド、双方に以下のようなメリットがあることがわかります。
店舗・企業サイドのOne to One マーケティングのメリット
・顧客一人ひとりに最適化した販促で、顧客満足度を高められる
・ピンポイントに狙いを定めることで販促の費用対効果がアップ
・効果的な施策で売り上げがアップ
・顧客理解が深まり、商品開発やマーケティング戦略に役立つ
・顧客グループ単位の施策で、混雑緩和や売り切れ防止などのコントロールも可能
顧客サイドのOne to One マーケティングのメリット
・自分の利用頻度、利用内容に合った販促を受けられる
・「その他大勢」ではなく「特別な1人」の顧客であるという満足感を得られる
小規模事業者でもできるOne to One マーケティング
One to One マーケティングは、その手法によりさまざまなビジネス規模で実践可能です。たとえば地域密着型の衣料品店が、顧客のファミリーの構成や年齢を把握し、子どもの七五三や入学式などのタイミングで適した衣装をおすすめすることもOne to One マーケティングといえます。このように、個々の顧客ニーズに素早く対応できる中小ビジネスはOne to One マーケティング向きで、もし販促にミスマッチが起きた場合も細やかな対応がしやすいため、すぐにアプローチを修正しやすいというメリットもあります。
ぜひOne to One マーケティングを戦略的に取り入れ、ビジネスの価値と顧客満足度を同時にアップさせていきましょう。
執筆は2019年8月7日時点の情報を参照しています。
*当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
*Photography provided by, Unsplash