つなぐ加盟店 vol. 35 あぶくり 嶋田玲子さん
サンドイッチとコーヒーのお店『あぶくり』のオーナー・嶋田玲子さんは、仕事と子育てに全力投球したいという思いから、デザイナーとして働いていた自動車メーカーを退職。その後、同店をオープンした。
前編では、あぶくりがどのように誕生したのか、そして商いをする上で困難をどのように乗り越えてきたのかを紹介した。後編では、あぶくりをオープンしてから約5年半が経ち、嶋田さん自身のライフスタイルにどのような変化が起きたのかを伺った。
前編はこちら
自由を手にすることは責任を負うこと
あぶくりをオープンしてからの約5年半の間に、嶋田さんのライフスタイルは変わっていった。
「自由に使える時間が増えたので子どもと一緒に過ごす時間も多く取れるようになりましたし、あぶくりのオーナーとして主体的に仕事ができています。5年半という歳月をかけて、『仕事にも子育てにも全力で取り組みたい』という思いがようやく実現できました。」
嶋田さんは自由を手にしたことで、同時に経営者として責任を負っていることを強く実感したと語る。
「会社員を辞め、自分の生活をすべて自分で決められるようになったことで感じたのは、何が起きても自分のせいなんだということ。だって自分が選んでいる道だから。自由を手にすることは責任を負うことなんですよね。だから今では愚痴を言うこともなくなりました(笑)。自分の選んだ道を後悔しないように、全力でやり抜くことだけを考えています。」
会社員時代はパソコンの持ち帰りができなかったため、仕事とプライベートのオンオフがはっきり分かれていた。しかし、今では仕事が生活の一部となっているため、家で仕事をすることも多いという。
「子どもからよく『お仕事頑張ってね!』と書かれた手紙をもらうんです。普段から私が家で働いている姿を見ているからでしょうね。自分の働いている姿を見せたり、店に連れてきていろいろな大人と会わせたりと、私たちなりのやり方で子育てができているのではないかと思っています。」
嶋田さんは嬉しそうに語ってくれた。自身の理想とするライフスタイルを実現した今、今後の展望をどのように考えているのだろうか。
あぶくりを“仕事や子育てに悩むお母さんのため“の場所に
嶋田さんが今考えているのは、あぶくりを“お母さんのための場所”にすること。店に子どもを連れてきてもらって、仕事や子育てに悩んでいるお母さんたちが“あぶくり”という場所に集まり、一緒に悩みを解決する。そんな場所を作りたいと語る。
「これまでは自分がやりたいことを中心に生きてきました。デザイナーになりたいから美大に行って、働きたいと思う会社に入って、あぶくりを始めて……。これからはそこで得た経験や知識を人の役に立てたいです。5年半前の私のように、理想とするライフスタイルとのギャップに悩んでいるお母さんは多いはず。そんな人たちのために何かできればと考えています。」
嶋田さん自身は、悩んでいたときに相談できる相手がいなかったという。だからこそ、自分と同様の悩みを抱えるお母さんのための場所を作りたいという思いを強く持っているのだ。
あぶくりを始めたことが、嶋田さんの人生において大きな転機であったことは間違いない。しかし嶋田さんにとって、今の自分はあくまでも通過点に過ぎないと語る。
「あぶくりをやっている自分がすべてではありません。理想とする生き方を実現する手段として、あぶくりのオーナーをしているという感覚に近いかもしれません。今後どうなるかは分からなくて、今の自分が考えてもいないことを将来やっている可能性もあると思うんです。人生一度きりで後悔したくない。だから、自分が思う道を楽しみながら自由に進んでいきたいです。」
嶋田さんは、優しくも力強い眼差しで語ってくれた。自らの行動で求めるライフスタイルを手にしている嶋田さんの姿は、理想の生き方を実現したいと考える世の中の人たちを勇気づける存在であり続けるだろう。
前編はこちら
編集部注:嶋田さんはオープンから6年後の2018年7月にあぶくりを閉店し、現在は「神田川ベーカリー」の経営に携わっています(2018年11月時点)。
(つなぐ編集部)
写真:鈴木香那枝