老舗からスタートアップまで、お店や事業の裏側にある、知られざる想いを届けます。
ONOMICHI DENIM PROJECT マネージャー 和田 幹洋さん
ストーリーが刻み込まれた「真の色落ち」デニム
「二本として同じ色のデニムはなくて、穿いた人たちそれぞれのストーリーが刻まれているんです」
そう話すのは、尾道を舞台に“働く人”と“ものづくり”をつなぐONOMICHI DENIM PROJECTのマネージャー和田さん。ONOMICHI DENIM PROJECTは、尾道のまちで働いている人々にデニムをワークパンツとして穿き込んでもらい、日々の仕事や暮らしの中で生まれたストーリーを1本のデニムに一年間かけて刻むというもの。穿きこんでもらうデニムは、備後地方で作られる「RESOLUTE(リゾルト)」のデニム。ヴィンテージの作りを再現したこだわりのデニムだ。
色落ちの仕方やダメージのつき方は二本として同じものがない。屋外は日光を浴びるので退色の特徴が出て、屋内は色は濃いめに残るなど、それぞれの職業の特色がデニムに出てくる。デニムを加工する工場の人は薬品を使うのでそれがとびちって脱色されているが、結果的にそれがデザインになっている。すなわち、日々の暮らしの中で自然に色落ちした究極のオンリーワンデニムだ。
自然な色合いとともに、1年間のストーリーを紡ぎだして販売するONOMICHI DENIMは、いまやデニム愛好家の間で人気のジーンズだ。
▲ショップは外観も内観もシンプル。よくあるセレクトショップのような多品種をそろえていない。「デニムが語ってくれるので、その主役が引き立つようなつくりにしている」と和田さんは話す
まちの人と1本のデニムを“共創”
世界でもトップクラスのクオリティを誇るデニムの産地である広島県備後地方。「こだわりをもってつくったデニムを意図的なUSED加工で色落ちさせるのではなく、実際に人が穿きこむことでリアルなUSEDをつくってみたい」というデザイナーの想いから、ONOMICHI DENIM PROJECTはスタートした。
ONOMICHI DENIM PROJECTの運営母体は「ディスカバーリンクせとうち」。「瀬戸内の地域の魅力を再発見し発信すると共に次の世代に繋げていくこと」をミッションに、2012年に設立している。まちに暮らす人たちとともに取り組み、発信していきたいという想いから「尾道のまちの人に実際に穿いてもらうのはどうか?」というアイデアに発展し、いまのONOMICHI DENIM PROJECTのへとつながった。
ただデニムをつくって売るのではなく、実際に穿いてもらいながらオンリーワンなデニムへと仕上げていく。ONOMICHI DENIMとして店頭に並べるまでの道程はそう簡単なものではない。
まずは、デニムをまちの人に一年間穿いてもらう。しかも、単純に一年間リースしてその後に返してもらっているわけではない。実は一人の方に二本同じものを渡しているという。
毎週木曜日に配布回収日を設定。穿いている方のもとへスタッフが行ったり、ショップへ持ってきていただいたりして、一週間穿き込んだデニムを回収する。回収したデニムは、島根県のデニムの洗い加工工場にまとめて送り、そこで職人が目を通して丁寧に洗われる。回収と同時にもう一本のデニムを渡し、次の週に洗いあがったデニムに穿き替えてもらう。つまり、配布と回収を同時に行いながら1週間おきに二本のデニムを交互に穿いてもらいながら、色落ちやダメージを自然に加えていく。
▲デニム生地をつくる工場勤務の方のデニム。室内勤務のため日光による退色はしていないが、しっかり体をうごかしているのでしわやひげはしっかりとついている。糸を補修する道具を常に右のヒップポケットに入れている跡が特徴的だ
「漁師、大工、自動車整備士、僧侶、神父、鉄工所の方、ラーメン屋、板前など、さまざまな職業の人がデニムを穿き育ててくれています。毎週スタッフがデニムを回収しにまわっているんですが、わざわざお店まで持ってきてくださる方も多くて。小さい町ならではの光景ですね。まちの人たちの協力があって成り立っています」
手渡しで回収と配布を行うときの、ちょっとしたコミュニケーションも楽しみの一つ。体を動かす職業の方は色がよく落ちる。色の落ち方がかっこいいものに人気があるため、まちの人たちの中でも密かな競争意識もあるとか。
「一本のデニムを作るのに1年かかります。手渡しの回収や配布といったやりとりも、手間だと思われるかもしれません。しかし、これはONOMICHI DENIMをつくるための大事な仕事。それを欠かさないことで、まちの人たちと一緒になって一本のデニムを作っているんだ、と感じさせてくれるんです」
▲大工さんが穿いたもの。よく膝をつくのでその部分にダメージがあるのと、塗料が付いているのが特徴。ノリや塗料が自然な形でデニムに風合いを与えている
顔の見えないデニムから、顔が見えるデニムへ
▲海に面していて潮の香りを感じさせるまち。近年はサイクリストが集まる場所としても知られている
デニムを通して、「人」と「人」がつながることが ONOMICHI DENIM PROJECT の醍醐味のひとつだ。穿きこんだものに価値を見出して手に取り、買ってくれる「つながり」。誰かのストーリーを引き継いだ方が新たな物語を刻んでいくのも「つながり」。店頭スタッフが、デニムに刻まれたそれぞれのストーリーを語ってくれる。その上で納得して買ってもらったデニムには、替えのきかない愛着が湧く。
「デニムが売れた時は最高にやりがいを感じますね。尾道の穿いてくれた方にも売れたことを伝えています。そのときに、購入した人がどこから来たどんな人かなどを伝えると、みんな喜んでくれます。そこから、新しくつながるきっかけが生まれることが本当に嬉しいですね」
最近ではONOMICHI DENIMとして販売するだけでなく、穿きこまれたデニムが世界を巡ってまた尾道に帰ってくる「旅するデニム」という企画も展開している。尾道で育ったデニムが、様々な土地で働き暮らす人々によって穿きこまれ、新たなストーリーが刻まれて戻ってくる。尾道の人たちのストーリーだけでなく、「旅するデニム」に共感をしてくれた世界中の人たちのストーリーを刻みながら、オンリーワンのデニムへと育てていく。
「お客さんは、デニムそのものだけでなく、そこに刻まれたストーリーに価値を見出して購入してくれるんだと思います」と和田さんは話す。ウェブサイトには、プロジェクトに参加している人たちのそれぞれの個性溢れるストーリーが紡ぎだされている。そのストーリーを見るだけで、自分も旅している感覚になれる。
働く素晴らしさに光をあてる
「まちの人とコミュニケーションをしながら配布・回収する」こともチャレンジ。「デニムに新しいストーリーをつける」のもチャレンジ。「なぜ他人が穿いたデニムが新品より高いのか?」を伝えることもチャレンジ。乗り越えるハードルは多いが、新しい「語れるデニム」をつくることは新しい価値観の提案になる。
働くということは素晴らしい。その働いている日常が日々刻まれていく、ONOMICHI DENIM PROJECTは、まさに”生きた”デニムをつくっているのだ。
▲ONOMICHI DENIM PROJECT マネージャー和田幹洋さん” width=”750” height=”501” /> ONOMICHI DENIM PROJECT マネージャー和田幹洋さん
ONOMICHI DENIM PROJECT
ONOMICHI DENIM SHOP
広島県尾道市久保1-2-23
0848-37-0398
文:つなぐ編集部
写真:小澤 亮
ONOMICHI DENIM SHOPもSquare(スクエア)
“お客さんの多くが「おお!こんな感じで(決済)するんですね」という反応をされます。最近は「海外にいたときはコレでした」という方も増えてきていますよ”(ONOMICHI DENIM PROJECT 和田さん)