【商いのコト】国籍を越える懐かしい味わいー味坊グループ(前編)

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol. 41 味坊グループ 梁宝璋さん

生活のために商売をはじめる。仕事に費やした日々が、譲れないこだわりを導く。何をお客様に伝えたいのか。信念を得て、商売は物の売り買いを超える。

2018年3月時点で、「味坊(あじぼう)」「味坊鉄鍋荘(あじぼうてつなべそう)」「羊香味坊(やんしゃんあじぼう)」「老酒舗(ろうしゅほ)」と、4つの中国料理店を経営する、“味坊グループ”のオーナー・梁宝璋(りょうほうしょう)さんも、とある信念を貫いている。

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美味しいは美味しい。味は国籍を超える

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見晴らしのよい厨房に腕利きの料理人。ドラム缶で鶏を焼き、土鍋で肉団子を煮る。湯立つスープがよくしみた肉団子をほふほふ頬張ると、鼻いっぱいにしょうがの香りが広がった。「老酒舗」の味わいは、とても瑞々しい。

梁さん「化学調味料を使わないって決めたんですね。料理はちゃんと手間をかけないと」

味を立たせるために、スープをしっかり取る必要がある。そんな時間と手間をかけてまで、化学調味料を抜いたのは、美味しい料理にこだわったから。

梁さん「子どもの頃に食べた料理は、化学調味料を使っていなくても美味しかった。味坊のお客さんは、本当に食べることが好きでね。日本では化学調味料を使うことが多いって聞いたけど、やっぱり間違いって思ったんですね。どこの人にとっても、『美味しいは、美味しい』。それで、ちょっとやめたいと思ってね」

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“味坊グループ”では、昔ながらの中国料理を提供する。大部分を占めるのは、梁さんの故郷・黒龍江省チチハル市がある東北地方の料理だ。東北地方の寒期は長い。田畑は雪に埋もれる。野菜は秋に収穫して晩春まで食べつないだ。そうして、食材の保存方法の知恵がぶ厚くなり、豊富になった。たとえば、塩水に漬けて自然発酵にする白菜の漬物・酸菜(さんつぁい)は、炒めたり煮込んだりして食べる。梁さんも、料理の腕が立つ母の味で育った。

梁さん「もちろん味は美味しい。それで、気持ちも大事ですね。母親の家庭料理は、心がこもっているから。気持ちで、一生懸命つくっている料理は、食べるのが美味しい。感情的にね。楽しみで、食べる。楽しみで、飲む。それが一番」

味は、お客様に楽しい時間を提供する、大きな武器のひとつ。料理のほか、環境や雰囲気も大事にする。

楽しみをデザインする手間暇と人柄

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“味坊グループ”では、新しく店舗をオープンする際にコンセプトを必ず決める。グループ他店とは異なるサービス(価値)を伝えようと常に考えてきた。

「老酒舗」の場合、コンセプトは昔の中国にあった大衆酒場。JR山手線「御徒町」駅の高架下に構えたため、目指したのは飲兵衛の気持ちに寄り添うコンビニエンス(便利さ)だ。そこで、料理は小鉢や小皿で提供。食事を味わいつつ、お酒も楽しみやすい量にした。また、立ち飲み席をつくり、仕事帰りに一人で立ち寄れる空間をデザイン。すると、グループ他店では見られなかった、一人飲みするサラリーマンの来店が増えた。

コンセプトは小物にも反映する。たとえば、「老酒舗」のメニュー表。

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右上のメニュー表は、梁さんの手づくり。米袋とニスで作成した。まず20kg用の米袋を大量に集め、解体後にアイロンでシワを伸ばす。A4用紙サイズに手で切り分け、印刷機にかけたあと、ニスを塗って光沢感を出した。コンセプトに合わせて、梁さんがイメージを膨らませたデザイン。

表記にもこだわり、日本語による説明を最小限にとどめた。異国で注文する場合、外国語で書かれたメニューを眺め、料理を推測しながら注文する。そのドキドキ・ワクワクするトリップ感を「老酒舗」のお客様にも楽しんでもらいたかった。

梁さん 「味もそうだけど、環境もね、大事なんですね。それに、雰囲気もね」

時折、話し相手に柔らかな笑顔を向ける。雰囲気から人柄の温かさが表れている。お客様のなかには、そんな梁さんに会いたくて来店する人も多い。接客していると、お客様から声をかけられることが少なくない。席に着き、お酒を酌み交わすことも。梁さんと食事を囲む楽しさを知った人が、常連になっていく。

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梁さん「本当にいいお客さんばかりでね。来てくれたときに感謝の気持ちで一緒に飲むと、すごく楽しい。お客さんなんだけど、だいたい友達みたいな感じでね」

どんなきっかけで仲良くなっていくのだろうか。梁さんは、人からよく話しかけられるタイプなのかもしれない。

梁さん 「私? どうかなぁ……」

小林さん 「いや、絶対に話しかけられるタイプですよ。お客さんから、『あ、オーナーだ!』って、よく声をかけられています」

補足してくれたのは、編集者の小林淳一(こばやしじゅんいち)さん。小林さんは、食にまつわる仕事に従事するなか、「味坊」で中国料理にまだ知らない魅力があったことに気づく。以来、ふたりは味坊グループ2店舗目の「味坊鉄鍋荘」から一緒に店舗企画を考えてきた。ある共通の目標を携えてーー。

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味坊
東京都千代田区鍛冶町2-11-20
Tel : 03-5296-3386

味坊鉄鍋荘
東京都台東区上野1-21-9
Tel : 03-5826-4945

羊香味坊
東京都台東区上野3-12-6
Tel : 03-6803-0168

老酒舗
東京都台東区上野5-10-12
Tel : 03-6284-2694

文:新井作文店
写真:袴田和彦