【商いのコト】 新しいリサイクルのあり方が、新しい世界を生み出す「たんすの肥やし」

つなぐ加盟店 vol.83 たんすの肥やし 中森陵さん

古い道具を直して使えるようにしたり、廃材を使って新しい家具を生み出したり。最近はリサイクルが盛んだ。ところが、ただ古いものを再利用するだけではなく、ひと手間かけて新しいものを生み出す方が面白いと考えた人がいた。鹿児島で「たんすの肥やし」を営む中森陵さん。

“NEW RECYCLE”をコンセプトに、古い道具や生活雑貨、家具などを販売している。ただ古いものを磨き直して中古の品として使うのではなく、新しい価値を加えて違うものとして提示すること。作家の手を入れてまったく違った魅力ある品に昇華させたり、本来捨てるはずのパーツを用いた作品にしたり。

古い骨董品を仕入れることもあるが、中森さんの感性によるセレクトが面白く、「たんすの肥やし」に並ぶと、どんなものも不思議と統一感をもって見えた。ギャラリーも備える、ニューリサイクルの店「たんすの肥やし」を訪れた。

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振れ幅のある店に

鹿児島県鹿児島市上谷口町。その店は、市立の総合運動公園の敷地内にある。もとはうどん屋だったという古民家風の建物の前には「たんすの肥やし」の暖簾がかかっている。
ガラリと戸が開いて、ベレー帽をかぶった中森さんが、出迎えてくれた。

「初めて訪れた時、この場所、妙な違和感があって面白いなと思ったんです。もともと繁華街に店をもつ気はあまりなくて、広くスペースを使える方がいいなと。置くものにも遊びがもたせられるので。これはくだらないけど面白いと思えるものと、やべぇこれホントにかっこいいって思えるものと両方ある店の方がいい。マニアックに走りすぎても駄目なんですが、振れ幅のある店にしたかったんです」

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たしかに店内は広く、古道具を置いてある物販のスペースと、喫茶、ギャラリーも併設されている。商品としては家具や食器、衣類、何に使うのかよくわからない装飾品や置き物など、さまざまなものが置かれている。ジャンルはさまざまだが、不思議と店全体は一つの世界観を醸し出していた。

「たとえばこのアイヌ彫りの熊の彫刻、新築祝いにつくられたものらしいんですが、スゴくないですか?一体誰がこんなものつくったんだろうって。一本の木から掘り出してあって、躍動感が半端ない。生活に必要なものではないけれど、すごく面白い」

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何屋かわからない方が面白い

ふつうの骨董品屋や古道具の店のように、一般客からの買取はしていない。すべて中森さんが独自の感性でセレクトする。

「仕入れは基本、オークションです。店に置くのはこれは面白い!と思ったものか、これは売れる!と思ったもののどちらか」

家電にしても、リサイクルショップのようにテレビや冷蔵庫と何でも揃っているわけではなく、ミシンやレトロで可愛い炊飯器などはあるが、いずれもインテリアとして置けそうなもの。ほかにも自転車の車輪がオブジェのように飾られていたり、大きな古い竹カゴ、鹿児島の田んぼの神様「田の神さま(たのかんさぁ)」が鎮座しているなど、店であるとはいえ、展示場のようでもある。

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「民芸も好きだし、プロダクトデザインも好き。何屋かわからないと言われるのは全然OKで、むしろその方が面白いなと。

少し前までは専門店の方がかっこいいという時代がありましたけど、これからはそれはイケてないんじゃないかと思っているんです。たとえば20万円の靴にはその値段がする理由があって。物以外のサービスも込みでの20万円。それを体験したことがないのに、インターネットの情報で知った気になっている若い人たちが多いなと思って。それが悪いってことではなくて、そういう時代なので、これからは20万円の価値を伝えるより、店でリアルにものと出会った時のインパクトや爆発力をお客さんに感じてもらう方が大事かなと思うんです」

必要なものは生活の中にあふれていて、情報も得やすくなっている。だからこそ、店は知る場というより、新しい出会いや刺激を受ける場として面白さを発揮できる方がいい、ということかもしれない。

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新しいリサイクルのあり方、New Recycleとは?

“新しいリサイクルのあり方を目指す”というのが、たんすの肥やしのスタンスだという。具体的にはどういうことなのだろう。

「骨董品屋のように、ただ古いものをきれいにして売り物にするのではなくて、古い道具や廃材があったとして、それをもとに作家さんが発想をふくらませて新しい価値を加えたり、まったく別のものになるような、そんなリサイクルができたらいいなと思っているんです」

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取材で訪れた日は新しい展示が始まる初日だった。この展示内容がまた、とても面白かった。陶芸家・城雅典さんの代表作、リング状の花器をつくる過程でどうしても出てしまう丸い陶器の板。ふつうなら廃棄されるこの端材に、紙版画家の中原みおさんが和紙染という特殊な技術を使って絵付けした作品が展示されていた。

「誰かがつくったものをただ並べるセレクトショップにしたかったわけじゃないんです。つくり手にとっても面白い素材を僕らが探して、新しい刺激や挑戦になることが提示できたら面白いなと。こういうのあるんだけど、どう?って。遊びながらいいものができたりすることも多いですし。そうした化学反応を引き起こせる店になったらいいなと思っています」

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いい時間を過ごせる、“喫茶去(きっさこ)”の文化

独立する前は、衣料品や雑貨のセレクトショップで働いていたという中森さん。

「店舗マネージャーをしながら、展示の企画、商品開発などを手がけていました。作家さんに依頼していろんなものをつくってもらう仕事で、クラフトマンとの横のつながりもたくさんあったんです。鹿児島にはもう10年以上続く『ash Design & Craft Fair』というクラフトフェアがあって、ここで生まれたつながりも多いですね」

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いつかは独立したいという思いがあり、たんすの肥やしをオープンしたのは2018年7月。オープン以来、毎月のように展示企画やライブなどのイベントを開催してきた。
訪れるのは、どんなお客さんが多いのだろう?

「展示内容によってだいぶ客層が変わります。今やっているものは可愛い品が多いので、インスタでの反応をみても女性が多いんですが、一つ前の企画では木彫刻のオブジェの展示をやって。一つ10〜20万円するもので、男性のお客様が多かったですね」

集客はSNSや、場合によってはちゃんとDMを制作する。前回の展示の際は、一人ひとりに手紙をしたためたのだそうだ。

「お店のお客さんには、自営業の方が多いです。飲食店や美容院をやっている方など。店のインテリアになるものを求められたり」

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これまでは物販とギャラリーのみの展開だったが、2020年2月より喫茶も始めた。営業時間も11〜17時に変更し、ランチも用意する予定だという。

「仏教用語に喫茶去って言葉があるんですが、ちょっとお茶でも飲んでゆっくりしていけばという意味で。カフェとはちょっと違って、じっくりいい時間を過ごそうってことなんです。お茶しながら、ギャラリーの絵をゆっくり眺めたりできたら最高じゃないですか」

今、お店は中森さんと奥さんの二人で切り盛りしていて、中森さんのお母さんが喫茶部門を担ってくれる。お店としては目立って売上が伸びているわけではないが、何とか維持できているという。

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ジャンルを越えて土地の魅力を伝えられる場所に

お店を営む一方で、中森さんの目利き力やクリエイターとのネットワークを生かして、店舗内装やキュレーターの仕事も引き受けている。たとえば、アパレルブランドのJOURNAL STANDARDが始めた日本の手しごとを中心に扱うブランド「JOURNAL STANDARD SQUARE」では、南九州のクラフトのセレクトを中森さんが任されている。

「何でも引き受けるというより、価値観の合う人たちとの仕事をというスタンスでお受けしています」

さらには、いま月に4回ほど、家具職人の友人の元に、家具づくりを教わりに通っているという。

「展示用の什器を自分でつくれるようになりたくて。じつは今回の展示のこの台も自分でつくったんですよ。タッカーで留めて、色を塗って。ある程度工具を使えるようになりたかったし、家具の構造なんかも基礎を学びたいと思っているんです」

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いつか、宿泊施設も手がけたいという中森さん。

「行きたい町があるとして、旅行した時に大事なのって、食べ物とお土産と宿泊だと思うんです。それもできるだけ地元の人からの情報でいいものを探したい。でもお勧めしてくれる人が誰でもいいわけではなくて、やっぱりセンスとか世界観とか自分と共通するものを教えてくれる人だといいなと思うんです。

そういう意味で、この店で宿もやれたらいいなと。お土産品も売っていて、喫茶もあって、泊まれる。そうなったら、今やっていることがある意味完結するんじゃないかなとも思っています」

面白いと思うものをセレクトし、つながりのあるクリエイターと共に作品を生み出していく。そのための拠点が「たんすの肥やし」。それは単純に古いものから新しいものを生み出すだけでなく、新しい文化やエネルギーの生まれる場をつくることでもある。新しいリサイクルの店は、もの、食、旅……とジャンルを越えて、これからも新しい世界を見せてくれるに違いない。

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たんすの肥やし
鹿児島県鹿児島市上谷口町3395
TEL:099-807-2311
営業時間:11:00〜17:00
定休日:木、金

文:甲斐かおり
写真:坂下丈太郎


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