今回は、「Society 5.0」に興味のあるビジネスオーナーに向けて、未来の社会像であるSociety 5.0について説明します。
Society 5.0とは
内閣府はSociety 5.0についてウェブサイトで以下のように説明しています。
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
引用:Society 5.0 - 科学技術政策 - (内閣府)
Society 5.0はアルファベットで表記されますが、世界で共通の概念ではありません。Society 5.0は日本政府の第5期科学技術基本計画で提唱され、日本の来るべき未来の社会像を表すもので、統合型イノベーション戦略2019のポイントの一つでもあります。
Society 5.0の前にはSociety 1.0から4.0があり、Society 1.0は狩猟社会、Society 2.0は農耕社会、Society 3.0は工業社会、Society 4.0は情報社会を表しています。世代にもよりますが、読者の中にはSociety 3.0の工業社会からSociety 4.0の情報社会への移行を体験したという人もいることでしょう。
Society 4.0では情報の価値や量が飛躍的に増した一方で、情報の検索や分析、共有には未だ課題があり、あふれる情報に翻弄されることも少なくありません。検索エンジンは仕事や日常生活に欠かせないものとなりましたが、検索結果として表示される膨大な量の情報を読み始めるときりがなく、結局何が正しいのかわからなくなってしまうのはよくあることです。また、検索エンジンのように多くの人が日常で利用するようになったツールでも、すべての人が簡単に使え、平等に情報にアクセスできるわけではありません。
Society 5.0ではIoT(Internet of Things、モノのインターネット)や人工知能を活用して、Society 4.0で困難であったスムーズな情報の取り扱いや、格差の解消を目指します。Society 4.0では、ビッグデータと呼ばれる膨大なデータが蓄積され、それを扱うことのできるシステムやネットワークが普及しました。あらゆる人やものをつなぐIoTで不可欠な小型のセンサーデバイスも出揃ってきています。Society 4.0で蓄積が始まったビッグデータは、教師あり学習と呼ばれる方式の人工知能にはなくてはならないものです。
Society 4.0では徐々にSociety 5.0に移行するための技術的、社会的な要素が揃い、現在私たちはSociety 4.0からSociety 5.0への移行期の只中にあります。
Society 5.0の要素の実例
この数年で開発競争が激化し、話題にのぼることが多くなった自動走行車は、Society 5.0を構成する要素の典型的な実例です。自動走行車を動かすプログラムは膨大な走行データを学習した人工知能です。自動走行車については安全性や責任の所在の問題も議論されていますが、自動走行車が実現されることで、高齢者や障害のある人の移動範囲が広がります。また、自動走行車やドローンによる配送は、物流分野では人手不足の解消につながる可能性があり、過疎地での配送サービスの有効な一手にもなるでしょう。
Society 5.0を構成する要素は自動走行車以外にも、介護を支援するためのロボットスーツ、無人店舗、IoTや人工知能を活用したスマートホームなどさまざまな実例がすでに出てきています。
日本は課題先進国として高齢化や過疎化、人手不足といった課題を抱え、Society 5.0への移行は待ったなしです。今後このような実例が多数生まれ、世界各国に先駆けて実用化が進むことが期待されます。
Society 5.0のメリット
IoTや人工知能、ロボットというキーワードを耳にするとどうしても人の仕事を奪うものと考えてしまうかもしれません。確かにニュースなどで語られるように、人がしている仕事の一部は自動化されてしまうかもしれませんが、最新技術による自動化はネガティブな影響をもたらすだけではありません。
ビジネスオーナーとしては、人手不足が深刻な中、人工知能をはじめとするプログラムに自動化できる部分を任せてしまうことで本業に専念できるようになります。ロボットやプログラムにこれらが得意な作業を任せることで、従業員の残業を減らし、休暇に当て、ワークライフバランスを保つこともできるでしょう。また、これまで熟練の経験と勘に頼ってきた作業は、センサーから取得した大量のデータを分析することで、誰でも効率的に作業を行えるようになります。
より大局的な社会全体での視点からは、Society 5.0には環境負荷を減らしたり、社会で生きる私たちの生活や人生の質を上げたりするといったメリットもあります。
IoTや人工知能、ロボットについては悲観的な見方をしようとすればいくらでもできますが、すでに浸透しつつあるものをなくすことはできません。それならばよい面に目を向けて利用するのが得策といえるでしょう。実際、Society 5.0について内閣府のウェブサイトの定義では「人間中心の社会」と明記してあり、人を切り捨てて効率化を進めるのではなく、その恩恵を社会全体で享受しようというものであることがわかります。
Society 5.0は新たなビジネスチャンス
社会の移行期はビジネスチャンスでもあります。IoTや人工知能、ロボットといった先端技術を扱う事業はもちろん、そうでない場合もこれらを利用することで事業を効率化できるでしょう。
また、Society 5.0ではこれまでになくさまざまな業界での情報のやりとりがスムーズになり、人とものがサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)でつながります。
Society 5.0ではIoTデバイスやデータの取引市場から今まで手にできなかった情報にアクセスできるようになり、これまでよりきめ細やかな新しい商品やサービスを提供するチャンスが生まれます。たとえば、スマートフォンやスマートウォッチから得られた日々の健康データをもとに個人ごとの価格設定をした保険商品を想像してみてください。健康データは高齢化社会で予防医療や、高齢者の安全を確保する上でも活用できます。実際、世界では人工知能を駆使して、保険の調査官の立ち入りなく、数分のうちに保険金が支払われる、まさにSociety 5.0の損害保険も登場しています。
新しい技術の急速な進化に不安を覚える人もいるかもしれません。確かに最新の技術を使いこなすのは簡単ではありませんが、現在のSociety 4.0から 5.0への移行期は機敏に意思決定のできるスモールビジネスにとって、いち早く最新技術を取り入れたSociety 5.0を意識した商品やサービスを提供できるチャンスでもあります。最新技術を楽しむつもりで業務に影響の少ない部分から導入を検討し、商品やサービスに活かせないか考えてみる価値は十分あります。
本記事では、国の描く未来の社会像Society 5.0について説明しました。国のビジョンやトレンドを押さえておくと、より明確に事業の今後について検討し、競合他社よりも確実な一歩を踏み出せることでしょう。
日本は世界に先駆けて少子高齢化、人手不足、過疎化といった課題を抱える課題先進国です。ただし、憂慮すべき課題はビジネスチャンスでもあります。人工知能やIoT、ロボットはあくまで技術であり、人の仕事を奪うものとなるか、新しい時代を切り開く有用なツールとなるかはこれらを使う人次第です。冒頭で紹介した内閣府のSociety 5.0に関するページでは、人工知能やロボットは不得意な作業から人を解放し、すべての人が活力に満ちた質の高い生活を送ることを助けるものとしています。こう捉えると、Society 5.0を明るいビジネスチャンスと見ることができるのではないでしょうか。
執筆は2019年9月27日時点の情報を参照しています。
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