つなぐ加盟店 vol. 21
LIGHT UP COFFEE
川野優馬さん
社会の課題に目を向け、「もっと社会を良くしたい」という思いを抱いてお店や会社を始める人は世の中にたくさんいる。
しかし、実現できる人はごくわずか。
実現できる人とできない人の違いはどこにあるのだろうか。1つには、“戦略を持っているかどうか”が挙げられるだろう。
今回話を伺うのは、「コーヒー農家の収入を上げたい」という思いを強く抱くコーヒー屋LIGHT UP COFFEEの店主・川野優馬さん。店舗運営だけにとどまらず、Webサイト活用やイベント運営に至るまでを精力的にこなしている川野さんは、どのような戦略を描き、思いの実現を目指しているのだろうか。
1杯1杯味を追求して生まれた、至極のフルーティなコーヒー
川野さんにさっそくコーヒーを淹れていただいた。コーヒーといえば「苦味」や「酸味」というイメージが一般的だが、LIGHT UP COFFEEのコーヒーは一味違う。
口に含んだ途端にフルーティな風味が広がる。初めて飲む人はきっと驚くことだろう。浅煎りをベースに実現した爽やかな口当たりによって、コーヒーが苦手な人にも飲みやすくなっている。
1杯1杯の味に徹底的にこだわり、美味しいコーヒーを常に追求している。美味しくないものができてしまったら、各工程で問題がなかったか必ず分析。そして、時間やグラム数を調整し、「ここを〇グラム増やして、時間を〇秒延ばせば美味しくなるはず」といった仮説を立ててからドリップするのだそう。
こうしてロジカルに考えて味を改善していくことで、“美味しいコーヒー”の再現性を高め、多くの人の心を掴んでいるのだ。
美味しいコーヒーをつくれば、コーヒー農家の収入が上がる
▲川野さんのコーヒーに対する情熱はすさまじく、外国のコーヒー農園に赴くために、足場の非常に不安定な山道をバイクで登った経験もあるのだという。
川野さんがコーヒーに興味を持つようになったきっかけは、大学時代の国際交流サークル。仲良くなったイギリス人の家を訪れたときにロンドンで飲んだコーヒーが、驚くほど美味しかったのだそう。
「オレンジの風味がするほどフルーティでした。いまだに1番好きですね。コーヒーそのものにも興味を持ったのですが、当時経済学を専攻していたこともあって、コーヒー農家がいくらでコーヒー豆を出荷して、私たちがいくらでコーヒーを消費しているのかという関係性も知りたくなったんです。調べてみると、スペシャルティコーヒーというものがあるらしく、通常よりかなりの高値がつくことが分かりました。」
スペシャルティコーヒー。
栽培や収穫、そして品質管理を徹底してつくった豆で淹れたコーヒーを指す。爽やかな風味で消費者を満足させ、なんと市場価格の2倍~3倍もの価格が付けられるのだとか。しかし、当のコーヒー農家はその事実を知らない場合が多いのだそう。
「スペシャルティコーヒーは、美味しければ美味しいほど高い値段で買われているんですよ。こうした高値で取引されるコーヒーがもっと飲まれるようになれば、農家も美味しいコーヒーをつくるようになり、農家の収入も増えて生活が豊かになるんじゃないかって思ったんです。僕は仕事を通じて、コーヒー農家の課題解決をすることに決めました。」
店舗展開、Webサイト制作、イベント運営すべてを精力的に
コーヒー農家の収入を上げたいという熱き思いから、コーヒーの世界に足を踏み入れた川野さん。最初に考えなければならなかったのが、農家が丹精込めてつくったコーヒーを評価し飲んでくれる人を増やすことだった。
「スペシャルティコーヒーを普及させるには、美味しいコーヒーを飲める場所、美味しい豆を買う手段、そして美味しいコーヒーを淹れる手段が必要。だから僕は、店舗もWebページもイベントも妥協せずに運営しています。」
川野さんは、2014年7月に1店舗目を設立してからわずか3年足らずで、店舗数を3(公開日現在)まで増やした上に、Webページを活用したコーヒー豆の販売や、コーヒーセミナーなどのイベントを週3ペースで開催するなど、あらゆる方向に活動の手を伸ばしている。
▲コーヒーセミナーの様子(画像提供 LIGHT UP COFFEE)
こうした活動を精力的に行っているのも、スペシャルティコーヒーについて知ってもらう機会を少しでも増やすため。慣習そのものを変えようという、川野さんの意志の強さが見て取れる。とはいえ、店舗を増やしながらもWebページやイベント運営までコミットするというのは、気持ちだけでできる芸当ではない。今あるお店を回すだけで精一杯というケースがほとんどだろう。
LIGHT UP COFFEEがここまでできる秘訣は、一体どこにあるのだろうか。
店舗のそばにオフィスを持つことが、成功に向けた戦略
▲川野さんが起業を意識したきっかけは、小学校時代にさかのぼる。“意味を感じられないこと”を強制されるのが嫌で、自分が社長になるという考えが徐々に醸成されていったという。
デザイン性の高いWebサイトをつくり、定期的にイベントを開催。店舗運営に+αした活動に手を回せる理由は何なのか。川野さんに話を伺うと、同店には、他の飲食店には見られない“ある特徴”があることが分かった。それは、“オフィススペース”を持っていることだ。
「2階をオフィスとして借りているんです。例えばコーヒー豆を他の店に卸すとか、ネットで記事を書いてみるとか、SNSを運用するとかって、どうしても後回しになってしまいがちですよね。僕らは、店舗とオフィスを隣接させることによって店舗以外の活動もその場で行えるようにしたんです。」
確かに、多くの飲食店には店舗としての機能しか備わっていないのが事実。しかし、オフィスの存在が、一体どう作用しているというのか。川野さんは続ける。
▲取材場所は、LIGHT UP COFFEE 下北沢店。取材当日はまだオープン前(4月29日にオープン済み)で、準備中の様子も撮らせていただいた。
「オフィスがないと、Webページを作ったりSNSを運用したりしようと思っても、スペースがなくてできないんです。かといって自宅でやるのかというと、疲れて帰宅した後にやる気にはならない。軽いことのように思えるかもしれませんが、意外とオフィスの有無がボトルネックになっているんです。
うちはオフィスが上の階にあるので、思いついたことがあれば、すぐにオフィスで実行できます。店舗運営以外のこともしっかりと行うなら、絶対に飲食店でもオフィスを持つべきだと思いますね。」
▲日本製の焙煎機。オーダーがあってから一台一台手作りで組み立ててつくられているのだそう。
戦略は、事業を成功に導く上で必要不可欠な要素。
同店の場合、実際の店舗のみだと、1日に対面で情報を伝えられるのは、せいぜい100人程度だという。しかしWebを活用すれば、1日に1万人以上にだって、思いを伝えることができるようになる。
“オフィスを持つ”というのは、一見すると地味な戦略に映るかもしれない。しかし、Webやイベントなど、店舗以外の活動をすることを考えると、これ程理にかなった戦略は果たして他にあるだろうか。
冷静に物事の本質を見極め戦略を実行する力を備えているからこそ、思いを思いで終わらせずに、形にすることができる。そんなことを、川野さんは教えてくれた。
缶コーヒーとともに、スペシャルティコーヒーが選択肢の1つに
今後の展望について、川野さんはこう語る。
「全員が全員スペシャルティコーヒーを飲まなきゃいけないとは考えていなくて、缶コーヒーなどと並んで選択肢の1つになってほしいです。イメージはワインですね。ものすごい高級なワインもあれば、コンビニで売っている1,000円程度のワインもある。こうした価値観を、コーヒーの世界でも実現させていきたいです。」
店舗の運営はもちろん、開催するイベントの幅も広げていき、将来的にはコーヒーの品評会を開きたいのだそう。
▲川野さんがコーヒー農園を訪ねたベトナムの山奥(画像提供 LIGHT UP COFFEE)
「農家に足りてないのは、美味しく作ればお金がもらえるという事実。“買ってくれるお客さんがいるからとりあえず売る”という常識を変えるためには、1個のモデルケースが必要です。『あの農園は、頑張ってあんな値段で買われたんだ』ということが知れ渡れば、美味しいコーヒーをつくろうという農家が増えていくのではないでしょうか。」
コーヒーの文化そのものを変えようとしている、LIGHT UP COFFEEの川野さん。これからの道のりは決して平坦なものではないだろうが、今後川野さんがコーヒーの世界にどのような変化をもたらしてくれるか、期待してやまない。
LIGHT UP COFFEE
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(つなぐ編集部)
写真:小堀将生