※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
日本たばこ産業株式会社が発表した2016年度の全国たばこ喫煙率調査結果によると、成年男女合計の喫煙率は19.3%です。喫煙者率は年々減少傾向にあると見られており、男性の喫煙率においては29.7%と、1965年の調査開始以来最低の数値として初めて3割を切ったということです。
喫煙率の減少要因として、高齢化の進行、喫煙が及ぼす健康被害への意識の高まり、たばこの価格上昇が考えられますが、喫煙をめぐる社会のあり方が見直される中、国や都道府県では法令や条例などによる規制強化が進んでいます。
この流れを受けて、厚生労働省は2017年3月1日付で健康増進法の改正案の内容を発表しました。年々増え続ける訪日外国人や、受動喫煙の危険が次々と明らかにされていく中、2019年のラグビーワールドカップ開催までに施行を目指しており、内容は各施設が取るべき受動喫煙防止対策と違反した場合の罰則に特化しています。
今回は、厚生労働省が発案した受動喫煙防止対策について理解を深め、今後取り締まりが厳しくなっていくであろう分煙対策に向けて、各事業者が意識すべきポイントについてお話しします。
健康増進法と改正案
厚生労働省が国会に提出した改正案の元にある法律は、健康増進法といいます。健康増進法は、国民の健康維持と現代病の予防を目的として2002年に制定された法律で、受動喫煙については第25条で次のように定められています。
“学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。”
この条項により、それまでは曖昧だった不特定多数の人が集まる場所における受動喫煙による被害の責任は、喫煙者本人ではなく、その場所の管理者(商業施設であれば事業主など)にあるということが定められました。
しかし、あくまでも「努める」ことを勧告しているにすぎず、具体的な制限や罰則については触れられていません。したがって、健康増進法制定後10年以上経過しても、各施設の分煙対策が厳しく取り締まりを受けることはほとんど無く、現在の改正案作成に至るのです。
受動喫煙防止対策強化の具体例
厚生労働省が提出した健康増進法の改正案は、施設・乗物の種類によって適用される喫煙禁止場所の範囲が異なります。
- 喫煙禁止場所の分類
敷地内禁煙
医療施設、児童福祉施設、小学校、中学校、高等学校など、主に未成年や患者の利用があり、受動喫煙による健康影響を防ぐ必要性が特に高い施設では、敷地内は全面禁煙。
屋内禁煙
大学や体育館など健康の増進を図ろうとする者が利用する施設(興行場は除く)、官公庁施設や老人福祉施設など他の施設を選択することが容易でないものは、屋内禁煙。
バス、タクシー、航空機などの公共交通機関に用いられる車両・航空機も車内禁煙。
原則屋内禁煙とし、喫煙専用室の設置が可能
劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、飲食店、事務所など、利用者がある程度自由に施設を選択することができ娯楽性は高いが、公衆衛生上受動喫煙防止の措置が必要な施設では、原則屋内禁煙を義務付け、省令で定める技術的基準に適合している場合に限って喫煙専用室の設置が認められる。
「原則屋内禁煙」とあるのは、飲食店の場合、例えばバーやスナックなど小規模(30㎡以下)のものは喫煙禁止場所にしないという例外が認められているからです。この場合、施設管理者は、受動喫煙が生じうる旨の掲示と換気などの措置が義務付けられています。
- 施設利用者と施設管理者の義務
前項の各施設などのすべての利用者には、施設内で喫煙禁止場所で喫煙をしない義務があります。
施設管理者(施設の所有者や、所有者との契約などにより施設を改修する権限を持つ者を指します)には、次の義務があります。
- 喫煙禁止場所の位置を掲示する義務
- 喫煙禁止場所に喫煙用の器具などを使用可能な状態で設置しない義務
- 喫煙専用室に、その場所が喫煙専用室である旨を掲示をする義務
- 喫煙専用室の構造が厚生労働省令が定める基準に適合するよう維持する義務
- 喫煙禁止場所で喫煙している、または、しようとした者に対し、喫煙の中止を求める義務
- 喫煙専用室への未成年の立ち入りを防止する努力義務
- 受動喫煙を防止するために必要な措置をとる努力義務
喫煙専用室を設けていない場合、施設利用者から喫煙の申し出があるときに備えて、近くの喫煙可能場所を案内できるように、事前に確認しておくといいでしょう。
- 罰則
改正案は、これまで特に定められてこなかった喫煙規制の違反者に対する罰則についても定めています。
喫煙禁止場所で喫煙している喫煙者で、指導に従わない場合は30万円以下の過料、違反者が施設管理者である場合は50万円以下の過料が処せられるというものです。過料の詳細や違反を判断する基準は今後定められると見られていますが、過料が生じる場合は、繰り返し指導しても違反が続くなど悪質な場合に限るとされています。
今からできること
厚生労働省が2017年3月に発表した受動喫煙防止対策の強化に関する改正案は、2016年10月にたたき台が発表された時点から飲食店における喫煙禁止の規制緩和や罰則規定の記載など、いくつか変更点が加えられています。今後も対立案や飲食店を主とした諸施設管理者の主張などを踏まえ、国会での協議は続いていくとみられています。
しかし、国民の8割以上が非喫煙者というデータや、喫煙率の大幅な低下、次々と明らかにされていく受動喫煙の危険性、そして増え続けるインバウンドの外国人の多くが日本国内の飲食店をはじめとする商業施設を利用することを考慮すると、規制強化や罰則が義務付けられるのを待つだけでなく、多くの人が安心してサービスを利用できるような環境づくりに徹することが諸施設管理者には求められるのではないでしょうか。
例えば喫煙を許可している飲食店の場合、店内が禁煙か分煙かを入店前に利用者が判断できるよう掲示を行ったり、分煙機器(脱臭機やパーティションなど)の導入や喫煙者と非喫煙者のフロアを分けたりと、今からできる対策を講じてみるのもいいでしょう。
既に分煙している場合も、受動喫煙が充分に防止できているかなど一度見直してみてはいかがでしょうか。JT(日本たばこ産業株式会社)は、分煙に関するさまざまな質問や相談に対して無償でアドバイスを受けられる分煙コンサルティングを行っています。
厚生労働省は、中小企業を対象に受動喫煙防止のための整備に対し助成金を出しています。条件を満たしていれば、工事費の半額を国に負担してもらえるので、是非、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(厚生労働省)
執筆は2017年6月1日時点の情報を参照しています。
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