スマートシティは新しい都市と暮らしのスタイルとして、もはや未来ではなく現実のものとなりつつあります。今後さらなるIoTの発達とスマートシティ化が進行することで、個人事業主や中小企業などスモールビジネスはどのような影響を受けるのでしょうか。IoT時代に即したビジネスモデルを構築するために、スマートシティを理解し、ビジネスに生かす方法を考えてみましょう。
スマートシティとは?
スマートシティの概念を理解するにはまず、IoT(Internet of Things)について知る必要があります。IoTとは、「モノのインターネット」と和訳されるように、通信機器だけでなく生活の中のあらゆるモノがインターネットに接続された状態を指します。たとえば、自宅に設置したライブカメラがインターネットに接続されていることで、出先でも家に残してきたペットの様子が見られ、同時に温度センサーと自動制御で部屋の温度管理ができるというのもIoT技術のなせる技です。他にも、炊飯器やエアコンといった家電がIoT化されていれば、出先からスマートフォンを経由して炊飯スイッチを押す、帰宅直前に暖房をオンにして部屋を暖めるといった快適な生活が可能になります。さらに、毎日の遠隔操作の記録がデータとして蓄積されAI解析されれば、気温や時間により「スイッチを押しますか?」と提案してくれるようになるかもしれません。これらの一部は既に実現し、スマート(=賢い)家電の発達が進行中です。
このIoT活用の概念を家の中だけでなく、都市全体に押し広げたものがスマートシティです。たとえば街中にセンサーを張り巡らせ、電車の故障を自動で感知しトラブルを防ぐ、部品交換の適切な時期を管理する、自動運転車を制御して渋滞や事故を回避するといった交通の利便性と安全性の向上がスマートシティでは考えられます。産業分野においては、IoTを活用して在庫管理や仕入れ、配送管理を行うことでサプライチェーンの効率化が可能です。
また、スマートシティではIoTの力で電気エネルギーの利用効率アップも実現できます。これは、需要・供給の両サイドから電力の流れを管理し、送電の無駄をなくすというものです。自家発電の余剰電力を電力不足の場所へ効率的に送電する、利用の少ない時間帯の送電量を調整するなど、スマートシティはエネルギー利用の変革の鍵となります。
他にも、スマートシティは小売、教育、医療、行政、福祉、インフラなどあらゆる分野でIoTやAIなどの先端技術を活用することで、人々の生活の質を向上させながら、同時に環境負荷を減らし、社会が持続可能な成長を続けることを可能にします。現在、世界中でスマートシティ化の計画が進められています。
事例で知るスマートシティ・海外
世界の都市で進むスマートシティの実例の一つとして、中国・杭州市の交通サービスのスマートシティ化があります。これは企業と自治体が一緒に取り組んでいるもので、車道の交通情報を収集し、AI解析したデータを渋滞緩和の実現などに生かしています。
また、オランダでは環境に関わるデータを収集・解析することで、氾濫を予測し、街の安全を守る取り組みもあります。
他にも、カナダのトロントやアラブ首長国連邦のドバイなど、世界の数々の都市でスマートシティ化や実証実験が進行中です。
参考:
・スマートシティ大国オランダに学ぶビッグデータの利活用戦略 (2015年2月5日、ITmediaエンタープライズ)
・中国の都市交通、AI活用を探る 管理システム「シティブレイン」とは? (2019年4月9日、ITmediaエンタープライズ)
事例で知るスマートシティ・日本
実は日本でも、関連省庁の主導でスマートシティの実証実験が行われています。神奈川県横浜市のプロジェクトでは、HEMS(家庭の省エネ管理システム)やバーチャルパワープラント(仮想の発電所)、電気自動車の導入推進に加え、電力消費の多い時に節電を促す仕組みにより、需給バランスを改善することに成功しています。
参考:横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)の 取組と今後の展開について(2017年6月、 横浜市温暖化対策統括本部)
愛知県豊田市が取り組むのは、社会全体のエネルギー効率の改善です。バイクのような小型EV(電気自動車)のシェアリングサービスに乗り出し、停車するステーションを各地に設け、どのステーションで乗り捨ててもOKという仕組みを通信技術で管理し、CO2排出量減少につなげています。
参考:低炭素交通システム Ha:mo について(豊田市役所 交通政策課)
他の都市でも、スマートシティの実証実験は効果を出し始めており、今後さらなる発展が期待されます。
スマートシティがビジネスに与えるメリットとは?
スマートシティの基本は、下記6領域の「スマート化」です。
・生活
・環境
・経済
・教育
・交通
・行政
ただIoTでモノ同士がつながって便利になるだけでなく、蓄積されたデータがさらなる改善につながる、無駄をなくすことができる、効率化されるなど、6領域のバランスを取るのがスマートシティのベースとなる考えです。言い換えるなら、環境も改善しながらさらに心地良い暮らしができる都市、となります。
こうした背景から、スマートシティがビジネス、特にスモールビジネスに与え得る具体的なメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
・仕入れや在庫管理を効率化できる
・エネルギー管理でコストダウンができる
・人的コストの損失や機会損失が減る
・情報格差が少なくなる
・時間効率がアップする
・オンラインマーケティングの可能性が拡大する
もしスマートシティでIoTを使い、天気や曜日に連動して自動的に予想顧客数を割り出すことができれば、飲食店のフロアスタッフの数を早く適切に調整できます。街中に張り巡らされたセンサーから得られた情報により、混雑するルートを避けて通勤できれば、家や職場での有意義な時間が増えます。街中に張り巡らされたインターネットは、マーケティングの機会にもつながりそうです。
「スマートシティ」をスモールビジネスに取り入れる
内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省は、スマートシティ化を加速させる目的で、2019年に「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立しました。これは、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係省庁が参加するもので、経済産業省は「官民が一体となって全国各地のスマートシティ関連事業を強力に推進していく」ための取り組みと説明しています。
スマートシティは、インターネットやセンサーによる「つながり」はもちろん、行政と地域、産業と研究室など、異なるフィールド間の同士のマッチングも不可欠です。そのため、協働するための仕組みを作ることでスマートシティの発展を促すのがスマートシティ官民連携プラットフォームといえます。オブザーバー(傍聴者)として参加することもできるので、今後のビジネスの発展のために興味があれば申し込みが可能です。
参考:スマートシティ官民連携プラットフォーム 始動(経済産業省)
こうした動きからも、スマートシティが一般化していく過程で、ITやIoT関連のビジネスはポジティブな影響を受けやすいことが容易に予想されます。その一方で、インターネットにつながりのないビジネスは、スマートシティの中でマーケティングやセールスの機会が相対的に減少する可能性があります。しかし、商品やサービスがインターネットに全く関わりがないものだとしても、顧客管理や流通、販売、宣伝などがオンラインで行われることは珍しくありません。
たとえばアナログで行なっている顧客管理をデジタル化していく、会計システムにITサービスを導入するなど、できるものから少しずつ移行していくことで、スマートシティ化する世界からメリットを享受しやすいビジネス体質を作っていくことが可能です。
また、スマートシティ化の進行には設備の導入だけでなく、そこで暮らす人の理解も不可欠です。IT機器に抵抗感がある人などに対しては、スマートシティと人とをつなぐ役割を果たすビジネスが、スマートシティ化する世界のナビゲーター役になるかもしれません。
執筆は2019年10月10日時点の情報を参照しています。
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