【商いの​コト】風土、​時間、​人が、​ものと​出会う​いい​気配を​つくる​--archipelago

成功も​失敗も、​すべては​学びに​つながる。​ビジネスオーナーが​日々の​体験から​語る​生の​声を​お届けする​「商いの​コト」。​

つなぐ加盟店 vol.72 archipelago 小菅庸喜さん・​上林絵里奈さん

「また​来たい、​ここで​買いたいと​言って​もらえる。​そのためには、​人と​場所の​気配を​良く​しておく​ことだと​思うんです。​僕らの​空間でなにを​持って​帰って​もらえるだろう。​それは、​お金を​いただいて​商品を​渡す以外にも​ある​気が​しています」

人生の​節目に​買った​もの、​楽しかった​旅の​途中で​見つけた​もの、​作り手の​仕事に​感動して​手に​した​もの。

身の​回りに​ある​大切な​ものは、​ものの​良さだけでなく、​背景に​ある​思い出や​人の​存在を​感じられる。

兵庫・丹波篠山の​里山に​佇む店、​archipelago​(アーキペラゴ)での​ひと​ときは、​そんな​ことを​思い出す​時間だった。

暮らしのなかに​ある​もの

新大阪から​電車を​乗り継ぎ1時間半。​窓の​外に​見える​景色は、​都心の​ビルから​郊外に​立ち並ぶ家、​田んぼの​向こうに​低い​山々が​連なる​景色へと​変わっていく。

下車したのは​丹波篠山市の​古市駅。​電車が​次の​駅に​向かうと、​風に​ゆれる​葉の​音と、​鳥の​鳴き声だけが​聞こえてくる。

人の​いない​駅を​出ると、​すぐに​archipelagoが​見えてくる。

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もともと​農協の​倉庫だったと​いう​外観は、​想像していた​以上に​風景に​馴染んでいる。​脇の​道は​通学路のようで、​小学生の​楽しそうな​声が​聞こえた。

正面から​扉を​開けると、​先に​広い​空間が​広がっている。​そこに​並ぶ​陶器や​木工作品、​服、​本は、​なんだか​胸を​張っているかのような​凛と​した​佇まい。

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この​場所を​つくっているのが、​小菅庸喜さんと​上林絵里奈さん夫婦。

小菅さんが​PRや​ブランディング、​上林さんは​主に​商品の​バイイングなど役割を​分担を​しつつ、​3年前から​この店を​開いている。

外からの​日が​入る​席に​座り、​これまでの​経緯を​さかの​ぼって​聞かせて​もらう。

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「僕の​生まれ育ちは​埼玉の​武蔵野と​呼ばれる​あたりで、​落葉広葉樹の​雑木林が​多い​ところでした。​兄と​僕は、​どちらかと​いうと​自然教育寄りの​幼稚園に​通って、​自然の​なかで​育って。​あとは​絵を​描くのが​好きで、​褒められている​うちに​美術に​関心を​持つようになっていくんです」

ファッションデザイナーを​目指す​小菅さんは、​昼間高校に​通い、​夜は​恵比寿の​学校に​通う​ほどの​勉強家。​そのまま​専門学校に​進学し、​全国から​集まる​ファッションデザイナー志望の​仲間と​出会う​ことになる。

「猛者たちが​集まってくるわけです。​真面目に​やっているだけでは​通用しない​感覚に​触れて、​僕は​打ちの​めされてしまって。​一方で、​仲間と​ファッションショーを​つくっていく​過程の、​演出的な​ことが​すごく​面白くて。​照明や​音楽、​香りとか。​どう​いう​空間や​時間を​つくって​服を​見せるか。​サポートする​側に​魅力を​感じるようになりました」

自分の​道が​見えた​気が​した​小菅さんは​専門学校を​辞め、​京都の​大学へ​進学。​アートプロデュースに​ついて​学び、​声を​かけて​もらった​会社に​就職する。

仕事に​楽しさを​感じつつも、​寝る​間もなく​働く​サイクルに、​少し​ずつ違和感を​感じるようになっていった​そう。

「改めて、​自分は​なにが​好きなんだっけって​思い返すようになったんです。​当時関わっていた​現代アートって、​一般家庭の​生活に​取り込むには​レベルが​高い。​器とか​雑貨とか、​少し​ずつ暮らしのなかに​ある​ものに​目が​向くようになっていきました」

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そこで​思い出したのが、​栃木・益子に​ある​starnet​(スターネット)と​いう​店の​ことだった。​starnetは​馬場浩史さんが​はじめた、​作家の​作品や​生活の​道具、​食品を​扱う​場所。​その土地に​ある​ものを​大切に​した​ものづくり、​場づくりが​行われてきた。

「20歳の​ときに​行った​ことが​あったんです。​うまく​言えないけど、​ただ​ただかっこいいと​思った​記憶が​あって。​25歳の​ときに​もう​1回​行ってみたんですよ。​そうしたら、​やっぱり​5年経ってもかっこいい。​しっくりくる​感覚が​あったんです」

その世界観に​惹かれた​小菅さんは、​大阪に​馬場さんが​プロデュースした店が​あった​ことを​思い出す。

「そこが​URBAN RESEARCH DOORSと​いう​ブランドの​南船場店です。​世界が​出来あがっている​starnetに​入るより、​これから​つくっていく​余白の​ある​お店の​ほうが、​過程の​時間に​関われると​思ったんです」

信頼関係ですべてが​成り​立っている

URBAN RESEARCH DOORSで​働きは​じめた​小菅さんが​出会ったのが、​先輩と​して​働いていた​上林さん。​当時は​販売スタッフと​して、​服を​販売する​仕事を​していた。

「母親が​服を​作ったりしていて、​小さい​頃から​いい​ものを​着させて​もらっていた​記憶が​あります。​漠然と​興味は​あって​ファッション業界で​働きたいと​考えていました」

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大学生の​頃は、​よく​古着屋に​通っていた。​ある​日ふと​入った​DOORSで、​それほど​高くない​服を​1着買った​ことが​あった。

「そのときに​すごく​いい接客を​して​もらって、​気持ちよく​帰りました。​次に​行ったのは​その半年後くらいだったんですけど、​その​店員さんが​覚えていてくれはったんです。​たいした​ものを​買ったわけでもないのに、​すごいと​思って。​その人と​会いたくて、​お店に​通うようになったんです」

「話していると、​あれも​これも​買いたくなってくる。​お店って​いう​場所に​対しての​自分の​価値観も​変わって。​自分の​なかで​衝撃やったんです。​この​人みたいになりたい、​一緒に​働きたいって​思うようになりました」

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「結局​10年近く​働いたんですけど、​消耗品である​服を​売り続ける​ことに​苦痛を​感じるようになって。​旅行に​行ったり​人と​出会う​ことに​お金を​使った​ほうが​いいんじゃないかって​考える​時期が​あったんです」

自分の​している​ことに​納得が​できず、​会社を​離れる​ことも​考えていた。​そんな​とき、​南船場店で​starnetと​運営している​商品の​担当を​しないかと​声が​かかった。​オーガニックコットンで​作られた​服、​作家の​器、​厳選された​食材が​並ぶ​世界に、​最初は​戸惑いも​あったと​いう。

「正直、​ぜん​ぜん​知らなかったんです。​最初に​益子に​行った​とき、​衝撃を​受けました。​お店の​空気感とか、​働いている​人のもてなしが​すごく​気持ちよくて。​置いてある​商品が​大切に​されている​ことが​伝わってくる。​お店を​する​上で​大切な​こと、​お客さんと​店、​そして​作家さんとの​信頼関係ですべてが​成り​立っている​こと。​大切な​ことを​馬場さんや​starnetの​みなさんから​教えて​もらったんです」

隣で​話を​聞いていた​小菅さんも、​starnetでの​思い出を​聞かせてくれる。

「僕も、​20代半ばで​何も​わからずに​通っていて。​そこに​いる​大人に​追いつきたくて、​多少生意気な​ことを​言ったりして。​恥ずかしい​ことを​言ってしまったって​思いながらも、​やさしく​受け止めて​もらって。​丁寧に​接していただ​いた​時間や​経験が、​今の​僕らの​考えに​つながっています」

いい​気配を​探して

2人が​関わりは​じめた頃は​まだ数店舗しかなかった​URBAN RESEARCH DOORSは、​あっと​いう​間に​70店舗ほどに​広がった。​小菅さんは​ブランディングで、​上林さんは​商品の​セレクトや​店舗づくりの​役割を​担いブランドを​牽引してきた。

その​流れのなかで、​少し​ずつ違和感を​持つことも​あった。​自分たちで​店を​やる​ことを、​自然と​考えるようになっていった​そうだ。

「チームと​して​評価して​もらえた​ことを​嬉しく​感じつつ、​店舗が​増え、​関わる​人数が​増えて、​店長で​さえ名前を​知らない子が​増えてきたんです。​お客さんに​ものを​渡してくれる​お店の​子たちとの​関係に、​しっくりこない​ことが​あって」

「自分は​こう見せた​ほうが​いいと​思っても、​お店に​行くと​違う​ふうに​並べられているとか。​気に​なるようになっちゃって。​いつか​自分たちで、​作家さんの​ことや​商品の​良さを​ちゃんと​伝えたい、​自分たちが​見える​範囲で​やりたいと​思うようになりました」

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子どもが​生まれた​ことを​きっかけに、​暮らす場所に​ついても​考えるように。​出張に​行く​度に​いろいろな​場所を​見て、​瀬戸内海の​穏やかな​波や、​豊かな​山々に​惹かれる​ことも​あった。​そのなかで​通っていた​土地の​ひとつが​この​丹波篠山の​土地だった。

「抽象的ですけど、​僕たち的に​気配が​いいなって​思える​場所だったんですよね」

気配が​いい。

「もちろん​都心からの​距離とか、​条件も​よかった。​それに​加えて​城下町で​伝統が​残っている、​落葉広葉樹が​多いとか、​土に​ちゃんと​水が​混ざった​泥も​あるとか。​全体​的に​いうと、​風土に​惹かれて​やってきたんです」

「2人同時に​会社を​辞めて、​小さい​子が​いるのに​大丈夫かって​心配してくれる​方も​いました。​地域の​方も​こんな​ところで​って、​気に​かけてくださって。​だけど​空間の​力も​あるし、​それなりの​ソフトが​揃えば、​今の​時代なら​やっていけるような​気が​したんです」

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ものの​寿命に​作用する​仕事

扱っている​ものは、​作っている​場所を​訪ね、​自分たちが​使って​良い​ものだと​思った​もの。

並べる​空間を​つくる​ときには、​設計を​してくれる​人たちとは​感覚を​すり合わせる​ことに​時間を​割いたと​いう。

店内に​漂う、​凛と​した空気。​ものと​まっすぐ​対峙させられるような​緊張感。​それで​いて、​居心地の​いい​穏やかな​雰囲気は​どうつくられているのでしょう。

「ある​程度の​緊張感は、​あえてつくるようにしています。​もちろん​お子さんと​いらしても​ゆっくりできるように、​僕らが​空気を​変える​ところも​あって。​その​人に​あった​居心地の​良さを​つくるもてなしを​するよう、​心がけています」

「並ぶ器を​見て、​ぞんざいに​扱っていた家の​食器を​大事に​しようと​思えたり。​本棚で​目を​落と​した​言葉で​感動して、​明日からがんばろうとか。​その人が​自分の​内と​向き合える、​なにかが​持って​帰れるような​場所で​あれば​嬉しいですね。​思いに​ふける​瞬間が​あったとか、​発見が​あったとか。​感覚の​解像度が​上がる​場所は​また​行きたい​場所に​なるんじゃないかと​思うんです」

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「この​仕事って、​どう​やって​買って​もらうかで、​その後の​ものの​寿命に​作用できると​思っていて。​上林が​先輩の​接客に​感動したように、​ものへの​関わり方を​伝える​大切な​仕事だと​思っています」

「気軽に​買った​ものって、​捨てる​ときも​割と​気軽に​捨てられちゃったりする。​どう​いう​場所で​出会って、​どう​いう​時間を​すごして、​そこに​どんな​人が​いたか。​ものを​消費して​もらう​仕事では​あるんですけど、​どう​消費して​もらうかに​関わる​ことができるんです」

そう​聞いて、​自分が​持っている​ものを​見渡してみる。

偶然​知った​お店で​見つけた​使い心地が​いい​ペン、​大事な​節目に​手に​した​名刺入れ、​作った​人の​話を​聞いて​思わず​買ってしまった服。

ずっと​大切に​使っている​ものは、​いい​出会いを​している​ものが​多いのかもしれない。

「archipelagoですごく​いい​時間を​過ごせた、​旅の​途中で​立ち寄って、​あの​ときは​ああだったとか。​ものに​乗っかって、​ふと​した​瞬間に​その​時間が​どうだったか​思い出す。​来てくれた​人に​話しかけないまま​終わるって​いう​ことは、​できるだけないようにしています。​ものを​売っているけれど、​ものを​介した​コミュニケーションが​ある​お店で​いたいですね」

オンラインでも​販売している​商品を、​わざわざここに​来て​買ってくれる​人が​いると​いう​ことを、とて​もうれしそうに​話す2人。

ものに​対する​大切な​視点を​聞かせて​もらった​こと、​そして​2人に​出会えた​ことが​嬉しくて、​次は​いつここに​来られるだろうと​カレンダーを​覗きながら帰路に​ついた。

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兵庫県丹波篠山市古市193-1
電話番号:079-595-1071
営業時間:11:00-17:30
定休日:不定休

文:中嶋希実
写真:伊東俊介