【商いのコト】仕事と生活を区切らない営みを育む—作り手5組の工房を兼ねたショップ「atelier tempo」

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol.61 atelier tempo

JR中央線東小金井駅高架下のコミュニティステーションにあるatelier tempo(アトリエテンポ)。食堂、ペットグッズ、絵とデザイン、革小物、革靴の合わせて5組の店舗には、アトリエが併設されていて、ものづくりのテンポが漂っている空間だ。

5組は空間を共有するだけでなく、店舗運営でも協力している。春・秋に1回ずつ開催する「家族の文化祭」といったイベントの運営も共同だ。そこで5組に、共有・協力する営みについて詳しく尋ねた。

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atelier tempoの成り立ち

atelier tempoの成り立ちは、東小金井駅高架下を開発する株式会社JR中央ラインモールが地域活動を行っていたatelier tempoのメンバーに声がけしたことから始まった。

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▲池田功さん。atelier tempoにて、妻・美枝さんとペットグッズショップdogdeco HOME(ドッグ・デコ ホーム)を営む。dogdeco HOMEはペットを家族の一員として考え、家族の暮らしの質を向上させる商品を提案している。https://www.dogdeco.co.jp/

池田功さん 「JR中央ラインモールの当時の社長さんから声をかけてもらいました。当初は、この高架下に創業支援施設を設ける予定だったようですが、私たちに声をかけてもらった際に、都心のように商品を並べる店ではなく、ものづくりをするメンバーだからこそできる、作り手が見える展開をさせていただけないかと話をしたんです。そして、アトリエを持つ店舗にするという提案を受け入れてくれました」

atelier tempoの空間には、店舗にアトリエを併設するという特徴のほかに5組が1つの空間を共有しているという特徴もある。

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▲藤原奈緒さん。atelier tempoにて、あたらしい日常料理 ふじわらを営む。週4日営業の食堂、家庭のごはんを手軽においしくする「ふじわらのおいしいびん詰め」の製造・販売、不定期で開催する「日常料理教室」をはじめ、食にまつわる新しい提案をしている。http://nichijyoryori.com/

藤原奈緒さん 「この空間の使い方も、JR中央ラインモールの方々と、地域の人の暮らしに関わる場所にしていきたいと話す中で、仕切りのない空間にすることが決まっていきました」

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仕事と生活が同居する時間

区切りを設けないのは、空間に限らず、5組が仕事と生活においても大切にしている価値観だ。

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▲やまさき薫さん。atelier tempoにて、絵とデザインのアトリエ ヤマコヤを営む。暮らしから生まれる絵やデザインを、シルクスクリーン版画、工作、紙布雑貨などの表現を通して、人や暮らしをつなぐ活動を行う。http://yamasakikaoru.net/

やまさき薫さん 「atelier tempoは、ただ仕事をしている場所ではなくて、暮らしながら働く中で、自分たちが楽しいのはどういう時だろうということを大切にしています。5組の中には、子どもを持つ家庭もあって、atelier tempoに子どもが来ることも少なくありませんが、騒ぐことがあってもatelier tempoを訪れる人たちは温かい目で見守っていたり、時にはお世話を助けてくれたりします」

藤原奈緒さん 「私自身は、こちらの話をいただくまでは飲食店をやるつもりはありませんでした。ただ、小金井の地場野菜に出会ってそれらを扱う中で、家庭に向けて調味料や料理の作り方を提案する今の仕事につながっていったので、暮らしがある場所にお店を開くことは自然なことでした。その上で、駅の高架下に場所を持つなら人が集まる場所にしないと、と思って」

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▲沢藤勉さん。atelier tempoにて、妻・加奈子さんと革小物を制作・販売するsafuji(サフジ)を営む。革の魅力を生かして、持つ人の生活に長く寄り添うことができる革小物・革かばんを制作している。http://safuji.com/

沢藤勉さん 「僕自身も暮らす場所と働く場所が同居した空間をつくれたらいいなと思っていました。また、イベントを開催することによって、一人ではなく、周りのみんなと発信して強くなっていけるとも思ったんです。中央線沿線の人たちに、より知ってもらって、家族で遊びに来てもらえる場所にしたいんですよね」

地域の暮らしとつながった活動に取り組むという価値観は、atelier tempoだけでなくイベントの企画でも尊重している。例えば、「家族の文化祭」では、atelier tempoの周辺地域に住まう人たちや訪れる人たちを“かぞく”だと思って迎え入れることを大切にしている。

池田功さん 「私たち自身、子育て世代も多く、家族を意識しています。小金井市という地域は、都心まで30分で通えるだけでなく、公園も多くて、子育てにちょうどいい環境です。そういうこともあって、1周年を記念して開催し始めた『家族の文化祭』でも、“かぞく”をテーマにしました」

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▲「家族の文化祭」ワンシーン。5組のメンバーが各地のイベントに出展する中で知り合った作り手が参加する。作品の購入だけでなく、サンドウィッチワークショップや野外ライブといった体験を楽しめる。

沢藤勉さん 「『家族の文化祭』以外にも、企画展などを開催していて、新しく僕らのことを知ってくれる人は増えています。ただ、例えば財布がほしいと思った時に、『あそこに行けば、safuji(サフジ)がある』というように思い出して来てくれる方はまだ増えていません。これからはそのような機会に足を運んでもらえるような流れを生んでいきたいとは思っています」

共有と協力の魅力

「家族の文化祭」には、作り手と買い手といった区切りを感じさせない優しい雰囲気が流れている。なぜ同じ雰囲気を持った来場者を集めることができているのか?

やまさき薫さん 「他の地域のイベントや企画展に5組がそれぞれ参加しているので、そこで知り合った作り手の人たちが、同じ雰囲気のお客さんを持っているんだろうと思います。こちらが困っていても、フォローしてくれるようなお客さんは多いです。お客さんだけど、対等でいてくれるんですよ。そのお客さんたちが、『この人が出るイベントに、この人も出ているのか』と思って、興味を示して集まってくれているから、そのような雰囲気が生まれているんだろうな」

atelier tempo自体は、定休日が水曜。プラス、5組それぞれが火曜や木曜を定休日にして、その休日に全国各地のイベントへ参加している。

やまさき薫さん 「他のイベントで知り合った作り手の人たちと、もう少し深い仲になるきっかけとしても、イベントに出てもらうことは役立っています。作っているものは違えど、想いを同じくしている人たちなので、会話を通して共感や意識を高める機会になっている感じがします」

一人ひとりの作り手が協力してイベントに取り組む魅力と似て、atelier tempoという空気感を共有していることにも魅力がある。

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▲中丸貴幸さん。atelier tempoにて、妻・美砂さんとセミオーダーの靴屋coupé(コッペ)を営む。「10年後も履きたい靴」をテーマに、一足一足ご注文頂いてから制作している。http://coupe-shoes.com/

中丸貴幸さん 「人とのつながりが勉強になっています。夫婦二人で営んでいた頃は、制作と販売しかしていなかったんですが、このメンバーには、何かを始める際に意味づけを考えて構築するというデザインを仕事にしている人もいて、目的に奥行きを持たせることを意識するようになりました」

中丸美砂さん 「その気持ちが、私にはすごくわかるんです。個人で仕事をしていると、取引先やお客さんとのつながりに限られて、ものづくりについては二人の間でしか話せません。そうすると、どんどん狭くなっていく感覚があります。atelier tempoでお店をはじめて、みんながどのようにものづくりと向き合っているのか話したり、制作する姿を見たりすることが良い影響になっている部分がすごくあるんですよ」

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▲中丸美砂さん。atelier tempoで接客することも多い。

沢藤勉さん 「あと、僕は結構、寂しがり屋なんですよ(笑)イベントを企画することもあって、ここでは話し合いをしたり、意見を伝え合う機会は頻繁にあるのもいいところです」

やまさき薫さん 「イベントがない場合でも、そろそろ飲みにいこうという話になったり、ここに子どもも呼んでごはん会を開いたりしています。そういう機会に、お互いの情報交換をすることもあるんです」

会計と接客に日常を

atelier tempoという空間を共有することには、学びだけでなく営みにおいても魅力がある。例えば、タブレット端末を利用して、互いにお会計業務を協力しあっている。

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▲タブレット端末には、各店の取扱商品を写真で登録している。どこの何をお客さんが購入しても、各店の売上を混同しないように会計処理を行なうことができる。

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▲池田美枝さん。中丸美砂さんと同じく、接客に応対していることが多い。

そんなatelier tempoには、どんなお客さんが来店しているのだろうか?

池田美枝さん 「知り合いがふらっと立ち寄ってくれたり…」

中丸美砂さん 「そうですね。子どもの年齢が近かったりすると、話しやすかったりします。お母さん同士の会話になりますよ。遠方から来てくれた方には、ここを知ってくれた理由を聞くこともありますね。あとは、わざわざsafujiやふじわらを目当てに来てくれる人もいるので、そのようなお客さんに他メンバーを紹介したり、ここ全体を体験してもらえるように接客しています」

仕事と生活を分けないatelier tempoの営みは、今日も変わらずに「東小金井」駅高架下で続いている。

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atelier tempo
東京都小金井市 梶野町5-10−58 コミュニティステーション東小金井内

定休日:
dogdeco: 水曜日
ヤマコヤ・safuji・coupé: 火・水曜
あたらしい日常料理 ふじわら: 火・水・木曜

営業時間: 11:00~19:00
(あたらしい日常料理 ふじわら ランチ11:30~14:30/ディナー18:00~22:00)

TEL: 042‐316-3972 (あたらしい日常料理 ふじわら 042-316-5613)

文:新井作文店
写真:今井駿介