以前ご紹介した初めてのアルバイト採用、教育や管理にかかる負担を減らすにはの中で、新人アルバイト向けにマニュアルを準備することの効果をご紹介しました。
今回は、経営者が従業員向けに準備をするマニュアルに焦点を当て、作成におけるポイントをまとめました。
マニュアルの効果
「マニュアル通りにしか動けない」という表現は、しばしばマイナスの意味で使われます。自分で考えないので、緊急や経験のない事態に臨機応変に対応ができず融通が効かない、という印象がつきものです。
しかし、マニュアルの導入がビジネスを成功に導いている事例も多くあります。
例えば、スピードが命のファストフード店です。どの店舗を選んでも、時間帯や対応する従業員に関係なく、常に同じ品質のサービスが短時間で提供される体制を作らなければなりません。これを可能にしているのは、多数の従業員に対して均一な教育を施すことができるマニュアルの存在です。
経営者が従業員に対して「このようにあって欲しい」という想いを込めたものが、マニュアルです。スピードを重視するのか、従業員一人ひとりの個性を重視するのか、店内の雰囲気のバランスを重視するのかなど、経営方針に合わせてマニュアルの利用方法も変わってきます。
マニュアルを導入することで得られる主な効果は、次の通りです。
品質の均一化
前述したファストフード店の例のように、複数店舗展開やスピードを重視したサービスが強みであれば、お客様には「いつ、どの店舗を利用しても、同等のサービスが受けられる」という信頼と安心感を抱いてもらう必要があります。
同じチェーン店であるにも関わらず、店舗、来店する時間帯、その時に対応する従業員によってサービスの品質や提供時間にムラが出てしまっては、コンセプトに相反してしまいますし、お客様の信頼の喪失を招きかねません。
小売店の場合にも同じことが言えます。豊富な品揃えでリピーター客を多く集めている小売店があるとします。来店するお客様は、常に充実したラインナップを期待して来店します。しかし、従業員の間で在庫管理や商品の陳列に関するノウハウが共有されていないと、新人や普段は別の業務にあたっている従業員はオペレーション時に戸惑ってしまい、お客様の満足度を下げてしまうかもしれません。
このような時のためにマニュアルを準備しておく必要があります。マニュアルに従ってオペレーションを行った場合の結果が、常に同じ品質を保てるように、作業手順とステップごとの確認項目を明記するようにしましょう。
時間短縮
個人経営の小規模な店舗や飲食店にとって、新人をできるだけ早く即戦力に育て上げることは課題のひとつです。大企業と異なり、新人研修にコストをかける余裕があまりありませんし、経営者や先輩従業員が仕事をいちから教えるとなると、時間も手間も二倍かかってしまいます。
基本的なオペレーションや業務上のルールなどをマニュアルにまとめておけば、新人は自分のペースで読みながら理解をすすめることができます。文面にまとめてあるので、教える人によって情報の差がなく、かえって口頭の説明より効率がいいかもしれません。
基本的な内容をマニュアルでおさえておけば、他の従業員が指導にかける手間を抑えることができます。新人教育にかける時間の大幅な短縮に繋がります。
マニュアルには、いつでも参照できるという利点もあります。業務中でも、他の従業員の手を止めることなく、分からないことや忘れてしまったことを素早く確認できます。
誰もが理解できる
マニュアルは、誰が読んでも、やること・やり方が明確に理解できるように作る必要があります。新人はもちろん、ベテランの従業員であっても、細かなルールを忘れてしまう時にマニュアルを参照できます。急遽欠勤がでた場合、代わりの従業員がスムーズにオペレーションを引き継げるようにマニュアルを利用することもできます。
コンセプトを共有する
前項では、マニュアルを導入することによる業務の効率化についてご紹介しました。もちろん、オペレーションの細部、マニュアルの記載事項、利用頻度などの具体的な部分は、業態によって異なってきます。
しかし、全ての業態に共通して準備しておくべきマニュアルもあります。「お店のコンセプト」を記したマニュアルです。
「どのようなサービスをお客様に提供したいのか」「どのような想いで経営しているのか」「なにを目指しているのか」など、経営理念を従業員に共有できるように、いわば教科書のようなマニュアルを作成しておくことが好ましいです。
全体の経営理念と極端に異なる振る舞いをする従業員がいる場合、経営者が期待するオペレーションが行われず、お店のイメージダウンに繋がりかねません。最悪の場合、売り上げに影響を及ぼすこともあるかもしれません。
従業員一人ひとりが、自分が働いているお店のコンセプトをしっかり理解しておけば、その都度、自分が起こす行動と経営理念とを照らし合わせて適切な判断ができるようになるでしょう。
オペレーションマニュアルを作るには
オペレーションマニュアルとは、従業員が実際に店舗オペレーション(店舗運営)をしていく上で、その方法や決まりを具体的に説明するものです。業態によって、大きく変わりますが、以下の項目を意識しながら作成するようにしましょう。
全体の流れ
多くの場合が、分業を取っていると思いますが、店舗オペレーションをする従業員は、一つのチームです。
従業員一人ひとりが、「自分は全体のオペレーションの中で、どの部分を任されており、他の従業員にどのような影響を与えるのか」という意識を持つことが重要です。
飲食店であれば、注文が入ってから料理が提供されるまでの一連の流れを説明し、各自が担当しているオペレーションはどこに位置するのかが分かるようにします。
具体的である
「多い」や「長い」ではなく、数字や時間などの具体的な数値を用いることで、正しいオペレーションができているかどうかを各従業員が判断できるようにします。
接客時の言葉遣いに決まりがあれば、実際に使う言葉を具体的に表記すると、現場で従業員があたふたすることもなくなるでしょう。
具体的書く際に単純に文章量を増やすのではなく、分かりやすく書かれていることが大切です。
イラストや実際の器具などの写真を入れて、各オペレーションのシーンを具体的に想像できるように工夫をしましょう。
ステップごとにチェックリストを組み込むのも効果的でしょう。
場面ごとにシミュレーションが出来るように
業務上で発生し得る場面を想定して、各シーンごとに取るべき対応策を盛り込みましょう。
「このような場合は、何をどうする」というふうに、シミュレーションをしながら対処法を学ぶことができれば、本番で同じ場面に遭遇したときに適切な判断ができ、パニックに陥ることも防げるでしょう。
シミュレーションの中には、クレームや緊急事態も含まれます。
マニュアル更新は絶対
従業員間の共通認識が記載されているマニュアルは、安定した品質のサービスを効率よくお客様に提供することを目的に作られますが、現実では、長く使えば使うほど情報が古くなっていくものです。
お客様のニーズや売り上げの動向は、社会のトレンドに影響されやすく、常に変化し続けています。オペレーションの効率向上のために導入したシステムが翌年には旧型扱いになるということも珍しくありません。
変化していく経営スタイルやオペレーションに合わせて、マニュアルも最適化していく必要があります。時には、現場の従業員の意見や提案に耳を傾け、お客様の満足度向上に繋がる新たなヒントとしてマニュアルに反映させていくことも重要です。
執筆は2017年2月8日時点の情報を参照しています。