夕暮れ時の早稲田、地元の出版社や町工場が立ち並ぶどこか懐かしいこの街並みを歩くと、その一角に優しい光に包まれたお店がある。
ここ、on the shoreはオーナーの谷俊介さんが上海アール・デコ家具を主に扱うインテリアショップだ。なかを覗いてみると、店主の谷さん独自のセレクト家具が並べられている。
直感に勇気を、家具への船出
仕入れから輸送、在庫管理までと、リテールならではの困難が多そうなインテリア業界。この世界に30代で独立された谷さんに聞いてみると、
「実は福井県の端で生まれ育ったのですが、海外から何かを持ってきて日本で売るという仕事に憧れがありまして… その“何か”が『家具』だったんですよ」と、そのシンプルな口調は冒険家だ。
しかし、谷さんの船出は追い風には恵まれなかった。
「将来は自分で家具を取り扱いたいという想いはもちろん最初からありましたが、仕入れや流通、商売の仕組みを学ばなければ何も始まりません。そのため何十もの家具の会社を直接訪問して自分の熱意を売り込むも、知識や経験がない新人にとってこの世界に入るのは狭き門でした」
最初に入った会社は、インドネシアで家具を生産し、日本で販売する会社。インドネシアでつくられた家具がコンテナに乗って日本に着くと、税関への申告、倉庫への運搬、荷下ろし、お店への運搬、さらにはメンテナンスやお客様への配達。入社当初の理想が波に飲まれそうな毎日でした。
でも、いつかは自分のお店を持つという情熱を忘れずに風を求めた谷さんはこう振り返る。
「この会社では言葉通り輸入販売の全てを経験できたんですよ。そう、がむしゃらに仕事に打ち込んでいたら今にたどり着けたのです。それまでに色々な人との縁に感謝を覚えられたのは苦労の宝です」
▲夢への道のりとそこに刻まれた思い出を語る谷さんはとても楽しそうだ。
出会いが生み出す、独自のスタイル
on the shoreの原点には、西洋と東洋の感性が融合されたデザイン空間の提案にある。その空間を演出する主役が上海アール・デコのアンテイーク家具だ。
1920年代の上海は古今東西の人で賑わう国際貿易都市。ヨーロッパで栄えたアール・デコ様式もこの土地に伝わり、銀行やホテルなど格式ある建築やその中を飾る家具に大いに跡を残すこととなる。谷さんも友人が住んでいた上海を訪れ、いままで日本ではあまり見たことのなかったこのスタイルに出会う。
▲このアンティークも実際に上海の和平飯店で使用されていたテーブルだ。
そして、独立後の先へ
念願のお店をオープンし、描いていた空間の実現に挑む谷さん。次の目標について聞いてみると、
「今後は人が時を過ごす、ホテルやレストランなどのもっと大きいスペース作りのコーディネートに挑戦することです。家具の販売にとどまらず、人が時を過ごす居心地の良い空間を作っていけたら、その世界をもっと多くの人に共感してもらえたら」
またひとつ夢が生まれ、その方向へと進む谷さんの笑顔が素敵だ。
on the shore(オン ザ ショア)
東京都新宿区早稲田鶴巻町560-5 1F
Tel: 03-6228-0657
Square編集部
写真:Cedric Riveau
Square編集部はお店の知られざる想いを応援します。