【商いのコト】二人の職人が語る「場づくり」(1) こだわり

一緒につなぎませんか?失敗と成功と学びのバトン。全国のSquare加盟店が商売のコトについて語り、次のお店に「バトン」をつなぎます。

つなぐ加盟店 vol.5 Rockhills Garden 代表 渡邉知さん

近年、ますます「場作り」「コミュニティ作り」が熱い。川崎でも、二人の成熟した「場作り職人」が新たなビジネスを立ち上げた。一人は、Rockhills Garden (ロックヒルズガーデン) のオーナーであり、株式会社 Fireplace 代表 渡邉 知さん。長く地域や人と向き合う最前線にいた元リクルート社員。もう一人は、ON THE MARKS(オンザマークス)支配人 UDS株式会社 吉岡 明治さん。大手ホテルチェーン「ワシントンホテル」出身の生粋のホテリエだ。

▲渡邉知さん(左)と対談人の吉岡明治さん(右)—— Rockhills Garden屋上テントにて

この対談は、【商いのコト】シリーズの「つなぐ加盟店」として、Rockhills Gardenで行われた。「川崎」という街で偶然出会った二人に、それぞれのこだわりについて「場作り」という観点から話を聞いた。そして、2020年東京五輪の向こう、2021年以降の未来構想について語りあってもらった。二人の職人の生の声をお届けしたい。

吉岡さん(ON THE MARKS)のこだわり

外国人旅行客をメインターゲットとするバンクベッド(2段ベッド)タイプから、個室タイプまである複合型の宿泊施設、ON THE MARKS。1階は「音楽のまち」川崎らしく、アナログレコードの音楽が楽しめる空間と、川崎産のクラフトビールと肉をスモークした料理で地元に開かれたレストランとなっている。。支配人の吉岡明治さんが目指している宿作り、場づくりとはどのようなものなのか。『ハード』と『ソフト』—『建物や設備』と『コンセプトなど目にみえないもの』—に分けて、それぞれに関するこだわりを聞いた。

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▲ON THE MARKS 支配人 吉岡さん

ホテルのフロントを入り口に置かなかった

まず、生粋のホテリエ、って紹介をしてもらったのにいきなり否定するようなのですが、ON THE MARKSは「ホテリエが作ったホテル」という感じではないんです(笑)。

いま都内を中心に、東京五輪に向けた外国人旅行客の取り込みということで、ホステルやビジネスホテルがものすごく増えていますが、僕のなかで「これと同じことはやりたくない」という思いがありました。

単なる宿泊施設の提供ではなくて「地元と旅行者の間のコミュニケーションが生まれる場所」にしたかったんです。別の言い方をすると、「街の強みを発信していける場所」づくり。

普通のホテルみたいに、出入り口にフロントが「どん」とあると、地元の人が入りにくくなっちゃうじゃないですか。だから、見た目や入り口はあえて街に開かれたカフェ・レストランにして、奥の方に入っていくとフロントがある。そこではじめて「あ、ここってホテルだったんだ!」と分かる内装にしました。

この「フロントを一番奥にする」というのが、ハード(空間デザイン)的に一番こだわった部分ですね。

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▲ON THE MARKS 入り口(写真提供 ON THE MARKS)

1階の壁を壊してクロークにしているのも、地域に開かれた空間を目指しているからです。だからうちは、ホテルでもホステルでもなく、「ホテル&ホステル」という打ち出しをしています。

ホテル経験者は極力入れない、異業種なメンバー構成

さっきの「ホテリエが作ったホテルじゃないんですよ」という話にもつながるのですが、スタッフのメンバー構成に一番こだわりをもっています。そのポイントとして、「ホテル経験者」はできるだけ採用しない方針にしたんです。なので、全体の2割くらいしか(経験者は)いないですね。

その理由は、ON THE MARKSは(UDSのなかでも)初のブランドだったので、さまざまな点でゼロからのスタートでした。なので、ホテル業界の固定観念をできるだけいれず、まっさらな状態で作り上げたかったんです。

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異業種出身、例えばCM制作会社や奈良県の観光関連に勤めていた人、普通の会社員だった人もいたりします。年齢もバラバラで、国籍もアメリカ、中国、台湾…。

サービス面の基本方針はシンプルで、「自分がやってもらったら嬉しいことをやりましょう」。なので、自由な発想で、かつ自分の意見をしっかりもっている人を採用することを意識しました。そうすることで、細かなマニュアルなどなくとも、柔軟に、自分なりになにがサービスに必要なのかを常に考えながら提供できていると思います。例えば、ホテル内での接客、外国人観光客への配慮、街や日本のコンシェルジュとしての振る舞いにそれぞれの個性がでています。

もちろん、個々のサービスにばらつきがあるリスクはありますが、逆に、一人一人のキャラが良く出ている多様なサービスが提供できるとも言えます。様々な国や地域から人が集まってくるON THE MARKSでは、多様性を受け入れる体制は重要です。

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▲個性が光るスタッフ(写真提供 ON THE MARKS)

バックグラウンドや、アルバイト・社員という立場に関係なく、売上やサービス向上のためのアイデアはみんなから出してもらうようにしています。出てきたアイデアは極力アクション(実践)までもっていきますし、後でうまくいったこと・いかなかったことについてみんなで議論、共有することを意識しています。

これを徹底してきたせいか、オープン後かなり早い段階で、自律的にアイデアが生まれるチームができてきましたね。ある意味「いちスタッフにもそこまで求めるのか?」というくらいに「オープンリーダーシップ」を発揮してもらっているわけですが、スタッフ自らがON THE MARKSのことを“自分ごと”として考え、自分がここにいる理由を実感できるチーム(職場)になっていると思います。

渡邉さん(Rockhills Garden)のこだわり

築30年の商業ビルの屋上と階下のワンフロアを大胆にリノベーション。使い方自由のスペースを起ち上げ、人と人、人とコトの「交流」を斬新に提案するRockhills Gardenで、渡邉知さんが目指すのはどのような場づくりなのだろうか。

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▲Rockhills Garden 代表 渡邉知さん

強いこだわりはない、人の“縁”でこうなった

空間デザインを褒めていただくことは多いのですが、特に強いこだわりはありませんでした。「尖らせたい」とは思っていたけれど、「こだわり」とはちょっと違う気がします。人の“縁”で、結果的にこんな空間になりました、という感じです。

例えば、Rockhills Gardenの和室。「ヴォロノイ畳」というユニークな畳に、エキセントリックな襖絵が組み合わさって不思議な空間になっていますが、この空間も人の縁です。目の前に、これから自由にデザインできる和室がある。その和室に、たまたまその時繋がっていた人の縁を投げ込んだら、こんな空間ができちゃいました、という。

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▲デザイナーズ和室(写真提供 Rockhills Garden)

ビルの屋上に設置したテントもそうです。最初からイメージしていたわけではありません。これは、弊社の事業パートナーのVILLAGE INC.さんが、たまたまキャンバスキャンプ(コットンテント・メーカー)の日本での独占販売権を持っていて、彼らとの酒呑み話で、「自由にできる屋上があるんですよ」と話したら、「じゃあ、ビルの屋上にテント張ってアーバン・キャンプって面白いじゃん」と。

僕の場合、これまでのキャリアでも人の縁で仕事をしてきたようなものなので、その延長でやっていたら(ある意味自然と)こんな「場」になりました。要は、「人の繋がりでできた空間」ですね。

最初から屋上テントやアーティストの和室(畳)がある空間…という具体的なイメージを描ける才能があったなら、きっと今頃、違う商売をやっていると思います(笑)。自分の存在ってなんだろうな、強みって何だろうなって考えたとき、僕の場合は「繋がりを産み出す」力だ、と思ったんです。

「場づくり」は人ありき ——空間デザインは二の次、三の次

これにはきっかけとなる原体験があったんですよ。起業する前に。あるとき、これまた人のご縁で、長野県小諸市の遊休施設にキャンプ場を作ろうというプロジェクト「Vent Village」のリーダーを任せてもらったんですが、「こういう場にしたい」とか「こういうデザインにしたい」と最初から決めて取り掛かったわけではないんです。

この時のプロジェクトメンバーは、Facebookで「(一緒にキャンプ場を作りたい人)この指とまれ!」と声掛けをして集めたんです。そしたら、さまざまな人が企画を面白がって参加の意思表示をしてくれた。嬉しいことに、予想外の大反響でした。

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ただ、「キャンプ場を作るという企画の何に共感したのか」はそれぞれ異なっていて。アウトドアやキャンプに関心がある人はもちろんのこと、「渡邉が何かやるんだったら手伝いたい」と来てくれた友人知人もいましたし、「みんなでワイワイガヤガヤ楽しみたい」という人も沢山いました。想いやプロフェッショナリティが異なる人たちが、さまざまな共感接点で「場」に引き寄せられた。あの時のワクワク感は本当に凄かった。集まってくれた皆さんが、場の可能性を一気に拡げてくれました。

そこで実感したのが、「箱(場)」の魅力は集まってくれた人の魅力だなということ。いくら事前に絵を描いても、集まった人によって場のイメージやブランドは移り変わる。

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▲長野・小諸 Vent Villageに集った仲間(写真提供 Fireplace)

場が持つハードとしてのポテンシャルがどう可視化されてくるかは、その場に集まる人々の掛け合わせの数だけ無数のパターンがある。それって、よくよく考えてみると「すっごいおもしろいな!」と。——だから、僕にとっての場づくりは、第一に場に接続される「人」ありき。空間デザインは二の次、三の次なんです。

Rockhills Garden
神奈川県川崎市幸区中幸町3-8-1
044-589-4333


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インタビュー:伊藤友里

文:つなぐ編集部

写真:小澤 亮

写真協力:Rockhills Garden/ON THE MARKS

スマホ決済のSquareは、Rockhills Gardenをはじめ多くのコミュニティスペースで利用されています